医学生へのアドバイス(2)
連載
2007.07.09
連載 臨床医学航海術 第18回 医学生へのアドバイス(2) 田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長) |
(前回よりつづく)
前回「知の基盤」として「教養」が重要であることを述べた。それでは一体どうやってこの「教養」という「土壌」を育成すればよいのであろうか?
ここで,樹木における「土壌」と人間における「教養」の決定的な相違点は,樹木は通常自分自身で「土壌」を選んだり培ったりすることができないが,人間の「教養」は自分自身で培うことが可能な点である。樹木は肥沃な土地を自分で選んで生育できないし,また,自分自身で肥沃な土壌を培うことはできない。ところが,人間は自分の「教養」を幸運にも!自分で磨くことができるのである。「教養」はもちろん生まれ育った「社会環境」「家庭環境」「教育環境」などに影響される。しかし,その「環境」の中でも自分自身によって自主的に「教養」を身につけることはできるのである。したがって,医学生たちも自分が「教養」がないことを単に「社会環境」「家庭環境」や「教育環境」のせいにせずに,自分で努力して「教養」を身につけてほしい。自ら土壌を培う「種」になってほしいのである。
勉強方法
この「教養」を身につける方法が「勉強方法」である。以前この「勉強方法」については,筆者は拙著『問題解決型救急初期診療』で勉強方法10か条について述べた。この勉強方法10か条とは,超多忙な救急室で効率的に臨床技能を身につける方法として提案したものである。このうちのいくつかは勉強方法として一般的に通用するので,ここではそれらについて説明する。
第1条 勉強は自分でする。 第2条 原則と禁忌を覚える。 第3条 次の一手を覚える。 第4条 基本から応用に向けて勉強する。 第5条 common diseaseから奇病に向けて勉強する。 第6条 専門から専門外に向けて勉強する。 第7条 人から技術を盗む。 第8条 知識を知恵にする。 第9条 森を見て木も見る。 第10条 手段を目的化しない。 |
第1条 勉強は自分でする
当たり前のことかもしれないが,当たり前ではないようである。勉強というものは,誰かからこの期間にこれを勉強すると決められて,ただそれを盲目的にこなすことであると考えている人が多いようだ。小学校・中学校・高等学校や大学などでは,何年生で何を学ぶかが事細かく決まっている。つまり,学習のカリキュラムが決まっているのである。そして,そのカリキュラムは学生という学習者自身が決めたものではなく,教育者がこの時期には学生の発達段階から考えてこの教科が必要であるという判断から決められたものである。しかし,こういう受身的な教育を受けてきた学生は,困ったことに社会に出てから自分で勉強することができないのである。学校で教えられていないことや試験に出題されないことは知らなくて当然だと思っている。自分が知らないことについてどうやって自分自身で勉強してよいのかわからない。いざ勉強しようと思っても,どうやって教科書を自分自身で選んだり文献を検索してよいのかわからない。学生の時には,決められた教科書や人から推薦された教科書や参考書だけを使っていた。実際に教科書を与えられたり選んだりしても,その教科書を初めから愚直に傍線をひきながら精読することしか知らない。そのうえ,精読した後に教科書の内容はほとんど頭に入っていないのである。
このような受身的な教育環境で育った学生は,自主的に何かを自分で学習して知識や技能を獲得することができない。つまり,魚を与えられただけで育った子供は,魚の採り方がわからないのである。言い換えると,教育というのは単に基礎知識や技能を教授するだけでなく,学習者が自立的に学習できる能力を獲得するように援助することであるはずなのである。ところが,日本の教育は単に基礎知識や技能を教授することで終わってしまっている。このような教育の結果として,前回の医学生へのアドバイス(1)「知の基盤」で紹介したように「医学部や司法試験などの“受験勝ち組”の,試験に必要なことだけを予備校で要領よく学ぶ効率型学習の弊害などの大きく三点の気質の変化」が起こってしまったのだと筆者は考えている。つまり,このような自立できない学習者を育てたのは,その学習者を育てた教育者にも責任があるのである。それは,ちょうど自立できない子供に育ったのは,その子供を育てた親にも責任があるのと同じである。
だから,医学生は小学校・中学校・高等学校・大学と一連の教育過程は,単に基礎知識や技能の習熟ということだけでなく,能動的な学習能力を獲得する過程であるということを認識してほしいのである。つまり,自分独自の勉強方法や勉強スタイルを確立しているかどうかが,肥沃な土壌を培えるかどうかの鍵なのである。
(次回につづく)
参考文献
田中和豊:付録1 勉強方法10か条,問題解決型救急初期診療(医学書院,p463-464, 2003)
この記事の連載
臨床医学航海術(終了)
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