医学界新聞

2007.02.05

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


中耳・側頭骨解剖アトラス

須納瀬 弘,小林 俊光 著

《評 者》神崎 仁(慶大名誉教授)

耳の三次元構造をより一層理解するために

 須納瀬氏は小林教授の門下生で,師と同じく中耳・頭蓋底手術の世界の第一人者Sanna教授の下に留学された。著者はすでに留学中Sanna教授と共著で,英文でも側頭骨アトラスを発行されている。留学中の短期間に,このような単行本を書かれた若手の人は私の知る限り過去にはいなかった。そのエネルギーと実行力には敬服する。さらに,著者は帰国後に日本の若手の耳鼻咽喉科医師を対象に新たにコンパクトなアトラスを書かれた。しかし,本書は若い人のみならず,すでに経験を積んでいる人にとっても新鮮な情報を与えてくれる。まずは鮮明な写真に驚かされる。CT,MRIと対比された点も特徴で,このようなアトラスはいままでなかった。

 写真になった側頭骨標本の解剖技術はすばらしく,芸術的といってもよい。中耳,内耳の三次元的理解は,初めて耳科学,神経耳科学,頭蓋底手術を志す医師のみならず,すべての耳鼻咽喉科医にとって必須のものである。わが国では屍体の側頭骨を用いた若手医師のための側頭骨手術の講習はいろいろな制約のために行われにくい。そのため,外国の講習会にまで参加することも行われている。私自身もそうだった。しかし,実習の前にこのようなアトラスと乾燥側頭骨で予習して参加すれば,さらに実習の成果が上がったことと思う。加えて,このようにして学んだ解剖の知識を頭に入れて一流の術者の手術をみると,理解は一層深まるはずである。

 本書は8章からなり,第1章では頭蓋における側頭骨の位置に始まり,周辺の構造との関係を示すアトラスが示されている。

 第2章では鼓室形成術の最初に行う乳突削開術の進行過程を示し,順次,耳小骨,半規管,顔面神経を明視できるようにする。POSTERIOR TYMMPANOTOMYも示している。さらに,半規管を削開して経迷路的に内耳道にアプローチし,内耳道の蝸牛,前庭神経,顔面神経の関係,蝸牛水管,頸静脈球との関係も示している。

 第3章では鼓室内側壁を削開し,内頸動脈,頸静脈との関係,半規管,顔面神経,蝸牛の関係,前庭水管,内リンパ嚢をCTと対比させている。

 第4章は中頭蓋窩アプローチからの解剖で,内耳道と半規管,膝神経節,顔面神経との関係は内耳道内の聴神経腫瘍に対する聴力保存手術や全顔面神経管の開放術や顔面神経の吻合術の際に必要となる。

 第5章は広範な乳突削開時の解剖で,特に顔面神経,S状静脈洞,後頭蓋窩硬膜との関係を示している。

 第6章は中耳前方の解剖で,耳管とその周辺の構造(中頭蓋窩,中硬膜動脈,鼓膜張筋,大錐体神経,三叉神経第3枝など)との関係を示している。

 第7章はこの本ならではの細かい配慮で,術者が手術用顕微鏡の左右の眼から立体的にみているように写真を左右にならべている。本書をながめているだけで,側頭骨の構造が立体的にイメージされ,中耳手術のみならず,経迷路的に内耳,内耳道,後頭蓋窩に達する過程,中頭蓋窩経由で内耳,内耳道,中耳へのアプローチする過程も頭に浮かべることができ,イメージトレーニングにもなる。そのほか,各人でいろいろな使い方を思いつくことであろう。

 医学の原点は解剖にあり,手術の原点は,その解剖の理解の上に熟練した術者の手術の助手にしてもらうことである。助手が無理なら,実際に手術を見学するか,その術者の手術ビデオを見ることである。本書はそのような際の予備知識を得ておくのに役に立つ。中耳,内耳,内耳道手術では,耳小骨,蝸牛,前庭,顔面神経,内耳道の立体的位置関係の理解が必要である。これらは疾患を治療するだけでなく,手術による合併症を避けるための安全対策としても重要である。耳の構造の理解を必要とするすべての方に本書を座右の書として利用されることをお薦めする。 A4・頁104 定価10,500円(税5%込)医学書院


IPMN/MCN国際診療ガイドライン
日本語版・解説

国際膵臓学会ワーキンググループ 著
田中 雅夫 訳・解説

《評 者》真口 宏介(手稲渓仁会病院・消化器病センター長)

IPMN/MCNの共通認識をもって臨床研究・討論を行うために

 International Consensus Guidelines for Management of Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms(IPMN)and Mucinous Cystic Neoplasms(MCN)of the Pancreas(Pancreatology 6: 17-32, 2006)の日本語翻訳版が出版された。粘液産生膵癌として本邦から発信され,その後,粘液産生膵腫瘍,“いわゆる”粘液産生膵腫瘍,膵管内乳頭腫瘍,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)など,さまざまな用語で呼ばれた疾患が「IPMN」として世界的に共通の疾患名で呼称されるようになり,また「MCN」が「IPMN」とは違う疾患群であることがきちんと整理された意義は極めて大きい。さらに本書では,英文からは読み取り難い微妙なニュアンスを見事に日本語で表現し,理解を深めるために画像を追加した絶妙な構成には,国内委員として参加させていただいた者として,あらためて訳者の田中教授に敬意を表する次第である。

 本書の特徴は,設問に対して回答する形式を採用しているため,飽きることなく熟読しやすい。また,途中で疑問が浮かび,読み返しが必要な場合にも,読みたい部分を設問から探すことができる。さらに,後半には英文報告がそのまま掲載されているため,英語による表記や表現の勉強にも非常に役に立つ。

 現在まで,種々の疾患に対する診療ガイドラインが作成されてきているが,その多くは日本国内のものであり,国際的なガイドラインは少ない。その理由は,国内だけでも意見を集約することが難しいのに,診療状況や意見の異なる海外の医師たちと英語で討論し,集約しまとめる作業は困難を極めるからである。その大変さは想像に難くなく「よくここまでまとめあげられた」と感心する次第である。その苦労の一端は,「著者からのメッセージ」と「はじめに」の頁で読み取ることができる。

 ガイドラインの利点は,共通の用語で討論できるようになること,その時点までに明らかになっていることと今後に検討が必要な事項が共通に認識できることである。

 もちろんガイドラインとは,その後の理解が進むにつれて改訂が繰り返されるものである。その中での記念すべき第1号をたくさんの人に読んでいただき,共通の認識において今後の臨床研究,討論を行いたいと切に願う。特に,本邦において多数の知見を蓄積してきた疾患でもあり,日本語での出版が熱望されていたものである。

 必ず役に立つと考え,ここに推薦する。 B5・頁84 定価4,830円(税5%込)医学書院


体外受精ガイダンス
第2版

荒木 重雄,福田 貴美子 編著
体外受精コーディネーターワーキンググループ 協力

《評 者》森 明子(聖路加看護大教授・助産学)

初学者から実践家まで幅広く対応する良書

 今春,荒木重雄先生と福田貴美子さんの編著による『体外受精ガイダンス第2版』(医学書院)が発行された。初版発行から約3年半を経ての改訂である。初版よりも背が低くなり,本箱に納めやすいサイズになった。章立ての数は変わらないが頁数が増えて背幅が増したので,少しずんぐりした感じになった。だが,母子の絵画を配したピンク色の明るい表紙,パステルカラーを贅沢に使った見出しや美しいイラストは初版と変わらない。頁の左側もしくは右側の欄外に引用文献・関連文献が次々と紹介されていて興味を覚えたらすぐに文献にアプローチできる点,体外受精コーディネーター自身によるケース紹介文を囲みにして配している点も踏襲されている。

 以前より,いっそう読みやすい工夫がなされたのは次の点だ。例えば,まず各章の冒頭に“キーポイント”という箇条書きの要約が設けられた。まず全体を把握してから細部へと読み進めることができる。そして,各章の末尾には“最新情報Q&A”が掲載された。基本を理解したならば,最新の知識や動向を知ってその章の学習を終えることができる。初学者にも,すでにこの分野で学び続けている臨床家にとってもありがたい構成だ。例えば,最近のメタアナリシスによりARTによる先天奇形の発生率の上昇が示されたこと,GnRHアゴニストもGnRHアンタゴニストも妊娠率の差はないとする最近の研究は,差があるとした過去のメタアナリシスと反対の結果を示しているなど,ホットな情報が並ぶ。リコンビナントFSHについての記載も増えた。ところどころに挿入された“ちょっと一言”も妊娠の成立をめぐる生体の現象や治療における考え方に広がりを持たせてくれて,当事者から相談を受けた場合などに役に立つ。

 さて,見逃してはならないのは,“体外受精コーディネーターの役割”の記述である。初版に比べ,体系化が進んだという印象を受けた。とはいえ,まだ物足りないのも事実で,実際に行っている患者ケアをもっと書き表すことができるのではないだろうか。患者カップルとの会話だけでなく(もちろんそこがメイン舞台なのだが),治療コーディネートの実際,用いている記録用紙,看護スタッフとの業務分担やチームのコーディネートにおけるノウハウなど実務的な側面,裏側も記述されるとよいのに……と,つい欲張ってしまう。

 第2版の章立ては新たに「ARTについてよく聞かれる質問」を設けた代わりに「ARTの現状と臨床成績」をなくし,その内容は新しい章に盛り込まれた。かしこまって現状や臨床成績として記述するよりも,それは患者にとって最も知りたいこと,尋ねたいことの1つであるという認識によって,Q&Aに直されたのであろうと推測する。編者は本書を医療者のみならず一般の人,不妊に悩んでいる人にも読んでもらえるように書いたと明記している。だが,一般の不妊に悩む人が個人で購入するには高価だ。だからぜひ,多くの保健医療機関で待合室や学習コーナーに置いていただき,患者・当事者が手にとって読めるようになることを心から望んでいる。 A4変・頁308 定価7,560円(税5%込)医学書院


アレルギー・免疫学シークレット

森本 佳和 監訳

《評 者》岡田 正人(聖路加国際病院 アレルギー・膠原病科)

世界レベルのEBMに則ったアレルギー診療がここに

 シークレットシリーズは米国の研修医に実践的な教科書として人気が高く,毎日の回診でのティーチングから専門医試験の準備まで幅広く利用されている。今回,アレルギー免疫疾患のシークレットシリーズ第2版が米国におけるアレルギー診療のメッカであるNational Jewish Medical and Research CenterのAssistant Professorである森本佳和先生の監訳にて出版された。日本語版では各設問が重要度・難易度によってABCに分けられており,医学生から専門医まで異なったバックグラウンドの医療従事者にも使いやすいように作られている。すべての医療従事者に推薦できる書である。

 1991年に私が内科研修医として働くために渡米する飛行機の中で読んだのが,内科シークレットの第1版であった。当時は学生時代に米国でクラークシップをするなどということはほぼ不可能であったことから,未知の米国研修に大きな不安を抱えていたが,シークレットシリーズを暗記していったためスムーズに働き始めることができた。

 シークレットシリーズは1000以上の設問と解答からなり,その中身はまさに米国で毎朝行われるチーム回診そのものである。患者の臨床症状のみでなく,毎日繰り返し疾患の各論的な質問に答えることにより,米国の研修医は臨床医としての知識を身に付けていく。ハリソンなどの教科書を一度は通読しておくことは確かに必要であるが,知識を記憶に焼き付けていくにはこの本のような質問に答える形式が効率的である。シークレットシリーズが米国で長い間,医学書のベストセラーとなっている所以であろう。

 私がこの『アレルギー・免疫学シークレット』に最初に出会ったのは5年前の米国アレルギー学会の会場であったと思う。学会の帰りの飛行機の中で読み始めると内容の楽しさから一気に読み通した覚えがある。しかしながら,初版の宿命である荒削りな印象は否めなかった。昨年,今回翻訳された原書第2版を学会で見たときにも,馴染み深いシークレットの文字をみて購入した。この第2版は初版から大幅に内容を改定し,完成した形になっている。

 医学生の方にはAとマークされた設問をすべて,研修医の先生方にはAとBを,アレルギー専門医の先生方にはぜひ専門としている分野の章のA,B,Cすべてを手にとって読んでいただきたい。世界レベルのEBMに則ったアレルギー診療,医学教育がどのように行われているか体感できるとともに,必ず取り入れられる新しい知識が得られることと確信する。

B5変・頁376 定価6,300円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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