患者のQOLを高める医療のための臨床解剖学(大谷修)
寄稿
2007.10.08
【視点】
患者のQOLを高める
医療のための臨床解剖学
大谷修(富山大学医学部・大学院医学薬学研究部 解剖学教授)
2007年7月7日,富山全日空ホテルで第11回臨床解剖研究会が開催されました。全国から163名の解剖学者,放射線科や外科系の医師・研究者,および授業の一環(選択)として富山大学医学部2年次生(46名)が参加しました。特別講演2題,教育講演1題,指定講演5題,一般演題36題の講演が行われ,内視鏡下手術,再建医学,血管系の画像解剖学,解剖所見から考える外科治療戦略,センチネルリンパ節,肛門管の解剖・生理等について発表と討論が展開されました。
伊熊健一郎先生(健保連大阪中央病院・婦人科)は,腹腔鏡下の手術が普及し,患者のQOLを飛躍的に高めることもできるようになっているが,内視鏡下手術をするためには十分な解剖学の知識が必要であり,熟練することも重要であること,わずかのミスでも重大な医療事故をもたらすことがあることなどを,20数年間の経験をもとに,要領よく編集されたDVDを用いて講演されました。
さらに衝撃的かつ感動的であったのは,光嶋勲先生(東京大学・形成外科)の講演でした。髪の毛の半分の太さの糸と50μmの長さの針で直径0.2-0.3mmの血管やリンパ管,神経を吻合することにより,体の失われたさまざまな部分を復元できる――例えば,がんで根元から切除された陰茎を,皮膚などを用いてマスターベーションもできるほどに復元した事例を紹介。機能を温存する外科的処置は,もちろん重要です。しかし,同時に,がんや事故など何らかの原因で,不幸にして体の一部を喪失したり,体の一部が機能しなくなったりしたとき,その部分の形と機能を復元することができれば,その人にとって,これほどすばらしい福音は他にないでしょう。超微小神経血管解剖を応用して,失われた部分の形態と機能を復元する再建医学は,今後ますます発展すると思われます。
一方,解剖学は,「何も新発見がない」等と軽視される傾向にあります。しかし,このように画像診断,内視鏡下手術,形成外科などが発展してきたことの重要な要素として,解剖学に関する十分な知識が蓄積されてきたことが挙げられます。今こそ,解剖学者は臨床医学に必要な解剖学的情報が何かを知り,患者のQOLを高めることができる新しいレベルの診断・治療に役立つ臨床解剖学を発展させるべき時ではないでしょうか。
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