医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 12冊目

渡辺尚子


前回よりつづく

■風の谷のあの人と結婚する方法

著:須藤元気
質問送付人:森沢明夫
ベースボール・マガジン社
2006年
四六判・183ページ
1260円(税5%込)

 最近特に“やらなければいけないこと”が多過ぎて,逆に目の前の仕事をこなすだけで前に進んでいない気がする。看護部の委員会,病棟の係,そしていちばん大切な日々の患者さんのケア。どれもしっかりやらなくてはいけないことなのに,「今日もやるべきことができなかった……」と反省する日々。「何かいいことないかな」。口癖になったこんな言葉と共に眠りについた。

 「また来たね,あなたの書斎に……」。あっ,先生! 時々思い出すんですよ,先生の言われたあの言葉を……と,話そうとしたその時,書棚から音がしたかと思うといつの間にか私の手に,一冊の本が握られていた。書名は『風の谷のあの人と結婚する方法』。須藤元気というK―1選手が著者だった。こんな気分の時には“元気”という文字を見ても元気になれないものだと思ったが,装丁が私の心を動かした。この本を読んでみよう! と……。真っ青な海,あるいは何の曇りもない空を思わせるようなブルー。余計なものは何一つ書かれていないブルー。早速いつもの椅子に座ってその本を読み始めた。

 目次は「学びについて」「人間関係について」「心のコントロールについて」などいくつかの内容に分かれ,そして最後は「リラックスについて」となっていて,どれもまじめそうな内容だった。それにしても書名の,“風の谷のあの人”って誰だろう。それに結婚の方法が書いてあるようには思えないわ,そんな疑問を持ちながら,ページを開いていく。すると,この本は小説や,あるいは普通のエッセイではないことがわかる。書き方がユニークなのだ。禅問答を思わせるように,ある質問に対して著者が答えていく,という方法で内容が進んでいる。そして各テーマの最後に,彼の述べる格言としてある言葉が残されていく。

 読み進めていくうちに,こんな言葉が心に残る。「この世に『たまたま』などありません。すべてがひとつ。すべてがつながっています……シンクロニシティー……」。そして,今の私のことだわ! と思うところもあった。「“~しなければいけない”という言葉の本質は,『他者の価値観に従う』ということで,そこに自分の人生を生きていないということになる」と。この本のキーワードは「シンクロニシティー,直感,メタレベル」だとわかってきた。

 物事の捉え方や見方を少し変えるだけで新たな部分が見られるようになるんだということが,時にジョークを交えながらわかりやすく書いてある(時々,理解できないジョークもあるが)。

 そして最後は,人生を生きやすくするようなリラックス法が書かれていた。思わず書いてあるように深呼吸をしてみた。地球という揺りかごの中にいる自分を意識しながら。そして最後の最後に,この書名の意味が書いてあった。なるほど,そういう意味だったのね,「あの人」とは誰か,そして「結婚する方法」というのはどういうことだったのかが,何のよどみもなく理解できた。読み終えてすぐ,私はこの本でいちばん印象に残った「地球は僕らのものではなく,僕らが地球のものである」という言葉を読み返していた。

 目を覚ますと今まで追われるように感じられていた“やらなければいけないこと”のすべては,私が“やりたいこと”だったということに気づいた。そうか! 今まで重かった肩の荷が,すっと滑り落ちていくように感じ,心が軽くなっているのを実感していた。

次回につづく


渡辺尚子
私の勤め先の先生方をよく見ると,個性豊かな人ばかり! 陶芸,書道や野球に命をかける先生方,髭をはやす先生方(これはもちろん男性)。そうだ! この秋は私の個性を磨く秋にしよう,と思う今日この頃。