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小児骨折における自家矯正の実際
骨折部位と程度からわかる治療選択

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小児骨折の治療にあたっては、成人との最大の違いである“成長軟骨板”の特性や特徴をよく理解したうえで、“自家矯正”が生じうることを常に頭に置いて保存治療あるいは手術治療の選択を行う必要がある。本書は、こどもの骨折に特有の自家矯正力にスポットを当て、自家矯正の傾向や程度が実感できる138ものバリエーション豊かな症例をもとに、部位ごとに、骨折後の変形がどの程度矯正されうるか明確に示している。
執筆 亀ヶ谷 真琴
執筆協力 森田 光明 / 都丸 洋平
発行 2017年05月判型:B5頁:212
ISBN 978-4-260-03128-8
定価 7,700円 (本体7,000円+税)

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刊行にあたって

 小児整形外科領域における骨折を含む外傷学は,一般整形外科領域と同様に1つの大きな柱です.特に,成長期にある小児では成長軟骨板の存在が成人との最大の違いであり,その存在は,小児骨折治療上の利点にもなり,条件によっては欠点ともなります.よって,小児骨折の治療にあたっては,その特性や特徴をよく理解し,保存治療あるいは手術治療の選択を行う必要があります.
 本書では,小児骨折特有の自家矯正力に焦点を当て,どの程度骨折後の変形(角状変形)が矯正され得るかを部位ごとに実際の自家矯正症例を提示しました.過去,小児骨折における自家矯正能に関する文献は多くみられ,部位や年齢にかかわる矯正可能範囲の提示はありますが,骨折型や骨折部位により様々な様相を呈するため,角度のみを参考として治療方針を決めることには不安がありました.その不安を少しでも解消すべく,本書では各部位において実際に自家矯正を観察できた138例を提示し,日常診療において先生方が同様の骨折を経験された際の参考にしていただければと思い企画しました.もちろんすべての症例に対応することは困難ですが,実際例をみることで,自家矯正の傾向や程度を実感していただきたいと思います.ここに示した症例は,初期治療がうまくなされなかった症例,初期整復後ギプス内で再転位を生じ,他院からその後の処置について相談を受けた症例が多くあります.なかには,すでに仮骨形成がみられ初期治癒の状態であった症例や自家矯正の上限とされる変形を有していた症例なども含まれ,最終的な治療方針は本人・家族と相談のうえで決定しています.

 昨今の少子高齢化に伴い,一般の整形外科医が小児骨折を経験する機会は減少しており,成人骨折における治療選択をそのまま小児に当てはめる傾向がみられます.成人症例では,AOグループを中心とした外科的骨折治療の技術的進歩や固定材料の改良により,外傷学は飛躍的進歩を遂げています.しかし小児骨折においては,後述する小児骨折の特性と特徴により,自家矯正が生じることも常に念頭に置いて治療を選択する必要があり,それにより不必要な手術を回避することが可能となります.反対に,自家矯正能の限界を知ることで,手術治療の適応がはっきりする場合もあります.「どんな小児骨折も自家矯正能を期待し,外科的な治療を必要としない」ということでは決してありません.受傷直後の著明な変形に対しては,徒手整復・矯正はもちろんであり,特に成長軟骨板損傷では初期の徒手整復・矯正は必須です.また,整復不能例あるいは自家矯正が期待できない部位については早期の手術治療を必要とする場合も多くあります.

 本書では,第1章は「小児骨折の特性」と題し,小児骨折の疫学,小児の骨の特徴,小児特有の骨折型,成長軟骨板の構造とそれにかかわる損傷,自家矯正のメカニズム,成長軟骨板損傷における注意点,絶対的手術適応となる小児骨折,相対的手術適応となる小児骨折,の8項目について解説しています.
 第2章は,実例を提示しています.上肢(鎖骨,上腕骨,前腕骨,手指骨)骨折,下肢(骨盤,大腿骨,下腿骨,足部)骨折のうち,原則初期治癒時に10°以上の角状変形あるいは2 mm以上の転位が遺残した症例を,受傷年齢の低い順に,受傷時(あるいは初期治癒時)から自家矯正が完成するまでの過程が一目でわかるように単純X線像を1ページ(症例によっては2ページ)に並べ,経時的な骨癒合の過程を自家矯正とともに示しました.提示した症例には,自家矯正が十分期待できる部位の骨折だけでなく,家族により手術治療が拒否された例やギプス内で転位が増悪あるいは徒手整復後に再転位した例も含まれています.また,手術治療か保存治療かを迷った症例では,両者の利点・欠点を説明したうえで家族と相談し保存治療を選択しています.最終経過観察時の機能的・整容的問題により,手術を必要とした症例も数例含んでいます.
 第3章は,2000年以降に発表された小児骨折に関する文献のなかで,特に保存治療と手術治療の比較や自家矯正をテーマにしたものを選択し,その要旨を示しました.

 本書を診察室の傍らに置いていただき,小児骨折の治療選択に迷った際には,提示された症例を参考に治療方針決定の一助としていただければ幸いです.また,本人・家族への説明の際にもぜひご活用ください.

 将来的には,自家矯正に関する症例をもっと加え,より小児骨折治療の指標となる本へと進化させられればと考えております.つきましては,皆様が経験された症例のなかで,これは知っておく必要があると思われるものがありましたら,ぜひお教えください.よろしくお願いいたします.

 2017年3月
 亀ヶ谷真琴

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第1章 小児骨折の特性
 1 小児骨折の疫学
 2 小児の骨の特徴
 3 小児特有の骨折型
 4 成長軟骨板の構造とそれにかかわる損傷
 5 自家矯正のメカニズム
 6 成長軟骨板損傷における注意点
 7 絶対的手術適応となる小児骨折
 8 相対的手術適応となる小児骨折

第2章 小児骨折における自家矯正例集
 1 上肢
  a 鎖骨骨折
  b 上腕骨骨折
   1.上腕骨近位骨折
   2.上腕骨骨幹部骨折
   3.上腕骨顆上骨折
   4.上腕骨外側顆骨折
   5.上腕骨内側(上)顆骨折
  c 前腕骨骨折
   1.尺骨・橈骨近位骨折
    ・尺骨肘頭骨折
    ・尺骨鉤状突起骨折
    ・橈骨頚部骨折
   2.前腕骨骨幹部骨折
   3.前腕骨遠位端骨折
   4.橈骨遠位成長軟骨板損傷
  d 手指骨骨折
   1.中手骨骨折
   2.手指節骨骨折(成長軟骨板損傷を含む)
 2 下肢
  a 骨盤骨折
   1.恥骨・坐骨骨折
   2.上前腸骨棘剥離骨折
   3.下前腸骨棘剥離骨折
   4.坐骨剥離骨折
  b 大腿骨骨折
   1.大腿骨骨幹部骨折
   2.大腿骨顆上骨折
  c 下腿骨骨折
   1.脛骨顆間隆起骨折
   2.下腿骨骨幹部骨折
   3.下腿遠位成長軟骨板損傷
  d 足部骨折
   1.踵骨骨折
   2.中足骨骨折
   3.足趾節骨骨折

第3章 小児骨折の自家矯正と保存治療に関する最近の文献(2000年以降)
 鎖骨骨折
 上腕骨近位骨折
 上腕骨顆上骨折
 上腕骨内側上顆骨折
 前腕骨骨折
 前腕骨遠位端骨折
 手指節骨骨折
 大腿骨骨幹部骨折
 大腿骨遠位成長軟骨板損傷
 脛骨顆間隆起骨折
 脛骨遠位成長軟骨板損傷

索引

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豊富な臨床例を通して小児骨折治療の経験の差を埋める
書評者: 田中 正 (君津中央病院・医務局特別顧問)
 小児骨折では長らくBlountの“Non-operative dogma”(非手術治療の教義)というものがあった。すなわち,小児骨折は早期の骨癒合とリモデリンングのため,通常は保存的治療で良好な結果が期待できるというもので,これが小児骨折治療の常識とされていた。私が整形外科医になりたてのころは,(1)10歳以下の骨折は小児骨折の範疇に入り,リモデリングが期待できる,(2)関節可動方向の変形はよく矯正される(例えば肘・膝では矢状面),(3)内外反/回旋変形は矯正されない,と教わり,今でもこのようなことを記載している成書を見かけることがある。

 しかし,現実にはリモデリングがどの程度起きるかは,骨折の部位や骨折型により一概には言えず,「どこまで整復が必要なのか?」「手術治療の適応はあるか?」など小児骨折治療の難しさの一因になっている。日ごろこのような悩みを抱えている整形外科医・救急医に福音をもたらしたのが本書である。亀ヶ谷真琴先生は20年の長きにわたり千葉県こども病院整形外科で小児疾患の治療に取り組んでこられ,今回その豊富な経験を基に本書を編纂された。

 本書は3つの章からなる。第1章は「小児骨折の特性」について総論的な内容をコンパクトにまとめており,小児骨折を扱う上での基本的な考えかたを学ぶことができる。第2章は「症例」を提示しており,読者は138例にも及ぶ臨床例を通してさまざまなリモデリングの実態を経験し,自家矯正の可能性と限界を理解することができる。また,重要な点や最新の考えかたについて,要所要所に「ポイント」としてわかりやすくまとめられているので,これだけは覚えておかなければならないという点を逃すことはない。そして最後の第3章では最近の文献の要旨を掲載し,エビデンスに基づいた最新の考えかたを示唆している。

 米国の第32代大統領フランクリン・ルーズベルトの夫人であるエレノア・ルーズベルトは,“Learn from the mistakes of others. You can’t live long enough to make them all yourself.”(他人の失敗から学びなさい。あなたは全ての失敗ができるほど長くは生きられないのだから)と言っている。この「失敗」を「経験」という言葉に置き換えてみると,本書の意義がひしひしと伝わってくる。昨今,少子高齢化に伴い,われわれが小児骨折を経験する機会は減少している。しかし,現実には一般病院や診療所など臨床の現場では小児骨折を診る機会がなくなるわけではなく,時にその治療法に迷うことも多い。そのギャップを埋めるためにも,ぜひ本書を診察室の片隅に置いて活用していただきたい。

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