医学界新聞

2008.09.01



第40回日本医学教育学会開催
40年の潮流を踏まえて課題と展望を語る


 第40回日本医学教育学会が7月25-26日の2日間,伊東洋会長(東医大)のもと,共立講堂,他(東京都)において開催された。第40回という節目を迎えた今回は,教育講演において,堀原一氏(筑波大)による「日本医学教育学会40年の歩み」や,酒井シヅ氏(順大)による「日本の医学教育の歴史と展望」が組まれ,医学教育のこれまでの歩みを振り返った。また,地域医療や緩和医療など今日的な話題も多く取り上げられ,活発な議論が交わされた。本紙では,その一部を紹介する。


解剖学実習はなぜ必要なのか

 シンポジウム「我が国の人体解剖学教育を検証する」(座長=愛媛大・小林直人氏,慈恵医大・福島統氏)では,はじめに小澤一史氏(日医大)が解剖学実習室におけるホルマリン環境について口演。換気浄化装置のついた実習台を導入したところ,ホルマリン対策はもちろんのこと,学生が安心して実習に集中でき,実習の質自体が向上したと述べた。

 大谷修氏(富山大)は学生アンケートの結果から,高学年になるにつれて実習の必要性を再認識することを示し,ヴァーチャルでは代替できない実習の重要性を強調。解剖学実習を継続していくためには後進の育成が課題であり,そのためにも「解剖学」という名称の講座を残すべきだと主張した。

 松村讓兒氏(杏林大)は杏林大のカリキュラムを紹介。事前の講義はなく,いきなり実習に入るが,毎回実習前に小講義を実施して学生に「疑問を持たせる」工夫をしている。解剖学実習を「実物から情報を収集するトレーニングの場」と位置づけており,臨床に通じる力を培う場であるとした。

 石田肇氏(琉球大)は,高学年で再度解剖学実習を希望する学生が多いことから,4年次に選択科目として設けた臨床解剖について紹介。放射線科,耳鼻咽喉科,整形外科などと連携して実施することで,臨床に直結した解剖学の理解を深めていると述べた。

 坂井建雄氏(順大)は日本における解剖学実習の歴史を振り返り,日本の献体制度が世界各国と比較していかに整ったものであるかを解説。順大で行っている献体登録者の方々との交流会などの取り組みを紹介し,「生身の人体を解剖すること」の重みを理解させることが大切だと語った。

 その後のパネルディスカッションでは,「講義が先か,実習が先か」「active/passiveな学生にどう対処するか」など活発な議論が交わされた。聴講していた学生からは「他大学とこんなに違うとは思わなかった」といった率直な感想も披露され,会場を盛り上げた。

 「医学教育における解剖学実習の必要性」を検証した本シンポジウムは,「自然科学の方法を学ぶ唯一の場」(福島氏)である解剖学実習の重要性を再認識させるものとなった。

Advanced OSCEの有効性

 医師国家試験に実技試験として,客観的臨床能力評価試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)の導入が提案されてから約10年。いまだ導入には至っていないものの,この間多くの大学において臨床実習前などに導入されてきた。最近では,さらに高度な能力を評価するための“Advanced OSCE”(以下,AO)が採用され,定着しつつある。シンポジウム「Advanced OSCEの開発」(座長=山科章氏,大滝純司氏,ともに東医大)では,大学教育におけるさまざまな事例が紹介された。

 信岡祐彦氏(聖マリアンナ医大)は,知識と技能をバランスよく評価できるというAOの有効性を示し,今後の課題として,臨床実習全体の評価における位置づけの明確化や,教員にAOの意義を認識させることを挙げた。

 菰田孝行氏(東医大)は,5年次教育に臨床診断の思考過程とともに身体診察を学ぶ学習方式(Hypothesis-Driven Physical Examination:HDPE)とAOを取り入れており,学生の自己学習に効果がみられると述べた。

 鈴木富雄氏(名大)は,総合診療部におけるAO型実習(医療面接7分+身体診察7分+鑑別診断4分)を紹介。鑑別診断を考えながら一連の流れを経験できるため,教育的意義は高いとした。

 赤池雅史氏(徳島大)は,臨床実習を終了した6年次を対象に,医療面接,身体診察,診療録記載,プレゼンテーションで構成された試験を実施。学生が診療録記載やプレゼンテーションの重要性を認識することに寄与するのではないかと,その手応えを語った。

 石原慎氏(藤田保衛大)は,AOの導入を機に行った,評価者を対象としたワークショップを紹介。これらの共通認識ができたことで,教員の動機付けや評価の客観性につながったという。

 犬塚裕樹氏(久留米大)は,これまでに実施されたAOトライアルにおいて,OSCEを構成するステーションの特徴が互いに持つ位置関係についての調査結果を述べた。

 大久保由美子氏(東女医大)は,1年次よりテュートリアル,共用試験CBT,OSCE,Problem‐solving ability test,臨床統合試験,AOを受けた学生を継続的に検討し,AOは学識,技能,問題解決能力とは異なる臨床推論能力を測定しているのではないかと述べた。

女性医師復職支援の取り組み

 シンポジウム「女性医師のキャリア支援」(座長=東女医大・檜垣祐子氏,東医大・大久保ゆかり氏)では6名の演者が登壇。泉美貴氏(東医大)は実態調査から,女性医師の生涯離職率が73%に上る現状や離職の86%は最初の10年に起こり,妊娠・出産,育児との両立の困難が原因であることを示した。また女性医師の85%が「子どもがいても仕事を続けるべき」と考えているが,復職できたのは3割。離職防止対策が急務であり,特に卒後10年間のサポートが重要と述べた。

 檜垣祐子氏(東女医大)は,自院での女性医師復職支援のための再教育センターの活動を紹介。各々で異なる経験や環境,到達目標を考慮し,オーダーメイドのカリキュラムで個々のニーズに対応している。今後は柔軟な勤務形態採用の啓発など働きやすい職場作りにも力を入れ,離職した医師には復職を,非常勤医師にはより高度な技術・キャリアアップ支援を目標としている。女性医師の状況改善を通して医師全体の勤務体制改善が望まれると語った。

 また,本学会では齋藤中哉氏(東医大)をコーディネーターに,シンポジウム「医学生による草の根の教育改革」を開催。学生が組織運営し,課外時間に行っている学習活動を報告した。登壇したのは琉球大のRyu-SCEO,佐賀大のUSGOS,高知大のACT-K,杏林大・横浜市立大の杏横会,金沢医大,金沢大,富山大,福井大による北陸勉強会の5団体。学年混合の屋根瓦方式での教育,外部からの講師招聘,英語でのPBLなど特徴的な取り組みと今後の課題を紹介した。シンポジウムにあたり,日野原重明氏(聖路加国際病院)がコメンテーターとして各々の活動に対するアドバイスと激励を行った。

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