家族看護学

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  • 近年、医療の地域移行の推進に伴って注目されている家族看護学を学ぶはじめの1冊として、必要な内容をまとめた構成となっています。
  • 家族論や家族システム論など、家族看護学を習得するために基礎となる事項をコンパクトに収載しています。
  • ジェノグラムやエコマップなどについてはていねいに解説し、家族を「見える化」して考えるための基礎を学ぶことができます。
  • 第4章で「家族看護過程」として汎用的な家族看護展開の方法を学んだあと、第5章では、成人看護学、老年看護学、小児看護学、母性看護学などのさまざまな分野における家族の事例について学び、多様な患者家族の姿と、その家族に対する看護の展開について学ぶことができます。
  • 「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。

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はしがき

看護における家族
 小さいころ,かぜをひいて熱を出したりおなかをこわして寝込んだりしたことが何度かあったと思う。そのとき,家族はなにをしてくれただろうか。
 まず親(あるいは祖父母など)は,心配してくれただろう。仕事からいつもより早く帰ってきたり,休んでくれたりしたかもしれない。熱をはかってくれたり,評判のよい診療所を調べて連れて行ってくれたり,毛布を1枚増やしてくれたり,氷枕をつくってくれたかもしれない。大好きなイチゴを買ってきてくれたり,おなかにやさしいおかゆをつくってくれたりしたかもしれない。「うがいをしなさい」「汗をかいたシャツをかえなさい」「勉強はお休みしてよいから今日は早く寝なさい」などと言ってくれたかもしれない。きょうだいには,「お姉(兄)ちゃんは頭が痛くて寝ているのだから静かにしなさい」「今日はテレビをがまんしなさい」などと注意してくれたかもしれない。
 このように,家族を構成するメンバー(家族成員)にちょっとした健康問題が生じただけでも,家族はいろいろな影響を受ける。つまり,家族は健康問題をもった家族成員を心配し,療養上の世話をするばかりでなく,その家族成員が療養できるように,趣味や仕事を控え,通常の日課や生活をかえ,新しい役割をもち,ふだんとは違うところにお金や労力をかけ,ふだん関係していない社会資源を利用するというように多重に変化する。
 それでは,健康問題がちょっとしたかぜや下痢ではなく,もっと重篤な,生命をおびやかすような疾患であったり,どう対応したらよいかわからない,めずらしい症状や疾患だったらどうだろう。予測できなかった突然の心臓発作や,事故による外傷だったらどうだろう。健康問題が慢性的に長く続くものであったり,経年的にしだいに増悪する疾患だったらどうだろう。
 これらのような場合,家族はもっと心配し,対応に悩み,診断や治療を調べ,信頼できる医療機関をさがしたり,患者とともに,あるいは患者の代理として,治療方法を選択したり,療養場所を決定したりするだろう。そのプロセスは不安や葛藤,苦悩や悲しみを伴い,緊張やストレスで押しつぶされそうになるかもしれない。また,患者の療養と家族の生活が両立するように,おもに患者の世話をする者,おもに家事をする者,おもに生計を立てる者などの役割分担を行い,ふだんの学業や仕事,部活や趣味や友人との交流など,さまざまな時間をけずって,慣れない役割に順応するためにエネルギーを投入せざるをえない。さらに,これまで知らなかった医療・介護や社会福祉の制度を調べ,縁の薄かった諸機関とかかわることも必要になるだろう。
 しかし,すべての家族がこれらのことに対応できるとは限らない。若い母親と小さな子どもだけの家族であるかもしれない。高齢者だけの家族であるかもしれない。外国から来日してきたばかりで,日本語の読み書きもおぼつかない家族であるかもしれない。
 最初はこの状況に対応できた家族であっても,患者の療養生活が長くなってくると,各家族成員が疲れてきたり,不満をもつ者が出てきたり,いろいろな方針に関して意見の相違が生まれたりしてきて,家族全体がぎくしゃくしてくることがある。あるいは,心身の疲労が蓄積して別の家族成員が発病し,家族のなかに,2人目の患者が生まれて,家族の生活が立ちゆかなくなることもしばしばある。
 以上のように,ある家族成員に生じた健康問題は,当の患者のバイオサイコソーシャル(身体面・心理面・社会面)な各領域に影響を及ぼすばかりでなく,家族全体のバイオサイコソーシャルにも大きく影響を及ぼす。苦悩は患者ばかりではなく,家族もかかえるものなのである。
 したがって,疾患だけはおろか,患者だけをみる看護では不十分になる。たとえば,病院における看護では,家族成員に,療養上必要な物品の購入をお願いしたり,患者の安心のために付き添いをすすめたりする。また,退院後の栄養管理や排泄管理,保清などのケアのために,家族成員に栄養指導や療養指導,医療的ケアに関する教育などを行う。もちろんそれらは大事なことであるが,目の前にいる患者の家族は,ふだんどのような家族であるのか,そして現在はどのような状況であるのかを把握したうえで行うことが必須である。そうでないと家族に負担をかけすぎてしまったり,思いがけず家族を追いつめてしまったりすることになりかねない。患者の疾患が軽快して退院してみたら,家族成員全員が疲労で倒れていたとか,そこまでではなくても,仲たがいして険悪な雰囲気になっていたということでは,患者のためにもならない。
 家族看護学は,家族全体を視野に入れた看護学である。質の高い看護実践ができるようになるために,家族看護学の扉を開こう。

 2017年11月
 著者を代表して
 上別府圭子

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第1章 家族看護とは (上別府圭子)
 A 家族看護の特徴と理念
 B 家族看護の実践の場面

第2章 家族看護の対象理解 (浅野みどり・佐藤伊織・上別府圭子・小林京子・副島尭史・池田真理・キタ幸子)
 A 家族とは
 B 家族構造
 C 家族機能
 D 現代の家族とその課題

第3章 家族看護を支える理論と介入法 (新井陽子・渡辺俊之・井上玲子)
 A 家族を理解するための理論
 B 家族の変化を把握するための理論(家族ストレス対処理論)
 C 家族に変化をもたらすための介入

第4章 家族看護展開の方法 (井上玲子・藤井淳子・高見紀子・児玉久仁子・新井陽子・関根光枝・櫻井大輔)
 A 家族看護過程とは
 B 家族看護の実践
 C さまざまな家族アセスメントモデル

第5章 事例に基づく家族看護学の実践 (高見紀子・田村恵美・児玉久仁子・藤井淳子・高木明子・新村直子・新井陽子)
 A 急性期患者の家族看護
 B 慢性期の小児患者の家族看護
 C 終末期患者の家族看護
 D 先天奇形をもつ児の家族看護
 E 精神疾患患者の家族看護
 F 高齢の患者の家族看護
 G 周産期に関する家族看護

参考文献
索引

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