『発達障害当事者研究』書評セッション
2008.11.24
『発達障害当事者研究』書評セッション
ゆっくりていねいな世界とのつながりかた
「おなかがすいているのかも?」
一般に,アスペルガー症候群の特徴はコミュニケーションのとりにくさなどの,社会性障害に焦点が当てられることが多い。しかし近年,彼らの持つ感覚鈍麻や感覚過敏といった身体感覚に注目されるようになってきた。このような特殊な身体感覚は,他者には非常に理解されにくいとされ,それが他者とのコミュニケーションを難しくしている要因の一つともなっている。こういった特有の身体感覚と,それに伴う他者とのコミュニケーションの難しさについて,「当事者研究」の形でまとめられた『シリーズ ケアをひらく 発達障害当事者研究――ゆっくりていねいにつながりたい』がこのたび刊行された。
アスペルガー症候群当事者である著者の綾屋紗月氏は,本書の中で「おなかがすいている」という身体感覚がまとまらない,外を歩いていて無数の看板に「襲われた」経験などの例を挙げ,それらを「(1)体の内側からの感覚が分かりにくく,行動に結びつきにくい,(2)体の外側からの感覚への意味づけや取捨選択がしにくい」とまとめている。
「同じでも違うでもない」という相互理解
上野千鶴子氏(東大)主宰の「2008年度第12回ジェンダーコロキアム」(10月28日,東大)では,本書の書評セッションが行われ,著者の綾屋氏,熊谷晋一郎氏に加え,コメンテーターとして上岡陽江氏(ダルク女性ハウス代表),貴戸理恵氏(日本女子大)らが出席。本書の内容についてそれぞれの「当事者性」に照らしつつ議論を交わした。また,発達障害者のジェンダー・セクシュアリティの話題では,綾屋氏が「ディスコミュニケーションの原因を一方に帰責させる従来の自閉症概念がDV構造を温存させるのでは」とも指摘した。
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