医学界新聞

2008.06.16



糖尿病学の希望と挑戦
第51回日本糖尿病学会開催


 第51回日本糖尿病学会が5月22-24日,門脇孝会長(東大)のもと,東京国際フォーラム(東京都千代田区)で行われた。「ともに歩む,糖尿病学の新しい半世紀――希望と挑戦」をメインテーマに,急激に増加している糖尿病の予防・治療をめざして熱い議論が展開された。


自らの足で歩くために

 シンポジウム「糖尿病足病変の治療と予防的フットケア」(座長=東京都済生会中央病院・渥美義仁氏,東大大学院・真田弘美氏)では,5人の医師と1人の看護師が登壇し,糖尿病足病変の現状と対策について議論した。

 河野茂夫氏(京都医療センター)は,日本における糖尿病足病変の実態と対策について報告。現状では「一般に難治性で長期入院や下肢切断に至る例も多く,患者さんのQOLやADLが大きく損なわれている」とし,定期的な診察と予防的フットケアによる発症予防の重要性を強調した。また,発症した場合には救肢に向けた速やかな成因解明と複数診療科横断的な体制によるオーダーメイド治療が必要であるとした。

 熊田佳孝氏(名古屋共立病院)は,透析治療を受けている糖尿病患者自身による足壊疽対策を披露。炭酸ガスを溶かした湯に下肢を入れ,その血管拡張作用によって血流増加,末梢血管の循環を改善させる人工炭酸泉浴治療などを紹介した。また,患者が下肢壊疽に至る大きな原因として「傷口からの病原菌感染」を挙げ,患者に傷を負わせないための助言や配慮の必要性を訴えた。

 横井宏佳氏(小倉記念病院)は,循環器科医の立場から糖尿病足病変への取り組みを発表。心臓の冠動脈と膝下の血管の太さが同等であることから可能となった,下肢閉塞性動脈硬化症(PAD)に対する治療におけるカテーテル治療の効果を発表した。米国では,PAD患者へのカテーテル治療235例で,91%の救肢率を得たという論文報告を紹介。“Legs for Life”の考えのもと,積極的な運動を患者に勧めることによる糖尿病の悪化やPADの発症防止も呼びかけた。

 続いて登壇した市岡滋氏(埼玉医大)は,糖尿病足病変による難治性潰瘍の治療をめざすWound bed preparationに立脚した形成外科の取り組みとして,局所陰圧療法や再生医療的アプローチを紹介した。氏の施設では再生医療に取り組んでおり,コラーゲンなどの生体材料を用いた治療やbFGFなどのサイトカイン,創傷治癒を促進する物質を含む患者自身の血小板を凝集させたシートによる治療などを紹介した。

 三井秀也氏(岡山大大学院)は,糖尿病足壊疽の治療法として注目されているマゴットセラピーについて報告した。マゴットセラピーとは,無菌化したシロズキンバエというハエの幼虫を使って,難治性潰瘍を治療する方法である。ハエの幼虫を腫瘍に置くと,幼虫の唾液や体液に含まれる物質のデブリドメント作用,殺菌作用,肉芽増殖作用により,腫瘍を除去,治癒させることができる。周囲皮膚の刺激などの副作用はあるものの,低侵襲で麻酔が不要であり,人間の手の届かない深部にまでデブリドメントが可能であるなど,効果的な治療法であるとした。

 最後に皮膚・排泄ケア認定看護師である西田壽代氏(駿河台日大病院)が,糖尿病足病変予防に向けたフットケアについて語った。予防的フットケアの3つの柱として,(1)患者に傷をつくらせないためのアドバイス,(2)早期発見,(3)皮膚の病変をみて対応すべき診療科を判断するアセスメント能力を挙げた。さらに,患者自身がフットケアに積極的に取り組んでいく気持ちになるように,患者とじっくり向き合うことの大切さを訴えた。

 最後に,各診療科が団結して糖尿病足病変に取り組んでいくことを確認し,シンポジウムは閉会した。

iPS細胞と糖尿病治療

 生命科学の進歩は,糖尿病治療の面でも大いに期待されている。本学会では,人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発に成功した山中伸弥氏(京大iPS細胞研究センター)が特別講演を行った。

 山中氏はiPS細胞の開発過程を紹介したあと,iPS細胞に期待される臨床応用の可能性に言及。その1つが,QT延長症候群における薬剤使用可否の判断だ。QT延長症候群は,治療で使用する薬剤により誘発される場合もある。そのため,QT延長を起こすことが知られている薬剤の使用には,患者個人の薬剤誘発の可能性を検証することが必要となる。そこで,患者自身のiPS細胞で薬剤誘発性の有無を検証すれば,より安全な薬剤の選択・使用が可能になると期待されている。

 会場からも「膵β細胞に分化させることができれば糖尿病治療に使用できる」など期待の声があがった。臨床現場からの期待は,山中氏の研究の大きな力になるのではないか。臨床,研究の両面から,糖尿病の治療は力強く前進している。

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