医学界新聞

2007.04.02

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


左アプローチによるTRI

目黒 泰一郎 編

《評 者》延吉 正清(小倉記念病院長)

左アプローチの利点から術中・術後の要所を詳細に記載

 冠動脈インターベンションを世界で最初に行ったのは,Gruentzigである。彼は1977年にスイスのチューリッヒで右股動脈穿刺に細いカテーテルを用い,前下行枝の高度狭窄の拡張に成功した。そしてこの手技を,Percutaneous Transluminal Coronary AngioplastyすなわちPTCAと命名した。

 その後,ステントやロータブレーター,DCAなどの出現によりPTCAをPCI(Percutaneous Coronary Intervention)と呼ぶようになった。歴史的には股動脈穿刺の後,Stertzerらにより右前腕穿刺で行うPTCAも普及した。

 1992年8月14日 アムステルダムのKiemeneij(kimney)によって,初めて経橈骨動脈冠動脈インターベンションが行われた。当時,Campeauにより経橈骨動脈冠動脈造影(TRA)が紹介され,さらに1990年代初めにステント植え込みは十分な後拡張なしで行われていたため,ステント血栓症を防ぐ強力な抗凝固療法が必要であった。そこで,出血の合併症を減少させるために,工夫されたのがTRIなのである。

 わが国においても,齋藤滋先生が右経橈骨動脈よりのTRIを普及させておられるが,左アプローチによるTRIは目黒泰一郎先生によって初めて行われたのである。当時左からのアプローチは一般的ではなかったが,目黒先生を中心とするグループがカテーテルシース,圧迫帯などを研究し,現在ではradial approachは左経橈骨動脈からになってきている。

 目黒先生編集の『左アプローチによるTRI』には,何千例と行われた症例の結果が平易にまとめられている。

 まずは,なぜ左アプローチなのかに始まり,左アプローチに必要なデバイス,穿刺法,ガイディングカテーテルの選択や操作のコツ,ご自分たちで開発されたシースレスガイディングカテーテルの用い方,DCAやロータブレーターの場合の使用方法とコツ,複雑病変に対するPCIや急性心筋梗塞に対する左アプローチの考察,合併症とその対策など,手技のすべてについて非常に詳細に,しかも初心者が気をつけなければならない点をも含めて書かれている。例えば,左経橈骨動脈のTRIでは,カテーテル操作時に右手が遠くなるが,特別なアームレストを使用されており,術者と左経橈骨穿刺部位が離れない工夫をされておられる。このような目黒グループの独特な工夫は,他の追随を許さない一流の仕事であると考える。

 PCIを行う初心者の方にはぜひともお薦めしたい1冊である。

B5・頁120 定価5,250円(税5%込)医学書院


内科学

金澤 一郎,北原 光夫,山口 徹,小俣 政男 総編集

《評 者》井村 裕夫(京大名誉教授/先端医療振興財団理事長)

進化する内科学 進化する教科書

 「教科書も進化する」というのが,医学書院の新刊,『内科学I・II』を手に取った時の第一印象であった。図表を数多く入れて理解を助けていること,系統ごとに「理解のために」という項を設けて,基礎研究の進歩,患者へのアプローチ,症候論,疫学,検査法などをまとめていること,疾患ごとの記載でも疫学を重視し,新しい試みを導入していること,などであろう。膨大な内科学の情報を,2巻に凝縮した編集の努力も,大変なものであったと推測される。その意味で,新しい内科学教科書の1つの型を作り上げたと言えよう。

 序文にもあるように,内科学は医学の王道であると言ってもよい。病気を正確に把握し,できるだけ患者に負担をかけない,侵襲の少ない方法で治療するのが,医学の究極の目標だからである。この目標を達成するためには,基礎研究の成果を活用することが不可欠である。内科学こそは臨床医学の中でも最も生命科学に基礎を置いた分野であり,その理解なしに診療にあたることは困難である。本書ではそのような配慮が十分になされていると言える。

 とは言え,内科学は,あくまでも臨床医学の一分野であり,対象とする患者は異なる遺伝素因を持ち,異なる環境に住む社会的な存在としての人間である。医師はその片足を近代科学に,もう一方の足を人間科学に置いて活動しなければならない。本書の冒頭に「社会のなかの内科学」という章が立てられているのは,その意味で誠に適切な配慮であると言えよう。序文にも「患者との関係や社会的な問題にまで十分配慮した内容とする」と書かれている編集の意図は,これからの臨床医学の重要な2つの方向を示したものである。

 本書は,最初の計画以来12年の歳月を費やしたとされている。2段組みで約3000頁に及ぶ内容,700名近い執筆者から考えて,それは止むを得なかったことであるかも知れない。ただ1つ注文をつけるとすれば,長い時間がかかったため,新しい分野の記載がやや不十分になっている箇所があることである。例えば,生物学の中ではやはりヒトゲノムの解読の完成と,その臨床医学へのインパクトについての項目があることが望ましい。また昨今流行語にもなったメタボリック・シンドロームや,それに伴うNASHなどの疾患についても,より詳細な記載が望まれる。それらの点が改訂の時に追加されれば,より完成度の高い教科書となるであろう。

 内科学は臨床医学のあらゆる分野で必要な,基礎臨床医学とも言うべき領域である。その巨大な領域に本格的に取り組んだ密度の高い本書は,恐らくすべての臨床医学を専攻する人々にとっても十分参考になるものである。この新しい,本格的な内科学書が,幅広く活用されることを期待したい。

A4変・頁3268 定価33,600円(税5%込)医学書院


IPMN/MCN国際診療ガイドライン
日本語版・解説

国際膵臓学会ワーキンググループ 著
田中 雅夫 訳・解説

《評 者》山雄 健次(愛知県がんセンター中央病院・消化器内科部長)

IPMN/MCNを知る最良の書

 IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)は,1982年にわが国の大橋,高木らが世界に先駆けて提唱した“粘液産生膵癌”(後に粘液産生膵腫瘍)とほぼ同一の疾患概念である。一方,MCN(Mucinous Cystic Neoplasms)は,従来から膵嚢胞腺腫・腺癌と呼ばれていたものであり,両者の疾患概念は一時その異同をめぐって混乱をきたしていたが,現在では異なった疾患と理解されている。これらはこれまで非常に稀なものとされてきたが,最近では日常臨床において少なからず遭遇し,その取り扱いの理解は研究者,消化器内科医・消化器外科医のみならず一般臨床医や研修医にとっても重要となっている。

 さて,この本は“International Consensus Guidelines for Management of Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms and Mucinous Cystic Neoplasms of the Pancreas”として,2006年の春にPancreatology誌上に報告された論文の日本語版解説書である。その論文があっという間に,わかりやすい日本語の解説文に多数の新たな写真が加えられた一冊のすばらしい本に化けてしまった。さすが田中教授,見事と言う他はない。

 9名からなる国際診療ガイドラインワーキングチームの一員にさせていただいた私の目に焼きついているのは,ガイドライン作成過程での田中教授の凄まじい働きぶりと,要領を得た纏めぶりである。中でも最も困難であった,疾患概念の異なる諸外国との症例や画像診断法の相違からくる侃々諤々の議論のすれ違いを,田中教授はリーダーとして纏め役に徹し,矢継ぎ早にワーキングチームのメンバーにメール攻勢をかけて実に見事に海外と国内の意見調整をされ,短時間で完成にまで持っていかれたのであった。本書の発刊に到る一連のこれらのお仕事は,正に田中教授なくしてはなしえなかったものであり,田中教授に心から感謝申し上げたいと思う。

 さて本書の構成は,本ガイドラインの日本語解説文とPancreatologyに掲載されたオリジナル論文からなっている。日本語の解説文には,原文にはない本ガイドラインの作成の経緯や作業過程も詳しく述べられており特に興味深い。さらにこの本の根幹である,(1)定義と分類,(2)術前診断,(3)切除術の適応,(4)切除術式,(5)病理組織,(6)追跡経過観察法,の大きな6項目とその中をさらに細分化した18個の設問と回答が日本語訳とともに新たな写真などを加えて紹介されている。設問はIPMN/MCNの日常臨床上での具体的な疑問から作成されたもので,回答はIPMN/MCNに対する数多くの文献(それでも作成過程で随分削られたが)と国内外の専門家の意見からなる。読み方としては冒頭から通読されるのもいいが,表や写真,とくに日本語版独自の綺麗な写真を最初に見て疾患概念や現時点での問題点をまず理解し,その後で自分の疑問点に対する回答を拾い読みする形で読まれてもいいと思う。

 本書はIPMN/MCNに対する現時点での最高のガイドラインであり,その解説書である。IPMN/MCNの病態を理解するにはこの本をおいてないと言える。また,“著者からのメッセージ”にあるように,紹介されている多くの参考文献により,本書はIPMN/MCNに関する研究や,論文を発表する際の座右の書としてなくてはならないものとなっていると信ずる。

B5・頁84 定価4,830円(税5%込)医学書院

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