医学界新聞

2008.08.04



医師不足の診療科を重点的に研修
――厚労省・医師臨床研修部会でモデル事業案


 臨床研修の2年間のうちに医師不足が深刻な診療分野を重点的に研修するモデル事業が,大学病院において始まることになりそうだ。

 厚労省が6月にまとめた「安心と希望の医療確保ビジョン」では,医師の養成数をこれまでの「抑制」から「増員」へと方針転換した。臨床研修制度については,「これまでの実施状況を踏まえ,医師不足問題がより深刻な診療科や地域医療への貢献を行う臨床研修病院等を積極的に評価するとともに卒前教育や専門医制度との連携を深める。また,臨床研修病院等における研修の見直しなどを行いつつ,研修医の受入れ数の適正化を図る」と明記されている。

 同ビジョンを受け,「医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」(座長=名古屋セントラル病院・齋藤英彦氏)が7月18日に開かれた。厚労省は「議論のためのたたき台(未定稿)」として,(1)研修プログラム作成を弾力化するためのモデル事業,(2)マッチング制度の対象外の取り扱い,(3)臨床研修病院の指定基準の改正,の3点を提示。(1)においては,医師不足が深刻な診療分野を重点的に研修し,その他の分野については研修期間を任意とする案が例示された。

 (1)については,「産科や小児科のコースをつくっても,それで人が集まるのか」「臨床研修のあとのサポート体制が大事。なぜリスクのある科が敬遠されるのか。全体のシステムのなかで考えるべき」など,委員からは懐疑的な意見も出された。山口徹氏(虎の門病院)は,都道府県別にみると臨床研修必修化後に都心部で研修医数が減少し,地方でむしろ増えていることを踏まえ,「地域に人が増えても大学には少ない。なぜ地方大学に研修医が残らないかを検証しなければならない」と指摘。矢崎義雄氏(国立病院機構)は「地域医療を支えるには,大学ががんばらなければならない」として,各大学がモデル事業で魅力的なプログラムをつくることを求めた。

 (2)は,「地域枠」で入学した医学生について,奨学金制度等の内容を考慮したうえで,自治医大と同じようにマッチング制度の対象外にしてはどうかという内容。年間40人程度が該当するとみられる。(1)(2)は早ければ2009年4月からの具体化をめざす。なお,(3)については「10床に研修医1人」の現行指定基準をさらに厳しくするなどの具体策が想定されるが,研修医の募集定員の適正化に関する厚労省通知(2008年3月31日)が出されたばかりであり,継続検討となる見通しだ。

 今回の部会は医師不足問題を軸に議論されたが,山下英俊氏(山形大病院)は「臨床研修のプライオリティをはっきりしてほしい。研修は医療の質向上のためであって,医師不足の解消のためではない」と訴えた。また,医師不足に直結するのは後期研修医以降のマンパワーであり,初期研修医を地域に留めても後期まで地域に残る保証はないという指摘もあった。医師不足という現実のなかで臨床研修はどうあるべきか,大学中心に地域全体で医師を育成する仕組みをどう構築するか。臨床研修1期生が卒後5年目を迎えた今も,課題は山積している。

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