第15回日本総合診療医学会開催
若い世代にジェネラルな視点を
2007.04.09
若い世代にジェネラルな視点を
第15回日本総合診療医学会開催
第15回日本総合診療医学会が3月17-18日,石川県民文教会館(金沢市)にて小泉順二会長(金沢大)のもと開催された。「造る,学ぶ,伝える,総合診療のエクスパティーズ」をテーマとした今回は,ユニークなプログラムが多数とり行われた。本紙ではそのいくつかを紹介する。
Teaching Pearl コンテスト
今回の目玉の一つがTeaching Pearlコンテスト。Teaching Pearlとは「教育のコツ」を意味し,これを初期研修医・医学生に対して模擬カンファレンス・レクチャーという形で講義。研修医・医学生がそれらを評価する。「サルでもわかる『臨床推論(Clinical Reasoning)』(金沢大・野村英樹氏)」では,はじめに「58歳女性,めまい」という症例を呈示。参加者が「思いつく疾患」,「それぞれの可能性」,「可能性が何%のとき検査・治療を始めるか」といった質問に答える間にホワイトボードには最も可能性の高い疾患を示す図が完成した。「甲状腺触診教授法の検討(大西内科医院・大西利明氏)」では臨床解剖が理解されていないとして甲状腺の解剖学的位置を説明。デモンストレーションの後,参加者同士が実際にお互いの甲状腺を触診し合った。最初は慣れない様子の参加者にも大西氏が直接レクチャーし,会場からは「わかった!」という声が続々と上がった。「症例プレゼンテーションのコツ(市立堺病院・川島篤志氏)」では,新入院時における症例プレゼンテーションの方法を伝授。施設内,できれば全国共通のフォーマットがあるとよいとし,プロファイルでは「目の前にいない患者をどうイメージさせるか」が重要と述べた。藤沼康樹氏(医療生協)は,臨床経験に基づいた振り返りとEBMを融和させつつディスカッションを進める教育セッション“Clinical Jazz”についてレクチャー。レジデントの横林賢一氏とともに模擬セッションを実演した。エクスパティーズセッション
「EBM実践のエクスパティーズ(慈恵医大・古谷伸之氏)」では,配布された資料に関して統計的に問題があると思われる点をグループで討議。「情報を仲介する医師として,患者にどのように情報提供をすべきか考えよう」と呼びかけた。ガイドライン2005を体験しようという企画「学生によるACLSワークショップ(福井県立病院・林寛之氏)」では人型シミュレーターを用い,状況設定に基づいて参加者が心肺蘇生を行った。パネルディスカッション
パネルディスカッション「臓器別診療医との対話」(座長=飯塚病院・井村洋氏,富山大・北啓一朗氏)では,まず竹島太郎氏(伊豆赤十字病院)が,臓器専門医との関わりを通して成長した3症例を報告。「臓器専門医には特殊な技能があり,総合診療医は幅広い知識や視野,家族や地域を考慮する診断能力に長けている。お互いが境界部分(=グレーゾーン)を認識・共有し,相談に対して迅速な返答や助言を行う中で,信頼感・一体感が生まれ,患者さんの満足につながる」と述べた。岡本朋氏(駒込病院)は,総合診療医が参画するキャンサーボード(癌の診断治療に関する専門領域の医師のカンファレンス)の取り組みを紹介。「多くの治療選択肢から最適なものを提供できる」,「総合診療医の診療レベル向上につながる」などの利点がある一方,「専門医の治療スケジュールに従わざるを得ない」,「全人的診療をいかに継続するか」といった課題も挙げた。
水島孝明氏(岡山大)は,総合診療の役割のわかりにくさが誤解や偏見を生んでいるとして,岡山大で行われている臓器別専門医との人事交流を紹介。互いの立場の違いが感覚的に理解できるほか,相互のコンサルテーションが上手になる,総合診療医の理解を広げられると報告した。
臓器別専門医の立場からは本田宣久氏(飯塚病院)が登壇。遅い段階での総合診療科からの転科では,専門科で治療過程を体感できず患者家族との信頼構築も遅れる可能性があると指摘。情報共有(事実の共有・意味の共有・考え方の波長の共有)のため,病状説明への同席を提案し,医学的な治療方針だけでなく患者家族の心理状況も共有することが必要と強調した。
最後に,山中克郎氏(藤田保衛大)が「臓器専門医との連携・対話の困難」と題して問題点を列挙。改善策として,ERを通した臓器専門医との交流を挙げ,そこでジェネラルな思考を持つ若い世代を育てることが必要と語った。
なお,今年の日野原賞は「腹痛診療におけるCarnett試験の操作特性の検討」(千葉大・高田俊彦氏)と「めまい診断に有効な問診項目の検討」(千葉大・野田和敬氏)が受賞,Best Teaching Pearl賞は川島氏と藤沼氏が受賞した。
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