医学界新聞

2008.11.10

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


消化管の病理学 第2版

藤盛 孝博 著

《評 者》武藤 徹一郎(癌研有明病院メディカルディレクター/名誉院長)

消化管臨床医と病理医を志す医師必読の書

 まことにユニークで役に立つ病理学の本が出版されたものである。2004年5月に第1版が上梓された時から,この日を機して3年半の準備を積み重ねた上での第2版出版となった。その意気や好し,当然のことながら内容は好評であった第1版にも増して充実したものとなっている。消化管臨床医を対象に書かれているだけに,精選された美しい写真が多くてとにかくわかりやすい。写真を見ているだけで楽しくなってくるのは,形態学が得意な人にとってはたまらない贈り物である。のみならず,消化管病理を志す人々にも大変役に立つ専門性を含んだ成書でもある。

 本書は10章から構成されている。第1章は切除標本と生検の取り扱いで,極めて実際的に注意事項が記載されている。第2章は大腸SMがんの取り扱いの要点が,かなり専門的な問題も含めて詳しく述べられている。実地に詳しい筆者が力を注いだ部分であることがわかる。第3章に間葉系腫瘍と類似病変の病理アトラスとして,珍しい13症例が提示されている。この辺の構成がいかにも筆者らしくユニークなのである。第4-8章までは病理組織診断として口腔,食道,胃,小腸,大腸(肛門管を含む)が順序よく記述されている。口腔病変ならびに肛門管病変についての記載があるのも,いかにも筆者らしくユニークなところである。筆者が序文で自ら述べているように,colitic cancerにはかなり力を注いで記載していることがわかる。著者の幅広い交友関係を反映して,数多くの優れた臨床家の協力を得たおかげで,教育的な症例が多数提示されているのは特筆すべきであろう。掲載されている写真はいずれも症例選択が的確で美しく,この分野の経験に乏しい医師にとっては非常に参考になると思う。全体的にみてもどの写真も質が高く,著者の病理学者としての自負がうかがわれる。何度見直してみても「?」がつく写真は1枚もない。

 本書の最大の特徴の1つは第9章と第10章の存在であろう。第9章では消化管病理に必要な発生と正常組織が正常組織アトラスと共に詳しく述べられている。しかし,本書の最もユニークな点は第10章の「消化管病理に必要な基礎的染色法と遺伝子診断に関連する技術」の記載であると評者は思う。分子生物学の得意な筆者の面目躍如な章であると言うべきであろう。HE染色から始まって,PAS染色,アルシアンブルー+PAS染色,エラスチカ・ヴァン・ギーソン染色,グリメリウス染色,ギムザ染色,ワルチン-スタリー染色,免疫染色の染色手順が詳しく記載されているだけでなく,日常使われている遺伝子診断(結核に対するPCR-RFLP,ras,p53,c-kit変異,IgH再構成)のプロトコールも記載されているのは大変ユニークである。今やこれらの技術は実地病理診断の場でも要求されるものとなっていることを考慮した章である。この2章は,従来の消化管病理の成書にはみられない興味深い構成であり,病理に興味のある消化管臨床家,病理医を志す人々を対象にした筆者の本書執筆の意図が明確に示されている。

 以上述べてきたように,本書は病理診断医であると同時に病理学の研究者としての筆者の経験と知識を総動員して,消化管臨床医と病理医を志す人々のために指針を示したものである。実用的であり,日々の診療に役立つ素晴らしい内容を含んだ本となった。何度も繰り返すが,掲載されている写真はいずれも精選された質の高いものばかりであり,説明に用いられている図表も適切なものばかりである。消化管専門医,消化管病理専門医を志す人々にとって必読の書であり,座右の書として一読を薦めたい。

B5・頁312 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00620-0


《標準作業療法学 専門分野》
精神機能作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
小林 夏子 編

《評 者》山崎 郁子(神戸大教授・身体精神障害作業療法学)

教科書としてだけでなく現場の臨床家にも

 これまで精神障害作業療法学の講義を行ってきて,苦労したことは教科書選びであった。このたび出版された『標準作業療法学 専門分野 精神機能作業療法学』は,まさに教科書として学生に持たせたい一冊である。

 矢谷令子氏監修によるこの「標準作業療法学シリーズ」は,全12巻の全体の枠組みがあり,構成された各巻がシリーズのどの位置に存在するかが一目でわかる仕組みになっており,それぞれの巻の序に続けて掲載されているのがいい。

 小林夏子氏編集による本巻では,序章の学習マップがわかりやすく全体を示し,続けて本シリーズ全12巻の流れが示されている。

 本文に入ると各章のはじめに一般教育目標(GIO),行動目標(SBO),修得チェックリストが記されており,章ごとに学ぶべきこと,学べたことの確認ができるよう配慮されている。このように常に内容が整然と示されていると,学習者にとっても教育者にとっても進行状況が把握しやすい。

 内容は,まさに教科書としての機能を十分果たすものといえる。第1章では,国内外の歴史と理念,精神領域のリハビリテーションの考え方,わが国の実践基盤である法制度を「精神機能作業療法学の基礎」として位置付けている。第2章では,対象理解と評価,実践方法と作業療法過程を丁寧に説明している。第3章は,精神領域の疾患別実践についてで,疾患,評価,作業療法の実践,作業療法の役割などをわかりやすく解説している。網羅されている疾患は,統合失調症,気分障害(感情障害),アルコール依存症候群,知的障害(精神遅滞),神経症性障害,パーソナリティ障害(人格障害),症状性および器質性精神障害,てんかんの8疾患である。第4章では,前章であげた8疾患の作業療法の実践事例を,評価と治療計画,治療経過および結果,考察という順序で説明している。そしてそれぞれの章の最後には,親切なことにその章で重要と思われるキーワードが解説付きで示されている。

 大学の教員という立場から,第一番に教科書として推薦するが,本書はまた学生ばかりでなく臨床現場で働く作業療法士にとっても大いに役立つ書籍の一つとなること間違いなしと確信するものである。

B5・頁276 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00328-5


組織病理カラーアトラス

坂本 穆彦,北川 昌伸,菅野 純 著

《評 者》羽場 礼次(香川大附属病院 病院教授・病理学)

基本的な病理組織像を一冊で理解できる

 本書はB5判で400頁あり,全身の病変の組織像が非常によくまとめられている。内容は総論と各論に大別されているが,特に病理学で基礎となる病理総論に力が入れられているのが最大の特徴である。また,全体に大きな美しいフルカラー写真で構成されており,その間でポイント,わかりやすい表やシェーマが随所に設けられているため,基本的な病理組織像をこの一冊で理解できるように仕上げられている。

 前半の総論は全体の4分の1である100頁を割いて記述されている。内容的には病理学と病理診断とともに病態を代謝障害,循環障害,炎症,腫瘍,先天異常の5分野にまとめ,それぞれに見出しがつけられている。この総論には,明瞭で美しい多数の写真が配列されており,コンパクトにまとめられた概念,ポイントを読みながらその内容を理解できるよう配慮されている。また写真だけではなく表やシェーマを適宜用い,初学者にも一目でわかるように自学自習可能な工夫がなされている。

 病理学にとって特に重要な炎症や腫瘍の写真,説明を多くし,日常業務で遭遇しやすい疾患を中心に重要な病気が列記されている。すべての写真が大きく鮮明であり,矢印を入れながら簡潔に説明されているため,ウイルス感染細胞,腫瘍細胞の核や細胞質,増殖形態などを視覚的に理解しやすい。この無駄のない写真と説明により,多岐にわたる総論の豊富な知識を整理しながら,次の各論へ応用することが可能である。

 後半の各論は,循環器,血液・造血器,呼吸器,消化管,肝・胆・膵,腎・尿路,生殖器,乳腺,内分泌,脳・神経,皮膚,骨・軟部の12分野にまとめられ,それぞれ見出しがつけられている。全体の4分の3にあたる300頁の記載であるが,各単元の初めに臓器別の基本構造である正常像をおさえた上で,総論と同様,大きく鮮明な写真を配置しながら,重要な疾患の概念,病理診断のポイント,鑑別診断などが簡潔明瞭にまとめられている。これらの記載は,最も標準的である『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』および各種「癌(腫瘍)取扱い」に準拠しているため,各科の最新の医学知識を獲得しながら用語に混乱することなく学ぶことができる。以上の内容は3人という少人数の著者による執筆であるため内容や写真の質がよく保たれており,改めて先生方に敬意を表する次第である。

 この『組織病理カラーアトラス』は,医学生や研修医にとって必要となる組織病理写真を1冊にまとめている。そのため読者は本書だけで基本的な組織標本の見方や考えを身につけることができ,この1冊でCBTや国試,CPCに十分対応することが可能である。また通常の授業で行われる病理学の知識の整理だけではなく,病理組織標本実習の手引書としても十分活用できる。すなわち病理学を学ぶ医学生や研修医にとって最適の参考書である。また,若手病理医や臨床検査技師,細胞検査士の方にも疾患を理解するための有用な内容がたくさん盛り込まれているため,多数の医療関係者にお薦めしたい一冊である。

B5・頁408 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00507-4


パニック障害ハンドブック
治療ガイドラインと診療の実際

熊野 宏昭,久保木 富房 編
貝谷 久宣 編集協力

《評 者》井出 雅弘(札幌明和病院院長)

読みやすくわかりやすいパニック障害についての良書

 本書をパラパラとめくり読んで気が付いたことは,ハンドブックという命名がなされているように,非常に臨床的,実際的で読みやすいことである。この背景には,編集協力者があとがきで述べているように,本書にパニック障害研究班の4年間にわたる臨床集積研究の集大成が盛り込まれていることがあり,その読みやすさが了解できる。また,治療の章では表や図がうまく配置され,まとめもなされており,一般医にも理解しやすいように工夫されているため,一気に読み進めることができる,というのが実感である。診断,重症度,教育,治療の実際と経過など,実地臨床家が望むことを,明瞭に順序立てて展開されており,編集者の編集能力の高さをあらためて思い知るところである。

 本書はマニュアル的医学書であり,手に取って一読すれば購入する方がおのずと増えるであろうと,私には実感できたので,書評など必要なのだろうかと考えたくなるくらいである。読者が増え,患者のQOLの改善に大きく寄与できることにつながることで,私には医療の原点に立ち戻る満足感に浸れる気がしてならない。

 次に内容についてダイジェストで触れると,第2章では,プライマリ・ケア医を対象とした治療ガイドラインが示されている。具体的な病態の説明と患者教育の仕方,薬物の使い方の詳細,精神療法の具体的対応について理解しやすいように記載されており,すぐに実践できる内容である。また,文化特異性に乏しく,各国でほぼ一定の有病率を示すパニック障害の各国での治療ガイドラインの比較がなされている一覧表がある。これがなかなか興味深い。欧米やわが国での考え方が一目瞭然に見てとれるからである。特に精神療法では,認知行動療法(CBT)の併用が効果的であるというエビデンスが証明されているためか,欧米ではCBTが強調されている。一方わが国では,折衷主義的色彩の中で段階的現実曝露法を推奨している。

 第4章では,心理教育(患者本人ならびに家族)について,整理された形での記載がなされている。この章では,患者に提示して理解しやすいように,表や図が示されている。これは,おそらく患者ならびに家族が納得しやすいように,また説明する側も説明が伝わりやすいように配慮したものと思われる。図や表を資料として配布できる利点もあろう。

 第6章以降,パニック発作や広場恐怖の個人認知行動療法について,詳しく記載されている。これは一般医のみならず認知行動療法に精通している医療者が少ないこともあってか,至極教育的,実践的に書かれており,基本的な考え方を知る者であれば,即応用可能である。また,集団認知行動療法の章も設けられており,デイケアや入院治療での集約的治療としての意義が大きい。家電製品が一家に一台というように,本書は一診察室に一冊といえるだけの実用価値がある良書であることは確かである。

B5・頁168 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00537-1


感染性腸炎A to Z

大川 清孝,清水 誠治 編
中村 志郎,井谷 智尚,青木 哲哉 編集協力

《評 者》平田 一郎(藤田保衛大教授・消化管内科学)

内視鏡写真も記述内容も充実 内視鏡診断学に待望の一冊

 かつて消化管といえば胃が主流で,胃がんの内視鏡診断と治療,消化性潰瘍の病態生理,Helicobacter pylori感染症などが学会や一般臨床の場でも大々的に取り上げられていた。もちろんこれらのテーマは現在でも重要なものであるが,近年は下部消化管に多くの注目が集まっている。この理由として,本邦における生活習慣の欧米化などによって,IBD(炎症性腸疾患)や大腸がんなど腸疾患が増加していることや,大腸内視鏡検査が広く普及し,日常臨床でも盛んに行われるようになったことなどが挙げられる。このような背景の下に,血便や慢性下痢などを有する患者には,大腸内視鏡検査が積極的に行われるようになり,必然的に感染性腸炎の内視鏡所見が集積されることにもつながった。しかし,感染性腸炎の内視鏡所見は,特異的といえるものから非特異的なものまで実に多彩で,系統的な診断学としてまとめ上げることは困難であり,なお一層の知見の集積が必要と思われていた。

 そのような折に,実に良いタイミングで大川清孝先生と清水誠治先生の編集による本書が出版の運びとなった。両先生はいずれも下部消化管疾患(特に炎症性腸疾患)の診断・治療においてはわが国でもトップクラスの方たちである。私も,今まで両先生と下部消化管臨床に関する多くの研究会に参画し,共に学んできた。両先生は,いずれも腸の炎症性疾患における症例経験が非常に豊富で,臨床に真摯に取り組んでおられ,そこから得た診断能力は言うに及ばず,総合的臨床能力は他の追随を許さないものがある。しかも,学問に対する誠実さと謙虚さがあり,私は常日ごろから両先生から多くのことを学ばせていただいている。そのような両先生の思想や姿勢が本書においても貫かれており,1例1例が丁寧に取り扱われて,誠実さの伝わる編集である。

 本書を読ませていただいて,実によくまとめ上げられていることに驚嘆した。日常臨床でよく遭遇する疾患,まれではあるが知っておくべき疾患など重要な感染性腸炎が余すところなく取り上げられている。しかも,それら疾患のほぼ100%に良質の内視鏡写真が添えられている。感染性腸炎を扱った従来の学術書は,疾患に関する記載が充実していても,内視鏡写真の質・量でもう一つ何かもの足りないなと感じてしまうことがあり,一方で,内視鏡写真やX線写真が質・量とも充実していても,疾患に関する全般的知識の記載が不十分であったりして(ある特集誌が唯一例外),読者の診断能力を高めるには,いずれも帯に短くたすきに長いものであった。

 しかし,本書は,内視鏡写真も疾患に関する知識の記載もいずれにおいても充実しており,読者を十分満足させるものである。この1冊があれば,感染性腸炎に対し十分な理解が得られ,的確な診断と治療が行えるであろう。本書は画像掲載に適した良好な紙質で,サイズもコンパクトで軽く臨床現場でひもとくのに適している。また,写真が多く掲載されているわりには値段も手ごろであり,初学者からベテランの消化器医に至るまで必携の書として強くお薦めする次第である。

B5・頁196 定価7,875円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00491-6

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