医学界新聞

2008.03.31



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脳卒中の下肢装具
病態に対応した装具の選択法

渡邉 英夫 著

《評 者》首藤 貴(愛媛県立中央病院・リハビリテーション部長)

症例ごとの装具選択に役立つ“装具・アラカルト”書

 医学書院より発行された渡邉英夫先生の著書,『脳卒中の下肢装具』を入手した時,その内容のユニークさに感激した。脳卒中のリハビリテーションを開始する際,ベッド上での足部良肢位保持・下肢の支持性確保・患肢遊脚期の床面クリアー能がまず課題となってくる。この課題に対する渡邉先生のこれまでの長い研究は,“さすが先生”と常に新鮮さを感じさせてくれた。

 いろいろな状況の症例を目前にすると,今回はどの形式の装具を処方しようかと悩みに近い検討を余儀なくされるのが実際である。最適な装具処方は,いまだ“永遠の課題”となっている。脳卒中後遺症で自力移動をしている大半の方は,下肢装具と杖を使用することになる。患者さんにとって,良い装具は日常生活を明るく活性化し,具合の悪い装具は移動を疲れさせ毎日を暗くする。私もポリオのため短下肢装具を常用しているが,ありがたいものであると毎日装具に感謝している。

 前半で脳卒中症例の歩行病態と装具処方の考え方をわかりやすく解説したうえで,後半にはこれまで発表された各種のプラスチック装具を数多く紹介していることも本書のユニークなところである。終始,図表やカラー写真等で要点が直感できるように工夫されているところに引き付けられた。装具処方に際して本書を身近に置いて実用性・有効性をイメージしながら,症例ごとの装具を選択するのに役立つ“装具・アラカルト”書であると思う。本書にある各種の装具を開発された方の意図と苦労の跡が,1頁ごとに伝わってくるのも興味深いところである。

 余談ではあるが,装具の師と仰いでいる渡邉先生とは,約30年前ニューヨークでの国際義肢装具学会に参加した時にホテルで同室となり,装具について話し合ったことがつい先日のことのように思い出される。先生の下肢装具への情熱はいささかも衰えることなく,その結実が本書となった。医師・理学療法士・作業療法士・義肢装具士・看護師等,脳卒中リハビリテーションを提供する方々はぜひ目の届くところに1冊置いていただきたい。

B6変・頁208 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00518-0


イラストレイテッド泌尿器科手術
図脳で覚える術式とチェックポイント

加藤 晴朗 著

《評 者》塚本 泰司(札幌医大教授・泌尿器科学)

魅力的なイラストと解説が想像力と立体把握能を養う

 「音痴」ということばがあるのであれば「画痴」ということばもあるべきであるというのが私の持論です。そして,私は「画痴」です。そんな訳で,この本の書評を依頼された時,はたと困りました。エビデンスがあるかどうか検証してはいませんが,画の上手な人は手術も上手であると,よく言われます。なるほど,教室でも私と一緒に働いてきた先輩にも,現在働いている後輩にも,このことが当てはまりそうです。しかし,逆は真だろうか? 真であるとすると,そもそも私にはこの本の書評を書く資格はない,ということになります。幸い,この本では「手術は想像力である」と書かれています。画が下手でも想像力があれば手術は上手になれそうです。「画痴」も想像力豊かに思い描いた状況を指で画に表現できないだけのもの,と定義すると,想像力を駆使すれば「画痴」でも手術は「イケル」ということになります。

 などなど,「自分は書評するのにふさわしい泌尿器科医なのか?」と自問自答しながらこの本をめくりました。私がふさわしい人間かどうかは別にして,この本は見てのとおりユニークなイラストで溢れ,そのメッセージはストレートです。しかも,加藤先生自身が経験した手術を,「文字」どおり(というより,ここでは「画」どおりといったほうが適切かもしれませんが)「4コマ」漫画ならず「多数コマ」漫画で表現されています。それは,あたかも私が小・中学生の頃愛読していた「ちばてつや」のキレのあるタッチ漫画(『ちかいの魔球』『紫電改のタカ』etc.)の1コマ,1コマを思わせます。

 手術は想像力と立体把握能の合作です。目の前に広がっている術野のその裏には何があるのか,その横はどんな解剖になっているのか? 今,見えていないモノをどうやったら目の前に露出させることができるのか? 想像力と立体把握能は手術を適切に遂行するために欠かせない能力です。

 これらの能力を獲得するためには,文字と図の2つが必要です。本書の魅力がイラストにあることは疑いの余地のないことですが,イラストに添えられている言葉(文字)も簡潔にして明瞭,示唆に富んでいます。両者から学ぶものは多いと思います。

 本書は,これから手術を始める泌尿器科後期研修医に有用なことはもちろんですが,ある程度の数の手術を行った専門医・指導医クラスの泌尿器科医のほうがその有用さをより実感するものと思います。なぜなら,本書には泌尿器科手術の現場が描かれているからです。

 著者の加藤先生の勧めにしたがって,本書のイラストを100%暗記しましょう。とっさの時には,十分に身についたことしかできない,というのが現実だからです。

“If I see further than other men, it is because I stand on the shoulders of giants."
-Sir Isaac Newton

A4・頁400 定価17,850円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00398-8


間質性肺疾患の外来診療

長井 苑子 著

《評 者》近藤 康博(公立陶生病院/呼吸器・アレルギー内科)

間質性肺疾患の診断の道筋とノウハウを収載

 「間質性肺疾患」。多くの読者はこの病気の名前は知っていても,どんな病気? どう診療するの? と,尋ねられると,はたと困ってしまうのではないだろうか。間質性肺疾患は,有効な治療がほとんどない難病も多く含むため,専門家をも悩ませる厄介な病気である。かくいう私も,この悪女のような悩ましい病気に心奪われ,深みにはまり,不惑の年を迎えても,相も変わらず悩める少年のごとく葛藤しているのである。

 このような「間質性肺疾患」に対する実践的解説書として作成されたのが本書である。本疾患に20年以上も携わってこられた長井先生の,情熱,臨床経験,知識・エビデンスを駆使した力作で,先生の多くの難病に苦しむ患者さんに対する深い愛情からうまれたものである。先生の属する京都大学間質性肺炎グループの世界に誇る臨床データも,随所にちりばめられている。私自身,本書から多くを学ぶとともに長井先生の難病に立ち向かう医師としての姿勢に強い感銘を覚えた。

 本書は,日常臨床に携わるプライマリケア医の方,はじめて間質性肺疾患の患者を診る研修医の方,さらには,呼吸器専門医,なかでも間質性肺炎に興味がある先生方,いずれの方にも,満足をもって読んでいただける良書である。単に,外来診療の手引書にとどまらず,充実した文献リストも備え,最新の知識をまとまりよく吸収することも可能である。本書を一読すれば,呼吸器専門医以外の先生方にも,外来診療において,間質性肺疾患の可能性を個々の患者からどのようにして引き出し,それを臨床画像あるいは,臨床画像病理的に診断していくかの道筋とノウハウが,容易に理解可能であろう。

 通常,このような教科書は,分担執筆となることが多いが,本書は長井先生一人により書き下ろされている。ご多忙な先生が,本書を作成するには大変なご苦労であったと推察されるが,そのおかげで,本書では「患者に不利益を被らせない」という著者自身の強い臨床姿勢に基づく診療方針が終始貫かれた内容を維持することが可能となっている。

 さらに,豊富な臨床経験と卓越した見識を持つ著者ならではの,「経過観察については,“治療しないという治療方針”の意義についてよく説明する」「間質性肺疾患領域では,症例蓄積による臨床経験が,知識とほどよくバランスがとれてはじめて,現実的で妥当な,患者にとっても不利益とならない管理治療方針が決定されることを強調したい」「組織診断をしても,治療導入の時期とその種類については,臨床的判断なしではできない」といった小気味のよい名言に随所で触れることができる。

 また,付録の厚生労働省申請書類,治療継続のためのピンポイント・アドバイスなど,痒いところに手が届く内容となっている。さらに,欄外のコラムからは,患者さん一人ひとりを大切にする著者の人柄や,考え方に触れることができる。

 日常臨床では,間質性肺疾患の多くは見逃され,また,見つけられても適切な診療がなされていないのが現状ではないだろうか。本書が多くの臨床医の先生方の手に届き,「間質性肺疾患」の診療レベルの改善,ひいては患者さんの利益につながることを期待したい。

B5・頁184 定価5,985円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00274-5


心臓弁膜症の外科 第3版

新井 達太 編

《評 者》川田 志明(慶大名誉教授)

最強の執筆陣による弁膜症手術のバイブル

 新井達太先生の編集による『心臓弁膜症の外科』が4年ぶりに改訂された。

 1998年が初版であり,2003年の第2版の改訂に際しては,あと数年は改訂の必要がないものと考えられたようだが,埼玉県立循環器・呼吸器病センター総長の職を辞されてからも心臓外科関係の学会や研究会に精力的に出席されて内外の新知見を吸収されたことで,本書の改訂編集に取り組む決意をされたようである。

 第3版の改訂の主な特長は,1つの手術項目に複数の執筆者を迎え,異なる手術法を列記し読者諸氏が手術を組み合わせて自由に取捨選択できるように配慮された点である。このように全体で21人の新進の執筆者を加えて,弁膜症手術の新しい手術手技の各種を公平に紹介していることが大きな特徴と言える。

 また,手術に必要な大動脈弁・僧帽弁周囲の局所解剖など手術の基本となる領域についてもページを割き,さらには弁膜症手術には心エコーによる診断が欠かせない検査法であることから,診断のほか手術適応などについても内科のエコー専門家に幅広く解説をお願いするなど,隅々まで行き届いた配慮がなされている。

 手術手技としてはRoss手術,Homograft弁によるAVR,Stentless valveによるAVR,AAEに対する手術を取り上げ,特に狭小大動脈弁輪に対する手術については一般的な弁輪拡大手術とは別に,有効弁口面積を考慮した「弁輪拡大をできるだけしない弁置換術」を5人の執筆者が担当して,互いの考えの違いが比較できるように思い切った取り組みをされている点も新鮮である。

 さらに,僧帽弁閉鎖不全に対する弁形成術の適応拡大とともに術式ごとの遠隔成績を示すようにされ,読者諸氏の術式選択に役立てている。最近になって導入されたEdge-to-edge technique(Alfieri)やLoop techniqueなどの新術式も加え,総計9人の術者が執筆を担当している。

 一方で,術後管理の一端として人工弁置換術後に不可欠の抗凝固療法を別枠で取り上げたこと,要所にone point adviceやpitfallsを配して手術のコツや注意点を説いたのは,若い読者への気配りであろう。

 圧巻は編集者自身による最終章の「人工弁」であり,人工弁の変遷と歴史,生体弁移植の歴史などは,SAM人工弁の開発に携わった研究者としての信条が偲ばれ,tissue engineering心臓弁,percutaneous心臓弁,transcatheter心臓弁などごく最近の文献も読破され,人工弁置換術の将来を俯瞰されているかのようである。

 これらの新機軸は,新井先生が顧問を務められ小生も代表世話人の一人である「関東心臓手術手技研究会」において時折主題として「僧帽弁手術」が選ばれ,迫力ある大画面で術式が供覧された後に活発な討論が行われるのであるが,最前列で熱心に聴取され,時には自らも発表された諸々が改訂の構想に役立ったものと思われる。

 最強の執筆陣による最新の知見を収載して大幅に改訂し,弁膜症手術のポイントをビジュアルに捉えることができるようカラー写真を多用した680頁にも及ぶ弁膜症手術のバイブル的な単行書である。

B5・頁680 定価29,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00541-8


発達期言語コミュニケーション障害の
新しい視点と介入理論

笹沼 澄子 編

《評 者》藤野 博(東京学芸大准教授/特別支援科学講座支援方法学分野)

エビデンスに基づく実践に役立つ「介入理論」

 本書は発達期に生じることばとコミュニケーションの障害について最新の研究知見をまとめたものである。編者はわが国の言語障害学の草分けでありこの分野の研究をリードしてきた笹沼澄子氏で,いずれの章も今日の日本を代表する第一線の研究者・臨床家の手になる。

 ここ10年あまりで飛躍的に発展した認知神経心理学と発達神経心理学を背景として進化した近年の発達障害研究の成果が,言語・コミュニケーション領域を中心に余すところなくレビューされている。

 自閉症スペクトラム,発達性読み書き障害,特異的言語発達障害,Down症候群,Williams症候群,後天性小児失語,人工内耳装用児,吃音,健常幼児の音声知覚,幼児期の話しことばの発達,小児・乳幼児の脳機能イメージングの全11章から構成されており,特別支援教育の領域で取り上げられることの多い自閉症スペクトラムと発達性読み書き障害に関する記述は厚く,この2つの章で全体の半分近くの頁が使われている。特に自閉症スペクトラムについて詳しく,心の理論,中枢性統合理論,実行機能,言語特性などに関する先端研究が網羅されていて読み応えがある。

 編者の笹沼氏は序で,言語コミュニケーション障害は「言語発達の“単なる遅れ”とは異質な障害であり,生得的な要因に由来する脳機能の非定型的な発達過程と環境要因とのダイナミックな相互作用によって形成される」ことを述べている。

 「非定型発達」や「神経学的に非定型的(neurologically atypical)」などの表現をこのところよく見かけるようになった。発達障害は近年,単純な発達の遅れでも脳の局所的な故障の直接の現れでもなく脳システム全体の非定型的な発達の問題として捉えられている。“症状”の分析にはヒトの認知・行動システムと発達過程,その神経学的基盤が理解される必要があるが,本書はそのためのたいへん質の高い手引となるものである。

 そしてWHOの提唱するICF(国際生活機能分類)の概念にもみられるように,今日では障害の発生や様相は個体因子と環境因子との相互作用の中で説明がなされる。そのような考え方の変化は支援のあり方にも影響し,個に対する訓練的な働きかけだけでなく,コミュニケーション上のバリアの除去や二次障害の予防のために環境をどう最適化するかといった生態学的な視点も重視されるようになった。本書で「治療理論」「訓練理論」などでなく「介入理論」と表現されているのはそのような含みがあるからであろう。

 認知的・分析的視点と発達的・生成的視点がミックスされた本書は,「発達認知神経心理学」に関する現在のところわが国で唯一の成書と言えよう。内容は高度で深く入門書というより専門家向きだが,研究者だけでなく小児を対象とする臨床家や特別支援教育の教師は座右に備える価値があると思う。

 エビデンスに基づく実践に役立つだろう。

B5・頁328 定価6,300円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00366-7

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook