ミッションマネジメント
対話と信頼による価値共創型の組織づくり
「ミッション」と「エンパワメント」による看護管理
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著 | 武村 雪絵 |
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発行 | 2016年08月判型:A5頁:264 |
ISBN | 978-4-260-02815-8 |
定価 | 2,860円 (本体2,600円+税) |
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はじめに
私は,「看護管理」という,悩ましく難しく,でもやりがいがあり魅力的なこの仕事を,ともに働いた多くの看護管理者から学んだ。患者や家族に看護の力を届ける。地域住民のニーズに応える。スタッフが成長し,力を発揮し,看護の醍醐味にはまる。効率的かつ効果的に良質な医療を提供する。このように,看護管理者には未来を変える力がある。だから,一人でも多くの看護管理者が「大変だけど『看護管理』の仕事は面白い!」と,誇りをもって楽しく仕事ができるといいな,と思う。
私は,看護師長経験がないまま副看護部長に就いた,若輩のにわか管理者であった。それでも,副看護部長,看護部長,兼任副病院長と務めてこられたのは,周囲の人々から支援を受け,優れた看護管理実践を見て学ぶことができたからである。社交辞令が言いたいわけではない。働く人をエンパワメントする条件や働く人の学習を促す条件を備えた職場環境に恵まれたから,私は看護管理者として学び,成長し,役割を果たせたのだということを伝えたい。現場から生まれた理論(例えば「ワークエンパワメント」や「状況に埋め込まれた学習」)は,今も現場に活きる。環境を整えることで,力を発揮し,輝き始める看護管理者やスタッフが大勢いるに違いない。本書がそのためのヒントを提供できればと願っている。
本書の発端は,2012年の日本看護管理学会年次大会「教育委員会旗揚げシンポジウム」の後で,「看護管理に役立つ理論を連載で紹介しませんか」と提案されたことである。当時,看護部長であった私は,シンポジウムで「看護師長は私の顧客です」と題する講演を行い,さまざまな理論や知識が実践の力になることを紹介した。
執筆を内諾したものの,専門家でない私が理論を紹介することにはためらいがあった。そもそも現場で働く者にとって,理論は道具である。理論が先行し,現象を無理に理論に当てはめたり,理論上の方策を唯一の解決法だと思い込んだりすれば,現場にも看護管理者にもマイナスに作用する。私のためらいを察知したのか,編集担当者から理論にこだわらずに書くことを提案され,2014年から雑誌 『看護管理』 誌で「看護管理の現場を紐解く-ミッションを共有し,ともに価値を創り出す組織を目指して」と題する連載を開始した。私が看護管理者として働くうえで力になった理論や知識,ものごとの捉え方や考え方を紹介したが,一貫して伝えていたのは,理論や知識自体というよりはサブタイトルでもある「ミッションを共有し,ともに価値を創り出す組織を目指す」という管理者の基本姿勢である。
本書はこの連載に,2011年から2012年に『週刊医学界新聞看護号』で連載した 「看護師のキャリア発達支援-組織と個人,2つの未来をみつめて」 を統合し,大幅に加筆したものである。
本書で伝えたいのは,看護管理者としての2つの基本姿勢である。1つは,自らの「ミッション」を問い,対話によりスタッフと共有すること。もう1つは,スタッフと組織が内に有する力を信頼し,力を伸ばし,力が発揮されるよう「エンパワメント」すること。この2つを基本姿勢とすることで,スタッフも組織もきっといい方向に動いていく。
研究者としても看護管理者としても未熟な私が本を出すことには,今もためらいがある。しかし,これまで多くの人々から支えられ,学んできたことへの恩返しとして,私なりにいくつかの理論や経験を整理統合して本書を完成させた。『週刊医学界新聞』『看護管理』の連載を企画し,長きにわたって執筆を支えてくださった医学書院の小齋愛さん,本書発行に向けてさまざまな助言,提案をして再構成を支えてくださった石塚純一さんにこの場を借りてお礼を伝えたい。そして,研究にご協力くださった方々,ともに働いた看護管理者,スタッフの方々に心から感謝している。本書が現場の看護管理者の方々の何らかのお役に立てればうれしく思う。
2016年7月
武村 雪絵
目次
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イントロダクション
1 にわか管理者
2 私に与えられたもの
3 私のなかにあったもの
4 本書の構成
第1部 管理者としての自分を支える2つのキーワード
ミッションとエンパワメント
1 管理者である私を支えるミッション
2 私の物語としてのミッション
3 2つの「役割」
4 ミッションとエンパワメントによる看護管理
5 まとめ
第2部 組織の中の「人」
多様な真実を共存させながら生きる「人」と働く
1 人間観の変遷とマネジメント理論
2 「合理的経済人としての人間」
3 フォード車と豊かな大衆の出現
4 「社会的感情人としての人間」
5 「意思決定する人間」
6 「責任・貢献・成果を欲する人間」
7 「価値・知識を創造する人間」
8 共鳴を呼ぶ語り
9 まとめ
第3部 キャリアの発達
いきいきとしなやかに働く看護師へと発達を支援する
1 キャリア発達を支援する
2 さまざまな熟達化
3 組織ルーティンと熟達
4 「しなやかさ」をもたらす4つの変化
5 組織ルーティンの学習
6 組織ルーティンを超える行動化
7 組織ルーティンからの時折の離脱
8 新しいルールと意味の創出
9 まとめ
第4部 「組織」の発展
組織の内にある力が涌き出るとき
1 対象としての組織
2 安心して働く土台づくり
3 安心して働く土台としての評価と報酬
4 人事の要としての評価制度
5 生きものとしての「組織」
6 自分が新しい自分を創り出す-第2・第3世代のシステム論
7 組織の内にある力が涌き出るとき
8 現場から看護管理の知をつくろう
9 まとめ
おわりに
索引
書評
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書評者: 金井 Pak 雅子 (関東学院大学大学院看護学研究科 委員長・教授)
◆明確なミッションのもと,いかに組織を動かしていったか
本書は,武村氏が大学院修了後に研究者としての道を歩み,そして副看護部長さらには看護部長としてその役割を遂行していく過程において,看護管理者として明確なミッションのもと,いかに組織を動かしていったかについて,理論に裏付けられた実践を記した書である。
第1部では,管理者としての自己を支えるミッションとエンパワメントについて,第2部では,組織運営に関するマネジメント理論,第3部では武村氏の博士論文を基に看護師のキャリア発達支援について,第4部では,組織活性化の取り組みについて,まさに理論と実践とを融合させ,大変分かりやすい文章スタイルで表現されている。
◆いかに「人」を大事にするか
評者が特に感銘を受けたのは,第2部のマネジメント理論の解説である。科学的管理論の父といわれたフレデリック・テイラーから始まり,ホーソン実験で有名なエルトン・メイヨー,組織論で有名なチェスター・バーナード,ピーター・ドラッカーなどの理論を「人」をキーワードとして,それぞれの理論家がその時代の情勢を鑑みながら構築した理論の変遷を紹介するのみならず,それらのマネジメント理論から管理者としていかに「人」を大事にするか,武村氏自身の熱い想いが描かれている。
さらに,第3部では,管理職の使命のひとつでもある「人を育てる」ことについて,博士論文で取り組んだ内容から,「組織ルール」「固有ルール」および「個人」との関係を大変分かりやすい構図を用いて解説している。管理職がそれぞれのスタッフのキャリア発達段階を意識してどのように支援したらよいか,とても参考になる。
◆管理者にとってのキーワード「ミッション」と「エンパワメント」
武村氏は,著書の中で管理者にとって大切なことは,「ミッション」と「エンパワメント」と記している。
エンパワメントに関して,2016年8月に行われた第20回日本看護管理学会の大会長講演で,武村氏はラシンジャー博士(カナダの看護研究者)が開発された「構造的エンパワメント」の6つの下位概念を活用した自身の管理実践について解説された。ラシンジャー博士のワーク・エンパワメント理論は,評者も博士論文で使用した経緯があり,日本においてもラシンジャー博士の理論の活用が広まっていくことを実感した(ラシンジャー博士は,残念ながら2016年10月29日にご病気のため逝去された)。
◆読んでいるうちに思わず理論に引き込まれる
本書の強みは,なんといっても武村氏が9年間にわたる看護管理者としての実践を,無理なく理論と結び付けているところである。読んでいくうちに思わず理論に引き込まれるという感覚である。その意味でほかに類を見ない書籍であり,これから管理職になる人,現在管理職にある人,看護管理学専攻の大学院生にぜひお勧めしたい。
(『看護管理』2017年5月号掲載)
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