医学界新聞

2007.01.29

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


『medicina』2006年増刊号(43巻12号)
Common Disease インストラクションマニュアル
患者に何をどう説明するか

『medicina』編集委員会 編

《評 者》江口 恵子(霧島市立医師会医療センター看護部長)

患者家族支援の手引書

 患者の意思決定支援のために私たち医療者に求められる能力の一つに,患者が十分納得できるような説明能力がある。病は患者自身のものであり,患者自身がどのように自己の病を理解し,自己の適応能力を最大限に活用・開発して病を受け入れ,克服し,病と共に生きていくかを支援するのは,看護師の果たすべき大きな役割である。そのためには,看護師は患者・家族の理解の状況に応じた説明ができるための十分な知識を持つ必要がある。

 今回内科臨床医のための総合誌『medicina』の増刊号として発刊された「Common Diseaseインストラクションマニュアル-患者に何をどう説明するか」は,そのような看護師にとっても,まさに,どのような知識を体系化して学んでおくべきかをわかりやすく解説してくれる良書であると思う。臨床の現場でよくみられる疾病について,その疾病の特徴と治療方針を簡潔に示したうえで,(1)これだけは説明しておきたい病気のはなし,(2)これだけは説明しておきたい検査のはなし,(3)これだけは説明しておきたい治療のはなし,(4)療養指導のポイント,(5)ここだけは指導しておきたい緊急時の対応,の5つの視点で,それぞれの要点を押さえたうえで内容が丁寧かつコンパクトに記載されていて大変わかりやすい。

 例えば,慢性心不全の項を読むと,(1)については,心不全の複雑な病態生理を医学的知識のない人にも理解できるような説明の展開方法まで具体的に述べられ,(2)については治療経過に沿った検査について,(3)については考えられる治療選択とその比較を説明の時期とあわせて,さらに治療内容については米国のガイドラインとの比較や治療に伴う社会保障まで述べられている。また,インフォームドコンセントを得るための説明要件として必要な治療の有益性と効果判定や有害性についてまでしっかり述べられており,そのまま説明に使用することができる。また,(4)については,療養指導のポイントのみならず家族・介護者に対する教育・カウンセリングの内容も要点を示され具体的で活用しやすい。さらに,(5)においては,患者家族は一次救命処置の知識と技術を身につける必要性にまで言及されており,一般内科医が参考になることはもちろんであるが,私たち看護師にとって患者・家族への説明と共に必要な援助技術の指導についてきわめて明快に理解することができる。

 さらにこの本のすばらしいところは,「診察室」というコラム欄で,執筆者の優れた臨床経験に基づいた臨床医としての関連の知見(慢性心不全に関しては合併する睡眠時無呼吸について)について大変興味深くかつ注意すべき事項が述べられており,経験の未熟な者にとっては大変貴重な学びとなりうる。全体の構成としても,内科のみならず日常遭遇する関連領域についても書かれており,総合的な視点で理解することもでき,患者・家族への説明・支援を容易にするための手引書として,ぜひ手元において参考にしたい本である。

B5・頁644 特別定価7,560円(税5%込)医学書院


無名の語り
保健師が「家族」に出会う12の物語

宮本 ふみ 著

《評 者》宮子 あずさ(東京厚生年金病院神経科/緩和ケア病棟 看護師長)

「在家信者」にも読みやすい在宅ケアの本

 正直に言いますが,私は在宅ケアにかかわる看護職の「熱さ」に,自分とは異質のものを感じています。心から尊敬するが,自分には絶対にできない――。保健師や訪問看護師のかかわった事例に触れるたび,そんな感想を持つのです。そしてそこには,公私ともに人との距離が詰め切れない,自分自身の弱点への引け目もあると思います。私は人の家に行ったり,自宅に人を呼んだりするのが得手ではありません。他人とは距離をとりがち。ましてや患者さんとのかかわりでは,その傾向が顕著です。

 その一方で,今は国の財政難もあって,看護の場は施設から在宅にシフトしていきそうな気配もある。こんな私でいいのかしらという思いを,時折抱いてしまいます。私も人の家に行ってケアをする気概を持たなければいけないのか? それは私にとって,非常に難しいことに思えました。

 あるときこの気持ちを共に働くスタッフに話したところ,こんな答えが返ってきました。「宮子さん,それは出家信者と在家信者の違いですよ。私らはしょせん在家。出家している人にはかなわないのです。在家は在家でいいじゃないですか」

 これを聞いて,私はなるほど! と手を打ちましたよ。そうか,自分は在家信者としてがんばればいいのだ。一気に気が楽になりました。

 この本の12の事例を読んでも,やはり自分にはできないことをしている人だなあ,という感想は浮かんできました。ただ,これまで読んだどの在宅ケアの事例よりも,この本はさらりと読めました。私のような在家信者にも読みやすい本。ほどよい温度の本。これは在宅ケアを知るうえで,貴重な著作だと思います。

 そしてこの特徴は,著者自身の人間性もさることながら,その経歴にも多くを負っているのではないでしょうか。大学を卒業後,准看護師から保健師へと進学する約10年間,著者はいくつかの病院で働いています。事例の中には保健師の立場で病院と対立する場面も出てきますが,そこには相手の立場を思いやる気配が漂っているんですね。安直に正義を振りかざさない大人の感覚が,私には好ましく映りました。十分に在家信者を体験したあと出家したからこそ,彼女は私たちの感覚に近いのではないかと思います。

 このあたり,実際にお話を伺えたらよかったのですが……。残念ながら彼女は鬼籍に入られています。享年56。看護職として,大いに悩み,楽しんだ職業生活だったのではないでしょうか。多くの後輩を育てた方であったろうと推察いたします。本当にお疲れさまでした。心からのご冥福をお祈りいたします。

A5 頁224 定価1,890円(税5%込)医学書院

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