医学界新聞

2008.02.04



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


QT間隔の診かた・考えかた

有田 眞 監修
犀川 哲典,小野 克重 編

《評 者》橋場 邦武(長崎大名誉教授

基礎から臨床まで最新の知識・知見を把握し理解する

 臨床的な「QT間隔」の概念には,QT時間の計測値だけではなく,T波形の種々の情報も含意されている。「QT間隔」についてはこの十数年間の基礎的・臨床的進歩は非常に大きく,このことは今回刊行された本書と1999年の有田・伊東・犀川編集の当時最新であった『QT間隔の基礎と臨床 QT interval and dispersion』を比較しても明瞭である。イオン・チャネル病としての重症心室性不整脈,抗不整脈薬の催不整脈作用の機序などとの関連において急速に研究が発展した「QT間隔」であるが,最近でもイオン・チャネル変異による新しい不整脈の発見なども含め,基礎的・臨床的にその内容が非常に深く広くなったばかりではなく,虚血や心不全の病態の理解や予後関連因子としての検討も行われている。「QT間隔」は不整脈や心電図に特に関心のある医師のみではなく,すべての循環器医にとって必須というべき領域となっており,この時期に本書が刊行されたことはまことに時宜を得たものといえる。

 本書は,第I部:QT間隔の基礎的背景と計測(第1-9章),第II部:先天性QT延長症候群とその類縁疾患(第10-13章),第III部:QT延長に影響する薬剤および病態(第14-18章),に分けられ,3部/18章から構成されている。

 第I部では基礎的な問題として,心室筋再分極過程を形成するイオン電流の種類と性質,各チャネルの構造と機能,それらの心室筋各層における特徴的分布,多くの基本的因子を含めた活動電位シミュレーション,などについての最新の知見がまとめられている。さらに基礎的な問題と,臨床心電図QT間隔との接点として,MAP(monophasic action potential)やARI(activation-recovery interval)などの意義,性ホルモンや交感神経の影響,計測法に触れている。臨床医が敬遠しがちな基礎生理分野の最近の知識が,理解しやすく整理され,興味深く解説されている。

 第II部では従来のLQT1からLQT3に加えて,LQT10までが明らかになっている10のQT延長症候群の各型について詳述している。新しい変異による症候群の電気生理的機序,心臓以外の表現形としての臨床症状についての概説が述べられ,LQTSの最新の発展の知識を整理することができる。さらに後天性QT延長症候群における遺伝子異常の探究,Brugada症候群の問題点,QT短縮症候群,オーバーラップ症候群,などについても最新の知識が述べられている。

 第III部では再分極相の延長が抗不整脈効果の主役であるIII群抗不整脈薬のそれぞれの特徴の比較がなされ,抗不整脈薬以外の各種薬物のQT延長作用,虚血におけるQT間隔変動の機序と意義,心不全におけるリモデリングとQT,QT間隔と性差,などの臨床における重要事項についての現状と見解が述べられている。

 以上のように,本書はQT間隔についての最新の知見の概観を与えてくれるが,加えて各章ごとの末尾に「読者と一緒に考えるQ&A」という約1頁の解説が付けられている。これは質問したくても質問しにくい項目などが取り上げられており,読者に親切なばかりでなく,フォーマルな記載を離れてのコメントや追加によって,筆者が問題点を提供しているものもあり,興味深いコラムとなっている。

 Einthovenから100年を経て,QTを中心とするこのような心電学の理論的・臨床的発展は壮観とも感じる。行き届いた編集による,第一線の専門家による著作は読みやすく,安心感がある。興味深く,また,臨床的に有用な本書を広く循環器医に推薦したいと思う次第である。

B5・頁276 定価6,720円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00508-1


Quality Indicator 「医療の質」を測る
聖路加国際病院の先端的試み Vol.1

福井 次矢 監修
聖路加国際病院QI委員会 編

《評 者》新保 卓郎(国立国際医療センター研究所 医療情報解析研究部部長)

診療内容の測定から改善へ 診療の質を振り返る契機に

 この書は,聖路加国際病院での「医療の質」の評価指標Quality Indicator(QI)を広く社会にむけて公表し,またQIをまとめるに至る過程を示したものである。測定されたQIに対して,アセスメントとプランが要約されている。非常に重要な試みである。

 病院機能評価としては,日本医療機能評価機構がこれを行ってきた。病院機能評価では,医療の質の中でも特にストラクチャーを評価する。一方,QIの評価はプロセスを評価する比重が大きい。プロセスは,容易に測定できるし介入により変えることができる。アウトカムの直接の評価ではないが,アウトカムと明瞭に結びつくプロセスであれば評価指標となる。診療ガイドラインの遵守度に該当する指標もある。

 このような形で診療内容を把握することは重要である。診療内容が適切で良質なのかどうか測定されていなければ,改善のしようもないのである。一度このような形で測定されれば,今後の観察により,どのように変化していくのかも確認が可能である。継続性のある取り組みにみえる。

 従来,自分たちの行っている診療行為を,他者との比較のうえで知ることは国内ではほとんどなかった。また他者の診療行為の質も意外と知らない。自分や同僚の血圧管理や血糖管理がどの程度かすら意外と知らないものである。大きな病院間格差,医師個人間差が,いろいろな診療現場,医療技術に関して存在する可能性があるが,それすら現時点ではあまり確認されていないようにみえる。また測定されていたとしても,誰でもが簡単に参照して利用しやすい形での公表はされていなかった。

 本書は病院全体の立場から,診療の質を提示したものである。しかし,各診療部門や個人の医師にとってもインパクトのあるものだろう。例えば,HbA1cの管理や,肺炎の死亡率などは,部門や個人単位で1年毎に検討でき,比較することも可能である。自らの診療の質を振り返る契機となる。冒頭,日野原重明先生が本書について,「わが国のすべての医療機関への挑戦でもある」と語られているが,その通りなのであろう。

 また本書では,一つの病院の中である取り組みがどのように行われるかが記載されている。このような活動の有用性は誰でも認めるところだが,「言うは易く行うは難し」であったかと思う。電子カルテは多くの情報を有しているが,このような活動のために利用できるようなシステムには通常なっていない。ここから情報をとれる形にするには,大きなバリアがあったと想像する。また各部門が,海外のQIなどを調査し,必要なQIを同定し,実際に収集するのは大きな努力が必要であっただろう。このような形でQIがまとめられたのは,病院内のいろいろな部門のチームワークの成果であろう。同病院は研修医のマッチングで人気の病院と報じられているが,病院全体としての診療に対する真摯な姿勢が若手医師にも通じるところがあるように感じられる。

B5・頁164 3,150円(税5%込)インターメディカ
http://www.intermedica.co.jp/

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