退院すると,良くなるね
連載
2008.12.15
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
過剰でも管理的でもない,「薄味」の援助
11月の初めに届いた一冊の新刊本の帯の「退院すると,良くなるね」が私の目にとまった。
「退院支援は,退院支援だけじゃないですけど,基本的にこちらがアプローチする量なんですよね。こちらがアプローチする熱意と実際費やす時間によって,患者さんたちはその退院なら退院ってものを実感できるし,退院していこうって気持ちも取り戻しやすいし。ほとんどがね,こちら側の要素なんですよ,退院がうまくいくかいかないかってのはね」と付録のDVDに登場するソーシャルワーカーが語る。
「これ本当にね,空気なんだよね。退院支援ってのは。本当に空気。これは患者さんの症状が良くなればとか,患者さんがもうちょっと調子良くなればとか,患者さんがやる気を出せばじゃ全然ない。職員のね,こちら側のモチベーションというか,こちら側の目のつけどころとか,それによって実はかなり変わってくる」のだと言う。
「(荒谷さんは)絶対退院しないって言ってた。もう,近隣の病院に電話かけまくって,お願いですから私を入院させてくださいって言ってですね。そういうことまでやった彼女がね,やっぱり退院していった仲間たちが自分たちのところに足を運んで,退院したらこういうことができるよ,こういう生活してるよっていう,そういう働きかけに少しずつ心を開いてきて,退院してみようかなっていう気になった」という。
「〈前略〉浜長さんも退院いやだいやだって言いながらも,実際やってみたときに,サービスの受け手として,こういうやり方だったらやれる,できるっていう浜長さんなりの手応えを感じて,日々時間が過ぎていっても,やっぱり自分の居心地の良さを感じるようなサービスを受けてたんじゃないかと。少なくとも過剰ではない,管理的ではない,それはね,薄味だから。本人が何を望んでいるのか,何を望んでないかってあたりのニードをキャッチしてるんじゃないかな」と医師は説明する。
このDVDには,荒谷さんも浜長さんも,ソーシャルワーカーも医師も看護師も,“目隠し”せずに実名で現れ,ふつうに語る。それがいい。
普遍的な退院支援のあり方
「僕は病院という立場から見ても思うけど,病院というのはある意味決まったサービスを持っていくじゃないですか。サービスを与えて,ある意味ではありがとうと言ってもらわないと,これでもかこれでもかって治療っていくじゃないですか。〈中略〉僕らが退院していった人たちから学ぶのは,病院もやっぱり過剰に治療的じゃないように,管理的・指示的にならないようにということですよ」
「本人からのSOSが来たらすぐ受け入れてやんないと。そういう,入退院を繰り返してもいいんじゃないかなと思うんですよね。それを何回かやっていくと,こういうときには自分がこうやればいいんだなってことを覚えてくるから。川村先生も,良くなっていなくてもボンボン退院させていくし。そういう面では,良くなんなくても退院するとちゃんと良くなるんですよね」と看護師が語る。
「特に精神科ってのは,本人たちはそういう判断ができないから,あれできないこれできない,“だって精神病があるんだもん”とついついやってしまう。その人たちの判断が正しいというふうに思えないから,いわゆる専門家が代わりに判断するっていうかたちで決めてしまうことが,あまりにも多かったんですよ。〈中略〉もちろん委ねすぎてもいけない。だから,むしろ双方向での情報交換を大事にしながら,似合ってることを探していくというやり方が大事なんじゃないかなという気がするんですけどね」
『退院支援、べてる式。』(川村敏明,向谷地生良監修,医学書院,2008年)は,(1)退院支援が過剰でも管理的・指示的でもなく,(2)退院後に医療から見放されたと思われないように,(3)当事者の力を信用して十分な情報支援を行い,(4)「退院すると良くなるね」という体験談が伝わることなど,普遍的な退院支援のあり方を教えてくれる。
こうして浦河赤十字病院の精神科病床は,130床から60床に削減された。
(つづく)
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