医学界新聞

寄稿

2007.03.26

 

【寄稿】

スイス・ドイツにおけるフットケア事情

西田壽代
(駿河台日本大学病院・WOC看護認定看護師/日本フットケア学会副理事長)


 日本フットケア学会主催の海外研修ツアーは,私自身が「日本で求められる医療フットケアとは何か」という疑問を解決し,そのノウハウを少しでも国内に普及したいという思いで企画したもので,2006年11月に2回目を開催しました。

 はじめに,IVO(国際整形外科靴職人技術者連盟)世界大会に参加するために,開催国であるスイスに2日間滞在しました。足を健康に保つために欠かせないものが靴です。糖尿病足病変を重篤な状態に導いてしまうのは足潰瘍ですが,その発生原因の第1位は靴擦れで,約70-80%であるといわれています。そのことからも,日本でいちばん遅れているのは,予防的医療用品としての靴および整形靴の位置づけだと思っています。足を守るべき靴が凶器になっている現状を少しでも打破したい。そんな思いでIVO世界大会にヒントを求めて参加しました。

 うれしい掘り出し物としては,100ある商業展示の中から足にやさしくデザイン性の高い靴下をみつけたことです。アンプタ(切断)した足に合うように1cm刻みでサイズがあり,左右違うものを購入できます。糖尿病患者用にと,抗菌目的で銀が織り込まれていたり,縫い目が内側になかったり,履くときにかかとに強い圧をかけないよう,足首から膝にかけて60cmほどの直径に伸びるようになっているものなどがあり,日本への輸入を実現したいと強く感じました。もうすぐ日本でも購入できるようになるはずです。

求められる多面的アプローチ

 演題で興味深かったのは,インソール(足底挿板,靴の中敷のこと)は使い心地のいいもののほうがその効果が出やすいという発表で,ある兵隊で個別にオーダーしたインソールを提供してデータを取ったところ,実に53%の兵士に靴が原因となる足潰瘍形成がみられなくなったとのことでした。

 当院で行っているフットケア外来で,糖尿病予備軍の患者さんが,胼胝(タコ)と鶏眼(ウオノメ)の処置に通っていらっしゃいます。痛みがあってしょっちゅう病院に来たいが,仕事をしていて通える日が限られているとのことで,迷わずオーダーメイドのインソール作製を勧めました。その結果,2週間から1か月ごとに通院を要したものが,3か月たった今でも痛みを感じず,胼胝や鶏眼といった皮膚角層の病的肥厚がだんだんみられなくなったのです。胼胝は慢性的に圧を受ける部分にできる天然のパッドですが,肥厚が過ぎたり鶏眼を発症すると,角質下に潰瘍形成し,骨まで至る重篤な状態に陥ることも少なくありません。こうした角質コントロールひとつとってみても,角質自体を削る処置,皮膚を肥厚・乾燥させないスキンケア,肥厚した部分の圧コントロールのためのインソール作製,足の形状に合った靴の着用,足底圧バランスを保つ歩容と,さまざまな介入が必要なのです。

 こうした多面的なアプローチを現実にしているスイスやドイツのポドローゲン(国家資格の医療フットケア師),オーソペディ・シュー・マイスター(整形外科靴職人の棟梁)と医療連携の実際を,目の当たりにすることができました。特にIVO世界大会で滞在するついでに,スイスのフットケア事情をほんの少し覗き見できればと安易に考えていましたが,その考えはすばらしく覆されました。もしかしたら世界で行われている医療フットケア,特に予防・早期発見を目的としたフットケアにおいては,スイスが世界トップレベルではないかとさえ思われました。次回の研修ツアーでは,こうしたスイスの現状を深く掘り下げてみてみたいと思っています。

究極のフットケア

 私たちが見学したスイスやドイツの病院には,救肢に非常に熱い思いを持っているドクターの存在があり,ポドローゲンやマイスターなどと強い信頼関係を築き,ケアを行っているというのは,日本が見習うべき姿だと痛感しました。スイスのドクターは,ノイオネル・ネットワークという患者情報システムを作り,3Dカメラによる歩行解析などあらゆる検査データを入力して,手術後の足の動きをコンピュータシミュレーションし,手術を受けることが本当にその患者にとって最善の治療法なのかという分析を行い,不要な手術件数を25%削減したとのことでした。手術件数を上げることが診療報酬に結びつくどこかの国とは,根本的な部分が違うのだということを見せつけられる思いでした。世界の先端を行くスポーツ研究の第一人者であるドイツのケルン大学バイオメカニック研究所での研修もそうでしたが,生体の中で,唯一人間が確立して持っている「歩行」という能力を,ここまで解析して応用するとは,まさに究極のフットケアだと感じました。

 今回のツアーでは,ドイツのポドローゲン養成専門学校の先生から直接フットケアの実技指導を受けました。学校内にフットケアクリニックがあり,患者の処置を見学,実施できるというとてもすばらしい機会にも恵まれました。2年続けて同じプログラムに参加した看護師でさえ,その内容に120%満足したという声が聞かれるほど充実した内容で,フットケアの奥深さを感じました。

 日本では,医療をベースとしたフットケアテクニックを教える機関がまだありません。その部分を充足させることをめざして,今後も海外研修ツアーを実施していきたいと考えています。余談ですがこのツアー,別名「ドイツグルメツアー」と呼ばれています。旅行会社が企画するツアーでは絶対に行かないような隠れスポットを訪れ,ドイツってこんなに食事が美味しいんだ! と感動しながら帰国するという,旅行という観点から見ても自慢できる楽しいツアーです。興味のある方は,ぜひご一緒しましょう。2007年は9月頃を予定しております。決まり次第,学会ホームページで発表します。

 最後に,当研修ツアー企画に尽力いただいた,ドイツのモンドンみどり氏,ペッドカッド社のマイスターであるヴァルター氏,フットクリエイトの桜井一男氏に深くお礼申し上げます。

ツアー参加者の集合写真。スイスのカントン州立アールガウ中央病院前で,同病院のヴィス先生(後列中央)とペッドカッド社オーソペディ・シュー・マイスターのヴァルター氏(最後列右端)と撮影。最後列右から3人目が筆者。

日本フットケア学会ホームページ
 (海外研修ツアー情報は,ここからアクセスしてください)

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