医学界新聞


新年号特集 飛躍する「がん対策」

寄稿

2007.01.01

 

【寄稿】

新年号特集 飛躍する「がん対策」
がん対策情報センターの現況と今後

若尾文彦(がん対策情報センター・センター長補佐)


患者・国民の声を受けての設立

 2006年10月1日,国立がんセンターに「がん対策情報センター」(センター長=加藤抱一)が開設された。

 それまで,国立がんセンターは,中央病院(東京都中央区),東病院(千葉県柏市)の2つの病院,研究所,運営局,がん予防・検診研究センターの5つの組織を有し,(1)新しい診断法・治療法の開発,(2)がんの本態の解明,(3)人材の育成,(4)情報の発信,をその使命として活動してきた。今回のがん対策情報センターの開設により,情報発信,人材育成機能の強化に加え,診療支援,臨床研究支援等が追加され,extramural activity(対外支援機能)が拡充されることになる。その背景としては,日本人の死因のトップであるがんについて,患者・家族,国民の間で,正しい情報が十分に提供されておらず,地域・病院で受ける医療に差があるのではないかなど,がん医療に対して大きな不安を感じているという状況がある。

 こうした中で,2005年3月,「がん医療水準均てん化の推進に関する検討会」(座長=垣添忠生・国立がんセンター総長)に対してがん患者団体より「日本がん情報センター」設置に関する提案書が提出され,同年4月にまとめられた「がん医療水準均てん化の推進に関する検討会報告書」(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/04/s0419-6.html)において,情報の提供・普及のために,情報センター設置の検討が盛り込まれた。一方,国立がんセンター開設当初からの懸案事項であった「情報センター」について,2004年2月に有識者によってまとめられた「国立がんセンターの今後の在り方検討会報告書」(http://www.ncc.go.jp/jp/
information/arikata/arikata.pdf
)中でも,その基本的機能が提言されていた。

 これらを踏まえて,2005年8月に「がん対策推進アクションプラン2005」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan01/01.html)が取りまとめられた。そこでは,国民・患者のがん医療に対する不安や不満の解消を推進し,現場のがん医療水準の向上と均てん化を図るため,がん患者や地域医療機関からの相談対応を担う「相談支援センター」の設置を要件とする「地域がん診療拠点病院」と,さまざまながん対策に関連する情報の効果的・効率的な収集・分析・発信等に不可欠な情報ネットワークの中核的組織となる「がん対策情報センター」により構成される「がん情報提供ネットワーク」の構築が謳われた。また,がん情報ネットワーク等に関する提言やその情報に基づくがん対策の現状評価等を行う外部有識者による「がん対策情報センター運営評議会」の設置が掲げられた。

 さらに,2006年6月に成立したがん対策基本法の中でも,「がん医療に関する情報の収集及び提供体制の整備」が盛り込まれている。

がん対策情報センターの機能

 このように,がん対策情報センターは,有識者からの提言と患者・国民の声を受けて設立され,アクションプランに基づいた(1)がん医療情報提供,(2)がんサーベイランス,(3)多施設共同臨床試験支援,(4)がん診療支援,(5)がん研究企画支援の5つの機能を具備したかたちで2006年10月1日にオープンした(図)。以下に各機能の概要と現在の状況について示す。

(1)がん医療情報提供機能
 最新のがん情報を収集し,整理した内容を患者・家族・国民および医療従事者に対して提供する。また,がん診療連携拠点病院等の診療内容などに関する情報を収集し,インターネットやパンフレット等で提供する。さらに,相談支援センターの活動の支援,情報の有効活用のためのガイドや教材等の開発,教育や研究を実施している。
 現状では,ホームページ「がん情報サービス」(http://ganjoho.ncc.go.jp/)より,一般向け情報,医療関係者向け情報,がん診療連携拠点病院向け情報の発信を開始している。

(2)がんサーベイランス機能
 がん診療連携拠点病院で実施される院内がん登録,および各都道府県で実施されている地域がん登録の標準化を推進し,標準様式に基づくデータの収集・集計を行い,正確ながん統計情報を算出する。さらに,こうした統計情報を,国民にわかりやすく,がん対策の立案と評価に利用できる形に加工して,全国に発信することをめざしている。その実現のために,がん登録担当者の人材育成を実施している。

(3)多施設共同臨床試験支援機能
 よりよい治療法を創るための多施設共同臨床試験の支援を実施している。具体的には,がん研究助成金の研究班および厚生労働科学研究の研究班が実施する後期治療開発としての多施設共同臨床研究グループであるJCOG(Japan Clinical Oncology Group:日本臨床腫瘍研究グループ)の試験を中心として,研究デザインや研究計画書(プロトコール)作成の支援,データマネジメント,モニタリング,有害事象情報の共有,統計解析等の直接的支援を実施している。

(4)がん診療支援機能
 がん診療連携拠点病院を受診される個々の患者さんに最適な診断や治療が実施されるよう,各施設の医療スタッフを直接的・間接的に支援している。
 具体的には,病理診断・放射線画像診断難解例・希少例などに関する専門家へのコンサルテーションの推進,医療スタッフの技能向上に役立つ教育的画像リファレンスデータベースの整備・公開,放射線治療機器の出力調査(物理技術に関する品質管理・品質保証の推進)や放射線治療計画の内容調査(臨床における品質管理・品質保証の推進)の実施で,それぞれ運用を開始している。

(5)がん研究企画支援機能
 厚生労働本省との緊密な連携のもとに,がん対策を推進するための研究に関わる企画・立案を実施している。具体的には,がん研究の応募申請等の受付業務やそれらの進捗状況管理などに加え,研究費の重点的な配分(FA:Founding Agency機能)をがん研究の専門家等の意見を踏まえて実施している。また,わが国のがん医療の均てん化を推進するため,各種研修の企画・調整をし,がん診療連携拠点病院などの医療従事者等に対して国立がんセンターにおける実地研修等を管理・運営している。

 このようにがん対策情報センターは,がんに関する情報を集約し,患者・国民向けに情報提供を実施するとともに,がん診療拠点病院に対して,情報提供,診療支援,研究・研修支援,多施設共同研究支援,がん登録支援等を行い,がんの実態把握を進め,がん対策推進の一翼を担うという幅広い役割を担っている。

All Japan体制による情報提供体制の強化に向けて

 これまでがん対策情報センターの現況について述べたが,これらは,開設時点の状況であり,本当の活動はまさにこれから始まると認識している。その代表的なものとして,All Japan体制による情報提供がある。

 これは,従来の情報コンテンツの多くが国立がんセンター内で作成されていたのに対し,がん関連学会,がん関連病院,厚生労働省,地方自治体,関連製薬業,マスコミ,患者団体等の協力のもと,情報コンテンツの収集・作成・評価を行い,がん対策情報センター情報提供部門は,事務局として機能するという体制である。このことが実現されて初めて,真のがん情報提供機能を担うがん対策情報センターとしての活動が開始できると考える。

 わが国での有効ながん対策を実現するために,関係者の絶大なるご協力・ご支援をお願いしたい。

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