研修プログラムを中心とした臨床研修病院の評価(岩崎榮)
寄稿
2007.11.12
【寄稿】
研修プログラムを中心とした臨床研修病院の評価
岩崎榮(NPO法人 卒後臨床研修評価機構専務理事)
研修プログラムの評価なくして研修病院の改善はない
一般に教育とは,「学習者の行動に価値ある変化(より望ましい状態への行動変容)をもたらすプロセスである」といわれている。
このことより,臨床研修とは,「臨床研修を行うことにより,研修医がより望ましい状態へと行動変容するように研修すること」と解される。
ここでいう“より望ましい状態へと行動変容する”ということは「社会が要請するよい医師」となるということであろう。
実のところ,新医師臨床研修制度の義務化に当たり平成12年11月の第50回国会参議院国民福祉委員会における附帯決議では,その社会的要請のすべてが決議されている。
この決議に基づき医師法等の一部改正(平成12年改正,平成16年4月施行)がなされている。医師法の第16条の二第一項には,「診療に従事しようとする医師は,二年以上の臨床研修を受けなければならない」と規定され,平成16年以降の医科大学(医学部)の卒業生に対しては臨床研修が義務化された。そのことは,臨床研修を受けなければ診療に従事できないという解釈も成り立つ。
さらに,「医師法第16条の二第一項に規定する臨床研修に関する省令の施行について(以下,省令の施行と略す),(平成15年6月12日医政発0612004~改正平成19年医政発0330038)」の中の「臨床研修病院の指定基準」の項目に,「将来,財団法人日本医療機能評価機構による評価等第三者による評価を受け,その結果を公表することを目指すこと。(傍点筆者)」とある。
臨床研修病院においては,「研修プログラムの評価なくして,研修病院の改善はない」,つまり研修プログラムの中身の改善はあり得ないわけである。
新医師臨床研修評価に関する研究会の設立からNPO法人卒後臨床研修評価機構へ
実は(財)日本医療機能評価機構の発足まもなく,当時の伊賀六一専務理事(故人)と筆者とが中心となり,今中雄一理事(研究開発部担当)の協力を得ながら,臨床研修病院評価の必要性から評価項目を開発し,当時の全国の臨床研修病院へのアンケートなどを行いながら,今日の「研修プログラムを中心とした臨床研修病院の評価」をまとめあげたのである。
新医師臨床研修評価に関する研究会は,設立(平成17年12月9日)される前に策定された評価項目を用いて,協力いただいた臨床研修病院,大学病院等(東京大学病院,東京医科歯科大学病院,社会保険中央総合病院,聖路加国際病院)において試行的調査を行っており,その有用性を認めたうえで本格的事業に移行し,平成18年12月聖路加国際病院を第一号として今日まで22病院が評価を受けていて,受審証を発行している。
NPO法人設立を契機として平成19年10月より総括的評価を行うこととなり,以後,臨床研修病院の研修プログラムが評価により一定の基準に到達したと認められた場合,「認定証」を発行することにしている。
卒後臨床研修評価機構での評価の視点および評価方法
評価することで臨床研修病院の研修プログラムの改善が促進できればよい。そこで評価の視点は,よい医師の養成が行われ,前述の国会決議にあるような社会の要請に応えられる医師が養成される研修プログラムになっているかどうかである。
具体的には,プライマリ・ケアの基本的診療能力が身につけられるプログラムであるかどうか,医療人として必要な基本姿勢・態度が身につけられるプログラムであるかどうかが評価されることになる。評価の方法としては,研修プログラムのあるべき姿を評価項目で示し,それを一定の基準に沿って評価することになる。評価項目は大項目(8),中項目(27),小項目(88)から設定されている。
評価項目の中で,どの項目が適切であり,また,「検討」や「改善」が必要とされる項目がどれかが具体的に明らかとなる。項目別の指摘だけでなく,何が問題であるかがコメントを付して文章でフィードバックされ,どのように改善すべきかが明らかとされる。11月12日現在で22病院が受審・審査済みであるが,すべての病院に「受審証」を発行している。10月1日以降改めて後述の認定基準に照らして,基準を満たしている病院には「認定証」が発行されている。
ここでの評価は,責任者たる病院長をはじめプログラム責任者,指導医,指導者(看護師等)へのインタビューによる評価と研修医へのインタビューも直接行われる。
評価認定基準の設定と認定証の有効期間
評価を受け,評価判定基準の一定の水準をクリアすることにより,研修プログラムは「適切」として「認定される」ことになる。
認定されると「認定証」が発行される。その有効期間は原則2年間とされているが,評価結果において,中項目の「適切」が80%以上,または小項目の「a」が80%以上の取得率に達していれば,4年間に延長される。またさらに「適切」が90%以上,かつ「a」が90%以上で,中項目において「要改善」と評価された項目が皆無であれば,6年間に延長されることになる。
認定基準については,中項目(直接の評価対象項目)は27項目から成っていて,「適切」「要検討」「要改善」で評価されるが,その中の「要改善」が20%未満の場合は,特段の理由がない限り認定証が発行される。これ以外の場合は,「条件付認定」となるが,ある一定期間内(3か月程度)での再調査において認定基準を満たした場合には条件を解除して認定証を発行することとしている。
評価結果で明らかになったこと
評価受審前に研修病院から提出される「臨床研修調査票」により,当該研修病院の臨床研修の概要を知ることができる。その概要から病院の役割・機能が明らかとなる。
これまで受審済みの22病院の評価結果からは,Pg.3.3の「医療に関する安全管理体制の確保がなされている」という評価項目において「要検討」が多いことが明らかとなっている。
このように評価項目ごとの分析をすることで,研修病院のどこに問題があるかがわかるようになる。しかも,プログラムに問題があるのか,指導体制に問題があるのか,管理体制全般に問題があるのかもわかる。
これから検討すべき課題
現在,評価調査に用いられている評価項目について見直し(Version Up)をしているところである。
見直しをどうするのかも1つの課題である。
臨床研修病院の評価において研修プログラムについては過程を重視しての評価となる。また,研修の成果として,研修医はどうなったのかという結果から評価することにもなる。
しかし,現在の評価項目はいまだ“構造より”となっている。ここをどう見直していくかが課題となる。
また,結果からの評価のためには,結果指標(Outcome Indicator)や臨床指標(Clinical Indicator)といわれる研修病院の質を評価できるQuality indicatorの開発が必要となる。
また,現在の評価項目の中から特に重要な評価項目(重点項目)等のウエイト付けをすることによる評価方法の改善をする必要がある。
今後の方向性
卒後臨床研修評価機構の目指すところは,米国におけるACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認可評議会)的な存在になることである。
ACGMEのsite review meeting(実地評価会議)のdiscussionにわが国で唯一参加されたという岸本暢将氏(亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科医長,米国内科・リウマチ膠原病内科専門医)によれば,「ACGMEの監査は非常に厳しく,かつ,研修プログラムでの研修医の教育機会や権利を確保する第三者機関として存在し,米国臨床研修のスタンダードを保っている」という(『週刊医学界新聞』第2503号レポート「米国における臨床研修の質を保証-ACGMEの役割」,2002年9月23日より)。また,「全米に存在する研修プログラムはACGMEの認可なしには,国からの補助金を得られず,また,研修修了後に受験する専門医試験の資格も取得できないため,研修医が集まらないことになり,病院にとっての死活問題となる」とのことである。
研修評価機構においても,これら米国におけるACGMEの評価手法を参考にしながら,わが国に見合う評価方法の開発に向けて進化させたいと考えている。
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