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医者が心をひらくとき(上)(下)
A Piece of My Mind

編:ロクサーヌ K. ヤング
訳:李 啓充

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訳者(李 啓充氏)による本書の紹介

 本書は,JAMA(アメリカ医師会誌)の名物コラム「A Piece of My Mind」からの傑作選を翻訳したものです。

 「A Piece of My Mind」は,本音を語るという意味の「give someone a piece of one's mind」というイディオムから取られたコラム名ですが,当初は,医師がその喜びや悲しみを率直に語る場として設けられたコラムでした。このコラムは,開始と同時に多くの読者の共感を得,やがて看護師・ソーシャルワーカーなど他職種の医療者,そして患者までもが,その「本心」を読者と共有する場となりました。

 もともと評判の高いコラムから傑作を選りすぐったものですから,その内容がおもしろいことは絶対保証付きです(原作のおもしろみが伝わらないとすれば,それは訳者である私の責任です)。ユーモアあり,ペーソスありの盛りだくさんの作品が集められていますが,校正の際に私が一番困ったのは,自分で訳した話なのに涙が出てきて読み続けることができなくなったということでした。

 また,ただ「読み物」としておもしろいだけでなく,医療者にとっても患者にとっても,医師-患者関係のあるべき姿など医療の原則にかかわる事柄を具体的な症例にまつわる物語を通して学び,考えることのできる,「教材」としての価値も高い本であると信じています。

 私は,以前に医学小説の翻訳を手がけたときの経験から「翻訳は手間がかかるし,稿料も割が悪い。二度と翻訳はしない」と心に誓っていたのですが,自らに課した禁を破ってまで本書の翻訳を思い立ったのは,それだけ本書の内容が素晴らしかったからに他なりません。それだけでなく,私が研究者と文筆業の両立を最終的に断念することになったのは,本書の翻訳に膨大な時間を取られるようになったことが決め手でした。いわば,「私はこれでハーバードを辞めました」とも言うべき本なので,是非,多くの方に読んでいただきたいと願っています。