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“私らしさ”を支えるための高齢期作業療法 10の戦略

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著者のこれまでの経験や研究をもとに、高齢者に対する作業療法の思考プロセス(リーズニング)が、豊富な事例や用語解説を交えながら、わかりやすく解説される。「知っていたけど表現できなかった」作業療法10の戦略と具体的な44の方法がわかる、若手OT必携の1冊。
村田 和香
発行 2017年09月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-03251-3
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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 この本は,私の研究対象となってくれた高齢期の方々と担当作業療法士のみなさんの総勢53人のおかげでできあがったものです。彼女・彼らは作業療法の場面を惜しげもなく私に見せてくれましたし,私の質問に対して熱心に答えてくれました。その結果,老いと人生の意味,そして作業療法のあるべき姿について多くのことを学びました。私が理解しようとしていた老いの意味は,高齢期にある人が自分の作業の体験を通してとらえているものでした。作業を通して変化している自分を受け入れることもでき,変わらない自分の存在も感じていたことを知りました。
 このことを伝えたい,という思いが本書を書く動機ですが,その思いを強くしたのは“団塊の世代”の存在です。思えば,私が最初にあこがれたのはジュリーの頃の沢田研二でした。吉田拓郎の深夜放送は眠いのをこらえて聴いたものです。森田健作の熱さにやられ,松田優作の足の長さに驚きました。赤川次郎の三毛猫ホームズシリーズは読破しました。池田理代子の“ベルばら”にはまり,萩尾望都の作品を心待ちにしていました。この道を示してくれた恩師も支えてくれるパートナーも団塊の世代の人です。
 この団塊の世代の多くは,老年期なんてピンときていないですし,間違っても高齢者なんて呼ばれたくないし,実際呼ばれてもいない。そんな人たちがこれから先の人生をどのように送るのか,とても気になります。
 「これまでの老後」のイメージのままの高齢期作業療法では役に立たないと思います。なぜならそのニュアンスがこれまでと違ってきていると感じるからです。「これまでの老後」の感覚でとらえていては太刀打ちできない,作業療法を展開することは許されない,そのように思います。
 人生90年時代となった老後のテーマには,自分らしさへのこだわり,「私らしく」があると感じています。私らしく生きるために,そして,私たち自身の老後のためにも,作業療法が団塊の世代のニーズに応えることを期待したい。そんな思いで書いています。

 2017年8月
 村田和香

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はじめに

Part 1 作業療法10の戦略 作業療法士が行える44の具体的方法
 Chapter 1 高齢期のクライエントを受容し尊重する
  戦略 1 クライエントの文脈を理解する
  戦略 2 ありのままを受け入れ尊重する
 Chapter 2 作業の周到な準備と臨機応変な対処により,作業を成功に導く
  戦略 3 作業が成功するように準備する
  戦略 4 作業中の状態を見て臨機応変に対処する
  戦略 5 クライエントの能力を評価してフィードバックする
 Chapter 3 作業の習慣化により,生活リズムを構成する
  戦略 6 作業により良い習慣・生活リズムをつくる
  戦略 7 将来の生活も考慮する
 Chapter 4 物理的・人的環境を調整する
  戦略 8 環境を落ち着いたものに調整する
  戦略 9 家族を受容し,支える
  戦略 10 スタッフと協業する

Part 2 私らしく作業に従事する 高齢者が認める作業療法の効果
 効果 1 受容と尊重
  CASE 01:タローさん(67歳,右麻痺の男性)
 効果 2 心身へのプラスの影響
  CASE 02:ウメコさん(80歳,腰椎症の女性)
 効果 3 時間・空間・経験の共有
  CASE 03:サクラさん(84歳,左麻痺の女性)
 効果 4 課題への挑戦と能力の自己認識
  CASE 04:ジローさん(71歳,左麻痺の男性)
  CASE 05:モモエさん(89歳,高血圧症の女性)
 効果 5 習慣と役割の形成
  CASE 06:マツコさん(88歳,左麻痺の女性)

Part 3 さちこさんの物語 事例を通して高齢期を支える作業療法を考える
 エピソード 1 左片麻痺の障害をもつ-急性期・回復期の作業療法
 エピソード 2 障害をもって生活をする
          -在宅生活をサポートする外来・訪問作業療法
 エピソード 3 再びの脳出血,さらに栄養失調になる
          -再入院から介護老人保健施設でのリハビリテーション
 エピソード 4 復活

[文献]
[付録]ワークシートの使い方と記入例
[索引]

[column]問題患者といわれていたキヨさん
 師匠キヨさん
 キヨさんの仕事
 道具の手入れ
 お人形さんだね
 料理カードが生活を変える
 未亡人クラブの活躍
 髪は女の命だけど
 役に立つアプリ

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生活者としてのクライエントに向き合う姿勢を描いた良書
書評者: 小林 法一 (首都大学東京教授・作業療法学)
 一般に作業療法は,作業を媒介としてADLやIADL,仕事,余暇など応用的活動の回復を図ると紹介されている。確かにその通りである。しかし作業療法の専門性やユニークさを本当に知りたいのであれば,「日々の生活に喜びや満足を感じ私らしく生きる」という,誰にとっても当たり前の生活を支える作業療法の思考プロセスを覗いてみるとよい。本書はそれがわかるように書かれた非凡な一冊である。実践について模索中の若手や中堅,実践に手応えを感じているがそれをうまく表現できない作業療法士,さらには作業療法をより深く理解したいと思う他職種,作業療法を理解すべき立場にあるチームリーダーや管理監督者にお薦めしたい。

 本書では,作業療法を受けた当事者が感じた作業療法の効果,並びにそれを得るために作業療法士がとった行動(戦略)が見事に整理され,詳細に説明されている。例示が豊富で,キーワードや目新しい用語に補足説明を付けるなどの配慮もあり,読みやすい。生活者としてのクライエントに普段から向き合っている専門職であれば,実践場面がスッと目の前に浮かぶように読み進められる。ですます調の文体も心地よく,気軽に手に取れるよう工夫されている。その実,本書はしっかりと書かれた信頼できる学術書である。全体で一つとなるよう体系化されており,一語一句の表現にも慎重さがうかがえる。本書の表題を“その人らしさ”ではなく“私らしさ”としたあたりにも,言葉を大切にしたい筆者の姿勢が伝わってくる。

 全体の章立ては大きく3つに分かれている。Part 1では,実践における作業療法士の行動を10の戦略,44の具体的方法として紹介している。例えば「戦略2:ありのままを受け入れる」は,主にクライエントとの関係をつくり出す時に必要な行動・配慮であり,その具体的方法として(1)味方だと伝える,(2)本人のアイディアや工夫を大切にする,(3)作業選択の機会を提供する,(4)そばで見守るなど,9つの行動がわかりやすく記述されている。どれも作業療法士が日常的に用いる技である。Part 2では,作業療法を受けた当事者が感じた5つの効果が,10の戦略とリンクする形で説明されている。Part 3は,高齢期を生きる主人公の高齢者とその家族,担当作業療法士が織りなす人生物語である。主人公の身に次々と起こる“私らしさ”の危機をどのような戦略で支えているのかが見どころである。

 本書は教育教材としての利用価値も高いと思う。特に現場の新人教育や実習生の指導に適している。事前に10の戦略,44の具体的方法を観察課題として与え,実践場面を見学させれば,効果的なクリニカルクラークシップとなるであろう。学内教育には,コラムとして載っている事例の活用はどうだろう。何気ない偶然のエピソードが綴られているように見えるが,実は文脈を壊さないように練られた作業療法士の戦略が随所に見え隠れしている。教員の腕にもよるが,これを丁寧に解説することで臨床の技を教える講義教材として使える。
 作業療法の世界が広がる本書を,多くの方にお薦めする。
大切なことを言葉にしてくれる一冊
書評者: 齋藤 佑樹 (仙台青葉学院短期大准教授・作業療法学)
 本書は高齢期の作業療法に精通した村田和香氏が,25名の作業療法士とその担当した高齢者28名に対し行ったインタビューと観察記録をまとめ分析したものである。
 本書のテーマは“臨床の知”である。臨床の知とは,直感と経験と類推から成り立つ知であり,仮説と演繹的推理と実証の反復から成り立つ“科学の知”と並び,臨床を支える上で重要な知である。科学の知は,抽象的な普遍性によって,分析的に因果律に従う現実にかかわり,それを操作的に対象化するが,対して臨床の知は,個々の状況を重視して深層の現実にかかわり,対象者が示す隠された意味を,相互交流的に読み取り捉える働きをするものである。それ故に臨床の知は一般化し,言語化することが難しいとされている。

 作業療法士ならば誰もが経験する“対象者と向き合う上で大切にしていながらも的確に言語化できない”“学生や後輩に伝えたいがうまく伝えることができない”ことが,タイトルにもある“10の戦略”の名の下に言語化されている。

 本書には事例も多数掲載されている。それは臨床場面の質感をも感じさせるリアリティにあふれるものであり,読み進める中で,過去に自分が経験した臨床の一場面を鮮明に思い出すことが何度もあった。それは,本書が臨床家と対象者の思考や相互交流を忠実に収集し,的確な言語でまとめあげているからなのだろう。自分の臨床を想起しながら,技を言語化・組織化していく作業はとても楽しいものである。

 文中には“10の戦略”を用いる上で役立つ理論や学説,評価法も多数紹介されている。多くの場合,まず理論や各論的な知識を学び,それらを臨床で適宜用いるというプロセスを経る。しかしこのプロセスは,複数の知識を臨床技術へと統合していくまでに多くの時間や迂回を要することが多い。一方で本書は,まず臨床の知に触れ,そこから“いま必要な”理論や各論的な知識へと適宜アクセスすることができる構成になっている。既存の理論書や各論書と相補的な関係の下に,臨床の質を支える一冊になるだろう。

 作業療法は,単に心身機能の回復や技能の習得を支援する技術ではない。対象者が動機づけられ,生きるための術を身につけ,“自分らしく生きる”物語を更新し続けることができるよう,対象者の脇を伴走する,全人的で相互交流的な技術である。対象者一人ひとりは唯一無二の存在である。決して定型化することができない臨床場面で,知や技を安定的に発揮し続けることは容易ではない。だからこそ臨床の知を言語化した本書には価値がある。

 タイトルには高齢期とあるが,本書の内容は,領域や対象者のライフステージによって重要度と緊急度に違いはあっても,全ての領域で働く作業療法士にとって有意義なものである。経験を重ねた臨床家にとっては,自身の臨床技術を言語化・組織化する材料として,作業療法の多様性を学ぶ学生や,自らの知見を広げたいと考える若い作業療法士にとっては,これから学ぶべき知識を俯瞰する地図として,背中を押してくれる一冊になるであろう。

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