第42回日本理学療法士協会全国学術研修大会開催
「先端科学と理学療法の未来」をテーマに
2007.11.19
「先端科学と理学療法の未来」をテーマに
第42回日本理学療法士協会全国学術研修大会開催
さる10月5-6日,第42回日本理学療法士協会全国学術研修大会in茨城が,居村茂幸会長(茨城県立医療大)のもと,つくば市のつくば国際会議場(エポカルつくば)にて開催された。本大会のテーマ「先端科学と理学療法の未来」に基づき,市民公開・特別講演「次世代の動作補助ロボットスーツ・HAL」や特別シンポジウム「バーチャル・リアリティと歩行のリハビリテーション」など,先端科学技術をリハビリテーションに活用する試みが紹介された。また,各セミナーがスキルアップ,ブラッシュアップ,最新テクニカルに区分されたため,個々のキャリアに応じたセミナーを選択しやすくなり,2400名に及ぶ参加者は熱心に耳を傾けた。
医療福祉分野に活用できる“ロボットスーツHAL”の開発
市民公開・特別講演「次世代の動作補助ロボットスーツ・HAL」では,山海嘉之氏(筑波大大学院)が,日本で急速に進行している少子高齢社会を支える科学技術の1つとして期待されている“ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)”を紹介した。講演の前半では,開発の経緯,現状,今後の展望について述べ,後半では壇上にてHALの実演を行った。
HALとは,サイバニクス(人,機械,情報系の融合・複合)技術を駆使して開発された身体運動機能の補助・増幅・拡張を可能とする世界初のサイボーグ型ロボットのことである。
山海氏によると,HALの開発にあたっては重量の多くを占めるパワーユニットの軽量化,小型化に工夫を凝らし,パワーユニット内部には正常動作を監視する機能,異常を通知するアラート機能およびパワーユニットの一時停止機能を搭載して安全性を高めており,また電装系をユニット化することで単関節用,2関節用,片脚用,下半身用,上半身用,全身用など,利用者が必要とするシステムが実現可能になったとのこと。
加えて,装着者の身体特性を考慮した広い可動域が得られる構造となっており,ロボットスーツ装着時であっても正座の姿勢が可能な関節可動域を得られるようになったという。
山海氏は,HALの活動範囲は広く,(1)筋発生学等の身体機能の診断,(2)適応リハビリテーション,(3)随意・自律のハイブリッド制御による立ち・座り/歩行支援,以上を1台で行うことができるため,次のような医療分野での活用を推進中であるとした。すなわち,(1)筋力の経時的な変化のモニタリング,(2)筋力バランスを適正化するためのリハビリテーションプログラム,(3)関節可動域訓練,(4)筋力維持訓練,(5)立ち上がり・座り動作訓練,(6)歩行訓練,についての活用であり,高齢者や脊髄損傷患者,ポリオによる運動機能障害を有する患者,筋ジストロフィー患者などのリハビリテーションや生活自立支援に活用できるとし,今後はこの分野で大きな役割を担っている理学療法士をはじめとする医療従事者と協働して,臨床場面での応用を積極的に進めていきたいと語った。
当日会場では,HALを装着した人間が30kgの米袋を片手で軽々と持ち上げたり,ひと1人を抱え上げて軽快に歩き回る様子が実演され,会場に詰めかけた多くの理学療法士が高い関心を寄せた。
リスク管理から再発予防へ
スキルアップ・セミナー「心疾患患者に対する理学療法――評価技術とアプローチの実際」では,高橋哲也氏(兵庫医療大)が登壇し,自身の臨床現場での実践をもとに,心疾患患者への評価とアプローチについて具体的に解説した。ベッドサイドの評価ではどこに着目するのか,薬剤処方から患者の状態をどのように読み取るのか,運動前後の問診のポイントなどを,病態生理に基づいてわかりやすく述べた。特に体重測定と問診が重要であるとし,あらゆる場面におけるモニタリングがリスク管理につながることを示した。今後は,理学療法を通して再発予防のための行動変容を促す必要があるとして,セミナーを締めくくった。
基本的かつ臨床的な知識・技術に触れる
今年の研修大会では,初の試みとして日本理学療法士協会教育局研修部の企画によるポストコングレス・セミナーが開かれた。セミナーのテーマは「理学療法における臨床解剖学的アプローチ」で,講師の吉尾雅春氏(千里リハビリテーション病院)が臨床に役立つ視点での解剖学的アプローチについて解説を行った。吉尾氏は死体解剖資格のある理学療法士で,実際に数多くの解剖を経験している。吉尾氏は経験に基づき,たとえば脳卒中の患者さんの肩関節に痛みがなぜ出るのかを説明するには,人体の構造について原点に返って考えることが必要とし,そのための具体的なアプローチ方法について臨床に即しながら解説を行った。
本セミナーの開催目的は,特に卒後,日の浅い若手の理学療法士を主たる対象者として,基本的かつ臨床的な知識・技術に触れる機会を設けることとしており,当日は若手を中心とする多くの会員が詰めかけ,大変な盛況ぶりであった。
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