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そのとき理学療法士はこう考える
事例で学ぶ臨床プロセスの導きかた

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経験を積んだ理学療法士は、日々の臨床での疑問にどう向き合い、なぜその評価法を選択し、どのような思考パターンで問題点を抽出・解釈して治療に結びつけているのか。本書では、対象者個人の思いや希望を受け止め、その人に合った理学療法を展開するうえでの根拠や考えかた、さらには具体的な実践法について、個性溢れる多様な事例とともに提示していく。理学療法士だからこそできることがある!
編集 藤野 雄次
編集協力 松田 雅弘 / 畠 昌史 / 田屋 雅信
発行 2017年05月判型:B5頁:244
ISBN 978-4-260-03004-5
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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 「あなたは頑張り屋さんだからきっと大丈夫.がんばってね」

 これは,私が急性期病院での初めての実習を終える日,担当した患者さんから励まされた言葉である.
 学生時代の私は,試験に必要な知識をやみくもに暗記し,国家試験にさえ合格すれば“いち”理学療法士になれるという,極めて甘い考えの持ち主であった.教科書に書かれている評価を行い,先輩の事例報告を真似し,いかに理論的なレポートを書くかが重要と考えていた.きれいに理屈を並べたレポートは,私自身の評価を上げるための内容が書かれ,そこには患者さんや家族の想いが全く反映されていなかった.表面的には人の役に立つ仕事に就きたいとうたっていたが,その場しのぎの学生生活を送り,理学療法士としての知識や技術,責任感が欠如していた私は,実習で大きな挫折を味わい,何よりも患者さんの大切な時間を浪費させてしまったのである.そして,誰よりもつらいはずの患者さんからの言葉に,私は感謝の気持ちと後悔の念がこみ上げ,人目をはばからず涙したことを忘れることはできない.恥ずかしながら,私はこのとき初めて理学療法を真摯に学ぼうと決意したことを覚えている.
 入職後の私は,それまでの怠惰な姿勢を改め,足りない知識を取り戻すため,連日早朝から病院に行き教科書や文献を読みあさり,学会発表にも必ず取り組むようにした.しかし,いくら知識を補っても,経験の浅い私には先輩たちのように豊富な経験に基づく臨床判断ができず,目の前の対象者に最も適した評価,治療を選択できていなかった.臨床推論(クリニカルリーズニング)の能力に欠けていたため,机上で得た知識によって理論武装しても,武器の使いかたや応用の仕かたがわからなかったのである.クリニカルリーズニングをはじめとする臨床的な判断には,経験に基づく要素が多分に含まれているため,その判断の根拠を学ぶこと,伝えることは非常に難しい.しかしながら,この“臨床感”を言葉や文章に外在化し,一連の考えかたを学ぶことこそ,理学療法の質を高め,理学療法士の存在意義を打ち出すことにつながると考える.
 理学療法士にはなにができるのか.理学療法士にしかできないことはなにか.その答えは,なぜその評価が必要なのか,どのように問題点を抽出・解釈して治療に結びつけるのか,といった「活きた理学療法」の思考に触れることで見えてくるものがあるはずである.
 本書は,理学療法の基本や根拠を提示し,事例報告では科学的有用性と対象者1人1人の想いをどのように融合させ,理学療法を考えていくのかがまとめられている.理学療法は疾患や障害名が同じであっても,選択される評価,目標設定や治療プログラムが同じになることはない.大切なのは,対象者の主訴や生活,環境など様々な要素に対し,専門家としてどのように最善の策へと導いていくかを学ぶことである.読者の皆さんが本書から理学療法の本質を学び,そして本書が理学療法を必要とするすべての方々の生活を,人生をより良いものにするための一助になることを切に願う.
 初めての実習を経験してから14年.私を励ましてくれた患者さんは,今の私にどのような言葉をかけてくれるのだろうか.当時とは境遇や経験値が違っていても,初心を胸に理学療法士として,1人の人間として,私はまだまだ成長していかなければならない.
 最後に,編集の機会を与えてくださった医学書院の北條立人氏,編集協力として多大なる助言をいただいた松田雅弘,畠昌史,田屋雅信の諸氏,素晴らしい原稿を執筆していただいた方々,本書の章扉の掲載写真を撮影していただいた桑原陽子氏,これまでご指導くださった恩師の先生方,私を鼓舞してくれる埼玉医科大学国際医療センターの仲間,そして家族にこの場をかりて心から感謝を申し上げる.

 2017年3月
 藤野雄次

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第1章 理学療法の意義
  1 理学療法士ができること
  2 理学療法は主訴から始まる
  3 評価や治療のなぜ?を考える
  4 包括的リハビリテーションとは
  5 スペシャリストとジェネラリスト

第2章 クリニカルリーズニング(臨床推論)
  1 クリニカルリーズニングとは
  2 動作分析のポイントと落とし穴
  3 脳画像の活用
  4 単純X線画像の活用-運動器について-
  5 心エコー検査結果をどう活用するか
  6 血液検査結果をどう活用するか
  7 投薬状況にどう対応するか
  8 文献の活用

第3章 現場で活きるリスク管理
  1 病気がある人にとって運動は危険?
  2 急性期と生活期ではリスク管理の重要性は異なるのか?
  3 理学療法士がなすべきリスク管理とは何か
  4 診て,触れ,聞く-フィジカルアセスメントの重要性-

第4章 評価をどう活用するか
 中枢神経疾患
  1 脳卒中の機能評価
  2 Pusher 現象の評価(SCP,BLS)
  3 半側空間無視と注意機能の評価(BIT,CAT)
  4 バランス能力評価(BBS,FRT,TUG)
  5 動作分析(治療につなげるためのポイント)
  6 体幹機能の評価(TCT,TIS)
 運動器疾患
  1 姿勢アライメントの評価
  2 痛みの評価
  3 人工関節置換術後の評価
  4 整形外科的テスト(頸部~体幹)
  5 整形外科的テスト(上肢)
  6 整形外科的テスト(下肢)
 内部障害
  1 心肺運動負荷試験(CPX)
  2 身体活動
  3 6分間歩行試験,シャトルウォーキングテスト
 神経筋疾患
  1 小脳性運動失調の評価(SARA)
  2 パーキンソン病の評価(UPDRS,Hoehn-Yahr 分類)
 小児疾患
  1 脳性麻痺の評価(GMFM,GMFCS)
  2 小児における能力低下の評価(PEDI,WeeFIM)
 がん
  1 がんの評価
 ADL
  1 日常生活活動の評価(BI,FIM)

第5章 統合と解釈
  1 ICF を活用した理学療法評価とは?
  2 ボトムアップとトップダウンによる理学療法評価とは?
  3 情報の統合と解釈はどのように行うのか?
  4 プログラム立案までのプロセスと考察のまとめかた
  5 レジメの作成に必要なICFの理解

第6章 事例報告の意義
 事例報告の意義
 中枢神経疾患
  1 心不全のリスク管理が重要であった
    重度片麻痺者に対する理学療法の経験
  2 円背と変形性膝関節症を合併していたため
    早期歩行プログラムの検討が必要であった急性期脳卒中の事例
  3 脳卒中後うつ症状に対する動機づけと関わりかたが,
    しているADLの改善に重要であった事例
  4 若年の右片麻痺患者に対して脳画像所見を用いて
    予後予測を行った理学療法の経験
  5 ワレンベルグ症候群後の誤嚥性肺炎合併により全身状態が
    悪化した事例に対して食事とトイレ歩行の獲得を目指した介入
  6 Pusher 現象により車椅子座位姿勢の崩れが著しく,
    ADL拡大に難渋した事例
  7 脳卒中後重度片麻痺例に対して座位保持・移乗動作介助量の
    軽減を目指した事例
  8 認知機能障害を呈した事例に対する入浴動作自立へ向けた
    行動変容アプローチ
  9 麻痺側肩関節亜脱臼および肩関節痛を伴う重度運動麻痺に対して
    積極的なアプローチにより上肢ADL が拡大した事例
  10 全失語および右片麻痺患者の歩行再建にむけた取り組み
    -強化学習を用いて座位保持・歩行動作の運動学習を促進した一事例
  11 高齢対麻痺事例のADL向上にむけた回復期病棟における取り組み
  12 注意障害や半側空間無視に対するアプローチによって,
    座位でのADLが拡大した高齢片麻痺例
  13 交通事故後に高次脳機能障害を呈した事例に対する
    職場復帰へのアプローチ
  14 腰痛により理学療法の方針転換が必要となった維持期両側片麻痺例
  15 特別養護老人ホーム入所者における摂食のリスクマネジメントと
    多職種連携を検討した事例
  16 麻痺の回復を望む生活期片麻痺患者へ障害受容を促すとともに
    生きがいである畑作業の再獲得を目指した事例
  17 発症後6か月が経過した右片麻痺障害者のゴルフ復帰にむけた
    理学療法士としての関わり
  18 一人暮らしを続けるために必要な日常生活能力を
    多職種連携によって高めた事例
  19 脳腫瘍に伴い,右片麻痺と高次脳機能障害を呈した
    長期的な在宅支援の実施例
 運動器疾患
  1 自覚的脚長差を呈した人工股関節全置換術術後患者に対する理学療法の経験
  2 大腿骨転子部骨折術後,姿勢に注目し介入した結果,
    早期歩行自立が可能となった事例
  3 階段降段動作困難感に対して動作パターンを考慮しながら介入した
    人工膝関節全置換術後の女性事例
  4 半腱様筋腱を用いたACL再建術後事例
    -腱採取部に着目した術後3か月までのリハビリテーション
  5 ジョギング時の疼痛を呈したアキレス腱縫合術後患者に対する治療経験
    -フットサル復帰にむけて
  6 剣道復帰を目指した腱板広範囲断裂術後事例
  7 特発性側弯症手術後の大学生に対する術後早期から復学までの
    段階的な理学療法介入
  8 発症早期より離床が開始され,自宅復帰した高齢脊椎圧迫骨折の事例
  9 仮義足作成前の体幹・骨盤モビリティーの向上が
    早期義足歩行自立を可能にした下腿切断の事例
  10 左大腿転移性骨肉腫術後患者に対し,構造的要因と
    心理的要因に着目した一例
  11 変形性膝関節症患者(保存療法)の外側スラストに伴う
    歩行時痛に対して,徒手療法を中心とする介入が有効であった事例
  12 姿勢アライメントが肩関節周囲炎に影響していた事例
    -Kaltenborn-Evjenth concept による評価を用いて
  13 ダンス中に頸部痛を発症し,環軸椎亜脱臼と診断された
    関節リウマチ患者に対する理学療法と日常生活指導の経験
  14 骨アライメントから予後を予測しながら介入を進めた
    橈骨遠位端骨折後の高齢女性事例
  15 頸椎症に対し,職場での座位姿勢に注目して介入することで
    改善に至った事例
  16 腰痛を呈する妊婦への理学療法
  17 バレエダンサーの脛骨内果後方部痛に対する治療経験
    -足関節機能不全と片脚連続ジャンプ動作時の
    骨盤アライメントに着目した事例
  18 積極的保存療法により競技復帰を果たした投球肘障害の一例
  19 高度脊柱変形を伴った利用者の参加制限に対し,
    生活行為向上リハビリテーションを実施した結果と課題
 内部障害
  1 フィジカルアセスメントとBNPによる評価を行いながら
    離床を進めた高齢心不全事例
  2 急性大動脈解離術後に残存解離を認め,運動時の血圧管理に
    難渋した事例への早期退院にむけた理学療法
  3 具体的な目標設定により再発予防への意識を高めた心不全事例
  4 社会復帰を目指した心不全患者に対する介入事例
  5 心臓外科手術後に脳梗塞左上肢麻痺を発症後,作業療法士との
    連携を強化し自宅復帰と仕事復帰を目指した事例
  6 歩行速度改善に着目して介入したフレイルを呈する
    高齢開心術後事例
  7 訪問リハ医療連携にて運動機能を維持向上できた在宅療養COPDの事例
  8 人工呼吸器装着中から早期リハビリテーションを開始し
    ウィーニング・再挿管予防を達成した重症呼吸不全事例
  9 合併症への対応と退院調整を要した特発性間質性肺炎の事例
  10 糖尿病コントロールに難渋した虚血性心疾患事例
 神経筋疾患
  1 ギラン・バレー症候群を呈し歩行再建により独居が可能となった事例
  2 歩行時の視覚情報処理に着目した介入により歩行能力の向上が得られた
    脊髄小脳変性症事例
  3 機能低下に伴い歩行介助方法を変化させた筋萎縮性側索硬化症患者に
    対する理学療法の経験
  4 異常姿勢と歩行中の身体認識にアプローチし加速歩行の改善を得た事例
 小児疾患
  1 体幹機能に着目した長期的な介入により歩行機能と
    認知機能が改善した事例
  2 屋内床上移動レベルの脳性麻痺児に対する選択的股関節筋解離術と
    術後理学療法によって歩行を獲得した事例
  3 NICU より早期介入した脳室内出血後水頭症の極低出生体重児
  4 アテトーゼ型脳性麻痺児に対し就学にむけた環境調整を行い,
    活動範囲が拡大した事例
  5 脊柱変形の進行予防を中心に包括的アプローチを展開した
    デュシェンヌ型筋ジストロフィーの事例
 がん
  1 脊椎転移に対するリスク管理が重要であった対麻痺を呈した
    がん患者の理学療法
  2 術後の運動耐容能の改善に伴い退院後生活に対する自己効力感が
    向上した肺がん事例
  3 進行肝がんと転移性胸椎腫瘍に伴う対麻痺を呈し,
    精神心理面に配慮して目標設定と介入を行った事例
  4 移植前からの積極的理学療法により移植後も身体機能を維持できた
    造血幹細胞移植事例

索引

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従来の知識,技術本の枠に収まらない画期的な実践書
書評者: 成田 崇矢 (健康科学大教授・理学療法学)
 新人理学療法士もベテラン理学療法士も「目の前の患者さんをどうにかしたい」と願い,その中で「理学療法士の専門性は何なのか」と自問自答している。しかし特に,経験の浅い理学療法士の多くは,国家試験対策で学んだ中にその答えが見つからず,路頭に迷っている。

 本書には,そのような理学療法士にできる限りの筋道を示したいという編集者の藤野雄次先生(埼玉医大国際医療センター)はじめ執筆された先生方の想いがあふれている。理学療法士は運動,動作を改善させる専門家であり,ADLの改善,QOLの向上を目的としている。本書はそれを達成するために必要な臨床推論や基本となる評価の活用法が明示されている。つまり,患者治療だけでなく,理学療法士としてのアイデンティティを捉えるヒントがまとめられているといえよう。

 第1章では,理学療法の意義が述べられている。単に技術や知識だけではなく,人間的な要素が要求される仕事であることが理解でき,さらにはそのことが患者やその家族と接する際の臨床推論に大きくかかわるという点を学べるようになっている。また,第2,3章では,対象者個人の思いや希望を受け止め,その人に合った理学療法を展開する上での根拠や考え方が整理されている。第4章では,中枢神経疾患,運動器疾患,内部障害,神経筋疾患,小児疾患,がん,ADLと分類した上で,それぞれに必要な評価とその活用方法を明示し,さらには第6章で具体的な実践法について,疾患別の多様な事例を取り上げているところが本書の大きな特徴である。

 第1~5章までで,臨床推論に対する思考の流れ(評価→統合と解釈)を整理でき,理学療法の基本を理解できる。また,第6章では多くの先生方による,豊富な診療経験を通して得られた知見が述べられているが,これらは単に一症例の事例報告にとどまらず,他の疾患や障害のある患者にも十分適用され得るものである。

 本書は,さまざまな疾患に対する具体的な理学療法と臨床推論を明快に示した実践書であるとともに,従来の知識,技術のみを学ぶ理学療法に一石を投じる,エポック・メイキングな一冊である。
先輩PTの経験値や臨床感を言語化した貴重な指南書
書評者: 諸橋 勇 (いわてリハビリテーションセンター機能回復療法部・部長)
本書の帯に書いてあるように,「根拠もわかった。理論も学んだ。」,そして先輩の行っていることを毎日見ていても,臨床においてうまく理学療法を行えていない理学療法士(以下PT)は多いと思います。そこで「根拠や理論を得ることと同時に必要なことは何か」という問いが出てきます。昔から理学療法はサイエンスの部分とアートの部分があると言われてきました。近年は前者が強調され,先輩PTの経験値が後輩に伝承されているとは言い難い状況にあります。理学療法は情報収集,問題点抽出,統合と解釈,目標設定,治療計画の立案・実行,検証の一連のプロセスで進められます。この中には経験値から導き出された「勘」「コツ」「知恵」などがたくさん含まれています。そして,このような経験値,臨床感の部分が言葉や文章にされることが少ない印象です。「なぜ,あのPTはあんな運動療法の展開ができるのだろうか」「頭の中でどのようなことを考えているのだろうか」と思った経験は誰にでもあります。そんな疑問に答えようと出版されたのが本書なのだと思います。

 本書は,第1章ではPTの在りかたに触れ,第2章では思考過程でもあるクリニカルリーズニングの要点が述べられ,第3章ではリスク管理,第4章では中枢神経疾患,運動器疾患,内部障害,神経筋疾患などの評価について,第5章ではPTが苦手としている統合と解釈に関して丁寧に解説されています。そして,最終第6章では本書の最大の特徴ともいえる多数の疾患の事例報告が61例紹介されており,臨床の第一線で活躍されている錚々たるPTが,自らの経験値を簡潔に言葉にして伝えています。

 理学療法プロセスの標準化,技術の標準化は随分前から言われてきましたが,思うように進んでいません。その理由が症例,事例の丁寧な検討が少なく,PTの意志決定過程の分析が不十分であるからだと指摘されています。理学療法プロセスを追求すれば,個別性,テーラーメイドという壁にぶつかります。その壁を壊すためには,エビデンスを持ちつつ,その知識,技術をどのようにその症例に適応させていくかが重要になります。この部分から目をそらさずに本書が出版された意義は大きいと感じます。

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