医学界新聞

2008.06.02



“いのちをまもるパートナーズ”
全国医療安全共同行動がスタート


 Medical Harm(医療に伴う障害/有害事象)をなくそう!――米国では有害事象を低減させ,可避死事例を1例でも減らすことを目標に,医療の質改善研究所が呼びかけて「10万人の命を救え」キャンペーンが2004年から18か月間にわたって展開された。全米の3100病院が自主参加し,期間中は病院死亡率が明らかに低減。約12万人の可避死を回避することができたと報告されている。

 この日本版として企画された全国医療安全共同行動「いのちをまもるパートナーズ」キャンペーンが,2010年5月までの2年間を実施期間としてこのほどスタート。5月17日には東京・経団連ホールにおいてキックオフフォーラムが開催された(写真)。厚労科研費研究によると,わが国でも入院患者の6.4%に有害事象が生じており,2―5万人の可避死が存在すると推計されている。

 キャンペーンでは,医療の質・安全学会,日本病院団体協議会,日本医師会,日本看護協会,日本臨床工学技師会などが集まって設置した医療安全全国共同行動推進会議(議長=医療の質・安全学会理事長,高久史麿氏)が全国の病院に参加を呼びかけ,3000施設の自主参加によって1万人の可避死事例の減少を目標とする。5月19日からウェブ上で参加登録を開始している()。

 キャンペーンでは,感染症対策や危険薬の誤投与防止などの有害事象対策5項目,事例要因分析などの組織基盤強化3項目,合計8項目からなる行動目標が設定され,参加病院はひとつ以上の項目を選んで参加登録を行い,定期的に進捗状況や入院死亡数・死亡率の報告を行う。報告情報の取り扱いについては,全体の低減率などの発表は行うが,施設ごとの個別数字は発表しない。キャンペーンを推進する上原鳴夫氏(東北大)は「あくまでもそれぞれの病院が与えられた環境のなかでベストを尽くすことが主旨であり,標準を示すために実施するものではない」と強調する。

 米国は患者の安全を護る“Patient Safety”の考え方において先んじている。上原氏は,「わが国でも医療安全の取り組みを,病院を守るリスクマネジメントから,有害事象から患者を護る質改善・システム改革の取り組みに発展させる必要がある」と語る。

 キャンペーンは患者・市民の医療参加を行動目標のひとつとしているほか,参加施設が交流する機会を設けるなど,さまざまなレベルでのコミュニケーションの活発化もめざす。呼びかけ団体のひとつの日本看護協会では2000年からリスクマネジャー養成研修を実施し,すでに3000名が修了しているが,近く各地の医療安全担当者と有志のリスクマネジャーが会合を持ち,キャンペーン推進に向けた動きを本格化させるという。学会・職能団体そして全国のひとつでも多くの施設が,本キャンペーンに参加して市民と手をつなぐことで,よりよい医療が実現されることを期待したい。

:URL=http://kyodokodo.jp/

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