精神科臨床Q&A for ビギナーズ
外来診療の疑問・悩みにお答えします!

もっと見る

精神科の後期研修医や若手医師が外来診療で疑問に思ったり頭を悩ませたりしていることなどを中心に、Q&A形式で解説する入門書。基本的な心構えから診察・向精神薬、各疾患に対する薬物・非薬物療法まで幅広く取り上げる。セリフやモノの言い方、診療態度などが重要になるケースは症例を提示、また薬の増量・減量や変更などについては可能な限り数字を例示するなど、できるだけ具体的な状況がイメージできる内容にまとめている。
宮内 倫也
発行 2016年08月判型:A5頁:308
ISBN 978-4-260-02800-4
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

はじめに

 この本は外来診療におけるQ&A形式になっており,私がレジデントの時の疑問や悩みを思い出して書いているところが多くあります。そういった意味では,自分との対話なのかもしれない,そう思います。ただ,答えはこの本のAのみではありません。Q&Aを読みつつ,一人ひとりの患者さんとの出会いにおいて悩み抜いた果てに,あなたなりのAができてくるでしょう。それへの過程が大切なのだと思います。
 決して網羅的な内容ではありませんが,疾患別にとらわれない患者さんへの心構えの一端が浮き上がってくれればと思っています。症状というのは困ったものではありますが,見方をちょっと変えると患者さんなりの対処(コーピング)なのだと気づきます。それがあるから何とかここまで患者さんはやって来られたのだと思いを馳せることが臨床では重要でしょう。そこを感じ取ってもらえたら嬉しいです。
 そして,精神病理学や精神分析学はそのために用いられるものでもあると考えています。“精神病理学・学”や“精神分析学・学”になってしまうのではなく,常に患者さんの生き方に呼応させることがそれらを生きたものにしてくれるのではないでしょうか。この本でもそういった視点でそれらを参考にしています。もし“食わず嫌い”であれば,これをきっかけに少しずつ勉強してみてください。
 そして今回“外来”に焦点を当てたのは,精神科医療において外来診療の占める割合がかなり高くなっているためです。入院環境とは異なり,患者さんは医療者に接する時間が短く,大部分を世間で過ごします。よって,診察室では患者さんの生きる世間にも精神療法を響かせる工夫が求められるでしょう。そのための知識も述べています。もちろん入院患者さんを軽視しているわけではなく,外来診療の基本的な考え方は入院患者さんにとっても同様だと思っています。
 人生という道を走る車,その運転手は患者さんであるべきです。医療者はある時は助手席,ある時は後部座席に乗りながら,その人生の一部のお相手をする立場。運転席に座るのは患者さんであることを思うと,医療者は自分自身の限界に苦しむこともあるでしょうし,一方で限界があることの尊さを知ることもあるでしょう。そうやって私たちは医療者として成長していくのかもしれません。若手精神科医のみならず,総合病院の精神科や精神科病院に勤務している医療者のみなさんにも参考になれば幸いです。
 この本を書くにあたって,多くの方々の助けを得ています。医学書院の松本哲さんと成廣美里さん,医学発展のために犠牲になった実験動物たち,これまで出会った患者さんたち,そして家族。また,Qやコラムの一部は名古屋大学医学部附属病院精神科レジデントのみなさんから出してもらった疑問を参考にしました。代表して当時レジデントだった玉越悠也先生にも感謝を。

 2016年7月
 宮内倫也

開く

第1章 まずは基本
 Q1-1 精神療法とはそもそも何ですか?
 Q1-2 医療者が診療でこころがけることは何ですか?
 Q1-3 患者さんを理解することの第一歩は何ですか?
 Q1-4 “共感”って難しいですか?
 Q1-5 DSMは間違っているって言う人がいますけど…
 Q1-6 患者さんの回復とはどういう状態を指しますか?

第2章 初診と再診で気になること
 Q2-1 初診に時間はかけるべきですか?
 Q2-2 聞きづらい症状はどうやって尋ねますか?
 Q2-3 診断はできるだけ早く付けるべきですか?
 Q2-4 ご家族とお話しする時の心構えは何ですか?
 Q2-5 患者さんが思うように改善しない時,どうすれば良いですか?

第3章 お薬の一般的な注意点
 Q3-1 処方する薬剤の説明はどのようにすると良いですか?
 Q3-2 薬剤の減量/中止で注意することは何ですか?
 Q3-3 きちんと内服してくれない時はどうすれば良いですか?
 Q3-4 漢方薬を使ってみたい時,どう勉強すると良いですか?
 Q3-5 運転や妊娠との相性はどうですか?

第4章 統合失調症
 Q4-1 統合失調症はどんなイメージを持つと良いですか?
 Q4-2 幻覚妄想やプレコックス感があれば統合失調症ですか?
 Q4-3 幻聴や妄想についてどう心理教育をしたら良いですか?
 Q4-4 抗精神病薬同士の違いをどう理解したら良いですか?
 Q4-5 錐体外路症状が出現した時,抗コリン薬を追加すべきですか?
 Q4-6 慢性期統合失調症の患者さんの抗精神病薬は減量できますか?

第5章 双極性障害
 Q5-1 双極性障害は過剰診断ですか? 過少診断ですか?
 Q5-2 Ⅰ型とⅡ型に明確な違いはありますか?
 Q5-3 双極性障害診断ではどこに気をつければ良いですか?
 Q5-4 心理教育はどのように行いますか?
 Q5-5 気分安定薬の選択と抗精神病薬の使い方はどうしますか?
 Q5-6 うつ病相の薬剤治療に困っています…

第6章 うつ病
 Q6-1 メランコリー親和型うつ病が本当のうつ病ですか?
 Q6-2 うつ病は励ましたらダメと言いますが…?
 Q6-3 心理教育はどう行うと良いですか?
 Q6-4 抗うつ薬はどう選ぶと良いですか?
 Q6-5 患者さんの意欲がなかなか上がってこないのですが…

第7章 不安症・強迫症・PTSD・適応障害
 Q7-1 不安症や強迫症と診断する時に気をつけることは何ですか?
 Q7-2 心理教育はどう行うと良いですか?
 Q7-3 ベンゾジアゼピン系の依存をつくらないためにはどうすれば良いですか?
 Q7-4 PTSDの治療薬剤にはどのようなものがありますか?
 Q7-5 PTSDの非薬物療法を尋ねられたらどうすれば良いですか?
 Q7-6 適応障害の診断が漠然としていてあまり存在価値が分からないのですが…

第8章 身体症状症
 Q8-1 身体症状症と身体表現性障害の違いは何ですか?
 Q8-2 心理教育はどうしますか?
 Q8-3 診療の実際はどのようにしますか?

第9章 睡眠障害
 Q9-1 「眠れない」という患者さんに対してまずすることは何ですか?
 Q9-2 一次性不眠や概日リズム睡眠障害の最初に行うべき治療は何ですか?
 Q9-3 悪夢を何とかしたいと言われますが,どうすれば良いですか?

第10章 アルコール依存症
 Q10-1 アルコールについてどうやって聞き出すと良いですか?
 Q10-2 どのように指導をすると良いですか?
 Q10-3 アルコール依存症の患者さんに優しくなれません…

第11章 摂食障害
 Q11-1 摂食障害は外来でもやっていけますか?
 Q11-2 初診ではどのように話をすると良いですか?
 Q11-3 軽症での治療ポイントは何ですか?
 Q11-4 患者さんの状態が一進一退で膠着状態です…

第12章 パーソナリティ障害
 Q12-1 そもそもパーソナリティ障害ってどういう疾患ですか?
 Q12-2 境界例と境界性パーソナリティ障害は同じですか?
 Q12-3 パーソナリティ障害の診断は難しいですか?
 Q12-4 境界性パーソナリティ障害の心理教育はどうしますか?
 Q12-5 境界性パーソナリティ障害治療の心構えを教えて下さい
 Q12-6 自己愛性パーソナリティ障害にはどんな特徴がありますか?

第13章 認知症
 Q13-1 認知症の疾患同士の鑑別はどうすれば良いですか?
 Q13-2 どの疾患から勉強をすれば良いですか?
 Q13-3 BPSDはどのように対処しますか?
 Q13-4 薬剤を使う時の注意点は何ですか?
 Q13-5 ご家族に気をつけてもらう点は何ですか?

第14章 発達障害
 Q14-1 成人で自閉スペクトラム症を疑う時はどんな状況ですか?
 Q14-2 自閉スペクトラム症にはどんなイメージを持つと良いですか?
 Q14-3 感覚鈍麻や感覚過敏はどのように説明できますか?
 Q14-4 自閉スペクトラム症の診断はレッテル貼りだと批判されることがあります…
 Q14-5 患者さんにはどのように対処すると良いですか?

索引

COLUMN
1 医療者の外見
2 精神科志望の初期研修医は何を勉強すべき?
3 外在化のテクニック
4 診療時間と予約間隔
5 お薬の色や形を知っておく
6 デポ剤を勧める時
7 テツガクしましょう!
8 生活リズムは大事です
9 患者さんが来なかったら
10 身体疾患を考える時
11 病院見学で重視するところ:その1
12 病院見学で重視するところ:その2
13 似てるかも? 静脈ルート確保とクレーンゲーム
14 引き継ぎは繊細
15 これからのために
16 診察室の雰囲気
17 受容と強要
18 エビデンスとナラティブ
19 専門用語の功罪
20 言語学に愛の手を

開く

喉から手が出るほど知りたい情報に満ちた一冊
書評者: 松本 俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
 著者の略歴を見て驚いた。医学部卒業が2009年だという。ということは,医者歴7年目,精神科医歴は5年目か。「あり得ない」と思った。失礼ながら,「経歴詐称か」と疑いもした。それくらい本書の内容は充実している。

 何しろ,本書は,若手精神科医が,喉から手が出るほど知りたい情報だらけなのだ。Q&Aの項目を2,3見ればすぐにわかる。「慢性化したうつ病患者の促し方」「双極性障害には気分安定薬と抗精神病薬のいずれを使うか」「患者の自動車運転や妊娠・授乳の問題」……。いずれも日常精神科臨床の重要課題だ。

 欄外のコラムがまたありがたい。「次回の診察予約までの間隔をどうやって決めたらよいのか」「患者が予約日に受診しなかったら,自宅に電話すべきなのか」……。こういった疑問に答えてくれる成書などどこにもない。指導医に質問するのも憚られる。その点で,「かゆいところに手が届く」というのは,まさにこのことだろう。

 ベテラン精神科医も真っ青の「診療のコツ」伝授もある。例えば,服薬したがらない患者への対応法については,説得ではなく,飲みたくない理由を尋ね,そして,その気持ちを認証した上で,医師として服薬の必要性を伝えよ,とある。なるほど,ただ「お薬を飲みなさい」と言ったのでは硬直した対立に終始するが,患者の気持ちをいったん受け止めてみると状況が少し変化する,というのはよくあることだ。

 アルコール依存症についての記述もよい。“アルコールについての問診は,患者が「話を聞いてもらっているな」という実感を得てからした方がよい”“アルコール依存症患者の診療では,アルコールに頼らざるを得なかった人生に思いを馳せる”“依存症とは対人希求の病,つながりを渇望する病”。まさにその通りだ。

 境界性パーソナリティ障害患者の行動化については,“その行動が持つ肯定的な側面も伝えながら制止する”“境界性パーソナリティ障害患者の治療では,『治療しよう』などと意気込まず,何とか生きてもらえるような『援助』の姿勢”とある。御意である。

 精神科医歴21年の評者は,いちいち肯き,膝を叩きながら本書を読んだ。本書が全ての若手精神科医の必読書となれば,間違いなくわが国の精神科医療の質はめざましく向上するだろう。

 それにしても不思議だ。評者は,本書を読みながら,何ともいえない懐かしさを覚えたのだ。この感覚,どこかで経験したことがある。すぐにわかった。そうだ,これは,自分がまだ駆け出しのころ,夜遅くまで精神科医局に居残って酒を飲みながら,少しだけ先輩の精神科医にアホな質問をしていたときの気安さ,それとよく似ているのだ。

 最近の若手は,仕事を終えるとさっと職場を引き上げてしまう者が多いようだが,これからは,本書が「夜の精神科医局」の代わりを果たしてくれるかもしれない。
総合診療医や研修医,コメディカルにもとっつきやすい入門書
書評者: 佐藤 健太 (勤医協札幌病院・副院長)
 精神科の若手向けの入門書という設定のようですが,総合診療医である評者が読んでもとても面白く,新たな発見や学びもたくさんありました。

 筆者は以前にも初期研修医向けやプライマリケア医向け,精神科初学者向けの類書を書かれていますが,「単に教えたいことを書き連ね,言い放っておしまい」ではなく,いずれも若手の視点や悩みを熟知した上で「読者が読んで納得し,ふに落として,明日からの考え方や言動が確実に変わる」ことを意識して丁寧に丁寧に書かれているのが,本書にも貫かれている基本姿勢だと感じます。

 筆者自身が丁寧に学び,学んだ内容を同僚や後輩とシェアし,その反応を丁寧に拾いながらブラッシュアップしてきたのだと伝わってきますし,おそらく臨床でも同様に患者とのやり取りを丁寧に行われているのだろうと想像します。

 総論にあたる第1~3章は,「精神医学とは!」といった堅苦しいものではなく,初学者が必ず悩む疑問を中心に書かれています。

 診療の時の心がけや「共感」のあり方,精神科独特の初診外来や家族対応,DSMの是非などについて,わかりやすく学習者の疑問に答えるように書かれているため,精神医学に対して苦手意識がある人でも気持ちが楽になれる内容です。

 患者との対話や養生などを重視される一方で,避けては通れない「薬の処方」についても,患者への説明の仕方,(他書ではあまり解説されない)減らし方・やめ方や“プラセボ効果の乗せ方”,添付文書に運転禁止と書いてあるけど実際にどうするかなど,現場でよく遭遇するのに本では勉強しにくい口伝的な内容について具体的に解説されているため,周囲に相談できる精神科医がおらず独学で孤軍奮闘している人でも「ああ,そういう対応でいいんだ」と安心できます。

 また,患者さんとの対話の実例が,若手医師として人生の先輩である患者さんを相手に語ってきた言葉としてたくさん提示されています。研修医でも口にしやすい日常用語や身近な例えが多いため,精神医学の大家の名言集よりはそのまま普段の臨床に流用できそうであり,類書にないお得な点だと思います。

 各論に当たる第4~14章では,枝葉のマニアックな疾患はそぎ落とし,頻度の高い統合失調症・双極性障害・うつ病・不安症・睡眠障害などの疾患や,「教科書通りに薬出して終わり」にはなりにくく精神科以外でも遭遇しやすい身体症状症・アルコール依存症・認知症・発達障害など,現場目線での重要度に応じてピックアップされています。

 構成はあえて統一されておらず,疾患ごとに臨床上よく遭遇する問題に絞って解説されているため一見とっつきにくいかもしれません。しかし,内容は伝統的・教科書的な説明にとどまらず,必要に応じて最新の論文やその道の権威のエキスパートオピニオンにも触れながら,筆者個人の見解がきちんと書かれているため,他の書籍で十分勉強している人でも必ず新しい発見があると思います。また,疾患や患者とお付き合いする上で常に根底においてほしい姿勢・考え方については,疾患・章が変わっても繰り返し同様のメッセージが強調されています。

 このため,今担当している患者についての切迫した悩みを解決するための拾い読みでも十分役には立ちますが,できれば時間をかけて通し読みをして筆者の考え方を吸収したほうが,より本書の良さを満喫できると思います。全体的な語り口も,無味無臭な硬い言い回しではなく読者に語りかけるような柔らかいトーンのため,机に向かって集中してお勉強するよりは,暇な時間ができたときにリラックスして寝転んで読みながら「ふむふむ」と納得して楽しむための本かなと思います。

 また,単一著者の書籍では「Column」に著者の個性や人柄が現れて好きなのですが,本書はこの点でも期待を裏切らず楽しめました。著者のブログを愛読している人であれば,ニヤリとする記載もあります。

 このように,教科書のように一から十まで網羅して書いてある本ではないため,まだ精神科ローテをしていない学生・初期研修医ではまだ実感は湧かず,試験勉強対策にも使えないでしょう。しかし,精神科ローテで患者を担当し,教科書や文献で勉強しても解決しない疑問が募ってきた研修医や,日常的にメンタルヘルスケアに悪戦苦闘しながらかかわっているプライマリケア医・総合診療医が読むと,そのもやもやの全てではないにしろかなりの部分がすっきりするのではないかと思います。また,医師に限らず,メンタルヘルスに課題を抱えた方とかかわる看護師など,精神科臨床にかかわる全ての職種にとっても,とっつきやすく学びも多いと思います。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。