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看護教育のためのパフォーマンス評価
ルーブリック作成からカリキュラム設計へ

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やってみたら「逆向き設計」だった! 現場で求められる看護実践力とは何か。そもそも教育とは、学びとは、評価とは何かという根源的問いからカリキュラム再構築を追求してきた看護教員が、気鋭の教育学者と協働し、同じゴールを目指したその背景を初解説。なぜパフォーマンス評価が看護基礎教育に必要で、ルーブリックが看護師養成の場で有効なのかがこの1冊でわかる実践的ガイドブック。領域別実習例やQ&Aも充実。
糸賀 暢子 / 元田 貴子 / 西岡 加名恵
発行 2017年08月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-03199-8
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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はじめに

 「看護は,看護しないとわかりません」「患者情報を集め,病態関連図を書いても,それだけでは患者がどのような援助へのニーズをもっているのか全く見えてこなかった.『このままでいい』という患者の言葉を信じ切れていない自分に気づいた」「看護に必要な情報は看護しないと入ってきません」…….学生たちのこうしたさりげない言葉が,筆者がいつしかとらわれてきた伝統的な教育方法論を打ち砕きました.
 21世紀の看護を担う学生に何を学び,理解してほしいのか-.その真のゴールから遡って評価基準を設定し,到達目標に向かうためにどのような学習体験が必要かを考える過程こそ,本書で解説することになる「逆向き設計」論に基づくカリキュラム設計,授業づくりの始まりでした.そうして患者中心の,患者目線の看護とは何かという答えを教育現場で模索するうちに,瞬く間に10年という月日が経過しました.実習の見直しから着手して,2011年からは目的とゴール,学習内容と方法の一貫性を高めるカリキュラムの再編の流れへとつながって現在に至っています.
 そして本書は,2013年の夏に,ある研修の場で京都大学の教育学研究者である西岡加名恵と糸賀がともに講師に招聘されたことがきっかけで企画されました.「逆向き設計」論を紹介する西岡の講演を聴いて,筆者は「これぞ私たちで取り組んできたカリキュラム設計だ!」と感じました.一方,西岡も同じ檀上で糸賀の講演を聴いて,「『逆向き設計』論を突きつめてできるカリキュラムの理想形が,こちらの看護学校に体現されている!」と感じられたそうです.この出会いの後で交流が生まれ,筆者の学校のパフォーマンス課題とルーブリックが洗練されていく原動力となりました.
 本書で紹介する実践は,筆者が携わってきた看護専門学校の卒業生・在校生たちや教職員とともに生まれました.その初心を留めるため,各章の扉では私たち教員を励まし,駆り立ててくれた学生たちの言葉をまず掲げています.現場の看護のためにと考え抜いた学生たちの飛躍こそが「逆向き設計」の真髄であることを示すためです.患者さんへの思いを,看護教育の真髄に迫る言葉で素直に表現してくれた学び手の皆さん(紙幅の都合で紹介できなかった方々ともども)へ,最初に感謝を捧げます.

 「逆向き設計」は教師の力量が問われると言われます.臨地実習の場では教師や指導者がモデルとなって学生とともにベッドサイドで求められる看護ができなければ,「逆向き設計」のカリキュラムは実現できません.改革への理解とご協力をいただいたあじさい看護福祉専門学校の山田實紘理事長,鈴木俊子学校長をはじめ,努力と研鑽をおしまず支えてくれた本校の教員・スタッフたちに心から感謝いたします.第6章の扉写真は教務事務間島直子課長撮影,その他は筆者によるものです.
 また,実践から看護を学べる実習を構築するうえで,実習施設の全面的な理解と協力が不可欠です.本校の教育改革は,主たる実習施設である社会医療法人木沢記念病院の理解と協力なしにはなし得ませんでした.感謝いたします.また医学書院の青木大祐さんたちに,筆者たちの思いを読者に届けるために種々尽力いただいたことも付記します.青木さんには2010年の月刊『看護教育』初寄稿時からずっと助言いただいてきました.とても心強かったです.
 なお表紙に散りばめられた写真の中には,筆者の施設からほど近い岐阜県関市板取にある「名もなき池」があります.地域の方が高賀山から湧き出る清水をためて色とりどりの鯉を放たれたことで,今ではモネの絵画のように美しい名勝地として全国に知られる存在となりました.同様に,看護学校から巣立ってゆく学生たちが本来もっている美しい心が引き出され,映し出される教育が実現できますよう,本書が看護の先生方に役立つ内容であり,これから看護教員になられる方や臨地の指導者の方の参考書としても手に取っていただけることを願っています.

 2017年初夏 執筆者を代表して
 糸賀暢子

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序章 なぜ今,パフォーマンス評価なのか
  本書の構成と内容
  本書のメッセージ

第1章 パフォーマンス評価の進め方 「逆向き設計」論の基本的な考え方
 教育評価をめぐる理論的な展開
  1 米国における教育評価論の展開
  2 戦後日本における教育評価論の展開
 「知の構造」と評価方法
  1 「逆向き設計」論
  2 「理解」の重要性
  3 さまざまな学力評価の方法
  4 「知の構造」と評価方法・評価基準の対応
 パフォーマンス課題の作り方
  1 単元を選定し,単元の中核に位置する重点目標に見当をつける
  2 「本質的な問い」を明確にする
  3 パフォーマンス課題のシナリオを作る
 ルーブリック-パフォーマンスの質を捉える
  1 ルーブリックとは何か
  2 特定課題ルーブリックの作り方
  3 実習を評価するルーブリック
  4 長期的ルーブリック
 ポートフォリオ評価法
  1 ポートフォリオの設計
  2 指導上のポイント
  3 あじさい看護福祉専門学校のポートフォリオ

第2章 パフォーマンス評価への導入・動機づけ 入学時ガイダンスとオリエンテーション
 ガイダンスの考え方
 ガイダンスの指導計画
  1 重点目標に「本質的な問い」と「永続的理解」を置く
    -教師の願いと学習者の実態
  2 ガイダンスのパフォーマンス課題
  3 重点目標とパフォーマンス課題に対応した方法の検討
 ガイダンスの評価
 「鉄は熱いうちに打て」-学生の気持ちの変化に焦点を

第3章 基礎看護技術の単元「清潔ケア」 「逆向き設計」による授業設計の実際
 単元「清潔ケア」の重点目標とパフォーマンス課題
  1 臨床状況で求められる「清潔ケア」を目指した重点目標とゴールの設定
  2 「本質的な問い」と「永続的理解」をつなぐパフォーマンス課題
  3 単元の構造を作る-「知の構造」
  4 評価を決めて授業を設計する
 単元の流れを作る-「逆向き設計」に基づく指導計画
  1 1コマの授業の中に単元の「永続的理解」につながる主発問を
  2 講義の構造と内容配置
  3 単元の流れに「杭」をうつ-本時の「主発問」と内容・支援の設計
 単元に息を吹き込む-パフォーマンス課題を活用した授業
  1 パフォーマンス課題を活用した授業の工夫
  2 パフォーマンス課題を活用した授業の展開で考慮すること
 技術テストのルーブリック
  1 技術テストの評価の考え方
  2 技術テストの評価-ルーブリックの例
 パフォーマンス評価を取り入れる意義
 学生が見出した価値こそが「永続的理解」につながる

第4章 基礎看護学実習「看護現場への招待」 「逆向き設計」による実習設計の実際 I
 基礎看護学実習におけるパフォーマンス評価
  1 実習の「逆向き設計」-マクロな視点から概観する
  2 「看護現場への招待」の「逆向き設計」-「ミクロな設計」
 ルーブリックの作成-学習活動に対応した評価基準
  1 学習活動に対応したルーブリックの作成
  2 目標に準拠したルーブリック
 結果と評価-理解の深まり
 こだわるのはゴール,テンプレートに当てはめる作業をしない

第5章 成人看護学実習「クリティカルケア実習」 「逆向き設計」による実習設計の実際 II
 成人看護学実習におけるパフォーマンス評価
  1 関連科目における「クリティカルケア実習」設定の理由
  2 「クリティカルケア実習」(救急外来の看護)の重点目標
  3 「クリティカルケア実習」(救急外来の看護)の「知の構造」
  4 評価規準の設定
  5 承認できる証拠の決定
  6 学習経験と指導の計画
  7 ルーブリックの作成
 実習の導入
  1 実習の調整
  2 実習オリエンテーション
  3 学生の実習計画
  4 実習の実際
  5 実習中の評価
  6 総括的評価
 教師自身が答えを埋めていくのが看護教育のルーブリック

第6章 在宅看護論実習「在宅看護プロジェクト」 「逆向き設計」による実習設計の実際 III
 在宅看護論実習におけるパフォーマンス評価
  1 領域の構造化
  2 在宅看護論と他科目の位置づけ
 各科目のパフォーマンス課題とルーブリック,成果物
  1 「在宅看護への招待」で学ぶこと
  2 「在宅療養支援」で目指すもの
  3 「地域生活支援」で学ぶもの
  4 「在宅生活支援実習」の位置づけと内容
  5 「在宅看護プロジェクト」-訪問看護ステーションをデザインする
 地域で他職種と連携できる看護師たちが育つために

第7章 学校カリキュラムの全体像
 再構築のきっかけ-何が問題になったのか
 「逆向き設計」論に基づくカリキュラムの成果
 本校のカリキュラムの概観-「マクロな設計」
 学ぶ内容がイメージできる科目名の考え方
 カリキュラム設計は実習から逆向きに
  1 領域ごとの看護を活動分析し,目指すゴールを決めてから内容を抽出する
  2 各分野の重点目標,「知の構造」を検討する
 部分と全体をつなぐカリキュラム
  1 リフレクション・ノートから読み取る
  2 「看護の創造」の科目設定-実習の再構築
 山頂に辿りつくまでの道標がルーブリック

第8章 パフォーマンス評価を活かしたカリキュラムと指導
 「マクロな設計」-長期的な指導計画
  1 一貫した見通し
  2 実習の体系化
  3 講義や演習におけるパフォーマンス課題
  4 「ミクロな設計」と「マクロな設計」との往還
  5 学力評価計画を評価するための視点
 パフォーマンス評価を活かした指導
  1 学習経験と指導を計画するうえでのポイント
  2 ルーブリックを理解させる指導
  3 フィードバック
  4 検討会
 重視されるべきは患者と家族の視点

付録 そこが知りたい! -看護教員のための実践Q&A
 ・カリキュラムQ&A
 ・プロジェクト学習Q&A
 ・ポートフォリオQ&A
 ・パフォーマンス評価&ルーブリックQ&A
 ・実習Q&A
 ・国家試験Q&A
 ・さらなる未来に向けたQ&A

索引

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看護本来の心を育む学生の学びを導くガイドブック
書評者: 森田 敏子 (徳島文理大大学院教授・看護教育学)
 2017年現在,パフォーマンス評価は看護教員の大きな関心事である。教育の場で学習者のパフォーマンスを測る能力が求められている。今夏上梓された本書『看護教育のためのパフォーマンス評価 ルーブリック作成からカリキュラム設計へ』は,その分野のバイブルの一冊になる可能性を秘めている。

 ある昔のこと,岐阜県には「名もなき池」があった。いつしか,その「名もなき池」に地域の人々が高賀山から湧き出る清水をため,色とりどりの鯉が放たれるようになった。そのことで,今ではモネの絵画のように美しい名勝地として知られる存在になっている。本書の表紙は,その池の写真で飾られている。まさに,名もなき池=教育機関から,湧き出る清水=看護学生の無垢な学びの心によって,色とりどりの鯉=「逆向き設計」によって生み出されたパフォーマンス評価を経て,看護本来の心を育み巣立っていった卒業生たちを象徴している。

 本書には,パフォーマンス評価の重要性を教えてくれる象徴的な仕掛けがもう1つある。それは,各章の扉にさりげなく紹介されている学生たちの実際の記録である。その記録は,学生が臨地実習で経験したからこそ学び得たことであり,教訓とも言えるものである。だからこそ,おのずと説得力が増してくる。本書の「はじめに」では,「教員を励まし,駆り立ててくれた」と記されている。他にも例えば,「良い実習をできるか,というのは後からついてくるものであり,それを目的としているのではないことに気づいたときから,より患者さんのことをしっかり考え,関わるようになった」(第2章),「人は,誰かに関心を持たれているときに自分を認識できる。自己決定ができるようになる。自分の力を最大限に発揮できる。看護師が患者さんに関心を持つことは,どの健康段階においても最も重要である」(第4章),「患者さんに『できますか?』と聞くのではなく,ケアしている中で自ら見つけることが大切になると気づいた」(第6章)というように,学生の本心が表現されている。教員が,このような学生の学びを見逃さず,価値あるものとして受け止めてきたからこそのレガシーである。

 上に述べた2つの象徴的表現から,本書の意図がおのずと読者に伝わってくる。本書は,「逆向き設計」の思考がその根底を貫いている。だからこそ,パフォーマンス評価って何? そもそも「逆向き設計」って何なの? と教員の興味をそそる。

 本書を手に取った読者は,自分の興味・関心のある章から読み進められるとよいだろう。読む順番は気にしなくて構わない。どの章から読み進めても,結局,他の章も読みたくなり,パフォーマンス評価って何? そもそも「逆向き設計」って何? という疑問が氷解されるようになっている。本書を読んだ教員がすぐにでも行ってみたくなることは,自教育機関における「逆向き設計」を根底に据えたパフォーマンス評価であり,本書を片手にそれに挑戦する教員の姿が目に浮かぶ。

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