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統合失調症薬物治療ガイドライン

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統合失調症患者に対する薬物治療について、薬剤の選択や用量、投与期間などの基準をまとめた学会編集のガイドライン。初発時、再発・再燃時、維持期、治療抵抗性など疾患の段階・状態ごとに、「継続投与か、中止か」といった臨床家が判断に迷う状況について可能な限りエビデンスに基づいた対応策を提示する。本文は全編クリニカル・クエスチョン形式を採用。
編集 日本神経精神薬理学会
発行 2016年06月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-02491-4
定価 3,960円 (本体3,600円+税)
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『統合失調症薬物治療ガイドライン』発刊にあたって本ガイドラインを読む前に(専門家 および 患者さん・ご家族・支援者の方に)

『統合失調症薬物治療ガイドライン』発刊にあたって
 このたび,日本神経精神薬理学会が日本統合失調症学会のご協力を得て作成した『統合失調症薬物治療ガイドライン』を書籍化し,発刊する運びとなりましたので,そのご紹介を兼ねて一言ご挨拶申し上げます。
 本ガイドラインが作成された背景には,本邦におけるエビデンスに基づいた統合失調症治療のガイドラインがなかったこと,本邦の医療事情を考慮したガイドラインも存在しなかったこと,エビデンスに基づく医療の普及・均てん化の必要性が認識されていたことがありました。ただし,多くの治療法がある中で,今回は比較的エビデンスレベルの揃った薬物療法に限定したものとし,公益財団法人日本医療機能評価機構の医療情報サービス(Minds)から示されている方法に準拠して作成された点が特徴です。学会内に設置されたタスクフォースによる作成作業は2013年に始まり,約2年の歳月をかけ2015年9月から日本神経精神薬理学会のホームページ上にて掲載・公表されています。
 今回書籍として出版することにした理由としては,学会のホームページ上で閲覧可能となっているとはいえ,(1)必ずしもその存在が広く認識されてはいないこと,(2)テキスト形式で書かれており図表もなく読みづらいものとなっていること,(3)長文の資料をダウンロードする必要があること,(4)原文の解説は紙幅の関係で最低限の内容となっていることなどが挙げられます。したがって,この書籍はガイドラインへのアクセスを容易にし,利便性を大幅に向上することを目的として編集されたものであり,今回の出版によりこのガイドラインが本邦の統合失調症治療にさらに少しでも貢献できるものとなれば,関係者一同の大きな喜びであります。出版に至るまでには,タスクフォースメンバーの献身的な努力と,医学書院の担当者の方々の絶大なるご尽力があったことをここに付記し,この場を借りてあらためて皆様方に深謝申し上げます。

 2016年5月
 一般社団法人日本神経精神薬理学会理事長
 石郷岡 純


本ガイドラインを読む前に(専門家 および 患者さん・ご家族・支援者の方に)
 このガイドラインは,統合失調症の治療にあたる専門家に向けたものですが,当事者やご家族や支援者などのお立場の方も手に取ることがあると思います。そこで,どのような趣旨のガイドラインであるかを,最初にごく簡単にご説明させていただきます。
 このガイドラインは,統合失調症の診断がはっきりしている方について,薬物での治療を進める際の「薬物の種類の選択基準」を示したものです。そして,このガイドラインを読む際には,いくつかご注意いただきたいことがあります。
 第1は,統合失調症の診断がはっきりしている方を対象としたガイドラインであることです。実際の診療の中では,似た症状を認めても統合失調症ではない場合や,特に病気の初期に統合失調症であるかどうかを明確に診断できない場合があります。そうした場合,このガイドラインは適応できません。また,統合失調症という診断であっても他の病気の特徴を併せもつために,このガイドラインの基準がそのままあてはまらない場合もあります。
 第2は,統合失調症の治療を薬物療法だけで進めることを示しているわけではないことです。統合失調症の治療は,薬物療法と心理社会的療法を組み合わせて行います。症状の種類や病気の時期によって,薬物療法の効果が高い場合もありますし,心理社会的療法の効果が高い場合もあります。その両者を上手に組み合わせると,統合失調症における脳機能や心理機能の失調の改善が促進され治療の有効性が高まります。そのため,薬物療法と心理社会的療法の組み合わせが統合失調症治療の大前提となります。いずれか一方だけでは,治療の十分な効果は期待できません。さらに,信頼し合える人間関係や安定した生活などから得られる安心感が,そうした専門的な治療の基盤になります。煩雑さを避けるために,ガイドラインの個別の記述ではこのことを繰り返していません。そのため個別の文章を読むと,薬物療法だけで治療を進めることを推奨したり,あるいは他の治療よりも薬物療法の効果が高いことを示しているという印象を受ける部分があるかもしれません。それはこのガイドラインの趣旨ではありませんので,誤解のないようにお願いします。
 第3は,このガイドラインは一般論を示していることです。統合失調症の病状は,患者さんごとに様々です。また患者さんごとに,生活の状況が異なります。さらに,薬物の効果や副作用にも,個人ごとに差があります。こうした様々な多様性を平均してできあがったものが,ガイドラインです。そのため,お一人お一人の患者さんの具体的な個別の場面では,このガイドラインにおける推奨があてはまらない場合があります。ガイドラインの推奨に従っていないことだけを理由に,適切でない治療を行っていると判断できるわけではありません。ガイドライン以上に,それぞれの治療場面での個別の専門的な判断が優先されます。
 「ガイドライン」という名前からは,規則のような印象を受けるかもしれませんが,そうした理解は適切ではありません。多くの患者さんについての多くの専門家の経験をまとめたという意味での意義と有用性はありますが,無条件で従わなければいけないルールではありません。専門家が実際の診療を進める上での根拠や参考として用いるとともに,患者さんやご家族と専門家が治療について一緒に相談する際の1つの資料として価値があるものです。ガイドラインについても専門家の判断についても,患者さんやご家族がそれを一方的に受け入れるのではなく,お互いに希望や考えを出し合って治療の方針を合意していくことが,統合失調症をはじめとする精神疾患の治療の基本となります。そのために利用していただくことで初めて,ガイドラインの本当の意味を生かすことができます。このような協働を通じて,症状や病気と上手に向き合い,ご本人が望む生活の実現を目指し,自分らしい生き方を見つけていくことが,統合失調症の治療の目標です。

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執筆者一覧
『統合失調症薬物治療ガイドライン』発刊にあたって
本ガイドラインを読む前に(専門家 および 患者さん・ご家族・支援者の方に)


第1章 初発精神病性障害
CQ1-1
初発精神病性障害に対して,好ましい抗精神病薬はどれか?
CQ1-2
初発精神病性障害で最適な抗精神病薬の用量はどのくらいか?
CQ1-3
初発精神病性障害において,抗精神病薬の治療反応を判定する
最適な期間はどのくらいか?
CQ1-4
初発精神病性障害の再発予防効果における抗精神病薬の
最適な治療継続期間はどのくらいか?
第2章 再発・再燃時
CQ2-1
統合失調症の再発・再燃時,切り替えと増量のどちらが適切か?
CQ2-2
統合失調症の再発・再燃時,有用性と推奨用量について
エビデンスのある抗精神病薬は何か?
CQ2-3
統合失調症再発・再燃時に,抗精神病薬の併用治療は
単剤治療と比較してより有用か?
CQ2-4
統合失調症の再発・再燃時に有効性,副作用において,
単剤治療と抗精神病薬以外の向精神薬併用とどちらが適切なのか?
第3章 維持期治療
CQ3-1
維持期統合失調症患者において,
抗精神病薬の服薬中止と継続のどちらが推奨されるか?
CQ3-2
維持期統合失調症患者の抗精神病薬治療において,
再発率減少や治療継続に好ましい薬剤はどれか?
CQ3-3
抗精神病薬の持効性注射剤(LAI)は経口薬に比して有用か?
どのような患者に対して使用すべきか?
CQ3-4
維持期統合失調症において,抗精神病薬の減量は有用か?
CQ3-5
安定した維持期統合失調症の経口抗精神病薬薬物治療における
適切な投与間隔はどのくらいか?
第4章 治療抵抗性
CQ4-1
治療抵抗性統合失調症におけるクロザピン治療は有用か?
CQ4-2
クロザピン治療が有効な症例に副作用が生じた際の対処法は何か?
CQ4-3
クロザピンの効果が十分に得られない場合の併用療法として
何を選択すべきか?
CQ4-4
クロザピンを使用しない場合,治療抵抗性統合失調症に対して
修正型電気けいれん療法(m-ECT)は有用か?
CQ4-5
治療抵抗性統合失調症に対する,クロザピンやECT以外の
有効な治療法は何か?
第5章 その他の臨床的諸問題
CQ5-1
精神運動興奮状態に対し推奨される薬物療法はどれか?
CQ5-2
統合失調症の緊張病に対し推奨される治療法はどれか?
CQ5-3
統合失調症の抑うつ症状に対してどのような薬物治療が有効か?
CQ5-4
統合失調症の認知機能障害に対して推奨される薬物治療法はあるか?
CQ5-5
病的多飲水・水中毒に対して推奨される薬物治療法はあるか?
CQ5-6
錐体外路系副作用に推奨される治療法および予防法は?
CQ5-7
悪性症候群に対して推奨される治療法はあるか?
CQ5-8
抗精神病薬による体重増加に対して推奨される治療法はあるか?
索引

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臨床的な疑問に対して最新の文献を基に答えた一冊
書評者: 井上 猛 (東京医科大教授・精神医学分野)
 統合失調症の薬物治療の際には,何がわかっていて,何がわかっていないのか,を知っていることは重要である。昔から自分が思い込んでいたり,精神科医の中で言い伝えられてきたりしてきた知識が実は根拠のないことであるということを知り,愕然とすることがある。例えば,本書では,副作用のアカシジアの対処としては,抗精神病薬の減量,定型から非定型抗精神病薬への変更を推奨しており,他の抗コリン薬,ベンゾジアゼピンなどの併用は推奨していない。若いときから,「低用量の抗精神病薬でアカシジアは生じやすく,高用量ではむしろ起こりにくい」という説を聞くことがあり疑問に感じていたが,本書を読んでこの説が間違っていたということを知った。

 本書では,私たち精神科医が日頃から感じている臨床的な疑問(clinical question:CQと表記されている)に対して,最新の文献を基に,しかも論理的に回答している。まだ十分に研究が行われていないために十分なエビデンスが存在しない場合には,ごく控えめな推奨となっている。したがって,積極的に推奨している場合には自信を持ってその推奨を信じたほうがよいが,エビデンスレベルが低い場合は,まだよくわかっていないため推奨度が低いと考えたほうがよい。例えば,上に例を挙げたアカシジアに対する抗精神病薬以外の薬物併用療法は実臨床ではよく行われていると思われるが,このガイドラインでは「併用しないことが望ましい」と結論している。この非推奨のエビデンスの強さは低く,「行わないことを弱く推奨している」というニュアンスであることが,推奨度として本書で明記されている。このように,推奨度とエビデンスの強さがきちんと明記されているので,本書を読むときに参考にされるとよい。併用の効果が強く否定されるほどではないがエビデンスは弱いので,むしろ他の抗精神病薬への変更のほうがエビデンスの強さは高いし,お薦めであるということかと推察する。さらに,抗精神病薬の減量のほうがエビデンスレベルは高いとは言えないがよりお薦めであるということでもあろう。このように痒い所に手が届く配慮がなされていることにより,微妙な判断の基準を知ることができる。

 若い医師にもベテランの医師にも本書をお読みになることをお薦めする。私自身読んでとても勉強になったし,私が誤解していたこと,知らなかったことを本書から学ぶことができた。解説を読むことにより,文献,エビデンスからどのように推奨の結論が得られたかについての思考過程を学ぶことできる。もちろん,解説に対して異論を感じることもあるであろうが,それも議論としては重要なことであり,学会などでタスクフォースの先生たちに質問されるとよいのではないか。

 最後に,わが国以外ではあまり発売されていない非定型抗精神病薬についても言及されており,海外の文献から得られない知識が得られる点でも本書は非常に有用である。少しだけ残念なことは,海外では既に発売されていて,国内でも最近発売されたか,あるいは現在開発中の非定型抗精神病薬についての言及がなかったことであるが,これは無理もないことなので,改訂版にぜひ期待したい。
簡潔な記述に最新内容を盛り込んだ実践的な良書
書評者: 大森 哲郎 (徳島大大学院教授・精神医学)
 日本神経精神薬理学会が編集したこの『統合失調症薬物治療ガイドライン』は,簡潔な記述に最新内容を盛り込んだ実践的な良書である。作成の実務を担当したのは,各地で活躍する気鋭の精神科医で,大学で言えば准教授や講師に相当する世代である。ここ20年間の新規非定型抗精神病薬の導入を契機として,すっかり様変わりした統合失調症の薬物療法を語るのに最もふさわしい布陣となっている。

 全体は大きく5章に分かれ,第1章「初発精神病性障害」,第2章「再発・再燃時」,第3章「維持期治療」,第4章「治療抵抗性」,第5章「その他の臨床的諸問題」と続き,それぞれの章ごとにいくつかの臨床疑問(clinical question : CQ)が設定され,それに関する推奨治療を提示し,その推奨に至ったエビデンスと検討過程を解説するという特徴的な構成となっている。例えば第2章のCQ2-1は,再発・再燃時に切り替えと増量のどちらが適切かを取り上げる(p.24)。これへの推奨として,アドヒアランスを含めた現在の治療を振り返ること,増量の余地があれば増量すること,持効性製剤を考慮すべき場合があること,切り替えはその後の選択肢となることなどが述べられ,この推奨の理由となるエビデンスが手短に解説されている。さらに再発・再燃時の対応として,有用性と推奨用量にエビデンスがある薬物は何か(CQ2-2),抗精神病薬の併用は単剤よりも有効か(CQ2-3),抗精神病薬以外の向精神薬の併用は有効か(CQ2-4)と,日々直面する臨床疑問が続く。

 第4章では,クロザピン治療の推奨でよしとするのではなく,その効果が部分的であった場合の併用療法は何か,修正型電気けいれん療法(m-ECT)は有用か,クロザピンやECT以外の治療法はあるかなどがCQとして追及される。第5章では,精神運動興奮,緊張病,抑うつ症状,認知機能障害,水中毒などに対する治療が俎上に乗せられている。第1章と3章についてはCQを紹介する紙幅がないが,全5章いずれのCQも臨床現場では切実なものばかりである。

 これらのCQに対し,臨床エビデンスを尊重して推奨治療が提示されるが,過度にエビデンスに固執すると何も言えなくなってしまうこともある。そういう場合には作成者の現場感覚が生かされて,診察室で役立つガイドラインに仕上がっている。言うまでもなくガイドラインは治療を縛るものではない。特定の抗精神病薬の名が挙がるのは治療抵抗性に対するクロザピンのみである。治療選択は常に主治医に委ねられる。ガイドラインにはその前に考えるべきことが凝縮されているのである。

 本ガイドラインは実は日本神経精神薬理学会のウェブサイト上に公開されている。見比べると,明解な図表と理解促進のための補記が加わっている点で書籍版は一層充実した治療の手引きとなっている。なお,本ガイドラインは守備範囲を薬物療法に限定し,心理社会的治療には言及していない。後者を軽視する意図のないことは本文中(p.vii)に明言されている。

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