第104回日本精神神経学会開催
2008.06.30
第104回日本精神神経学会開催
第104回日本精神神経学会が5月29―31日の3日間,鹿島晴雄会長(慶大)のもと,東京・台場のホテルグランパシフィックメリディアンで開催された。本紙ではシンポジウム「児童精神科医の育成,現状と課題」(座長=神戸大・前田潔氏,あいせい紀年病院・森隆夫氏)のもようを報告する。
この10年,少年による犯罪の増加傾向が続き,この背景にある「子どもの心の問題」が国民の関心を集めている。2005年,厚労省に「子どもの心の診療医の養成に関する研究会」が設置され,小児科医,精神科医が子どもの心身の健康に関する基本的な知識や技能を習得するための方策について検討が行われた。この答申を受けて本年3月に「一般小児科医のための子どもの心の診療テキスト」が発行されるなど,診療体制確立に向けた整備が始まっている。
市川宏伸氏(都立梅ヶ丘病院)は「30年前には児童の精神問題を扱う医師はほとんどおらず,隔世の感がある」と前置きしたうえで,(1)小児科と精神科の枠を超えた連携,(2)診療拠点の確保,(3)臨床心理士の国家資格化,(4)診療報酬,以上4点を現状の課題として提起した。本年の診療報酬改定で児童・思春期精神科入院医学管理加算の引き上げなどが行われたが,心理療法を中心に多職種による時間をかけたかかわりが必要となるこの領域では,より一層の報酬上の担保が求められる。
専門研修を終えた若手の声
2002年に「子どものこころ診療部」を立ち上げた原田謙氏(信州大)は,自身がたどってきた児童精神医学のキャリアパスについて,無給医時代を含めその苦労の道のりを紹介。ようやく研修の道は整備されてきたと述べたうえで,全国で200名程度の医師が総計1000程度の病床数で,この領域の患者をカバーしなければならない現状を憂慮し,診療・教育の場の確保と充実を訴えた。
続いて,約50年前から児童精神科専門医の育成が開始された米国で専門医資格を取得した田宮聡氏(六甲アイランド病院),都立梅ヶ丘病院で後期研修を行った成田秀幸氏(群馬大)が登壇。それぞれの経験から,専門医育成に向けた課題解決の方策を論考した。成田氏は専門施設での研修の意義を評価する一方で,「不十分な体制でも子どもとその家族に対して提供できる医療はある」と述べた。これを裏付けるには,すべての医師が子どもの心に関する基本的知識を持つことが前提となる。
いま,求められる卒前・卒後教育の充実
前出の検討会では卒前教育や初期臨床研修における教育・研修の到達目標も示された。これに関連して,山内俊雄氏(埼玉医大)は全国医学部長病院長会議を通じて行われた全医学部・医科大学における教育・診療実態調査の結果を報告(80大学すべてが回答)。これによると卒前教育では9割の大学で子どもの心に関する講義が行われていたが,時間数は2―3コマに留まっていた。初期臨床研修においては講義,実習ともに4割台の実施率であった。また,子どもの心の外来診療は77大学で行われていたが,小児科または精神科外来の一部として行っている施設が多かったという。
日本の未来を支える子どもたちの心を支える医療が,いま求められている。
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