医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


精神科医療のアウトカムを示す必要性を強調

精神科医療アセスメントツール
Sederer LI, Dickey B 著/伊藤弘人,栗田 広 訳

《書 評》西島英利(日本医師会常任理事)

 今回『精神科医療アセスメントツール』が出版された。これはLloyd I. Sederer, M. D. とBarbara Dickey, Ph. D. が編者となり執筆された“Outcomes Assessment in Clinical Practice”を伊藤弘人(国立医療・病院管理研究主任研究官)と栗田宏(東大大学院教授)の両氏が翻訳したものである。

敷居が高い日本の精神科医療

 米国の精神科医療関係者は,アウトカムに関心はありながらも,精神科医療で結果や成果が測定できるものかという疑問を持ち続け,その結果,医療の必要性をアウトカムを用いて主張することが遅れ,医療改革に十分に対応することができなかった。しかし現在では精神科医療の必要性を主張できないと,医療費が支払われなくなっている。そこで臨床家,医療機関,精神医学界,支払い者や政策担当者は,それぞれアウトカム・アセスメントの必要性を認識している。
 日本では精神科医療に対する強い偏見があり,精神科病院に対する見方はまだまだ収容所的であり,敷居が高いのが現状である。また精神科関係の診療報酬も,技術料の評価が低く,同様に入院医療はホテルフィーが中心である。これは過去の精神科病院が,「医療と保護」の保護の部分を強調したきたことも一因と考えられるが,アウトカムを科学的に示してこなかったことが大きな原因と考えられる。

医療の質のポイントはアウトカム

 今,医療の質が問われるようになった。医療の質のポイントはアウトカムである。精神科医療関係者が科学的にアウトカムを示すことにより,精神科医療に対する国民の理解を深めることになり,偏見を解消することにもなる。
 本書は,アウトカム・アセスメントの概説,それぞれのアセスメントツールの学術的背景や使用について,開発者により紹介され,そして実際のツールのいくつかが紹介されている。これを一読し,各々の医療機関はアセスメントツールを使ってのアウトカムを患者や家族に示すことが,受療者の安心につながり,また,研究機関は日本独自のアセスメントツールを開発することで,精神科医療に対する信頼と評価を高める必要があるであろう。『精神科医療アセスメントツール』が精神科医療の理解へのさらなる一助になることを期待したい。
B5・頁192 定価(本体3,200円+税) 医学書院


21世紀の癌治療の方向性を提示する

Tumor Dormancy Therapy
癌治療の新たな戦略
 高橋 豊 著

《書 評》塚越 茂〔(財)癌研究会・癌研究所顧問〕

「癌との平和共存」

 このたび金沢大学がん研究所外科の高橋豊博士による本書が医学書院より刊行された。ソフトカバーの全192頁よりなる著書である。著者が本書の最後に述べているように,表題の「Tumor Dormancy Therapy」はそのまま訳せば休眠ないし冬眠療法となろうが,著者は「癌との共存」を目的とした治療法と解説を加えている。筆者もこの著者の考え方に賛成である。後でも述べるが,21世紀には癌治療の最終に到達できる状態を「癌との平和共存」にあるものと考えるからである。
 第1章のはじめでtumor dormancyという言葉の解説がなされ,第2章は「癌の生物学」,第3章に「癌化学療法の現況」,第4章に「なぜ今,tumor dormancyか?」,第5章に「tumor dormancyを得るための治療」,そして最後に「癌との共存を目指して」という記述がなされている。
 tumor dormancyとは著者が述べるように,「腫瘍が長期間増殖せずに休止・静止している状態を示す」であり,第4章にはこの概念のよって来たるところは,「化学療法による縮小効果と延命期間とは相関するか?」,「なぜ縮小効果と延命期間は相関しないのか」にあると,現在の癌治療における大きな問題点を解説している。

癌治療とQOL

 筆者のこれまで学んできたところでも,たとえ新しい癌治療薬が現れても,これまでは,腫瘍縮小は延命効果につながらないことが示されたことが多い。しかし最近における癌治療薬の研究開発は癌患者の延命に寄与し,かつQOLを損なわないことに主目標が置かれていることを考えると,QOLが損なわれずに腫瘍増殖が進行しない状態(tumor dormancy)がもたらされる治療法は,新しい治療薬の開発の最終目標ともある面では合致するものであろう。著者は第4章の中にこれまでの臨床経験の中から,tumor dormancy therapyによる延命とその効果判定としてのTTP(time to progression;再発・再増殖を起こすまでの時間)の解説に,5'-DFUR(フルツロン),CPT-11(カンプトテシン)の臨床例を解説し,prolonged NC(no change)つまりNCは,腫瘍増殖が休んでいる(dormant)状態で,これが延びる状態は有効例に入れるべきであると考えている。
 言葉が前後するが,第2章には癌転移・浸潤,発育速度が読みやすく解説され,第3章の化学療法の現況の解説を踏まえ,これが第4章のtumor dormancyを考える基盤となっていることがわかる。さらに,最近研究がさかんになっている新しい癌治療薬の研究(分子標的を含めて),再燃の遅延化が得られる治療が解説されているから,tumor dormancy状態を導くための治療法の考え方がこの章の記述で明確になると思われる。冒頭に述べたように,21世紀のある時期にもたらされると考えられる多くの癌治療の最終状態は「癌との平和共存状態」と考えられるから,本書が刊行されたことは,時代を先取りしたとも言えるものであり,癌治療における重要な問題が解説されていると思う。この意味で誠に時宜を得た著書と思われる。
 難を言えば,tumor dormancy therapyはまだ一般化した専門用語ではない。また海外でもこの言葉を用いた解説書が少ない状態である。筆者はもう少し表題に工夫を凝らしたほうがよかったかもしれないと考えている。しかし,これまでに述べてきたように,まだ類書の少ない大切な話題をとりあげているので,癌治療に関心のある研究者,医師,その他の方々の大切な情報源の1つとなろう。
A5・頁192 定価(本体3,800円+税) 医学書院


日常出会う頭頸部疾患の大部分を網羅した症例集

ケースレビュー 頭頸部の画像診断
DM Yousem
 著/多田信平 監訳

《書 評》黒崎喜久(順大教授・放射線科学)

レベルに応じて学べる

 本書はアメリカで1998年に発行された「頭頸部の画像診断」の症例集の訳書である。その構成はユニークである。領域別や疾患概念別に疾患を並べるのではなく,難易度や臨床背景の複雑さに応じて200症例を入門編(50症例),実力編(100症例),挑戦編(50症例)の3群に大別している。読者は自分のレベルに応じた編から読み始められる。
 症例のレイアウトも類書とは異なる。右側の頁2症例(少数例では1症例のみ)の画像(1-4枚)と4つの質問が掲げられている。その頁をめくると,左側の頁に2段組みでそれぞれの症例の診断名,設問に対する解答,解説,参考文献が載せられている。質問は単に診断名を問うものは少なく,病因,臨床症状,合併症,鑑別診断,治療など多岐にわたる。これらの事項がまとめられている解説文は短いが内容が凝縮されているので,2回,3回とじっくり読むことを薦める。このような臨床的な知識は残念ながら,評者を含めてわが国の多くの放射線診断医に不足していることを認めざるを得ない。研修病院の放射線科で教育の一環として行なわれている症例読影カンファレンスを開く際,本書に見られる画像にとどまらない幅広い質問や簡潔な解説を参考にすべきである。
 強いて本書の欠点をあげるとすれば,個々の症例の画像の具体的な所見の記載が初学者にとっては不十分かもしれない。本書の読者層はすでにMRの基本を習得していると思われるが,訳者の判断でMR画像にT1強調像,造影T1強調像,T2強調像などと撮像法を付け加えたほうが親切ではなかったか。
 原著者が意図したように,専門医試験の受験準備をしている放射線科医に本書をお薦めしたい。日常出会う頭頸部疾患の大部分は200症例に含まれているので,読了した読者が実力に裏打ちされた自信を持てることを保証できる。さらに,第一線で毎日診療に忙殺されている放射線科医には生涯教育の教材として活用してほしい。
A4変・頁256 定価(本体7,200円+税) MEDSi


医師と患者の対話で学ぶ神経内科

神経内科の外来診療
医師と患者のクロストーク
 北野邦孝 著

《書 評》高木 誠(済生会中央病院・神経内科)

 このたび私の大変尊敬する神経内科医である北野邦孝先生による『神経内科の外来診療』が上梓された。以前から執筆中であることを伺っていたので,その発刊を楽しみにしていたが,先日長野県の松本市で開かれた日本神経学会総会の初日の夜に直接,北野先生から頂戴した。そして学会の合間と松本からの帰りの電車の中で一気に読み上げてしまったが,こんなに楽しく読め,また臨床の躍動感が伝わってくる本はないというのが最初の感想である。
 著者の北野邦孝先生は,千葉大学医学部をご卒業後,大学院を修了され,その後長く松戸市立病院の神経内科部長としてご活躍された。そして1992年,松戸市に現在の松戸神経内科を開設され,院長そして町中の第一線の神経内科医として日夜多忙な診療活動をおくられている。わが国では,神経内科医のほとんどが市中病院または大学病院の中で診療しているのが現状であり,また開業の場合も神経内科を単科で開業されている方はきわめて少ない。
 私は北野先生のクリニックへお邪魔したことがあるが,その設備は病床こそないが,大病院とまったく遜色ないものである(最近はMRIも導入されたと伺っている)。本書では神経内科の外来診療が初学者向けのわかりやすい切り口で述べられているが,その内容はプライマリ・ケアのレベルにとどまらず,ハイレベルな臨床に満ちあふれている。大学病院,市中病院,開業医の各段階の神経内科医としての診療の実績を持ち,しかも常に専門医としての研鑽を積まれている北野先生でしか書くことができない本である。

問診のコツが身につく

 さて,本書は「医師と患者のクロストーク」という副題がつけられているように,患者さんの訴えを切り口として,医師と患者さん(あるいはその家族)の対話形式で,神経疾患の診断と治療についての解説が進められる。これはこれまでの類書にはないユニークな企画で,臨床の躍動感を伝える点でぴったりな形式である。神経疾患の多くは問診により診断の大枠を決定することができる。それにはまず,実際に患者さんがどのような言葉で症状を訴えてくるのかを知っていなければならない。

治療重視のdynamic neurology

 本書を読み進むうちに初学者であっても問診のコツが身につく。また対話の内容は診断のための問診にとどまらず,診断がついた後,患者さんに病名をどのように告知するのか,治療方針についてどのように説明するのかなど,日々の外来診療に必要なムンテラのコツが述べられている。取り上げられた疾患は一般の外来診療で遭遇する機会の多い約100個のcommon diseaseに厳選されている。そして北野先生の哲学である治療重視のdynamic neurologyの考えを反映して,治療についても多く触れられている点が嬉しい。本書は一般内科医や神経内科の初学者だけでなく,神経内科専門医にも知識の整理と復習のために,ぜひ一読をお奨めしたい。
A5・頁328 定価(本体3,800円+税) 医学書院


日常高頻度に見る泌尿器科疾患を1冊に

泌尿器科ベッドサイドマニュアル
第2版
 秋元成太,西村泰司 編集

《書 評》内藤誠二(九大教授・泌尿器科学)

常に携帯できるマニュアル本

 最近の医学の進歩はめざましいものがある。泌尿器科領域においても,その進歩は遺伝子診断・治療,腹腔鏡をはじめとする内視鏡学,最新の医療機器を駆使した診断や治療法の開発など,枚挙にいとまがない。当然ながら,学生や若い泌尿器科医が臨床の現場で身につけておくべき知識も膨大なものになっている。そこで学生や若い泌尿器科医のための,常に持ち運べるコンパクトなマニュアル本が望まれるわけである。
 1995年に出版された『泌尿器科ベッドサイドマニュアル』の初版は泌尿器科領域では初めての臨床マニュアルであり,いわばマニュアル本の元祖とも言うべきものであった。大変好評を博してきたとのことであるが,最近のTNM分類の改訂や編者の内容改善の強いご希望で,このたび第2版が出版されたわけである。
 日本医科大学の秋元成太教授,西村泰司教授のご編集によるこの第2版は,数ある泌尿器科臨床マニュアルの中では,かなり充実した内容となっている。序文で編者が述べておられるように,稀な疾患を避けて,日常高頻度にみられる疾患を中心に臨床上重要な事項がむだなく簡潔にまとめられており,さらに,巻頭に略語索引を置いたり,本文の随所に〈one point advice〉というコラムを設けたりして,より実践的な本になるように工夫されている点で評価できる。ただ,内分泌機能検査,前立腺肥大症と癌の鑑別,前立腺の内分泌環境,LH-RHアゴニスト等についての記載がやや物足りない印象である。ベッドサイドマニュアル本であることを考えると,望みすぎかもしれないが,泌尿器科として学生に大いにアピールするべき,前立腺癌の疫学,PSAを用いた検診などについても,臨床に役立つ程度は記載していただくとよかったのではないかと思われる。

より実践的なベッドサイド学習に

 最近の学生にはこれまでのような分厚い教科書より,コンパクトで明らかに医師国家試験を意識して作ったと思われるようなマニュアル本のほうが流行で人気のようである。しかし,そのような本を開いてみると,学生向けとはいえきわめて内容が貧弱で,表面的な印象を持たざるを得ない。医師国家試験に合格するための最低限の内容が書かれているのではあろうが,教育に携わるもの,そして泌尿器科学を専門にするものにとっては少々寂しい気がするのは私だけではないであろう。本書は若い泌尿器科医のベッドサイドマニュアルとしてはもちろんのこと,学生にとっても従来のマニュアル本や教科書を補完し,より実践的なベッドサイドでの学習に役立つものと思われる。
B6変・頁408 定価(本体5,500円+税) 医学書院


運動負荷検査と心電図に関わるすべての医療従事者に

運動負荷心電図
その方法と読み方
 川久保清 著

《書 評》杉本恒明(公立学校共済組合関東中央病院院長)

 かつて虚血性心疾患の診断は運動負荷心電図によって行なわれていた。運動負荷心電図を読むことができれば心臓病の専門医と言われたのである。その後,心筋シンチグラムによって虚血が画像化され,さらには冠動脈造影検査によって冠動脈病変も可視化されるに至った。しかし,その今日もなお,やり方によっては特段の施設・設備を要せず,また,患者への侵襲の少ない運動負荷心電図検査は日常診療の中できわめて重要な位置を占めている。それは検査というものが,日常の活動的な生活における心臓の状況を把握させるものでなければならないためでもある。

運動負荷心電図のすべてを解説

 本書はかかる運動負荷心電図のすべてを著者自身の観察をもとに解説したものである。解説とはいうものの,単なる技術書ではなく,学術書というべきであろう。臨床経験というよりは臨床研究の集積であるからである。著者は長年,大学と病院の内科において,循環器疾患診療に従事し,特に運動負荷心電図に関する検査の方法と解釈について数多くの業績を重ねてきた。そして,保健管理学教室に移ってからは教育と研究の中で,これを体系づけ,運動生理学の中に位置づけるとともに,学外の健康施設とも連携して,健康増進面への応用も試みてきた。著者はまた,この分野の研究会や学会の中心的な存在として,調査活動や指針作りに寄与してきた。いわば,本書は運動負荷心電図を仕事とし,趣味ともしてきた著者の,こうしたこれまでの実績を大きく結実させたものであると言える。
 本書で扱う運動負荷はマスター2階段試験,トレッドミル,自転車エルゴメータを対象とするが,負荷の方法にとらわれることなく,負荷に対する生体と心臓の反応の仕方と心電図所見の動きを時間経過の中で対比しながら観察することを基本としている。HR-STループ,HR-STスロープ,あるいは血圧反応の意味づけなどにもこうした観点がうかがわれる。評者は負荷は手段を問うものではなく,その辺りの階段を急いで上がり下りすることでもよいと考える1人であるが,この思想は今も生きていると嬉しく思った。診断精度に関してのBayesの定理の検証は興味深かった。病院という診療の場と健康人を対象とする疾病予防や健康増進の立場とでの違いを知り,さらには運動負荷検査のスクリーニングとしての限界を教えられたことであった。

実践的な知識から臨床研究まで

 実に読みごたえのある書であった。かつて一緒に仕事をしたことがあった者として,懐かしく思いながら読みはじめたのであったが,読み終わって,すべてが自らの仕事で構成されている成書であることを見,30年近い関わりを持つ著者の思い入れをしみじみと味わった。心電図検査あるいは運動負荷検査に携わる医師,臨床検査技師あるいは看護職の方々の一読をお勧めしたい。実践的な知識を得るのはもちろんのことであるが,1つの検査法に掘り下げられた多面的な深みに啓発され,この中には研究テーマがまだまだあることも知って,検査を楽しみとすることであろうと思うのである。
B5・頁160 定価(本体4,700円+税) 医学書院