医学界新聞

インタビュー

2007.12.24

 

【interview】
岡田晋吾氏(北美原クリニック理事長/函館五稜郭病院客員診療部長)に聞く

1つの病院だけよくなっても,
地域全体がその恩恵を受けることはできない。
今後は院内のチーム医療を地域に広げることが大切


疾病ごとの診療ネットワークづくり

――いま「地域連携」が注目されています。

岡田 急性期病院は在院日数の短縮を迫られています。それに医師不足の問題もあり,地域で役割分担をして勤務医の負担を軽減しなければなりません。高齢化社会が進展し疾病構造が変化すれば,急性期病院だけで医療を完結することはできない。そうなると,さらに地域連携の必要性が高まります。

――これまでは「医療連携・機能分化」と言われつつも,なかなかうまくいきませんでした。それが,なぜ地域連携パスを使うとうまくいくのでしょう。

岡田 これまでの連携は,在院日数短縮や紹介率アップのための,病院主体の連携でした。これからは,地域でいかに個々の疾患を管理するかという「疾患管理」の視点での連携,診療ネットワーク作りが求められます。その際に有用なのが,地域連携パスです。

 大腿骨頚部骨折の地域連携パスにおける診療報酬でも,定期的な情報交換会の開催が算定要件になっていますよね。疾患ごとに地域連携パスを作るとなれば,連携する医療機関同士がお互いの立場から話し合いをする必要に迫られます。これまでのように書類や電話一本で済ませるわけにはいきません。急性期病院の提案に対して,連携先の病院や開業医側が要望を出し,疑問点を確かめる。地域連携パスは,「顔の見える関係」を作って議論を尽くす契機になるのです。地域連携パスを活用して,ルールやシステムを決めることは,患者さん,病院,診療所にとって非常にメリットが多いのです。

連携パス普及のカベを越える

――院内のパス普及では「医師とカベ」がよく課題にあがりましたが,地域連携パスを普及するうえではどのようなカベがあるのでしょうか。

岡田 函館は二次医療圏がはっきりしているので,相手先を見極めることがやりやすいところです。ところが,例えば東京の大学病院などは神奈川からも群馬からも患者さんが来ます。大都市での連携は,相当の努力が必要なのだろうと思います。

 もう1つは,地域で核となって調整役に徹する医師がいないと,なかなか難しいと思いますね。連携パスの運用に成功している地域を見ていると,やはり核になる医師が1人ないし複数おられて,その方々が音頭を取って会合を持って……という事例が多いです。各疾患の専門医が地域で音頭をとって,そこに開業医やコメディカルも巻き込んでいくのが理想だと思います。

――急性期病院の側からは,「地域連携に熱心な開業医はそう多くない」という指摘もあります。

岡田 開業医みんながみんな,大腸がんや乳がんのフォローをしたいとは思わないのは事実でしょう。ただ,40代,50代で開業した人は,将来に対する不安があると思うのです。ぼくも3年前に開業した時は不安でした。いまは開業ブームですが,自分の得意な領域だけやって患者さんが集まる時代がこの先20年以上続くとは限りません。かかりつけ医として患者さんに頼りにしてもらうためには,ひとつではなく複数の病院との連携を深めないといけないし,そういう危機意識のある開業医に声をかければ,積極的に参画するのではないでしょうか。

――パスという言葉自体,あまり馴染みがないのが現状かもしれません。

岡田 開業医でパスを知っている人はちょっと変わった人かもしれない,ぼくも含めて(笑)。ですから「胃がんの地域連携パスを作りましょう」という誘い方では誰も関心を示さないでしょう。それを「胃がんの診療について,治療や経過のフォロー,看取りまでを地域の皆で役割分担しましょう」という話から始めれば,「自分には関係ない」と思う開業医はほとんどいないはずです。その話し合いが最終的には地域連携パスという形になるし,そうやって開業医が地域の診療ネットワークで重要な役割を果たしていくといいですね。

在宅医療のことを知ってほしい

――岡田先生は在宅医療にも積極的に取り組まれていますが,開業医の立場からは急性期病院にどういうことを求めたいですか。

岡田 在宅について言えば,ぼくはたった3年の経験ですが,ほとんどの患者さんは在宅で診ることができると気づきました。気管切開をして人工呼吸器をつけている方も現実に診ています。そういうことを病院側が知っていれば,もっと早く自宅に帰れる人がいると思うのです。例えば,末期がんでコミュニケーションも取れない状態になってから「かわいそうだから」とご自宅に帰すのではなく,もっと早い段階から開業医側に教えてほしい。そうすれば,退院前カンファレンスで本人の意向を聞いて,いろんな準備をしてから在宅で迎えてあげることもできます。

――カンファレンスの時間をどう設定するかということも,現実には難しい問題のようですね。

岡田 それは,開業医の時間に合わせてほしいです。診療や往診の時間を変えるのは難しいし,「明日17時からカンファレンスです」と一方的に言われても,これは「来るな」というサインかと思ってしまいます(笑)。「この人は在宅で最期を看取る可能性がある」と思ったなら,入院時からカンファレンスのことを考えてほしい。そうすれば退院日まで日数があるし,日程調整もやりやすくなります。

――それと,受け入れ側としてはバリアンスに対する不安がありますよね。

岡田 それは必須で,開業医が求めるのはバリアンスの対処法や異常時の受け入れ先です。この間も病院の医師と胃がんの連携パスを作っていたのですが,「何かあったら,たとえ夜であっても,その連携パスの対象となった患者さんの面倒はうちがみます」と会議で言ってくれました。そのことは患者さんにも伝えるし,われわれ開業医も患者さんもお互いに安心できます。

――治療・ケア面で,在宅へのスムーズな移行のために急性期病院に求めたいことは何でしょう。

岡田 介護・看護力は,在宅では圧倒的に落ちます。ですから,たとえば混注を減らすとか,座薬があるならば切り替えるとか,投薬など提供中のケアはなるべくシンプルなものに変えていってほしいですね。在宅のことがわからなければ,訪問看護師さんなどにも連絡を取って相談してもらえれば助かります。

 在宅医療も進歩しています。「これを病院で使えば便利」というものだってたくさんありますよ。「道南在宅ケア研究会」という集まりが昨年発足したのですが,そこには急性期病院から診療所,訪問看護ステーション,介護施設まで多職種が集って,いっしょに勉強しています。病院と在宅でお互いの現場の理解度を深めることができるし,相手の顔が見えれば在宅への移行もスムーズになります。

紹介・逆紹介に必要な情報とは

――急性期病院ごとに別々の連携パスを使っていると,連携先の病院や開業医にとっては負担が大きくなりますよね。

岡田 そうですね。われわれ開業医はいろいろな病院と連携しているので,同じ疾患で病院ごとに違う連携パスをもらっても混乱するだけです。乳がん連携パスも,函館五稜郭病院のパスをもとに地域で同じ連携パスを作ってくれるようにお願いしています。

――病院同士はライバル関係でもあります。地域連携に抵抗感もあるのではないでしょうか。

岡田 だからこそ,話し合いの場を持つのが大事ですね。病院同士は,距離的に近くても意外に連携が取れていないことがあります。函館でも,自分たちの病院でできない手術はわざわざ札幌の病院まで送っていた例があります。1週間入院するとなると,家族はその間ホテルに泊まらなければなりません。でも,目と鼻の先にその手術をできる病院が実はあることが,会合を通してわかったのです。患者さんにとってはそのほうが絶対にいいし,話し合いの場があるからこそ病院同士も頼みやすくもなります。

――病院の得意・不得意をオープンにしていくことも必要ですね。

岡田 そうなんです。ぼくも講演などでよく言うのですが,「外科専門医」と病院のホームページに書いてあっても,膵がんの手術が得意かどうかはわからないでしょ? かといって,ホームページに「膵がんは送らないでください」なんて書けない(笑)。知らないままにその病院へ患者さんを送ってしまったら,がんを手術で取れる患者さんが取れないかもしれません。開業医が紹介状を書く時には,そういった不安がけっこうあるんですね。連携パス作成の話し合いの中で,「うちで膵がん手術は難しい……」とか,「いまは糖尿病の専門医がいないので,重症の場合は他へお願いします」と言われれば,送らなくて済みます。開業医としては,そうやって患者さんにとって最適な病院を見極めることが大切です。

 逆にぼくが勤務医の頃は,患者さんにかかりつけ医を聞いてそこに送ったとしますよね。でも「うちでは院内処方なので抗がん剤や麻薬は処方できません」と断られて,翌月泣く泣く帰ってきたことがあります。連携先はどこでもよいわけでなく,医療の質が担保できなければなりません。連携の意思があって積極的に勉強会にも参加する開業医に送れば,病院の評判もよくなります。病院と診療所のニーズが合って,お互いの評判がよくなって,患者さんが満足する。こういう関係をつくることが大切だと思います。

病院同士の競争から地域間の競争へ

――編集された『地域連携パスの作成術・活用術』は,取り上げている疾患もそうですし,執筆者の方々の所属する地域も多様ですね。

岡田 地域特性も大きい要素なので,読者の方々はいろいろなケースを見て,自分たちの病院・地域,もしくは疾患に合ったパスを作ってもらいたいです。執筆陣の職種も医師・看護師・作業療法士とさまざまですから,例えば地域連携室の人だったら,地域連携室がどうやって地域連携パスに関わっていくかという視点で読んでも面白いと思いますよ。

――診療報酬など国の施策が動いて注目され始めた地域連携パスですが,もともとこうした取り組みが全国に広がっていて,それが結果的に評価されたのですね。

岡田 診療報酬で評価されるわけでも,給料があがるわけでもない。それでも,目の前の患者さんのために地域でネットワークを作ろうという動きが出て,地域連携パスという形になる。本の序文でも書きましたが,これは医療者として本当に誇らしいことです。

――本の中では,「これからは,病院同士の競争ではなくて,地域間の競争になる」とも書かれています。

岡田 東京と函館では,遺伝子治療など超高度な専門性ではかなわないとしても,一般的な診療なら負けないレベルの診療ができるはずです。それは個々の病院のレベルで勝負するのではなく,地域の医療者がどれだけ密に連絡を取り合っていくかというチーム力で勝負するからです。そうやって地域ごとの差が出てくれば,比べてみるのも面白いですね。

――院内のチーム医療を地域でやっているような感じですね。

岡田 いままではパスやNSTなど院内のチーム医療で,その成果が出ている病院がたくさんあります。でも,1つの病院だけがよくなっても,地域全体がその恩恵を受けることはできません。今後は院内のチーム医療を地域に広げることが大切ですね。その中心になる人材をいかに豊富に抱えるかが,最終的には病院の生き残りにつながるし,その診療ネットワークにいかに積極的に入るかが,20年後のわれわれ開業医の姿を決めていく。ちょっと大げさかもしれないけれども,そういうふうに考えています。

(了)


岡田晋吾氏
1986年防衛医大卒。同附属病院,函館五稜郭病院外科科長などを経て,2004年に開業。早期からパスや褥瘡対策,NSTの地域での普及・推進に精力的に取り組み,開業医の立場から急性期病院への提言も続ける。編著『地域連携パスの作成術・活用術――診療ネットワーク作りをめざして』(医学書院)ではこれまで築き上げてきた“ネットワーク”を活かし,全国各地の執筆陣が,実際に運用されている様々なパスを紹介している。

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