医学界新聞

2009.02.23

「緩和ケア」市民公開シンポジウム開催


 2009年1月25日,東京国際交流館(東京都江東区)において,市民公開シンポジウム「がんになったら『緩和ケア』」が開催された。厚労省から「緩和ケア普及啓発事業」の委託を受けた日本緩和医療学会は関連学会とともに,「オレンジバルーンプロジェクト」として医療者・一般市民への教育・啓発活動を展開しており,本シンポジウムはその一環として企画された。昨年12月の神戸開催に続き2回目の開催となったこの日は,がん患者・家族を中心に200名以上の参加者が,緩和ケアに携わる医療者の話に熱心に耳を傾けた。


 会は同プロジェクトの推進役である内布敦子氏(兵庫県立大)による開会挨拶で幕開け。「がん治療の早期から緩和ケアが必要なことを患者さん自身に知っていただき,市民の皆さんから医療者に『緩和ケアを受けたい』という声を伝えてほしい」と呼びかけた。

 続いて日本緩和医療学会会長の江口研二氏(帝京大)が登壇,同学会が今秋第1回の専門医認定試験を実施することを紹介し,どこにいても安心して緩和ケアが受けられるような医療体制を整えていきたいとの決意を述べた。

 この後,講演がスタート。緩和ケア医としての経験をもとに現在,医学生に倫理的教育を行う高宮有介氏(昭和大)は,終末期を迎えて生への苦悩と直面した患者の事例を挙げながら,トータルペインについて,市民にわかりやすく解説。また「医療従事者の言葉は,時に患者に対する鋭い刃となる」との指摘を行い,これを自らの戒めともしていると述べ,常に一つひとつの言葉を大切にしながら,患者とともに医療を進めていきたい,とした。

 続いてがん専門看護師の細矢美紀氏(国立がんセンター中央病院)が登壇。緩和ケアを受けながら生活を取り戻す方法について,薬物治療の考え方,食事の取り方から,医療相談や患者会,ソーシャルサポートの活用方法に至るまで,具体的に幅広い紹介を行った。

 緩和ケア医の立場から林章敏氏(聖路加国際病院)は,がん治療と緩和ケアの関係性はギアチェンジからシームレスなケアへと進んだが,現在ではパラレルケアとして,早期からの並行治療が進められていると述べ,参加者に早期からの緩和ケアに対する理解を求めた。また緩和ケアに対して,悪い印象を抱くなど,間違った理解をしている市民がいまだ多いとの調査結果が出ているが,林氏は具体的な研究データを紹介しながら,その誤解・疑問をわかりやすく解き明かした。

 最後に各氏によるミニパネルが設けられ,緩和ケアに関する十分な知識を持つ医療者不足を背景とした地域格差や医療連携における課題,この問題解決に向けた医療者教育の現状,専門性の高い看護が果たせる役割などについてディスカッションが行われた。参加者からは,医療側からの情報提供不足も指摘された。がん治療・緩和ケアのより一層の均てん化が求められている。

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