医学界新聞

寄稿

2009.01.26

【視点】

インドネシア人看護師の受け入れについて

服部満生子(河北総合病院 ナーシングディレクター)


 日本とインドネシア経済連携協定(EPA)の締結により,インドネシア人看護師候補者の受け入れが昨年8月にスタートした。6か月間の日本語研修の後,医療機関で就労・研修を行い,3年以内に日本の看護師国家試験を受験することが条件となっている。合格すればそのまま看護師として日本に滞在し就労できるが,不合格となった場合は帰国しなければならない。

 「看護の助っ人来日」といった一部のマスコミ報道とは全く異なり,協定に基づく公的な枠組みのものであり,今の看護師不足を解消するためのものではない。スタートするに当たり,河北総合病院(以下,当院)は看護師候補者受け入れ病院として手を挙げたが,安易に手を挙げたわけではない。看護師の教育システムはもちろんのこと生活習慣や文化が異なる上,受け入れる私たちと共通言語さえ持たない彼らを,3年間で日本の看護師国家資格を取得できるまでに支援することは容易ではなく,その責任は大きいと考えている。

 当院は看護専門学校を持ち,過去に中国からの留学生を3人受け入れた経験がある。3年間の看護基礎教育を受けた後,日本の看護師国家試験に見事合格した。そのうちの一人は10年以上経た今なお,中堅看護師として後輩の指導に従事しており,日本語を自由に使いこなす前向きなその姿勢は,看護師たちの模範となっている。

 彼女たちは日本に留学するに際し,1年間日本語の教育を受けた後に来日している。しかし,今回受け入れた看護師候補者は,これまで日本語の教育を全く受けていない。来日3か月後に彼らに会った。辞書を片手に日本語で一生懸命話しかけてくるが,日常生活のレベルさえまだまだの感はぬぐえない。それでも彼らは,今年2月の国家試験に挑戦すると言う。

 国の施策でありながら,受け入れ後は個人の責任と研修施設にすべて委ねるやり方に強い疑問を感じる。臨床現場で日々医療に従事していると,人材資源への危機感は恐怖にさえ感じる。外国人看護師が入ることで賃金や労働条件を低下させるのではと懸念する声や,潜在看護師の教育と再就職を優先する意見があるが,グローバル化する社会の動きに私たち看護師も,将来を見据えた広い視野を持つ必要があろう。潜在看護師の復職支援事業にも参画しているが,正直この方法にも疑問を感じている。

 何はともあれ,2月には2人のインドネシア人看護師候補者が当院にやってくる。自国の厳しい経済状況のなか,他国に希望を抱き努力する看護師候補者たちの姿は,日本の看護師たちにどのように映るのであろうか。国籍は異なっても,共に「人を援助」する役割を目的にしていることには変わりはない。相互が越境し(boundary-crossing),共同的なインタラクションが生じることで共に学び合えることを期待したい。

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