• HOME
  • 書籍
  • 在宅で出会う「なんとなく変」への対応法

この熱「様子見」で大丈夫?
在宅で出会う「なんとなく変」への対応法

もっと見る

本書は、『訪問看護と介護』の連載「これって急変?なんとなく変への対処法」に加筆・修正されたもの。日々の訪問看護で悩むひろみ看護師やもえ看護師が、在宅医療に熱い修造医師とのやりとりから、「様子見でいいのか」「救急対応が必要なのか」の見分け方や対応の仕方、さらに医師や他職種とのコミュニケーションのコツを学んでいく。よくあるケースや稀なケースも交えながら,こんなときどうする? を解説。
●読者の皆様へ 付録PDF ダウンロードのご案内
本書の付録PDFを配信しています。本書に記載されているID(ユーザー名)とパスワードをご用意のうえ,ダウンロードしてお使いください。
『この熱「様子見」で大丈夫? 在宅で出会う「なんとなく変」への対応法』 付録PDF[18頁 約840KB]
▼付録のご利用にあたって
編集 家 研也
発行 2017年07月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-03168-4
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

推薦のことば(小野沢 滋)/まえがき(家 研也)

推薦のことば

 私が以前働いていた亀田総合病院の在宅医療部は訪問医と訪問看護師が同じ事務所に机を並べ,議論しながら診療を進めていました.そういった環境では自然に看護師は訪問医の思考過程や能力を知ることができましたし,正しい医学情報を医師から聞き出すことができました.私たち医師にとっても,看護師のもつ知識や技能を知ることができ,お互いにとって,非常に有益な環境でした.
 在宅医療では,患者さんの療養環境も千差万別,医療機器も限られています.また,家族それぞれの事情も異なっており,それぞれに合わせた対処が必要になりますし,各人がもつ病気や既往症などもさまざまです.それに対応する医師や看護師は多方面の知識とそれを使いこなせるだけの技量が必要となるのです.つまり,訪問看護師は,例えは悪いのですが,空挺兵(落下傘部隊の兵士のことで,通常は優秀な選抜者で構成されます)のように自分の任務とその目的を1人ひとりが明確に意識することができ,また,必要な業務や手技を,1人で確実にこなすことが求められます.さらに訪問看護師は,離れたところにいる医師の思考過程や技量をうまく見極め,彼らを「使いこなす」ことも考えなくてはいけません.
 しかし現実には,訪問看護師の多くが訪問看護に特化したトレーニングを受けずに実務に携わっているというのが実情でしょうし,亀田総合病院のように訪問医と訪問看護師とが協働している環境は,地方では多く見かけますが,都市部ではごく一部です.そして,多くの看護職の方たちががんばって訪問看護を行いながらも,どこかに「これでよいのかな?」という疑問をもちながら働いているのではと想像します.
 訪問看護師は,医学と介護との間に立って,在宅療養者のなかでも医学的な介入が必要な方にとっては最も重要な職種です.これまで一緒に働いてきた多くの訪問看護師のみなさんは,ケアの中核を担い,病院における主治医と同様の役割を果たしていました.彼女・彼らは,患者と医師の間に立ち,時に見守り,時に励まし,時に心配し,時に鬼神のごとく動き,介護職を支え,ケアマネジャーと連携しと,本当にすばらしい働きをしていました.そのときのことを思い出し,ただ1つだけ夢想するのは,もしも,すべての訪問看護師が経験豊富で勉強熱心な訪問診療医と同じオフィスで働く機会があれば,どれほどよいだろうかということです.
 医師は,医学的な情報収集についてはプロフェッショナルです(少なくともそうあるべきです).英文の論文を読み,インターネットを縦横に使い,患者のために最新で最善な方法を模索するのが彼らの仕事です.訪問診療に特化した熱心な医師は,色々な手段で最適な方法を調べ,それを実践します.そういった医師と一緒に働く機会は,訪問看護師のみなさんにとっては得がたい勉強の場となるはずです.
 本書は,そういった場を擬似的に提供しています.医師がどのような情報をもち,何をみなさんに期待し,どんな思考回路を経て診療上の決定を下すのかが余すところなく述べられています.本書が新人からベテランまで多くの訪問看護師の方たちの活躍の一助になればと願っています.

 2017年6月
 みその生活支援クリニック院長 小野沢 滋


まえがき

 「お父さん,マンボウの刺身を食べられたんですよ,先生!」
 千葉県の海辺の町で研修をしていた頃,ある肺がん終末期の患者さんに在宅医療を導入することになりました.その患者さん宅への2回目の訪問の日,患者さんの奥さんが嬉しそうに報告してくれた,今でも鮮明に思い出される言葉です.ちなみにマンボウは,時々定置網にひっかかって水揚げされる漁師町の珍味です.患者さんは病院での闘病生活の末,最期の時間を自宅で家族と過ごすべく退院されてきた元漁師さんでした.入院中ほとんど食事が取れなかった方が,自宅の布団の上で好物をペロリと平らげて家族を喜ばせたことは,それまで病院でがん患者さんを多く担当してきた自分にとって,在宅という場の力を実感した印象深い出来事でした.
 急速な高齢化に伴い,厚生労働省が少子高齢化多死社会対策の主眼としたのが在宅医療の重視です.医療者目線から生活者目線へ,病院中心から外来・在宅中心へと,日本の医療は大きな変化の渦中にあります.このような流れのなか,在宅医療が病院医療の延長として成立するような単純なものではなく,在宅ならではの専門性が必要なことは自明になってきています.
 一方,訪問診療・訪問看護の体系立った研修は,ごく一部の施設でしか提供されていません.このため,実力派ベテラン訪問看護師も,医師をはじめとした多職種とのやりとりを通じながら,苦労してスキルを習得されてきた方が多いようです.
 本書は,在宅医療の現場でよく出会う症状の「みかた」について,総合診療医が訪問スタッフを対象に実施した院内勉強会をもとに書かれています.2012(平成24)年1月から13か月間,および2015(平成27)年1月から12か月間,雑誌「訪問看護と介護」に「これって急変? なんとなく変への対処法」と題して連載された内容と最新情報を踏まえてまとめ直しました.
 発熱などの日常よく出会う症状のなかにも,対応を急ぐものとそうでないものがあります.自分1人の判断が頼りの訪問の場では,在宅医療に携わるすべてのスタッフが「ありふれた症状」のなかから「急変のニオイ」をかぎ分ける能力を身につけておきたいものです.そこで本書では,実際に訪問スタッフが判断に悩みやすい症状を中心に,医師がどのような思考過程で判断・対処をしているのか,なるべく具体的に見える化することで,みなさんに最短距離で現場での対応力を磨いていただくことを目指しました.
 急変の見極めに加えて,もう1つ大事なこととして考えたことがあります.それはみなさんが「なんとなく変」と感じたときに,担当医ともっと気軽に連絡をとってほしい,という点です.本書では,医師の立場から「こんなポイントをおさえて連絡をもらえると助かる!」というキーワードを明確にしました.これらの共通言語をおさえることで,現場での連携がスムーズになることを期待しています.
 本書は,訪問看護師を主な読者対象としていますが,在宅でさまざまな症状の第一発見者になりうるすべての医療職に役立つ内容を意識しました.また,現場における医師と看護師の対話形式をとることで,明日からの現場に活かしやすい知識を学んでいただけるよう工夫しました.本書が,読者のみなさんの日常業務の助けに,ひいては在宅療養者さんへ提供されるケアの向上に少しでも役に立つことを祈っています.
 最後に,執筆陣共通の恩師であり,総合診療の基礎を教えていただいた亀田ファミリークリニック館山の岡田唯男先生,在宅医療の大先輩であり「推薦のことば」をご執筆いただきましたみその生活支援クリニックの小野沢滋先生,本書の方向性に重要な示唆をいただいた山口大学医学部附属病院の齊藤裕之先生に,この場を借りて特別な感謝を捧げたいと思います.

 2017年6月
 編者 家 研也

開く

第1部
 第1話 この熱,様子見で大丈夫?
 第2話 在宅医の頭の中ってどうなっているの?
 第3話 意識が変!?に出会ったら?
 第4話 息が苦しい!さぁ,どうする?
 第5話 なんとなく元気がない,動けないへの対応は?
 第6話 どうして,おなかが痛いの?
 第7話 もしかして,脱水?尿が減っている?熱中症?
 第8話 食事量が減っている?胃ろうにするか?
 第9話 その皮膚トラブル,対応を急ぐ?急がない?
 第10話 おむつに血!これは下血か!?
 第11話 3種の「クダ」のここがモンダイ!!
 第12話 転ばぬ先と転んだ後の杖になる!
 第13話 薬で急変!? どんな症状?どの薬?

第2部
 第1話 在宅でケイレン!? まずどう動く?
 第2話 効果的なコミュニケーションの要件とは?
 第3話 初回訪問 虎の巻!
 第4話 退院後の「急変」「再入院」を予防する秘訣
 第5話 緊急を要する血圧・脈拍の異常を見極める!
 第6話 危ない浮腫に気をつけよう!
 第7話 危ない悪心・嘔吐を見逃さない!
 第8話 おなかがパンパン!何を,どうみる?
 第9話 災害時!さあ,どうする?
 第10話 在宅緩和ケアの始め方
 第11話 在宅緩和ケアの進め方
 第12話 どうみる?診断がつかない「いつもの」症状

開く

対話形式でひもとかれる“在宅の思考プロセス”
書評者: 齊藤 裕之 (山口大付属病院総合診療部・准教授)
 在宅医療のフィールドほど多職種連携の効果が発揮される場はなく,だからこそ医師,看護師,ケアマネジャーがそれぞれの思考プロセスを共有し,患者のケアに取り組む姿勢が重要である。

 本書は,これまで状態が安定している患者宅へ訪問した際,「あれ!?いつもと違うな?」という小さな変化を感じる場面から始まる。普段は和やかな表情の寝たきり患者の意識レベルが何となく変,ここ1か月間の食事量が徐々に少なくなっている,オムツ交換をした際にオムツに少量の出血が付着していたなど,日常の訪問看護・訪問診療で遭遇する頻度の高い状態変化が25話も散りばめられており,看護師と医師の対話形式でお互いの思考プロセスを共有している。
 本書は,医師が看護師や介護職を対象に,遭遇頻度の高い状態変化(発熱,皮膚トラブル,悪心・嘔吐など)へのアプローチを紹介しているが,読み進めることで思考が整理される心地よさを感じることができる。在宅医療は使用できる検査器具が限られるうえに,例えば「家族がどうしても病院には行かせたがらない」といったナラティブな要素が絡み合うため,適切な判断がしづらい場面が多い。しかし,本書では在宅特有の複雑な判断基準や思考プロセスが,経験豊富な医師と看護師の対話を通じて徐々にひもとかれていく。

 結局のところ,このような対話の繰り返しが各地域での在宅医療の文化を築いているのではと気付かされる。本書は,在宅で遭遇頻度の高い状態変化を体系的に学びたい方,在宅の基本的な考え方や用語に慣れたい方,そして本当はもう少し多職種で対話をしたいと感じている在宅関係者(笑)にオススメしたい一冊だ。われわれの地域でも対話を通じて,その地域に合った在宅医療の文化を築いていきたいと考えている。
書評(雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 山下 由香 (老人看護専門看護師)
 本書は、訪問看護におけるフィジカルアセスメントだけの本ではありません。いかに多職種でチームとして動くか、そのために何が必要か、そして訪問看護を通して人が成長するプロセスまでが見えてきて、途中で「この本のタイトルって何だったっけ?」と思うのです。

◆新人のときに欲しかった1冊

 私が訪問看護の世界に入ったのは、今から15年前です。介護保険が始まって2年ほど経っていましたが、まだ在宅療養支援診療所の数も少なく、主治医のほとんどは大きい病院か町の診療所の医師でした。訪問先で悩み、迷っても、気軽に報告・相談ができる存在ではなく、スマートフォンがない時代ですから、その場でインターネットで検索することも叶いませんでした。「あの判断でよかっただろうか」「あの人は穏やかに眠ることができているだろうか」など、モヤモヤしてしばらく眠れない夜が続きました。
 そのような夜をふり返り、「15年前に本書があったらなぁ」と思わずにはいられませんでした。
 表紙を開くと、スタンダードな肺炎の事例から始まります。そこでは、この本で一貫して書かれている「まずは何よりバイタルサイン-忘れちゃいけない呼吸数」の重要性が説かれています。
Dr.修造 忘れがちだけど、呼吸数はとっても大事ですよ。呼吸状態が悪くなると、身体は呼吸数を増やすことで体内の酸素濃度を維持しようとします。だからサチュレーションが保たれていても、呼吸数を数えなくては評価できないのです。
 実際のところ、現場では呼吸数の測定が軽視されがちです。呼吸数は加齢の影響を受けないといわれており、本来はどの現場でも必須だと思いますが、研修等で「呼吸数を測っていますか?」と質問しても、手を挙げるのは100人中2~3人ということがほとんどです。器械は軽量、小型化し値段も安くなり、在宅医療の現場でも多用され便利になりました。しかし、器械の出す数値に頼り、自分たちの「何か変」という直観や急変のにおいをかぎ分け、判断する力を育む機会を失っているように感じてなりません。

◆看護師の直観力を育む

 本書では、在宅でのさまざまな「何か変」を、Dr.修造とNs.ひろみさんのやり取りを通して言語化し、その評価と対応、医師へ報告すべき内容が具体的に示されています。随所にあるmemoや図表には簡潔かつ多彩な情報があり、事例を包括的に多角的に考えることにつながります。
 後半には、コミュニケーションや多職種カンファレンスの進め方、時に倫理の視点などが織り込まれ、単なるフィジカルアセスメント本にとどまりません。
 本書は、現場ですぐに使うこともできますが、1日の終わりに手にしながらリフレクションすると、見てきたことや経験したことの意味を考え、次につながる力をつけることができるのではと感じました。ベテランの訪問看護師の方も、そしてこれから訪問看護師になる方も、できれば急性期の看護師の方にも、ぜひ傍らにおいて随時開いてほしい1冊です。

(『訪問看護と介護』2017年11月号掲載)

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。