医学界新聞

2008.07.28



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


レジデントのための呼吸器診療マニュアル

河野 茂,早田 宏 編

《評 者》永井 厚志(東女医大教授・呼吸器内科学/東女医大病院長)

患者の視点に立った実践の書

 このたび,医学書院から『レジデントのための呼吸器診療マニュアル』が上梓された。本書は大変ユニークな日常診療への実践書である。冒頭に編者は,“医学は再び長崎から”と付言し,本書の作成に当たる意気込みを吐露している。その思いは,ポンぺ・ファン・メールデルフォートがわが国の西洋近代医学教育として長崎医学伝習所(現長崎大学医学部)で患者中心の臨床教育を最初に行った史実にあったであろう。

 これまでにも多くのマニュアルやハンドブックが作成されてきた。その構成は,症候や疾患を網羅的に取り扱い,整然とした記載内容はミニ成書の類であった。しかし,本書は大きく異なっている。まず第1章「疾患・症状のマネージメント」で目にするのは,“○○の疾患に出あったとき”や“○○症状をみたら”といった日常的に交わされる指導医とレジデントの会話が項目になっていることである。

 項の始めは“直伝極意”と銘打った,しっかりと覚えていなければならないポイントである。続けて診療のフローチャートが描かれ,診断から治療までの流れが一見して理解できるように作成されている。このように疾患や病態への基本を踏まえたところで,医療面接と診察のポイントとしてチェック項目を掲げながら,端的明瞭な解説を加えている。この解説も饒舌に走らず,1-2行で説明をしているので自然にキーワードとして頭の中に入るよう仕組まれている。

 最後に診療に役立つ豆知識として「Mini Lecture」が載っている。これがなかなか見逃せない内容となっている。例えば,伝染性単核症では全身性の皮疹が必発するため,ペニシリン系薬剤を使用してはならないと明記されている。このことを知っていても,風邪様症状の患者にはこれらの薬剤を使用しがちであり,改めてはっとさせられるに違いない。

 第2章は「チーム医療のために」として呼吸器疾患の診療と密接に関わる循環器の問題を取り上げている。これまでにも肺と心臓は病態や治療面で総合的に取り扱う必要性が指摘されてきた。しかし,このように呼吸器疾患における循環器病態の管理を正面切って扱った書はまれである。

 第3章は基本検査について解説されている。ここでは,図表を多用することにより一目見ることで検査結果を理解することが可能となるように工夫されている。この章でも“直伝極意”は面白い。気管支鏡検査のポイントでは,「人は,『リラックスしろ』といわれてできるものではない」とある。そのとおりと思わずうなずくに違いない。このような患者の視点に立った医療行為が重要であることを,随所にさりげなく挿入しているのが本書の特徴のひとつでもある。

 第4章は「治療総論」として最新の治療情報を漏れることなく紹介している。

 最終章の第5章では「臨床に役立つエッセンス」として,診療記録の記載,インフォームド・コンセント,コミュニケーション,医療事故への対応など日々の診療で心がけておかなければならないことや,いつか遭遇する問題への対応などについて記載されている。この章には第1項と最終項に“患者中心の医療”と“こころある医療を求めて”を取り上げている。本書に一貫してみられる医療の実践に際して心すべき基本がここに集約されている。まさにポンペの教えであり,医育発祥の地,長崎から発信された本書の根幹である。「レジデントのための」とされているが,医療に携わる多くの方々に優れた実践の書として本書をお勧めする次第である。

A5・頁400 定価4,935円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00563-0


エキスパート外来診療
一般外来で診るcommon diseases & symptoms

五十嵐 正男,福井 次矢 編

《評 者》木戸 友幸(木戸医院院長)

外来診療で遭遇するコモンディジーズを網羅

 一般外来を受け持つ医師,特にソロのプライマリ・ケア医として幅広い外来診療を行っている開業医に最適な参考書が出た。

 本書の最大の特徴は,使い勝手のよさである。各項目の始めにまず要約が述べられ,次いで疾患の特徴が要領よく示された後,診断,治療と続く。これらも程よい分量で診療中でも流し読みできる量である。そして最後に専門医に送るタイミングで締めくくっている。

 疾患としては,通常一般外来で遭遇することの多いコモンディジーズはすべて網羅されている。疾患単位の記載に加えて,症候からの診断学,在宅医療,漢方の基礎まで盛り込まれている。

 しかし,このすっと頭に入ってくる理解し易さはどこからくるのであろうか? 執筆者には聖路加国際病院人脈に加えて,その道の専門家として定評のある方々が集められている。それだけではなく,彼(彼女)らの多くはその専門に加え,プライマリ・ケアも同時に行っていた(いる)医師のように見受けられる。要するに,プライマリ・ケア医の気持ちの分かる医師が執筆していることがその理由の最大のものであろう。

 本書は500ページの分量があるが,執筆者は20人余りと少ない人数でまとめている。なぜなら執筆は疾患別ではなくて,感染症,循環器疾患というように系統別で同一執筆者が当たっているからである。このことで考え方に統一感が出せている。これも理解しやすい理由の一つであろう。

 外来診療の現場で,最新の情報を,簡潔に要領よく,プライマリ・ケアの心が分かる専門医からアドバイスされるのと同等の効果。本書の特徴をひと言で説明するならこのようになろう。

 最後に私事で恐縮だが,執筆者のうちの何人かは,私の30年の臨床医人生のなかで,ある時期仕事を共にしたことのある人たちであり,その素晴らしい臨床能力や人柄までよく知っている。それだけに,本書を多くの皆さまに強く推薦したい。

A5・頁564 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00559-3


AO法骨折治療 Internal Fixators
[英語版DVD-ROM付]
LCPとLISSによる内固定

田中 正 編監訳

《評 者》松下 隆(帝京大教授・整形外科学

新しいプレート固定の正しい理解のために

 私が内固定よりも創外固定を好んで使っていると誤解し,このようなプレート固定に関する教科書の書評を書くことを意外に思われる方がおられるかもしれない。骨折の治療法の優劣は最終的な機能予後と治癒期間との総合評価でなされるべきであり,そのような観点で治療法を選択すると内固定を行う症例の方が圧倒的に多い。

 私が医師になった1975年頃は,AOプレートを用いて強固に圧迫固定し仮骨を作らないで骨癒合を得るprimary bone healingが最良と信じられていた時代である。primary bone healingに何の疑問も持たず,AOの教科書を一所懸命読んで勉強した自分が恥ずかしいが,AOの教科書の力学に基づいた明快な解説は,骨折の内固定法の基本を理解するのにとても役に立った。

 その後,抜釘後の再骨折の多さから過度に強固な圧迫固定によるprimary bone healingは理想の骨癒合過程ではないことが明らかになったが,これはAOの理論と製品とによって真に強固な固定が実現されて初めて分かったことであり,AOの功績は極めて大きい。その後さらに,過剰な剥離による血行阻害やプレート直下の骨粗鬆化,ストレスシールディングなどの問題も明らかになり,「生物学的骨接合」が重要視されるようになった。このようにプレート固定法に関して常に先頭を走ってきたAOが,近年になってlocking plateという全く新しいプレート固定の概念を打ち出してきた。

 locking plateの形状が既存のプレートと似ていることからこれまでのプレートの延長上にあると思っておられる方があれば,ぜひ考えを改めていただきたい。locking plateはplateとscrewとの間のangular stabilityによって固定するものであり,これまでのplate固定がplateをscrewによって骨に圧着し,plateと骨との間の摩擦力によって固定していたのとは全く固定の理論が異なる。固定の理論は既存のプレートより創外固定に近く,創外固定に対して創内固定ともいうべき固定具である。本体が体内にあるので,骨と本体との距離が近くピンが皮膚を貫いていないという特徴があり,力学的観点からも感染予防の観点からも患者のコンプライアンスの観点からも創外固定より有利である。

 昔のAOの教科書はSpringer社から出版されていたが,1991年の“Manual of Internal Fixation”の第3版を最後に途絶えていた。その後出版社がThieme社に代わり,“AO principle”をはじめHand,Spineなどの骨折治療教科書が作られ,日本のAOファカルティーの翻訳による日本語版が医学書院から次々と出版されてきた。本書“Internal Fixators”も一連のAO教科書の1つである。

 新しい知識を身に付けようとすると,どうしても英語の文献に頼らざるを得ない。しかし一般的には英語の分厚い教科書を読破するのはなかなか大変である。先に述べたように,locking plateは従来のプレートとは全く異なった内固定具である。正しい固定理論を理解しないまま使用するとその特長を生かせないだけでなく,従来のプレート固定より悪い結果を招く可能性がある。本書が翻訳されたのを機に,骨折の治療に当たっているすべての整形外科医がこの教科書を読み,locking plateを正しく理解してから使用してくださることを祈って,推薦の言葉としたい。

A4・頁832 定価39,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00413-8


USスクリーニング

竹原 靖明 監修・編集
熊田 卓,桑島 章,竹内 和男,田中 幸子,遠田 栄一,安田 秀光 編

《評 者》南里 和秀(静岡がんセンター生理検査)

「けんしん」の全領域を網羅した1冊

 監修・編集者である竹原靖明先生は,本書の作成まで10年以上にわたる年月を費やして構想を練り,長年の集検に対する想いを本書で成就させた感じがする。この思い入れのひとつである,けんしん(検診・健診)は「何が必要か」「欠けるものは何か」の調査をご自身の経験上からも妥協を許さずに追求したものである。予定よりも発刊が遅れたことからもその意気込みが伝わってくるし,検診領域の超音波検査士資格導入に対しても並々ならぬ貢献をしてきたことがうかがえる。

 本書は,総勢66名という豊富な執筆者たちが自分の得意とする専門分野を活かした分担執筆をしており,広範囲な領域を本文444ページで完結している。全領域を網羅しているため個々の症例の細部の説明には言及できない点と,画像の表示方法で一部に統一されていない点が見受けられるが,それでも現場でエコーをしている方々にとって,内容的には十分すぎるほどの情報が含まれており,ベテランの執筆者の力によるところが大きいといえる。

 巻頭にある主な疾患の病理のマクロ像は,病理アトラスではないかと錯覚を覚えるほど,日常ルーチンで遭遇する頻度の高い疾患からまれな疾患まで多数の症例をカラーで見ることができる。以下に,構成の一部を紹介する。

 

 第1章の,けんしん(健診・検診)の現状では,各種の癌の罹患率,死亡率などの動向を統計的に知ることができる。

 続く第2章,超音波の基礎では装置の構成から分解能,原理,各種のアーチファクトが工学的に確認できる。例えば,距離計測をする場合に画素(ピクセル)からの微妙な誤差範囲があることが記載されている。また,臨床面ではスクリーニングでのピットフォールで注意しなければならない点とその対策があり,検査者は知っておく必要がある。

 第3章においては,超音波検査施行者の法的根拠が分かりやすく解説され,興味深いポイントである。

 第4章のスクリーニングの方法では,レポートの記載方法が分かりやすく事例で紹介してある。

 

 本書の検査領域は,腹部,乳腺,甲状腺,頸部リンパ節,頸動脈,腹部動脈,下肢血管,消化管,骨盤腔(男女)と多岐にわたっているが,症例にはそれぞれシェーマが描かれており,実際の写真と対比しながら学ぶことができるため,初心者にとっても分かりやすい。

 また,用語やシェーマの描き方も含めた所見の表現法から疾患の想定,修得を目指している。検査担当者が的確に判断医に所見を伝達する必要性を訴えており,検査者への期待が込められている。そして,検出された所見を事後指導区分としてガイドラインに沿って解説してある。通常は何冊も調べないと分からないようなことが,この1冊で網羅されており,内容の豊富さにおいてすばらしい出来である。「けんしん」を行っている施設ばかりではなく,通常の病院で検査をしている方々にとっても貴重な1冊に値する。

B5・頁472 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00433-6


腹部のMRI 第2版

荒木 力 編

《評 者》跡見 裕(杏林大教授・外科学)

臨床で有用な腹部領域のMRI診断の教科書

 荒木力教授の編集による『腹部のMRI』の改訂版が出された。MRIに関する解説書や教科書は極めて多く,かつてコンピュータの解説書が巷にあふれていたことに似ている気がする。コンピュータもMRIも原理を知らなければ,応用が進みそうもない。多くの専門用語があり,かつ略語が駆使されているので,理解も容易でない。そこでつい何冊も解説書を購入することになったが,コンピュータに関する解説書はいずれもほこりにまみれたという状況になってしまった。

 MRIも当初より,原理が難しく何回説明を聞いてもよく分からなかった。やっとおぼろげに分かりかけてくると,突然新しい撮像法が現れ,またまた混乱してしまうことになる。MRIの門外漢であるわれわれにとって,臨床で有用な教科書的な本は何かないのか,と思っていたが,この『腹部のMRI』はそのような要望を十分に満たしてくれる本である。

 MRIの原理的なことは,一見すると最初の章の“その後の進歩”で極めて簡単に述べられているにすぎない。しかし,個々の疾患の項で,必要な原理がその都度示されている。もちろんその説明のすべてが容易に理解されるものではないが,少なくとも一つ一つの疾患について最適な条件を示しているので,読者としては一歩前進できるものとなっている。本書では肝臓から始まり胆膵,消化管,腎,副腎,後腹膜,生殖器,血管病変などが網羅的に掲載されている。私の専門である胆膵領域でもMRCPは既にルーチンの検査となっているが,MRCPの項では利点,欠点やピットフォールが示され,さらに画質を向上させるさまざまな試みが紹介されている。また,最後に腹部領域でも話題となっている拡散強調画像が取り上げられ,これについての将来展望も示されており,真に興味深い項立てとなっている。

 序で編者が述べているように,MRIはオリンピックであり,さまざまで多様な競技を見せてくれるものである。さまざまなパルスシーケンスにより,機能的検討も可能となるMRIは画像検査の幹となっていくであろう。

 腹部に関するMRI診断の最も新しい本として,この書を紹介できることを喜んでいる。

B5・頁516 定価12,600円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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