保護者が納得!
小児科外来 匠の伝え方

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「抗菌薬をください!」「頭をぶつけたからCT撮って!」「予防接種って本当に必要?」「熱が下がれば登校できる?」「なかなか身長が伸びません」etc.小児科外来では、保護者から多様な疑問や訴えが寄せられます。保護者とのやり取りに難渋する前に、ベテラン小児科医の外来をこっそりのぞいてみてください。保護者が納得する説明の仕方、教えます!
*「ジェネラリストBOOKS」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ ジェネラリストBOOKS
編集 崎山 弘 / 長谷川 行洋
発行 2017年04月判型:A5頁:228
ISBN 978-4-260-03009-0
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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まえがき

 「門前の小僧習わぬ経を読む」の如く,内容を完全に理解していなくても繰り返し聞いている表現を真似することは比較的容易なことです.その逆に,経文を読み込んで教義を理解していても,「経を読む」時の口調や抑揚などを字面から感じ取ることは困難です.小児科の診療において,医師として主訴と所見から得られた情報をもとに思考力を発揮して診断することができたとしても,何も言わずに黙って治療をすることはありません.このような主訴と所見から医師としてこのように考えている,診断している,このような治療計画を立てているということを,子どもや保護者に説明する必要があります.この伝える力,表現力は診断する能力と同じぐらいに重要なものです.
 しかし,この表現力を習う機会はほとんどありません.上級医の診療に陪席することがあれば「こうやって説明するとわかりやすいのか」と感心することもあるでしょうけれど,そのような機会は研修期間のわずかの間だけです.その後は試行錯誤しながら自分で表現力を身につけていきます.長年にわたって診療をしていると,自分としては短時間で適切に説明できると考える決まり文句,よく使うフレーズがいくつかできあがっていくものです.
 この本の主な目的は,適切に相手に伝わる表現力を身につけることです.当然のことながら,他人の表現を真似すればよいということではありません.真似するところから学ぶこと,経験豊富な医師の表現方法とその根拠や工夫を知ることによって,いままで自分では上手に表現できなかった理由を見つけて,自分自身の表現を磨くことができるように,この本は書かれています.
 小児科外来でよくある状況を題材としましたが,必ずしも代表的な場面が網羅されているわけではありません.海外旅行のための外国語の例文集とは異なります.これらの表現を覚えて使うというものではありません.各自が経験する個々の症例において患者背景や疾患の重症度などは異なりますから,同じ表現を使うことが可能な症例のほうが少ないはずです.熟練した医師がこの表現方法を選んだ理由を知ることによって,読者の方々の表現力もきっと向上するでしょう.
 また,個々の内容のエビデンスレベルは必ずしも高くありません.説明の中の表現方法としての例文ですから,一部の文章を抜き出しても一般的なエビデンスレベルを保証する内容ではないことに留意してください.この本は学術的な教科書として文章を掲載しているわけではありません.現段階での医学的な定説に基づいて内容を確認していますが,1つひとつの表現について内容の厳密さは要求していません.実際に説明としてこれらの表現を利用する際には,該当患者の状況やその時点でのエビデンスに応じて医学的に適切な表現を使っていただくようお願いします.
 診断基準を羅列して「診断基準を満たします.よって,私は診断しました」ということに間違いはありませんが,医師自身はそれで納得できたとしても,医学的に素人である患者側にはほとんど何も伝わらないでしょう.患者(聞き手)の疑問を1つひとつ解消して,納得してもらってから治療内容に同意を得る.インフォームド・コンセントの第一段階,理解してもらうために表現方法を駆使することの重要性をぜひ理解してください.
 いまからあなたの目の前に多くの指導医が登場します.その診療を脇で見ていると思って,この本を読んでみてください.

 2017年3月
 編者を代表して 崎山 弘

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まえがき

第1章 診察を始める前に
 患者への適切な説明と心構え-診療で最も大切なこと
 伝え方のテクニック-保護者に子どもの現状を理解してもらうための話

第2章 状況別 保護者の疑問・訴え
 診察を始めましょう
   「メモに経過を全部書いてきたので読んでください」
 外来でよくみる症状・訴え
  発熱・けいれん
   「初めての熱性けいれん,心配です」
   「発熱したら体は温めるの?冷やすの?」
   「解熱薬はどう使えば効きますか?」
   「どういう時に救急車を呼んでもよいのでしょうか?」
  嘔吐・下痢・便秘
   「嘔吐と下痢が続いているので,点滴をして!」
   「便に血が混ざっています!」
   「便秘だが,薬はくせになるので使いたくありません」
  咳・喘鳴
   「夜間,咳がひどくて眠れません」
   「喘息と診断されました.どうしたらよいのでしょう?」
  腹部症状
   「陰嚢が膨らんでいます!」
  耳・鼻症状
   「鼻水が止まりません!」
   「耳垢は取ったほうがよいですか?」
  皮膚症状
   「いつも皮膚がカサカサしています」
   「ステロイドをやめると,すぐに湿疹が悪くなります」
  アレルギー
   「卵を食べたら発疹が出たので,卵アレルギーですよね?」
  痛み・怪我
   「お腹を丸めて痛がっているから早くみて!」
   「頭をぶつけたのでCTで脳を確認してほしい」
   「顔に怪我をさせてしまった!傷跡は残りますか?」
  感染症
   「保育園に入ってからかぜばかりひいています.ストレスですか?」
   「熱が下がれば登校できますか?」
 乳幼児健診
   「離乳食が進まず,体重が増えていないようです」
   「上の子より発達が遅れている気がします」
   乳児健診の際に伝える,自宅でできる傷害予防の話
 予防接種
   「日本脳炎の予防接種って本当に必要ですか?」
   「任意の予防接種はしなくていいんですよね?」
   「薬を飲んでいても予防接種はできますか?」
 学校検診
   「この子は太りすぎですか?」
   「学校検尿で血尿が出ました!」
   「お腹を痛がり,不登校傾向です」
 成長・発達の問題
   「なかなか身長が伸びません」
   「ADHDと診断されました.どうしたらよいですか?」
   「私たちの声が届いていないみたい.自閉症ですか?」
   「チックを治してください!」
   「ダウン症児の発達の遅れが心配です」
 服薬・点滴
   「かぜ症状があり発熱しています.抗菌薬をください!」
   「保育園に通っているので,1日3回も薬を飲めません」
   「薬をのんだ後に嘔吐しました.もう一度飲ませたほうがいいですか?」
   「かぜをひいて熱がある.入試なので点滴して治して!」
 虐待
   受傷時に,虐待の可能性が否定できない時
   「虐待してしまいそう……」
 禁煙支援
   「たばこは家の中では吸いません.外で吸っています」
 診察の終わりに
   「お薬出しておきますね」で診察を終わりにしていませんか?

索引
編者紹介

COLUMN
(1)スタッフが伝える
(2)メモを持参してもらう利点
(3)医師が説明を始める前に
(4)「観察」と「監視」
(5)保湿剤と塗布の仕方(FTU)
(6)スモールステップで伝える
(7)アトピー性皮膚炎の指標TARC
(8)伝わらない言葉とその置き換え(医学用語)
(9)日本脳炎の流行と予防
(10)伝わらない言葉とその置き換え(曖昧な表現)
(11)血尿への対応,尿の色から推定できる疾患
(12)ダウン症児の合併症
(13)説明の時間を確保するために
(14)虐待の進行と予防
(15)否定する言葉は聞く耳をふさぐ
(16)笑い話のようなすれ違い

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豊富な臨床経験が紡ぐトラブル防止のアドバイス
書評者: 五十嵐 隆 (国立成育医療研究センター理事長)
 コミュニュケーション能力が低下している人が増えている。わが国の社会全般で人間関係が希薄になっていることやIT機器が進歩し利用が進んでいることが主な原因とされているが,理由は定かではない。小児医療の現場においてもそのような傾向がみられており,その結果として医師や看護師と患者や保護者との間の理解が得られず,しばしばトラブルの原因となっている。

 今回,日頃から私が尊敬する崎山小児科の崎山弘院長と東京都立小児総合医療センター内分泌・代謝科の長谷川行洋部長の編集・執筆による『保護者が納得!小児科外来 匠の伝え方』が上梓されたことを大変喜ばしく思う。若手小児科医を指導されているお二人が日常診療の現場で医療提供者側から患者や保護者に病名,治療方針,治療計画などがうまく伝わっていないケースに出合う機会が少なくないと実感されていることが,本書を編集・執筆された動機になったと推察する。

 本書の目的は,小児医療の現場で働く医師や看護師が「適切に相手に伝えることができる表現力を身につけること」である(「まえがき」より)。本書では第1章で診療を始める前に必要な心構えとして,患者や保護者への説明が適切に行われるために,「見る・聞く・考える・話す・確認する」という総合的技術が重要であることが強調されている。第2章では,小児の診療現場でよくある状況を題材とし,説明する内容の要点,説明の際に使ってはいけない表現(禁句),保護者と子どもへの伝え方の具体例が挙げられている。その記述はどれも丁寧で具体的であり,とても理解しやすい。米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)が出版している“Bright Futures;Guidelines for Health Supervision of Infants, Children, and Adolescents”でも健診(Health supervision)の際の具体的な質問や説明がSample questionsやAnticipatory guidanceとして挙げられている。本書にも“Bright Futures”と同様の編集意図が感じられ,その結果として読者の理解を深める実用的な書籍となった。

 編集・執筆に当たられたお二人以外に本書の執筆に当たられた17名の先生方はいずれも現在第一線で御活躍中の臨床経験の豊富な小児科(専門)医で,どの章の記載も深い経験と洞察力にあふれており,納得する事項が多い。また,COLUMNでは“匠”ならではの経験から絞り出された有益なアドバイスが披露されており,どれも味わい深い。

 これまでこのような観点に立って執筆された小児医療関係の書籍はなく,その意味で本書は極めてユニークな本である。今後,小児科のsubspecialtyの診療科や小児外科においても同様の書籍が出てくると,小児医療に携わる者に大きな助けになると思う。ぜひ,多くの小児科医や看護師が本書を一読されることを願っている。
外来で繰り広げられるドラマから学ぶ-あなたもドラマの脚本家!
書評者: 内海 裕美 (吉村小児科院長)
 あなたは何を伝えたいですか? どのような伝え方の技法を知っていますか? 相手にきちんと伝わっていますか?

 人間は,高度な脳機能を持つ動物です。複雑な社会を作り出し,文化的な背景も異なり,現代は今まで以上に多様性に満ちています。「相手に伝える」は「相手から伝えてもらう・相手を受け止める」と表裏一体の関係です。伝えることを整理する,伝える表現力を磨くのと同じぐらい,患者さんや保護者が欲していることを察すること,誤解を避けることも大事です。

 子どもたちの診療においても医師だけで,その子どもの病気を診断・治療するのはとうてい無理です。子どものケアをする保護者の方に病気を理解し,ケアを実践していただかなければ子どもの医療は成り立ちません。子どもが好きで(というより大人が苦手で小児科医に進んだ人も少なくないと思います)小児科医になったが,保護者対応は想定外という感想を持つことは珍しくありません。診療自体はまったく問題がないのに,コミュニケーション不足のためにトラブルが起きてしまうことも少なくありません。

 この本は,日々研さんを積み重ねているベテランの小児科医が,保護者に伝えたいことを伝える際の表現をシェアしてくれる匠たちの心意気に溢れています。

 この本の執筆者の大半を私は存じ上げています。読んでいると,誰の執筆かわかるほど,外来でのやり取りや姿勢が鮮やかに描かれているものが多いです。まるで完結編のドラマを一本観ているような気がします。

 こんなにユーモアたっぷりに説明している! きちんと一人前に対応してもらっている子どもの笑顔が目に浮かぶ! こんなにうなずいて聞いてもらえたら患者さんはうれしいだろうな! カウンセリング技法を上手に取り入れて説明している! など,名場面がたくさん盛り込まれています。

 しかしながら,ドラマも脚本家が変わり,演じる俳優が変われば異なったドラマになるように,匠の技をそのまま暗記しても役には立たないでしょう。同じシーンでもその時々でシナリオを変化させながら相手に合わせていくのが,伝える醍醐味だと思います。ドラマのエンディングは,もちろん子どもと保護者の笑顔です。

 匠の技の後ろには,日々の研さんと,ご家族との長年のやり取りの積み重ねがあることにも思いをはせながら,自分の脚本を書き上げてみてはいかがでしょうか?

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