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リカバリー・退院支援・地域連携のための
ストレングスモデル実践活用術

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たんなる「強み」のアセスメントやポジティブ思考に留まらない、ストレングスモデルの着実な実践とはどのようなものか。停滞している“今”から一歩踏み出し、「その人らしさ」を支える技術を、明日から使えるよう丁寧に解説する。著者オリジナルのストレングス・マッピングシートは、リカバリー・退院支援のための面接に有効なだけでなく、地域スタッフとの情報共有にも有用だ。
萱間 真美
発行 2016年06月判型:B5頁:128
ISBN 978-4-260-02798-4
定価 2,420円 (本体2,200円+税)
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  • 序文
  • 目次
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[Introduction] 行き詰まり感を解消する「ストレングスモデル」とは

 受け持ち患者さんが“夢”を語ったら、あなたはどうするだろう。

 あなたが受け持つ田中さんは、夢が3つあると語ってくれた。「退院して、アパートに住み続けたい」。これは、入院する直前までアパートで暮らしていた田中さんにとって、とても現実的な夢だ。看護計画を立てるのにもすぐに役立ちそうである。どうすれば今後入院しないで済むかを、一緒に考えればいい。
 2つ目は「自分の車がほしい」だそうだ。ここで看護師の頭の中には疑問符が浮かぶ。生活保護を受けていて、今仕事をしていない彼に、これは可能なのだろうか。 実現性の低そうな夢に、看護師としてどう反応したらいいのだろうか。
 3つ目は、「いつか、自分の家がほしい」と言う。ここで、看護師の頭には赤信号がともる。これでは看護計画が立てられない。立てたとしても、全く現実的でないものになってしまう。本気で家を建てられると思っているとしたら……妄想かもしれない!?
 看護師は焦る——このまま書くのはだめだ。看護過程の学習時に学んだではないか。看護目標は、「短期間で実現可能なもの」を書くべきであり、「客観的にも測定可能な行動や行動の結果」を、「1つだけ」書くのだと。もしこのまま実現不可能な夢を書いて看護計画や目標を立てたら、一からやり直しだ……。
 そうだ。実現可能な目標を、患者さんがやる気をなくさないように注意しながら一緒に考えればいいんだ。

「そうですか。では、夢がどうしたら実現できるか一緒に考えましょう。退院したらアパートに住み続けたい。これは、どうしたらそのようにできるか、考えられますね」
「はい」

「車と家については……田中さん、今は生活保護を受けていらっしゃいますよね。貯金をして何かを買うためには、まずは生活保護を受けなくても済むようになることが必要です。そのためには、何をしたらいいと思いますか?」
「いや……(すぐにどうこうしたい、ということではなくて、ただの車好きなだけなんだけれど)」

「車や家を買うためには、まず働いて資金を作らないといけませんよね。働くためには、朝起きて仕事に行かなくてはなりませんね。あ、田中さんは朝起きるのは苦手ですよね。よく朝ごはんを食べないままにしてしまっていますよね。そうだ!病棟の朝ごはんの時間にちゃんと毎日起きられるようになれば、仕事に行くのにつながりますね。じゃあ、とりあえずの目標は、毎日病棟の朝ごはんまでに起きて、きちんと食べるということにしましょう(すごい。これなら観察可能な行動が入っていて、短期間でも達成が可能だ)」
「僕は、ここの病棟の朝ごはんは美味しくないと思います。食べたいとは一言も言っていません」

 さて、どこからボタンが掛け違ったのだろうか。状況の詳細は違えど、このような会話を私たち看護師は日常的にしてしまっていないだろうか。

 看護師は、とにかく受け入れられる看護計画の形にしなくてはならないと焦る。誰に受け入れられたいのだろう。リーダー? プリセプター? 筆者はこれを「看護師の自動翻訳装置」と呼ぶ。患者さんが語る言葉を無断で言い換え、“病棟の中という空間内”で、“看護師の価値観”で、“看護師が観察可能な行動”つまり「看護計画用語」に翻訳していく。
 そうして看護計画が立てられたことにほっとしたとき、目の前にいる患者さんの顔はもう見えていないのかもしれない。
 本書でテーマとする「ストレングス」とは、一体、何だろうか。
 私たちも田中さんと同じように、漠然とした夢や、遠い将来への希望を持っている。こうありたいと願う自分像がある。もちろん現実に目を向ければ、順調に形になっているとは言えない。いや、全然形にはなっていない。だけど、「いつか」という思いが、自分の毎日を支えている。落ち込むことがあっても、それに向けてならば明日に向けて生きる「意欲」がわいてくる——それが、その人のストレングスだ。

 疾患を持ち、精神科病棟に入院したという理由だけで、それらをいつも「実現可能かどうか」他者から評価され、他者の言葉によって言い換えられるいわれはない。私だったらその人との話し合いそのものを拒否し、人とのかかわりをあきらめてしまうかもしれない。
 患者さんからケアを拒否される、利用者さんから訪問を断られる、看護師は頑張っているのに状況がまったくよくならない——これらの「行き詰まり感」は、実はここから始まっていたのではないだろうか。
 目の前の患者さんがくり返す再発や、症状がなかなか改善しないことに、私たち看護師が絶望してしまうことも多い。その絶望感が、せっかく語られた未来への関心を奪い、疑わせる。
 田中さんの夢を、もう一度振り返ってみよう。生活保護を受けている田中さんは、車と家を持ちたいという夢を持っている。それは一見、非現実的かもしれないが、しっかりとしたステップがあり、最初に考えていることは地域生活の安定、そしていつかは「車」や「家」という心の支えとなる夢なのだ。
 退院支援やリカバリーをめざした支援をするときに看護師がすべきことは、自動翻訳装置を意識的にオフにすることだ。
 そして実は、今、私たち看護師がかかえる行き詰まり感は、この自動翻訳装置をオフにすることによって楽になる。その方法が、本書で紹介する「看護師ならではのストレングスモデル」の実践だ。

 さて、自動翻訳装置の発動は、実は看護師だけの話ではない。支えるべき対象者を取り囲む専門職、多職種チーム全員の課題だ。
 まずは「その人」の言うことを、遮らないで、言い換えないで、心配しすぎないで、最後まで聞いてみることから始めよう。その人はきっと、自分の話をあっという間に専門用語に言い換えるスタッフよりも、はらはらしながらも最後まで聞いて、ときには一緒に面白がってくれるスタッフを、リカバリー・退院支援の旅の伴走者として信頼してくれるはずだ。

 2016年6月
 萱間 真美

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[Introduction] 行き詰まり感を解消する「ストレングスモデル」とは

第1章 看護に必須の時代へ
  ストレングスモデルの必要性
  看護師自身へのメリット
  ストレングスモデルの役割

第2章 臨床看護における実践活用法
 1.アセスメントの基本-その人の“ストレングス”とは
  ストレングスモデルの価値観
  ストレングスモデルの基本理念
  ストレングスモデル6つの原則

 2.対話をする-リカバリーの旅のパートナーになる
  ストレングスモデルで変わる関係性
  関係性を構築する対話のコツ
   コラム(1):ジョイニング

 3.したいこと、夢を文字にする-その人だけのリカバリーの旅の地図を作る
  ストレングス・マッピングシートのコンセプト
   コラム(2):マッピング
  ストレングス・マッピングシートを用いて対話するときの看護師のスタンス
  ストレングス・マッピングシートの書き方と問いかけのコツ
   ストレングス・マッピングシートと対話の基本9箇条
  事例で読み解く実践のコツ

 4.行動計画・看護計画を立てる-夢への道程を分割し、役割を分担する
  夢を短期目標に分割する方法
  看護計画と記録への活用

 5.退院調整・地域連携に活用する-どんな場所でも「その人らしさ」を支える
  ストレングス・マッピングシートを使った情報共有

第3章 教育の場での実践活用法
 1.学生・スタッフを育てる-仲間を増やそう
  基礎教育
  臨床教育
 2.資料-ストレングスモデルを教えるための実習記録

謝辞
付録〈ストレングス・マッピングシート〉
索引
困ったときのINDEX

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アセスメントの方法を“相手の状態に合わせて選ぶ”時代に
書評者: 横山 太郎 (横浜市立市民病院・緩和ケア内科副医長)
 評者は,普段緩和ケア病棟で勤務をしています。当緩和ケア病棟では,症状が安定した場合,積極的に在宅医などに連携をしています。そんな中,患者さん自身は「自宅に帰りたい」と思っており,帰ることができる状況にもかかわらず,医療者側が不可能と判断したがために一般病棟から退院できず,緩和ケア病棟に入院してくる患者さんを複数例経験しています。

 また,退院のめどがつき,これからどうするかを決める時に「家には帰れない」という言葉が患者さんから出ることがあります。その言葉の裏側には,「帰りたいけど,家族に迷惑を掛けたくないから」という思いがあったり,「帰りたいけど,また痛みが出てきた時に,在宅医では対応できないのではないか」という誤解があるケース,「帰りたいけど,なんか不安だから」という本人も漠然とした思いを抱えているケースなど,その言葉に続く話を,さらに深く聞いていく必要性がある方が多々いらっしゃいます。

 患者さんの思いをくめないジレンマ,言葉の裏に隠されたその人の真意,これらは,「薬を飲みたくない」と言われた時や「死にたい」と打ち明けられた場面と同様に,その人のその言葉の理由を,われわれが深く掘り下げる必要があります。私は,その人がどのような思いで発せられた言葉なのかをできるだけ理解できるよう,日頃からその人の“今までの人生の経歴”などを伺うように心掛けています。

 医療は,病院で完結する時代から病院を含めた“地域”で行われる時代となりました。病院で完結していた時代は,感染症などが主体であったため,治療によって完治することが多く,入院の経過で徐々に問題が減るため,問題解決型のアセスメントが適合していたといえます。

 一方で,認知症や悪性腫瘍をはじめとした慢性疾患が主体となると,病気と向き合いながら生活を続ける必要性が出てきます。その場合は,問題解決型よりその人の強みや特徴,それまでの生き方を生かすストレングスモデルが有用であろうと,この本を読み感じました。

 とはいうものの,問題解決型のアセスメントが有用な患者も多くいるため,これからはアセスメントの方法を“相手の状態に合わせて選ぶ”時代になったのだと感じています。そして,この本はアセスメントの引き出しを増やすだけでなく,病気や老化,障害があったとしても生活できる社会をつくるヒントが散りばめられた内容だと感じました。

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