医学界新聞


医療者と患者の“わかる”の位相を知る

2007.04.02

 

医療者と患者の“わかる”の位相を知る

「医療事故・紛争対応 九州・沖縄セミナー」開催


 医療裁判の増加が社会的問題となる中,さる2月12日,九大医学部百年講堂(福岡市)にて「医療事故・紛争対応 九州・沖縄セミナー」が開催された。

 主催の「医療事故・紛争対応研究会」は,医療事故対応の問題をはじめ医療事故・紛争の問題を真に解決することを目的として2005年10月に設立された。以来,各地方で熱気あふれるセミナーを行っている。約550人の参加者を集めた今回のセミナーのもようを報告する。


 午前の部では,まず日下隼人氏(武蔵野赤十字病院)が医療従事者と患者間のコミュニケーションについて講演した。日下氏は冒頭で「患者とコミュニケーションをとるというのはごくあたりまえのこと。“こんな時代だからコミュニケーションが必要”という考えを捨てよう」と前置きし,「患者とコミュニケーションをとる目的はいろいろ言われているが“医療者-患者間の信頼関係をつくる”ことだけで十分」と述べた。

 具体的には「とにかく相手の話を聴くこと」「相手にわかる言葉で話すこと」「相手の知りたいことを話すこと」「相手の立場に立って話し合うこと」などを挙げ,あたりまえのことをあたりまえに行うことの重要性を強調した。また医療者の“わかる”と患者の“わかる”では位相が違うことを指摘し,「プロである医療者は,自分たちの言葉は簡単に患者に通じるはずがないと覚悟したうえで,相手がわかるまで忍耐強く説明する必要がある」と述べた。

「何もわからないことがわかる」のも剖検では重要

 次に池田典昭氏(九大)は,死亡事故が起きた際の死因究明のための剖検の重要性を強調。医療行為関連死をめぐって混乱している現状を指摘したうえで,具体例を挙げつつ解説した。死亡事故が起きた際,事故後にも適切な処置がなされなければ医療は完結しない。解剖しても何もわからないこともあるが,「何もわからないことがわかる」ということも重要であり,それによって医療の質の向上につながると述べ,死亡事故が起きた際の剖検の重要性をあらためて強調した。

 午後の部は転倒・転落事故をテーマに,判例や事故防止の取り組みの実際について3人の演者が講演した。演者のひとりの前田正一氏(東大)は,転倒・転落事故が起こった際に法的責任が発生するためには3つの要件((1)過失,(2)損害発生,(3)前2者間の因果関係)が満たされる必要があることを述べ,どのような場合に医療者側の法的責任が問われるのか,詳しく解説した。

 「医療事故・紛争対応研究会」は今後も随時地方セミナーを開催していく予定だ。詳細はHP参照のこと。

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