医学界新聞

寄稿

2008.10.13

【投稿】

小児地域医療への挑戦
――久米島での取り組み

伊藤 淳(公立久米島病院)


 卒後6年目を迎えた2008年4月に,沖縄県久米島の公立久米島病院へ常勤小児科医として赴任しました。本稿では,久米島に赴任してから経験した地域医療について紹介します。

久米島の子どもたちと小児医療体制

 久米島は沖縄本島から西に約100kmに位置する人口約9000人の島です。15歳以下の子どもは約1500人で,数年前までは年間100人以上だった出生数も最近は80-90人程度と減少傾向にあります。保育所が4か所,幼稚園・小学校は6校,中学校3校,高校が1校で,共働き家庭が多いため保育園への就園率は約4割と高くなっています。一人っ子は少なく,4-5人の子どもがいる家庭もあります。

 公立久米島病院は病床数40床,常勤医7人(院長,内科2,整形外科1,小児科1,総合診療科2)の,唯一の入院施設です。島内には他に一般診療所が3つ,眼科クリニックが1つあります。

 久米島病院では,開院した2000年から小児科医1人が常勤しています。外来スケジュールは表の通りで,土曜が診療日,月曜が休診です。土曜は特に患者が集中する傾向にあり,多い日は50-60人が受診します。

 1週間の外来スケジュール
 
午前 休診日 休診日 外来 外来 外来 外来 外来
午後     外来 フリー 予防接種(集団) 外来 外来

 小児の入院患者は1-4人程度で,喘息,気管支炎,肺炎,胃腸炎,尿路感染症,川崎病,髄膜炎など一般小児科でカバーする疾患はすべて診ます。月に約4回の当直では1人で全科に対応します。外傷処置から脳梗塞や心筋梗塞,100歳を越す超高齢者の救急対応も行います。1人で対応に苦慮する場合は専門医に電話相談や応援を依頼し,自院で対応できない患者はヘリで本島の病院へ搬送します。

 小児科は24時間365日オンコール体制ですが,他科の医師も小児プライマリ・ケアの訓練を受けているため,夜間に呼ばれることはほとんどありません。お互いの専門性を持ちつつカバーしあう理想的な形で,チーム医療が実現できていると思います。

予防接種率・健診受診率向上へむけての取り組み

 予防接種は,公民館での集団接種と病院での個別接種に分けて行っています。

 久米島に来て驚いたことは,予防接種率がものによって60-70%程度と極めて低いことです。集団接種は対象者に通知を出していますが,ある日の三種混合接種では,50人余りに通知を出したものの,4人しか来なかったこともありました。

 今年度から中学1年生と高校3年生を対象に麻しん・風しんワクチンの予防接種が始まり,国は麻しん撲滅のために予防接種率が95%以上になるよう呼びかけています。久米島では個別接種で開始しましたが,4月は接種者ゼロ。5月にやっと1人,2人と受けに来た程度でした。

 受診率の低い理由の1つとして,当時病院での接種が木曜日の午後のみで受付終了が午後4時だったため,中高生が放課後に来院するのが難しかったことが挙げられました。そこで,中学1年生は学校で集団接種を行うようにしたところ,1学期終了までに95%の接種率を達成することができました。高校での集団接種は調整がつきませんでしたが,病院での予防接種実施日を増やし,専用外来受付を午後5時まで延長した結果,9月までに約60%の対象者に接種を行うことができました。

 乳幼児の予防接種では,受けに来る子は全部受けるが,そうでない子はまったく来ない傾向にあります。予防接種に来ない子にどうやって来院してもらうかが大きな課題です。

 同様に,乳児健診受診率も80%台と低迷しています。乳児健診は年3回,2日ずつ予定していますが,いずれも平日のため「共働きで連れていけない」という事情があるのかもしれません。

 そこで,保育園の就園率が高いことに注目し,予防接種や健診受診について,保育士さんから保護者へ積極的に声かけをしてもらえるよう,協力を呼びかけています。

身近に関われる醍醐味

 筆者は小学校2校,中学校1校の学校医を担当しています。5,6月は病院が休診日の月曜日に学校健診を行いました。診察は型どおりですが,さまざまな発見がありました。中には多動で問題行動を起こし周囲を困らせている子や,自閉傾向があり先生が対応に苦慮されている子がいました。診察後に担任の先生から詳しく話を聞き,療育や特別支援学級に関することで相談をしました。

 健診を行った3校とも給食を教室でいただきました。子どもたちと会話を楽しみながらの給食はおいしいだけでなく,病院では見られない一面を見ることができ,子どもたちの健康を取り巻く全体像の把握に一役を担ういい機会です。偏食,少食,早食い,大食いなど給食の時間から得られる情報は多く,普段の朝食や夕食の話を聞くことで食育を考える機会にもなりました。

 また,島内2校の小学校では健康相談の取り組みを行っています。これは学校保健法施行規則内の記載や,昭和33年の文部省通達による「児童生徒などで自らが心身の異常に気づいて健康相談を必要と認めた者」「保護者が当該児童生徒などの状態から健康相談の必要を認めた者」に対して「毎月定期的に,保健室で」行うとした記載に基づきます。これを実践している学校医は全国でも少数と思われますが,久米島では本年7月から取り組みを始め,昼休みの時間を利用して診察や相談を行っています。

 健診,学校保健委員会,健康相談など事あるごとに学校へ行っていると子どもたちから顔を覚えてもらえて,町内を歩いていても声をかけてくれるようになってきています。こういった子どもたちとのかかわり方こそ,小児の地域医療の醍醐味と感じています。

保育所との連携

 乳幼児の感染症は保育所でうつるケースが多くあります。6月のある週では手足口病が流行し,外来受診者の半数近くを占めたことがありました。また,伝染性軟属腫や伝染性膿痂疹などの患者が集中した時期もありました。

 流行中の病気を保護者に知らせ,どうなったら病院を受診すべきか知ってもらうことは,親の安心につながり子どもにとってもベストです。また外来の混雑も緩和されます。

 そこで島内の保育所に膿痂疹や風邪をひいたときの対応などをまとめた「じゅんじゅんドクター通信」の配布を始めました。これは病院のホームページからもダウンロードできますので,興味のある方はご覧ください。今後は予防接種や乳幼児健診の呼びかけなども行っていこうと考えています。

 保育所へ足を運ぶと,通院中の子や,受診が途絶えてしまった子の様子を見たり,退院後の様子を見ることができます。さらに子どもの病気や発達について保育士と情報交換を行うことで,島内の子どもたちの健康状態について理解を深めることができていると思います。

「気になる子ども」への支援

 離島でも確実に,発達障害の子どもは存在します。都会であれば,1歳半健診や3歳健診でスクリーニングされ,事後教室でのフォローや児童相談所・支援センターなどを経て療育へ繋いでいく流れができるでしょう。残念ながら,久米島ではそこまでの社会整備が進んでいないため,家族は不安を抱えつつ,相談できる場がなく過ごしているケースが散見されます。

 そのため,必要に応じて心理テストを受けられるよう手配したり,県立南部医療センター・こども医療センターへの紹介を行っています。しかしいちばん大切なのは,地域全体で発達を見守ることです。そのために保育士や教員,教育委員会,保健師らと情報を共有し,困っている子どもと家族の支えになれるよう連携を図っています。

 久米島での仕事が始まって半年ですが,確かな手ごたえを感じています。自分がいる間に,島の子どもたちのために何か形に残る仕事をしたいと思っています。具体的には,予防接種率や健診受診率の向上,発達の気になる子への支援システムづくりなどです。また学校医としては,小学生に命の尊さや食の大切さ,飲酒やタバコの害などについて話す機会をもらい,健康への意識を高められればと思っています。

 6,7月には医学生の実習や,2年目研修医の1か月間の研修を受け入れました。彼らには,私が取り組んでいる仕事を一緒に見てもらい,小児の地域医療を肌で実感してもらいました。嬉しいことに小児科の仕事,地域での仕事は楽しいと感じてもらえたようです。大病院での研修とは少し違った角度から,小児科の魅力を伝えていける可能性を感じました。小児科医の不足が叫ばれる昨今ですが,久米島に研修に来る後輩たちの中から将来小児科を志す医師が出てくればと願っています。

*実習に興味のある方は病院ホームページ(URL=http://www.ritou-med-okinawa.jp/kumejima-hosp/kum-index.html)か直接Eメール(i-j@umin.ac.jp)にて伊藤までご連絡ください。


伊藤 淳氏
2003年横市大医学部卒。藤沢市民病院で2年間の初期研修後,横市大小児科に入局。卒後3年目は藤沢市民病院小児科の修練医として過ごし,続く2年間は沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児科後期研修医として研修。08年より現職。

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