医学界新聞


スーパーローテート時代の研修医当直事情

2007.03.12

  【特集】
スーパーローテート時代の研修医当直事情

研修医当直――私の場合


小山泰明(聖マリアンナ医科大学病院救急医学)


研修医時代だから学べること

 私は初期研修を土浦協同病院(茨城県)で行い,現在,後期研修医1年目として救急・集中治療を専門にしていますが,初期研修時に救急外来や病棟で学んだ知識や技術や勇気が非常に役に立っています。

 研修を行った土浦協同病院は1000床規模の病院で周囲に大病院がないため,1次から3次までどんな患者でも診なければならず,救急車年間7000台・救急外来患者5万人以上の診療をしています。救急外来の当直体制は内科系・外科系・小児科・3次(麻酔科)と分かれていて,内科系・外科系・小児科ではそれぞれの科を研修している時に,2年目研修医が1人ずつ当直医師として勤務し,上級医も1人ずつ配置されていて何かあれば相談するようになっていました。

 この当直が週1-2回ありましたが,なかなか相談しにくい上級医師もいましたし,相談する時間すらない忙しさだったのが実情でした。その他に特定の研修診療科では病棟当直が週1回程度あります。1年目研修医も週1回当直があり,2年目を手伝います。

 当直業務は,一言で言えば「忙しいなりに充実していた」と言えます。呼吸が止まりそうなCOPD患者や歩いて来院される急性冠症候群・見逃された外傷などかと思えば,風邪や喘息などのcommon diseaseも絶え間なく診ていました。

 正直なところ,自分が研修医だったころの当直は誤診していないかとハラハラしながらいつの間にか時間が過ぎていきました。今思えば,初期研修ではそうしたハラハラした経験が何にも増して重要だったと感じています。「研修医でも患者さんからみたら医者である。医者としてプライドを持って働かなければ」という病院環境の中で働いていたため,自分で必ず本で調べ,確認して診療していました。またACLS・PALS・JATECなどの救急標準コースにも積極的に参加しました。患者のために少しでも知識や技術を体得しなければいけないと思ったためです。同期からしてみれば一風“変わり者”でしたが,同期が見逃した症例を診たり相談もされたりしていました。

 自分の興味がない科ではやる気のない態度をする研修医が時々います。しかし,患者からすれば研修医も医師であることには変わりはありません。三角巾やシーネ固定ができない,風邪も診られない医師はどう思われるでしょうか。各科でのcommon diseaseはしっかり研修中に修得すべきですし,教える側も指導体制をしっかり作るべきです。研修医は教わる立場にいるのですが,わからなければまず自分で調べ,すぐ相談できる環境の中で実際色々な患者を自分で診ることによって経験を積んでいきます。そしてこの教育・研修の実効性が最も発揮されるのが救急外来・当直であると感じています。

 研修医は積極的に学べる場面に行き,教える側も教育・指導を行い,労働時間・休暇,給与・手当て等についても1人の医師・人間として対処するべきです。体を休めるのはほどほどとし,研修医時代にしか聞けないこと,修得することがたくさんあるのですから,各科の疾患を救急外来や当直で積極的に診ていくべきです。私は現在,研修医を指導する立場になりましたが,“いつでもどんな時でも気軽に聞けて的確に答えが得られる”研修指導医になるべく,日々研修医とともに研鑽を積んでいきたいと思います。


寺澤富久恵(茨城県立中央病院研修医)


研修生活の中でも充実した時間

 私の初期研修先は,茨城県中央部ののどかな田園地帯にある500床の地域がんセンター併設の総合病院です。ここでは,特に有名な研修指定病院ではなく,救急救命センターでもない,“普通の市中病院”でどのような研修医当直が行われているかという一例を示したいと思います。

 当院では,病棟では超緊急以外は原則的に休日・夜間ともに各科対応で救急対応を当直医が行います。当直は,内科系と外科系に分かれ,それぞれ上級医(3年目以上)が1名ずつ担当し,その下に平日は内科系のみ,休日は内科系・外科系に1名ずつ,初期研修医が配属され,救急外来を舞台に研鑽を積みます。研修医の当直は,およそ3-4回/月で,1万2000円/回の当直手当が支給されています。当直研修医への食事の支給はありませんので,日中うっかりして夜間の食事を入手し忘れると,低血糖を起こしそうになりながら一晩がんばることになります。

 患者さんからの電話問い合わせには当直看護師長が対応し,受診をトリアージしますが,地域柄,直接来院される方が多くいます。また現場から5分以内に到着する救急車は滅多におらず,遠路の搬送に時間がかかるケースが多いのも特徴的です。

 初療に研修医があたるか上級医が同席するかは,患者さんの症状および研修医の技量(学年や研修状況)に応じて流動的です。しかし,基本的に上級医の診察を脇で見ているだけ,という研修ではなく,研修医自ら頭と体を使う研修が主であり,研修医自ら責任感を持って,毎回真剣勝負の心意気です。検査をオーダーする時,治療を開始する時,帰宅あるいは入院の判断をする際には,上級医に連絡することになっており,上級医の判断により転帰が決まることになっています。

 救急外来だけでは対応できず,各科へのコンサルテーションが必要な場合は,各科オンコールにコンサルテーションを行います。循環器内科・呼吸器内科・消化器内科・総合診療科・外科・整形外科・放射線科・眼科・皮膚形成外科・婦人科・病理科(剖検)がコンサルテーションに対応しており,他の科に関しても適宜コンサルテーションが可能な状態となっています。

体力的には辛くても……

 一夜の来院患者さんの数は日によって変動があり,休憩時間はまちまちです。しかし,ほとんどの当直は細切れの睡眠が一夜で2-3時間程度ということが多いように思います。そんなに体力があるわけではない私は,次の日は午後になるとかなりグッタリです。

 当院では平均的な研修医の帰宅時間は22時から24時ですが,当直明けの日も,その生活は何ら変わりなく,結局は万年睡眠不足に陥ってしまいます。体力的には辛いですが,救急当直は研修生活の中では充実したひとときで,わくわく・ドキドキの宝庫です。多くの症例が大きなインパクトをもって経験でき,経験症例は,あとで勉強したことも大変よく記憶に残ります。病院の規模がそこそこのため各科専門家との連携がスムーズで,次の日に各科の先生方に「昨日こんな方が来て……どうしたらよかったでしょうか……」と教えを請うことで多くのことを学べます。

 個人的な悩みは,心臓血管外科・腎臓内科・小児科・産科など,当院での入院対応ができない分野は,絶対的に2年間での経験症例が少ないということです。大規模病院での研修に比べて,症例数が少ないのではないか,重症度が低い症例ばかりではないか,と不安感と劣等感を時に抱くというのが素直なところだと思います。

 研修内容は,病院ごとのカラーがあり,当直研修も見学だけというところから,研修医が一人前としてがんばる病院もあるようです。各々の研修病院でどのような当直研修ができるのかは,研修病院選びの時の重要な着目点……といった話は,もう研修病院選びを始めている読者には釈迦に説法でしょうけれど,再度強調しておきたいと思います。


大塚亮平(佐久総合病院研修医)


プロフェッショナリズムを学ぶ場

 当院の初期研修医は1次から3次救急患者が来院する救命救急センター(救急患者約3万人/年,救急車約3500台/年)で当直を行っている。研修医の当直業務は救急外来当直とICU(集中治療室)当直に分かれる。

 夜間・休日の救急外来では主にwalk-inの患者の診療にあたり,時間帯は17時から翌8時半までの夜間(17-24時までの準夜帯,17-翌8時半までの深夜帯)と休日の日直(9-17時)である。合わせて,月に5-8回の当直がある。

 当直に入るのは病院のシステムに多少慣れてきた1年次の6月から。BLS講習やACLS講習,各科指導医による救急外来クルズスを受け当直に向けて準備を行う。当直の研修カリキュラムとして,<初め>見学のみ→<数回の当直後>上級医の見学下での診療→<数週間後>上級医に全症例コンサルト→<1年目の後半以降>研修医が必要と判断した時に上級医にコンサルト(研修医1人での処方や検査のオーダー,患者を帰宅させることも可能)とやや急なスロープであるが,独り立ちして行く。

 安全管理に関しては,3年目以上の内科,外科の正当直医がおり必要時にコンサルトできる体制がある。また救急外来で撮った画像は3年目以上の正当直医の目を通すことになっている。その他毎週2回,朝7時から救急外来カンファレンスが行われ,前日の当直のカルテレビューで問題になった症例や皆で共有すべき教育的症例の発表の場が設けられている。

 一方,2年次の2か月間のICUローテーション中は,2-4日に1度当直(17時から翌朝8時まで)し,ICUの内科・外科正当直医とともに救急車対応とICU業務にあたる。病歴,診察,検査のオーダーは研修医が率先して行うが,必ず正当直医と一緒に診療に当たり治療方針や帰宅の可否を決定するのは正当直医である。

 研修医は2年間の中でさまざまな科をローテーションするが,患者をいちばん初めに診て,次に行うべき検査や処置を自ら考え,時に自分一人で患者の治療方針を決定するという,研修医が“研修医”としてではなく“医師”としてこれほど大きな役目を与えられる機会は救急外来の当直をおいて他にそうはない。

 もちろん自分の下した判断で,患者が不利益を被る可能性がある危険な場であることも事実であるが,その中で私たち研修医は「自らの行った医療はどうだったか」「患者は満足したか」「医療の不確実性をどのように患者と共有し,対処していけばよいだろうか」などと考えながら診療をしている。医師としての役割を期待され,経験が浅いながらにもそれを何とかまっとうすることでプロフェッショナリズムを学び,将来の理想像へ近づくのではないだろうか。

さまざまな学びの場として

 救急外来当直は軽症から重症までバラエティに富んだ数多くの症例を経験できる非常に教育的な場であり,「救急でのコモンディジーズ&コモンプロブレムの初期対応」「重症患者への対応」「“緊急性”“重症度”という軸での判断」「上級医・専門医へのコンサルトのタイミングや方法,入院の適応」「ルート確保,縫合,シーネ固定などの基本的手技」など,さまざまな学びの機会が得られる。

 このように救急外来における当直は研修医にとってたくさんの学びがあるが,一方では,決して十分とは言えない医師や救急医の充足を,臨床経験の浅い研修医が働き手として担っている“リスクある医療”という側面もある。また,研修医全員が救急医をめざしているわけではないので,研修医の当直では,各自のモチベーションや興味によって,各疾患・症状への対応能力に差が生じることは否めない。

 当直の場が患者にとって安全で,かつ研修にとってよい学びの場となるためには,まだまだ改善の余地がありそうだ。例えば,研修医が独り立ちするまでのスロープをもう少し緩やかにする,あるいは卒前教育において基本的な病歴聴取・身体診察・プレゼンテーションの教育を徹底する,研修医がミスを犯しても患者の最終的なアウトカムに影響を及ぼさないような上級医や他職種によるチェック体制を作るなどである。

 最後に,自戒を込めてであるが,研修医側にも診た患者や行った処置,処方した薬について必ず振り返り,診療の質を向上させる姿勢が望まれる。

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