医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


理学療法学・作業療法学を学ぶ人のためのテキスト

標準理学療法学・作業療法学〈専門基礎分野〉
生理学
 奈良 勲,鎌倉矩子 監修/石澤光郎 著

《書 評》二唐東朔(弘前大医療短大教授・作業療法学)

 理学療法と作業療法が本邦に息吹を上げてから30年余が経過する。昭和41年頃には50-60人の療法士が養成されていたが,高齢化社会にいたる昭和60年頃からその数が急増し,現在では毎年両者をあわせて5000人を超える新人療法士が誕生している。養成母体も養成校,短期大学,大学と多様化した。しかし,医学専門基礎科目の生理学教科書は,医学生のそれを代用していたのが実情で,カリキュラムに定められた時間内でその内容を消化することは物理的にも不可能であった。また,医学生向けの教科書からどの部分を取捨選択すべきかを知るには,教師自身が理学療法と作業療法それ自体をよく理解できていなかったことが,理学・作業療法士向けの教科書編纂を困難にしていたように思う。筆者も挑戦したが,結果的には想いを完遂できずに今日に至っている。

理学療法士・作業療法士の資質向上をめざし

 今回の出版はこれに応えるものである。高齢社会で,ますます必要とされる理学・作業療法士の資質向上を念頭に,著者の20年近い生理学の教鞭をとおして培った想いを凝縮して執筆されている。理学・作業療法士をめざして入学する学生の素質と資質を熟慮したうえで,(1)各生体項目を学生に興味を持って理解させるにはどこまでの記述内容にすべきかに配慮する,(2)理学・作業療法の臨床場面で遭遇する病態の基本的よりどころになりうるように項目を厳選する,(3)記述は簡潔平易にする,などを考慮して各項目が列記されていることが伺われる。項目を読み進むうちに,生理学の本質である機能発現の過程が,分子レベル,受容体レベル,脈管レベル,神経レベルを包括して,さりげなく理解できるように図の配列と表に工夫が凝らされており,辞書的教科書になることを防いでいるのがよい。

生体機能の最新の知見を盛り込む

 最近の生体機構に関する研究成果は華々しい。それらの知見が随所におりこまれ,従来の生体機能の仕組みがより明快に説明されている点は著者の並々ならぬ見識によるもので,そのご苦労に敬意を表したい。ただ,理学・作業療法の立場から項目を厳選したゆえに,運動分野は充実しているが,感覚分野は,今少しの説明がほしいと感じた。こうした点については,著者も序で意識しておられるところではある。
 各項目が短く簡潔に解説され,かつ,項目が一瞥できるように太字で書かれ,巻末索引が充実しているので,講義内容の要約に,試験対策の際の記憶内容の再確認のために,学生には利便性が高い。また,本書はすでに臨床の場におられる理学・作業療法士の方々の知識のリフレッシュのためにもお薦めしたい。
B5・頁232 定価(本体4,200円+税) 医学書院


使用者から研究者まで役立つ実践的マニュアル

手動車いすトレーニングガイド
Axelson P 著/日本リハビリテーション工学協会 車いすSIG 訳

《書 評》田中 繁(国際医療福祉大・国際医療福祉総合研)

至れり尽くせりのガイドブック

 まずざっと本書全体を見て感じたのは,とにもかくにも至れり尽くせりのガイドブックだという印象であり,車いす使用者の座右の書となろう。私は車いすの専門家ではないが,それなりの知識は持っているつもりである。若干の指摘も含めて紹介してみたい。
 全体は1章から5章で構成され,それぞれは「一般的な技能」,「操縦法」,「緊急時の対処法」,「特殊な状況」,「ボディメカニクス」というタイトルになっている。前書きに続く“この本の活用の仕方”にあるように車いす使用者のみでなく,家族,友人,介助者,研究者,その他の人たちと,多くの方々に役立つ構成である。イラストが多いのも特徴であり,特に車いす使用者が内容を理解する場合に役立っていると思う。
 残念ながら私は著者については知らないが,熟練した車いす使用者やリハビリテーション専門家などが広く関わっている。訳者は“日本リハビリテーション工学協会車いすSIG”となっているが,代表の田中理・米田郁夫両氏をはじめとして,日本での車いす研究・開発の第一人者たちが参加しており,その点でも安心して読める訳書といえる。
 具体的な内容について紹介してみたい。1章には「介助の頼み方」という項がある。「介助」の定義から始まり,具体的な頼み方に至っている。頼む場合には背広を着た人よりも運動着を着た人のほうがよいなど,きめ細かく,さらに断り方まで触れている。
 手の伸ばし方について触れたところでは,熱いものやナイフなどを持つ場合には膝の上を横切るようなことは避けるなどといったことも書かれている。走行方法では,旋回の方法として壁を使う方法や,各種のウィリーの方法など,初心者にとっては教わらなければ知るまでに時間を費やすのではないかと思われることも多く触れられている。ドアの開け方では,開け方のみでなく,材質による注意などにも及んでいる。階段の昇り方では,介助者が足を支え上肢のみで腕立て伏せのようにして昇る方法など,少なくとも私の知らなかった各種の方法が書かれている。それぞれの項目で介助の仕方も書かれているので,介助者にとっても大いに役立つのである。
 ひとつ残念なのは,縁石の高さやエレベータの入り口の間隙など,基準に関する値がアメリカの例のままになっていることで,日本での値も併記していただければなおよかったと思う。しかし,これは本書の価値を下げるものではなく,初めに述べたように多くの方々に役立つきわめて実践的なマニュアルとして推薦したい。
B5横・頁160 定価(本体3,200円+税) 医学書院


失語症のリハビリテーションに関与するすべての専門職に

言語聴覚士のための失語症訓練ガイダンス
日本言語療法士協会学術支援局専門委員会失語症系 編集

《書 評》田上美年子(九州保健福祉大保健科学部教授・言語聴覚療法学)

 本書でわれわれに多岐にわたる失語症状とそのリハビリテーションのあり方について,多くを教えてくださることになった30症例の方々に,まずお礼を言わなくてはならない。さらに,呈示される症例を担当され,症例提供者となられた40名の言語聴覚士の方々のご努力にも敬意を表したい。
 30症例の方々とご家族はどのように失語症と闘い,折り合いをつけてこられたのだろうか。私が臨床にあった長い時間は,「言葉は癒るのでしょうか」「仕事はできるようになるのでしょうか」という患者さんの切実な問いに,どうすれば応えることができるのだろうと思い悩む日々だったと思い返すことができる。しかし,問題にぶつかるたびに,考えるための糸口を与えてくださったのが,目の前の患者さんであり,患者さんの置かれた現実と,厳然とある事実のみが答えであった。
 本書を手にして,まず思ったことは,言語療法士(1998年3月に言語聴覚士に統一)として仕事を始めた頃に,机上にあった数冊の本のことであった。それは,(1)大橋博司:臨床脳病理学,医学書院,1965(2)大橋博司:失語症,中外医学双書,1967(3)Schnell H, Jenkins JJ著,笹沼澄子,永江和久訳:成人の失語症,医学書院,1971(4)永江和久:ミネソタ失語症検査法について,脳血管障害における失語症の研究,ともに福岡医学雑誌第58巻4号,1967,などで,患者さんを目の前に,いつもいつも悩む私の傍らにあり,助けられた教科書であった。当時,本書のような言語聴覚士による言語聴覚士のための「訓練ガイダンス」があれば,どれだけ患者さんにとってよかったことかと思わずにはいられない。

言語聴覚士が常に直面する問題

 本書の内容は,序章と8章からなる。キーワード索引もついている。序章は失語症の言語訓練における原則で言語訓練の流れ,訓練に際して考慮するべきことが簡潔に述べられている。続いて,第1章から第8章まで,急性期の訓練(3症例),集中的訓練期の訓練(7症例),重症例における訓練(4症例),職場復帰例(5症例),施設入所における訓練(2症例),家族の受け入れ(2症例),障害の受容(3症例),合併する問題(4症例)で構成されている。各々の症例には(1)言語聴覚士に求められるその症例に欠かすことのできない視点,(2)症例のプロフィール,(3)標準失語症検査結果のプロフィールと所見,(4)必須と考えられるチェック項目と解説,(5)訓練経過(訓練内容を含む)と解説,(6)転帰,(7)重要な症状の用語解説,(8)得られた教訓・アドバイス,などが実に丁寧に述べられている。日々の臨床の一例一例と誠実に相対し,観察し,記録しつづけたことの結果が結実したものとして,感動さえ与えてくれる。加えて,症例によっては必要な参考文献がつけられており,MEMO欄には言語症状以外の重要な問題点が盛りこまれている。全体として,どこにも無駄といえる部分がなく,わかりやすい。言語聴覚士が常に直面する問題で,症例提供者,執筆者の臨床体験に基づいて綴られた貴重な症例像から,若葉マークの初心者,学生,経験豊富なものも含めて,学ぶことは多いと思われ,手許におかれることをお薦めしたい。とくに,一人職場で,相談相手に恵まれない若い言語聴覚士の方々は必要に応じて,本書と対話されてはいかがだろうか。
 失語症のリハビリテーションに関与する多くの専門職の方々にも広く読んでいただき,失語症および失語症者に対する理解が深まることを願いたい。日常の地道な努力をこのような形で整理された編者,執筆者の苦労と勇気にも敬意を表したい。
A5・頁208 定価(本体2,800円+税) 医学書院


小児科医からGeneralistへのプレゼント

〈総合診療ブックス〉
見逃してはならないこどもの病気20

山中龍宏 原 朋邦 編集

《書 評》田坂佳千(田坂内科医院)

かゆいところに手が届く

 本書は,小児科・小児サブスペシャリティの先生方からGeneralistにプレゼントされた,他に類を見ない最良の実践書である。「乳児の不機嫌」や「嘔吐」「下痢」「急性陰嚢症」などの急性症状からの緊急・重篤疾患の見きわめのみならず,小児特有の「成長・発達」にかかわる問題,「斜視」「難聴」「先天性股関節脱臼」など主訴になりにくい隠された問題,「あざ」「内・外反足」といった体表から観察でき,かかりつけ医に相談を持ちかけられることのある問題など,広く小児にかかわる問題の中から,「見逃してはならない病気」をピックアップするための作法が,非常に要領よくプラクティカルにまとまっている。特に家庭医(かかりつけ医~プライマリ・ケア医~開業医)のために書かれている点,小児全般にわたる隠された「見落としてはならない病気」まで書かれている点は,まさに「かゆいところに手が届いた」画期的書籍である。

エビデンス・海外のスタンダードを見据えた記載

 すなわち本書は,家庭医(かかりつけ医,プライマリ・ケア医)の特徴である近接性や継続性,さらには診療時間の制約までも十分に考慮されて書かれており,単に隠された怖い疾患を強調し,「とにかく専門医に紹介を」と連記される傾向の強い他書とは明らかに異なっており,いかなる地域で診療する医師にも役立つよう工夫されている(自己の臨床能力と紹介のタイミングとの関係が示されている)。
 各論として,「外来で発見できる先天性代謝異常」では,内科や外科をベースとした医師には鑑別にあがりにくい分野の重要性とアプローチ法が明快に書かれており貴重である。また,「急性中耳炎」の項などエビデンス・海外のスタンダードを見据えた記載は痛快ですらある。「見逃してはならないこどもの病気」というチャレンジングなテーマに,具体的に答えた本書のすばらしさは限られた紙面では書き尽くせないが,診療科目にかかわらず小児の診療に携わっている開業医や総合診療をめざす研修医にぜひ熟読していただきたい本である。最後に,執筆していただいた先生方に,心より感謝申し上げたい。
A5・頁248 定価(本体3,700円+税) 医学書院


理学・作業療法士が義肢装具を理解するのに最適の1冊

義肢装具学 第2版
川村次郎,竹内孝仁 編集/古川 宏,林 義孝 編集協力

《書 評》武智秀夫(吉備高原医療リハビリテーションセンター院長)

 このたび,川村次郎,竹内孝仁両先生の編集による『義肢装具学 第2版』が上梓された。まず最初に40名近い執筆者の書かれたものを理学療法士,作業療法士養成校向けにまとめられたことに敬服する。

義肢装具に必要な項目を網羅

 順を追って本書の内容を紹介しよう。Ⅰ部は「歩行のバイオメカニクス」で健常歩行,義肢装具歩行が,次いで義肢装具のバイオメカニクスが総論として述べられている。Ⅱ部は義肢編で,切断,義肢総論,下腿義足,大腿義足,股義足,膝義足,サイム義足,足部部分義足,義手,切断者のリハビリテーション,Ⅲ部は「装具編」で,装具総論,片麻痺の下肢装具,対麻痺の下肢装具,スポーツ障害の装具,小児装具,整形外科的治療装具,靴型装具,足装具,杖,歩行補助具,頸椎装具,側彎装具,腰背痛の装具,脳性麻痺の装具,リウマチの装具,末梢神経損傷の装具,手の外科の術前・術後の装具,頸髄損傷の上肢装具,車いす,座位保持装具,自助具・福祉用具があり,付録には義肢装具の材料学,義肢装具に関する法と制度と,項目として義肢装具を網羅している。また各項目ごとに演習問題がつけ加えられているのも特徴的である。

臨床に密着した内容

 各執筆者の記述のスタイルの統一には随分ご苦労されたと思う。冗漫な記述は少なく編者の意図である「臨床に密着した」ものがよく読みとれる。また各項目ごとの重複した記載も少なく,この点も編者の目的は達成されているのではなかろうか。
 理学療法士,作業療法士は義肢装具を処方する立場にはないものの,リハビリテーション医療の現場で障害者に身近に接している。理学療法士,作業療法士が義肢,装具に関する意見を直接障害者に表明し,問題が生じることは,医療現場でよく経験することである。理学療法士,作業療法士が義肢,装具に関与するルールといったものにも触れていただきたかったように思う。
 本書は理学療法士,作業療法士養成校のテキストとしては十分すぎる内容と適切な記述を含んだもので,義肢,装具についてこれだけ即物的な知識を持てば,理学療法士,作業療法士にとって非常に有益であると考える。
 再度編者に満腔の敬意を表するとともに,自信を持って,理学療法士,作業療法士の方々に本書を推薦する。
B5・頁418 定価(本体7,000円+税) 医学書院


肝転移の機構から診断・治療まで最新の知見を集約

肝転移 メカニズムと臨床
磨伊正義 編集/清木元治,高橋 豊 編集協力

《書 評》武藤徹一郎(癌研究会附属病院副院長)

「転移を制する者は癌を制す」

 癌を専門とする医師にとって「転移を制する者は癌を制す」とはよく知られた言葉である。転移の代表はリンパ行性転移と血行性転移であり,後者で最も多いのが肝転移であることもよく知られた事実である。転移にはこの二大本流が存在するにもかかわらず,なぜか拡大郭清によるリンパ節転移へのアプローチが従来からの主流であり,肝転移に対するアプローチは後塵を拝していたように思う。切除可能な症例が決して多くはなかっただけでなく,転移機構の研究手法も限られたものであったのが,肝転移の研究に勢いがなかった主たる理由であろう。
 ところが,最近の分子生物学的研究の発展のおかげで,にわかに肝転移機構の研究は花形の1つになった。反対にリンパ節転移のほうはどうなっているのと叫びたいほどの違い方である。本書は磨伊正義教授を中心に,清木元治教授,高橋豊助教授が協力者となり,ほとんどが金沢大学の関係者で執筆された肝転移に関する好著である。著者も序文に記しているように,肝転移に焦点を絞った成書は日本では類を見ない。まことに時宜にかなった名著というべきであろう。

癌が転移巣を形成するまで

 衆知のごとく,癌細胞が肝臓に着床して転移巣を形成するまでには,様々な難関を突破して生き残っていかねばならない。それはバイアスロンのチャンピオンにも例えられる,癌細胞にとってはタフワークの連続であり,1個の細胞がそれらすべての難関を突破する能力を備えているとはとても考えられない。その難関がどんなものかは,本書を読めばよくわかる。血流内における防御機構や抗血管新生の方面からの研究のみならず,間質における癌細胞とのインターアクション,すなわちMMPの関与が最近のトピックスの1つであり,治療への応用がすでに始まっている。癌が転移巣を形成するまでの機構を解明する目的は,どこかでそのプロセスを遮断し転移を予防したいからであり,この研究は臨床家,とくに外科医にとって癌治療のゴールの1つといっても過言ではない。この意見で,本書はすべてのsurgical oncologistに推薦できる好著である。
 本書は,基礎編と臨床編とに分けられており,前編では肝転移機構の基礎のすべてが,後編では肝転移の診断と治療法のすべてが将来展望も含めて詳細に述べられており,どこから読み始めても新しい知識が吸収できる。文献も新しいものも含めて十分に網羅されている。
 今世紀の初頭,ドイツ病理学はアショッフ学派が全盛で,細胞からの癌研究が主流であった。しかし,その時期に細胞ではなく,その周囲の基底膜に注目していた学者がいた。ライプツッヒ大学のヒュックという病理学者である。細胞病理学が主流であった時代に基底膜を研究対象にするのは,少々ひねくれ者であったのかも知れないが,癌転移機構の中で基底膜や間質の重要性が判明したことを知ったら何と言ったであろうか。ちなみに,筆者の父はヒュックの弟子で,頑に基底膜の研究を続けていた病理学者であった。本書の基礎編に目を通していて,学問の流行の長い周期にふと思いを馳せた次第である。
 編集者の磨伊教授は筆者と同じ昭和38年卒で,20年来の親友である。常日頃から臨床家ならびに研究者としての真摯な態度に心から敬服していたが,本書を読んでその敬服はさらに倍加した。著者の専門は胃癌をはじめとする胃疾患であり,北陸地方の早期胃癌研究を発展させた功績はつとに知られているが,いつの間に肝転移へと研究対象を「転移」させていったのか,その努力に心から敬意を表したい。この分野の研究は日進月歩である。数年の間に内容は飛躍的に進歩しているであろう。願わくばその頃に改訂版を出して,さらなる啓蒙に努めていただきたいと思う。
B5・頁240 定価(本体12,000円+税) 医学書院