医学界新聞

2007.12.03

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


間質性肺疾患の外来診療

長井 苑子 著

《評 者》槇野 茂樹(阪医大・膠原病内科)

間質性肺疾患の治療管理まで踏み込んだ内容の濃い一冊

 1988年,私は,京都大学の免疫研究所でリンパ球を表面マーカーで染色しフローサイトメトリーで測定する実験に従事していました。当時所属した研究室には自前のフローサイトメーターがなく,検査会社の機械を会社の仕事が済んだ後,好意で使用させてもらっていました。夜9時10時になって染色したリンパ球を持って検査会社に行くと2台あるフローサイトメーターのもう1台を使って1人で黙々と測定している人がいました。それが本書の著者,長井先生でした。その頃,著者は「びまん性肺疾患研究会」で,気管支肺胞洗浄のデータの第一人者として中心的ディスカッサーであり舌鋒鋭く議論され,「凄い人だなあ」と仰ぎ見ていた方でしたが,データは自分自身で作られたものなのだと感心したのを覚えています。

 その後20年,著者は間質性肺疾患の領域で私を含め多くの研究者をリードして来られました。特発性間質性肺炎の分類は最近ようやくほぼ定まり,吸入性のものや,膠原病性,薬剤によるものなどとの異同が議論できるようになってきました。

 今回,著者は長い間質性肺疾患の臨床経験の集大成として本書「間質性肺疾患の外来診療」を書かれたと思います。今までの間質性肺疾患について書かれた日本語の総説書は,幾人かの専門家が分担執筆したもので,一人の著者が一貫して書いたものは初めてではないかと思います。著者の経験と知識をもって初めてできたものと考えますし,また,そのため,著者の間質性肺疾患に対する思想,スタンスが本書を通して明確になっているのが強く感じられます。

 本書の特徴と私が感じたことは,1つにはその完成度の高さと内容の濃密さです。本書には図表が多く,それぞれ,この疾患領域の重要なデータが選ばれており,文章と併せ膨大な知識を提供しています。もう1つは,間質性肺疾患の治療管理に踏み込んだ記述をしていることです。いままでの総説書が診断を重視しているのに対し,本書は治療管理に多くの頁を割き,「間質性肺疾患の臨床経過と管理方針」「間質性肺炎管理・治療方針のまとめ」といった複数の章を作り,また本文中ではステロイド漸減の詳細など治療管理の詳細も記述していることです。さらにもう1つ,著者の患者に対する見方を示している点です。患者の人格を尊重した著者の考え方がコラム欄などを通して一貫して示されるとともに,今までの総説書にない「患者と家族への対応」の章も立てられています。

 著者はこの本で「外来診療」という初心者向けと感じる題名とは矛盾するような深い内容を提示しており,間質性肺疾患に取り組むわれわれに,もっとハイレベルの医療を実践するよう啓発しているようにも感じます。

B5・頁184 定価5,985円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00274-5


コミュニケーションスキル・トレーニング
患者満足度の向上と効果的な診療のために

松村 真司,箕輪 良行 編

《評 者》高久 史麿(自治医大学長)

良好な診療関係を築くコミュニケーション技術を学ぶ

 今回,医学書院から『コミュニケーションスキル・トレーニング-患者満足度と効果的な診療のために』が発刊されることとなった。編集者の松村真司,箕輪良行の両氏をはじめ,本書の執筆に当たられた方々は,従来からコミュニケーションスキル・患者満足度訓練(CST)コースを開発し,かつ具体的に実施されてこられた方々であり,現在CSTコースを定期的に開催しておられる。本書はこれらの人たちによってCSTコースのテキストとして利用することを想定して編集されたものであり,その内容は「コミュニケーションスキルと患者満足度」「患者に選ばれるために必要なコミュニケーションスキルとは」「コミュニケーションスキルの実際」「コミュニケーションスキル・トレーニングの実際」,の4章から成り立っており,医師が患者と良好なコミュニケーションを持つのに必要なさまざまな調査のデータ,具体的な表現法,ノウハウ等が詳細に示されている。また,模擬患者のシナリオ,CSTの実際について例示されているのも本書の特徴の1つである。

 私が現在勤務している自治医科大学にはUCLAで長年教鞭をとられ,2007年4月から常勤の教授として学生の教育に当たっておられるアメリカ人の方,米国の病院で8年以上働いた後,本学に来られた准教授の方等がおられるが,これらの教員が異口同音に言われることは,日本の医学教育の中で最も欠けているのはコミュニケーションの技術と理学的所見を正確にとる技術の2つであるということである。特に前者のコミュニケーション技術に関しては,欧米では小学生の時代から訓練を受けているとのことであり,コミュニケーションに関する教育を大学入学前に受けたことがないわが国の医学生や臨床研修医が,目前の患者とのコミュニケーションを保つのに苦労するのは当然の結果とも言えるであろう。しかしコミュニケーションの能力が医師にとって最も重要な能力の1つであることは疑いの余地がない。患者からの不満の中でいちばん多いのは,医師が十分に言うことをよく聞いてくれないということである。このような不満が出るのは医師が忙し過ぎるだけでなく,本来持っているべき患者とのコミュニケーションの技術を医師が身に付けていないことも関係していると考えられる。

 一人でも多くの医師が本書を参考にされて,患者と良好なコミュニケーションがとれるようになることを希望して本書の推薦の締めくくりの言葉としたい。

B5・頁184 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00450-3


DVD+BOOK
認知行動療法、べてる式。

伊藤 絵美,向谷地 生良 著

《評 者》石垣 琢麿(東大大学院准教授・総合文化研究科/精神科医)

認知行動療法の「あるべき姿」を知る絶好の入門書

「べてる」でなければできない?
 べてるの家の活動は,本書とセットになっているDVDでも見ることができるし,向谷地氏や当事者自身が出演するさまざまなメディアや講演会によって見聞きされたことのある諸氏も多いことと思う。彼らの活動で皆がまず驚かされるのは,登場するべてるメンバーの「明るさ」と,彼らのコペルニクス的「発想の大転換」である。また,それを「べてるでは当たり前のこと」とさらっと言われてしまうことにも。私のような凡庸な精神科医は,彼らの姿に自分の発想の貧困さを再認識させられ,気分が滅入ってしまいがちである。べてるの活動は,当事者がもつ生活者としての能力を引き出し,彼らが真に希求する「生の」生活のなかでの具体的援助をめざしている。

 では,発想が貧困で時間のない私には,慣れ親しんだ人間関係や土地から離れられない当事者とともに「ここ」で何ができるのか?

なぜ「腑に落ちる」のか
 本書のなかで伊藤氏は,べてるの活動の基本は「問題志向」であり,認知行動療法も同様だと説く。問題志向とは,日常生活の「しょぼい問題」であっても,「問題解決」をあえて考えないで他者とともにまずはじっくり見つめること。その問題は,あくまでも患者さんの生活体験から提示されるものでなければならない。

 問題解決を図るときも,日常性のなかでそれが扱われなければ,患者さんの腑に落ちない。多くの患者さんは,この「腑に落ちる」感覚を体験することに困難があるのだが,治療上きわめて重要な体験であろう。

 それを現実生活のなかで獲得してもらうという意味では,べてるの活動や認知行動療法は「生活療法」の発展型とも考えられる。認知行動療法は,ともすると用いられる技法や,数字による実証性だけに注目が集まり,皮相な評価が下されることもある。本書は,認知行動療法のあるべき姿を知る絶好の入門書でもある。

「当事者研究」成功の鍵――家族とコメディカルに開けるか
 また,べてるの「当事者研究」は当事者がみずからを理解するきっかけを与える「しかけ」だが,臨床上の重大な知見も示してくれる。

 向谷地氏によると,当事者研究は「SSTに乗らない難しい問題を互いに共感しつつ語らうことから始まった活動」とのことである。当事者研究の中身は,認知行動療法が重視するアセスメントとケース・フォーミュレーションに多くの共通点がある。サポートを受けながらみずからの問題を外在化し理論化する作業は認知行動療法で一般に行われているが,統合失調症の患者さんの一部には非常に有益だという実感を私ももっている。

 問題は,べてるの当事者研究の背景として不可欠な「メンバー間の自然な共感」を,われわれの治療者-患者の二者関係内で充足できるか,という点である。外来診療でこれを解決する方略は,認知行動療法の手法に家族を巻き込むことと,外来チーム医療を充実させコメディカルのパワーを十分発揮してもらうことだろうか。

べてるに学び,自分たちの方法を探そう
 本書に示された,べてるの活動を認知行動療法の枠組みで捉え直そうとする姿勢は大いに共感できる。ベてるに学びつつも,「べてる式」ではない,みずからが直面する現実に即した「伊藤式」認知行動療法を探求しつづける伊藤絵美氏の態度自体が認知行動療法のモデルではないか。

 私たちに地域社会を巻き込んだ起業ができなくても,「幻覚&妄想大会」を開くことができなくても,認知行動療法の基本的姿勢によって,患者さんとともにできることのヒントを本書は数多く示してくれる。

 認知行動療法とか統合失調症とかという枠を超えて,豊富な臨床のアイディア,生活のアイディアを示してくれる本書を,認知行動療法を専門としていない方々にもぜひ読んでいただきたいと思う。

DVD+四六変・頁240 価格5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00527-2


がん医療におけるコミュニケーション・スキル
悪い知らせをどう伝えるか[DVD付]

内富 庸介,藤森 麻衣子 編

《評 者》木澤 義之(筑波大大学院・緩和ケアセンター)

本邦独自の根拠に基づいた医療コミュニケーションの実践書

 さわやかな秋の風に運ばれて,この本は私の前にやってきた。正直,書評はあまり気乗りする仕事ではなかったが,読み始めるうちにぐいぐい引き込まれた。本書はタイトルに,『がん医療におけるコミュニケーションスキル』とあるが,その内容はがん医療の枠にとどまらずコミュニケーションの基本にも触れられており,わが国独自の,根拠に基づいたコミュニケーションの実践書であるということができよう。

 付属しているDVDを参照しながら本書を読破すると,編者でいらっしゃる国立がんセンター東病院臨床開発センターの内富庸介先生,藤森麻衣子先生が臨床研究をもとに開発されたSHAREプロトコールを用いたがん医療におけるコミュニケーションの基本と実際を臨場感を伴って学習することが可能である。巻頭には悪い知らせを伝える際のコミュニケーションに関する今までの知見や,欧米のコミュニケーションスキルトレーニングのプロトコールとSHAREの比較がまとめられ,evidence-basedな構成となっている。筆者が担当している日本緩和医療学会の教育プログラムEPEC-0では現在悪い知らせを伝える際のコミュニケーション・スキルとしてSPIKESを紹介しているが,来年度からカリキュラムの改訂にあたり,今後このSHAREプロトコールに基づいたものに変更することを検討している。また,第一線で働くがん治療医,精神腫瘍医,緩和ケア医が,難しいケースへの対応や終末期がんへの対応について執筆されており,さまざまな臨床場面の応用が可能で,まさにかゆいところに手が届く配慮がなされている。

 全国のがんに携わる医療関係者のみならず,医学生,看護学生などの医療系学生にもぜひ読んでもらいたい好書である。

A5・頁152 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00522-7


《総合診療ブックス》
臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス

荒木 葉子 編
久慈 直昭,高松 潔,宮尾 益理子,柴田 美奈子 編集協力

《評 者》麻生 武志(東医歯大名誉教授)

女性の健康問題の本質を理解し症例を通じて診療の質を高める

 女性の精神・身体機能が男性と異なる特徴を有していることは広く認識されているが,その多くは概念的・表層的であり,また時には両者の機能の優劣を推し量る尺度として語られることも少なくない。医学・医療の分野においても,一部の専門領域では性差に関する科学的な解明がなされ,エビデンスに基づく医療が展開されているが,女性の心身にわたる特殊性を包括的に捉えた医療の実践に関しては多くの課題が残されているのが現状である。

 このような現状の一因として,これまでの医学教育と臨床研修の内容とあり方が指摘されており,一人の女性において密接に関連しあって生じる変化を総合的な観点から理解するための学習は限られた範囲に留まっている。また学問体系の細分化の流れは,専門家による先端医療の進歩をもたらした反面,境界領域の問題に悩む女性の要求に十分に応えることができていない。

 一方,社会・生活環境の急速な変化は,これまでに増して複合的な健康問題を拡大させ,複雑な病態を持つ新たな疾患や症候群を生じさせている。この現状に対応する医療が近年普及してきているが,診療を担当するほとんどの医師は,系統的な女性医療についての医学教育や医療研修を受けた経験がなく,「女性の診かた」に必要な態度・技能・知識を自分自身で修得し,高めていくことが求められているのが実情である。

 今般刊行された『臨床医が知っておきたい女性の診かたのエッセンス』においては,基礎知識と身体症状,メンタルな問題についての要点がまとめられており,また「プライマリーケアとしての対応」や「専門医からのアドバイスと紹介のポイント」など実践に有用な情報が明示されている。女性の健康問題の本質を理解し,症例を通じて診療の質を高め,さらに幅を広げたいとの臨床の現場のニーズに応える総合診療ブックスの1冊として本書の活用が期待される。

A5・頁344 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN 978-4-260-00428-2

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