緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療(4)
連載
2008.03.17
緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療(4)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)前回は,国民負担率が日本よりも小さいアメリカで実際の国民負担が日本よりも「べらぼう」に重い現実を紹介したが,では,反対に,日本よりも国民負担率がはるかに大きい西欧諸国で,国民負担の実際はどうなっているのだろうか?
西欧諸国と可処分所得で比較すると……
税・社会保険料の負担の重さを比較するに当たって,国によって,税(保険料)率だけでなく控除の仕組みも大きく異なるので,ここでは,単純化のために,「可処分所得(=給与から税・社会保険料等が天引きされた後,手元に残る額)」という「どんぶり勘定」の数字で負担の実際を比較する。表1に,国民負担率と給与に占める可処分所得の割合を国別で比較した結果を示したが,国民負担率が6割,7割を超えるからといって,フランスやスウェーデンの勤労者が,給与の6割,7割を税や社会保険料で天引きされているわけではないことがおわかりいただけるだろう。それどころか,日本の平均的勤労者が給与の15.1%を天引きされているのに対し,フランスは14.6%と日本よりも低いし,国民負担率が倍近く大きいスウェーデンでさえも20.8%と,天引き額の違いは「誤差の範囲」と言ってよいほど小さいのである。
表1 国民負担率と可処分所得 | ||||||||||||||||||||||||
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国民負担率と実際の国民負担との関係
では,なぜ,国民負担率が日本よりはるかに大きい国々で個々の国民の実際の負担は日本とそれほど変わらないのだろうか? 表2に「社会保険料率の国際比較」を示したが,フランス,スウェーデンの社会保険料率は,国民負担率が大きいことと相応して,確かに,日本よりも大きな数字となっている。しかし,ここで注意しなければならないのは,本人負担だけに限ると,両国の社会保険料率は,逆に,日本よりも低い事実である。それどころか,表で示した5か国のうち,本人負担がいちばん重い国は日本であり,前回,米国との比較で成立した「国民負担率は実際の国民の負担を反映しない」という命題は,西欧諸国との比較でも成立するのである。さらに,「フランスやスウェーデンでは,国民負担率が日本よりもはるかに大きいのに社会保険料の本人負担は安い」というと,まるで「手品」のように聞こえるかもしれないが,実は手品でも何でもなく,本人負担が安い理由は,事業主負担が日本の約「3倍」と,非常に手厚いからにほかならない。
表2 社会保険料率の国際比較(*1) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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というわけで,勤労者の給与明細のレベルで見る限り,国民負担率が大きくなっても個々の国民の負担が重くならない「からくり」は,「事業主負担が手厚い」ことにあるのだが,では,国全体のレベルで,事業主の公的負担を見たらどうなるのだろうか? ここで,「国民負担率」に倣って,「事業主負担率=GDPに占める法人税と社会保険料(事業主負担分)の割合」と定義し,国際比較した結果を図に示したが,「国民負担率が大きい国ほど,事業主負担率も大きい」という,非常に強い正の相関(図で示した5か国に限ればr=0.956)が成立していることが容易に見て取れるだろう。
つまり,西欧諸国の実例を見る限り,国民負担率が大きくなったからといって自動的に個々の国民の実際の負担が重くなるわけではないし,「国民負担率が大きい国(=大きな政府を運営している国)」は,現実的には「事業主負担率が大きい国」と同義といってよいのである。翻って,日本では,「小さな政府」派の人々が,「大きな政府にすると個々人の負担が重くなるぞ」と,しきりに国民の恐怖心を煽ることに専心しているが,これほど真実からかけ離れた「デマ」もないのである。
(この項つづく)
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