医学界新聞

2008.09.22

看護が紡ぎリードする次代の医療
第34回日本看護研究学会の話題から


 第34回日本看護研究学会が8月20-21日,近田敬子会長(園田学園女子大)のもと,神戸ポートピアホテル・神戸国際会議場(神戸市)にて開催された。「看護が紡ぐ将来のヘルスとケア」をメインテーマとした今回は,看護以外の領域も交えて多彩なプログラムが設けられた。本紙では,会長講演と招聘講演の概要を報告する。


 会長講演で近田氏は,最初に本学会の主なプログラムを概観し,「現代は,さまざまな組織や地域との連携を看護がリードし,紡ぐ時代である」と強調。さらに,これからの看護の課題として相談機能の充実を挙げ,氏が携わった「まちの保健室」活動を紹介しながら,地域と看護のかかわりについて論じた。

 開催地の神戸は13年前,阪神淡路大震災に見舞われた。この経験を氏は,「安全性の軽視や人間関係の希薄化といった,成熟社会が抱える課題が震災を通じて明らかになった」と分析。実際,安全・安心と思われた社会への信頼が大きく揺らぎ,既存のコミュニティが多くの被害を受けたことは周知の通りである。

 その後,復興に向けて多くの看護職者が活躍するなか,「まちの保健室」が発足。復興住宅という新しい環境で生活する高齢者に心理的ケアや健康相談などを行った。氏は,「この活動の推進には,看護から医療を変えようとする気運も手伝った」と,当時の複合的な背景を振り返った。

 さらに自身の体験にも触れ,「『まちの保健室』が,心身の援助・生活の再構築・共同体の構築などの役割を果たした」と評価。特に,共同体の構築に寄与した点について,住民・看護師双方の視点から分析し,発足当初の枠組みを超えた成果として位置づけた。この活動は今も続いており,「共同体を育んでいくという意識が不可欠であると同時に,健康コミュニティづくりが究極的な目標である」と講演を結んだ。

地域でのパートナーシップが看護に広がりをもたらす

 招聘講演に立ったN. J. Chrisman氏(ワシントン大)は,慢性疾患の増大・高齢化の加速・新しい感染症の出現といった現状に対応するには,「病院でのケア」から「地域」に視点を移す必要があると指摘。「地域の人々とパートナーシップを確立することで,看護はより広がりを持つだろう」と述べ,大学や病院に加えて地域住民やNGOなどを巻き込んだ,アクションリサーチ的なプロジェクトの実例を紹介した。それぞれに,研究の要素はもちろん,地域を舞台にした実践や教育といった要素も取り込まれており,氏が日本で携わったものも多数紹介された。また自身の経験から,「NGOや地域住民に早い段階で参加してもらうことが不可欠」,「研究者は地域住民の価値観を尊重し,その研究は地域によい結果をもたらす必要がある」とアドバイスした。

 最後に,こうしたプロジェクトの成功の秘訣として,すべてのメンバーが問題解決に参加することや,意思決定プロセスの明確化,連続的なコミュニケーションなどを挙げ,これらを信頼・尊敬・組織管理能力という3つのキーワードで象徴化した。

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