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H.pylori 除菌後発見胃癌の内視鏡診断

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ピロリ菌感染は胃癌発症に重要な役割を持っているが、ピロリ感染胃炎の除菌が保険適用となり、胃癌の予防効果が期待されている。しかし、臨床的には除菌成功後にも胃癌は経験しうる。除菌前・後の胃粘膜の比較、除菌後胃癌の特徴、除菌後胃をみたらどの所見を癌と診断し、いままでの診断学に修正を加えるのかなど、来たるべき除菌後胃が多くなる時代に備え、羅針盤になるテキストである。
八木 一芳 / 味岡 洋一
発行 2016年05月判型:B5頁:100
ISBN 978-4-260-02481-5
定価 6,600円 (本体6,000円+税)

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 2013年2月にH.pylori 除菌治療が全面的に保険適用となった.これは慢性胃炎の原因の大部分はH.pylori 感染によるものであり,それは明らかに病んだ胃であり,胃癌をはじめとした多くの疾患の母地であることが広く認められたことを意味する.慢性胃炎は今後,原因によって分類され,そのなかでも大部分を占めるH.pylori による慢性胃炎は,H.pylori が陽性の慢性活動性胃炎(chronic active gastritis) 1) H.pylori が以前は陽性だったが除菌で,または自然に消失し,活動性炎症が消失した慢性非活動性胃炎(chronic inactive gastritis) 1) の2つに分けられるようになる.それを臨床の場できちんと診断していくことが必要となる.さらに,H.pylori 感染がない正常の胃 2) も正確に診断すべきである.このようにH.pylori 未感染正常胃と慢性活動性胃炎と慢性非活動性胃炎の3つを分けて診断することが求められ,その他にA型胃炎などが特殊胃炎として分類されるようになるであろう.慢性非活動性胃炎では癌の発生が抑えられるという報告もあるが,その一方,胃炎様の内視鏡診断が困難な胃癌が発生することも報告されている 3~6).それは本書でも詳細に記載した.
 内視鏡検査施行中に慢性活動性胃炎か非活動性胃炎かを内視鏡所見から診断し 7),そして慢性非活動性胃炎から発生する従来とは異なる像を呈する胃癌を的確に診断する内視鏡診断技術 5, 6) がこれからは求められる.なぜならば慢性非活動性胃炎は増加し,いずれは慢性胃炎の大部分を占めるからである.
 筆者らはその時代がすぐそこまできていることを見据えて,慢性非活動性胃炎粘膜の特徴,そしてそこから発生する癌の特徴を検討してきた.本書では,それらをできるだけわかりやすく記載した.内視鏡室にも1冊置くことで1例1例の胃炎診断に,また胃癌の診断にきっと役に立つと信じている.

 2016年3月
 八木一芳,味岡洋一

文献
1)中島滋美,九嶋亮治:3. 病理診断と一致する慢性胃炎の内視鏡診断と分類.春間 賢(監):胃炎の京都分類.pp121-124,日本メディカルセンター,2014
2)八木一芳,味岡洋一:胃の拡大内視鏡診断 第2版.pp7-16,医学書院,2014
3)Ito M, Tanaka S, Takata S, et al:Morphological changes in human gastric tumors after eradication therapy of Helicobacter pylori in a short-term follow-up. Aliment Pharmacol Ther 21:559-566, 2005
4)Kobayashi M, Hashimoto S, Nishikura K, et al:Magnifying narrow-band imaging of surface maturation in early differenyiated-type gastric cancers after Helicobacter pylori eradication. J Gastroenterol 48:1332-1342, 2013
5)Saka A, Yagi A, Nimura S:Endoscopic and histological features of gastric cancers after successful Helicobacter pylori eradication therapy. Published online:10 March 2015
6)八木一芳,坂 暁子,野澤優次郎,他:除菌後発見胃癌の質的診断と範囲診断のコツ-特にNBI拡大内視鏡について.Gastroenterol Endosc 57:1210-1218, 2015
7)Yagi K, Saka A, Nozawa Y, et al:Prediction of Helicobacter pylori status by conventional endoscopy, narrow-band imaging magnifying endoscopy in stomach after endoscopic resection of gastric cancer. Helicobacter 19:111-115, 2014

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第1章 H.pylori 陽性活動性胃炎とH.pylori 消失非活動性胃炎の内視鏡的鑑別点
 1 H.pylori 感染に伴う胃粘膜の変化
  A H.pylori 未感染正常胃
  B H.pylori 感染による慢性活動性胃炎と,炎症の進展,萎縮の発生
  C H.pylori 消失による慢性非活動性胃炎と胃粘膜の変化
 2 内視鏡による鑑別のポイント
  A 通常内視鏡観察
   1)びまん性発赤,皺襞腫大,汚い白い粘液
   2)色調逆転現象
   3)中間帯の鮮明化
   4)色調逆転現象と京都分類の地図状発赤の相関性
  B NBI 拡大内視鏡観察
   1)胃底腺粘膜腺開口部の変化
 3 NBI 拡大内視鏡による正診率と問題点
  A 正診率
  B 問題点

第2章 除菌後発見胃癌の内視鏡像と組織像
 1 除菌後発見胃癌の概念-歴史とその内視鏡的特徴
  A 通常内視鏡で胃炎様に見える癌
  B NBI 拡大内視鏡像で周囲類似の胃炎様に見える癌
 2 癌上皮と非癌上皮のモザイク現象
 3 非癌腺管の伸長現象
 4 分化型癌の上皮下進展
  A 分化型癌の上皮下進展とは何か
  B 分化型癌の上皮下進展症例
  C 上皮下進展分化型胃癌の症例呈示
 5 除菌後発見胃癌のハイリスク内視鏡所見は何か?
  A 除菌後症例の木村・竹本分類
   1)木村・竹本分類の萎縮と組織学的萎縮の乖離
  B 色調逆転現象と除菌後発見胃癌の関係
   1)色調逆転現象の組織学的意義
   2)除菌後または自然除菌後症例の色調逆転現象と胃癌の関係の検討

第3章 除菌後発見胃癌15症例の提示と解説
症例1
症例2
症例3
症例4
症例5
症例6
症例7
症例8
症例9
症例10
症例11
症例12
症例13
症例14
症例15

文献
索引

Column
 1 H.pylori -status とは?
 2 慢性胃炎の温故知新:中間帯について
 3 拡大内視鏡を用いたH.pylori -status診断の有用性
 4 除菌治療を行う利点と留意点

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早期胃癌診療に従事している全ての方に
書評者: 二村 聡 (福大講師・病理学)
 このたび,医学書院から 『H. pylori 除菌後発見胃癌の内視鏡診断』 が上梓されました。評者は内視鏡医ではありませんが,書評を強く依頼されました。数回ほど読み返しましたので,読後の感想を正直に述べたいと思います。

 まず,90ページほどの,やや薄手のテキストゆえ,一気に読み終えることができました。病理医の評者にも記述内容を理解することができました。たいへん平易な言葉遣いで著述されています。掲載症例は全て八木一芳先生の自験例のため,文章にも説得力があります。そして,病理組織像は味岡洋一先生が的確に,かつ美しく撮影されており,術語も吟味して用いているので臨床家にも理解しやすくなっています。出身校も学年も同じというお二方のコラボレーションの賜物だと感じました。掲載写真はいずれも美しく,目にも優しいレイアウトに仕上がっています。評者の個人的感想はこれくらいにして,本書の内容について少し言及してみましょう。

 第1章では,H. pylori 未感染胃,慢性活動性胃炎,慢性非活動性胃炎…といった,胃炎の京都分類に準じて術語を用いています。これに,びまん性発赤,汚い白い粘液,そして,中間帯,色調逆転現象…とさまざまな術語がめじろ押しです。その術語の意味は何だろう?と思いながら読み進めると,いつの間にか次章に突入します。

 第2章では除菌後発見胃癌の概念を丁寧に述べたうえで,その内視鏡画像の特徴をわかりやすく記述しています。適宜,病理組織写真を呈示しながら,内視鏡画像との対比を試みています。そして,ちょうど良いタイミングで,おそらく著者らが最も伝えたいと推測される,「除菌後発見胃癌のハイリスク内視鏡所見」について端的に述べています。そのキーワードは,色調逆転現象です。

 最後の第3章は,これまでの内容を補完するために15例の自験例を十分な紙幅を用いて,丁寧に解説しています。病巣部の組織標本の弱拡大写真も大変見やすく,内視鏡画像所見を見事に補完しています。

 読み返すたびに,著述内容の理解が深まりました。簡潔,しかし丁寧に記述されており,テンポ良く読み進めることができます。早期胃癌診療に従事している,全ての方に味読,精読していただきたいと素直に思いました。また,八木先生のライフワークでもある,非活動性の慢性胃炎の内視鏡診断学に対する強い探究心を垣間見たと同時に,一億総除菌時代における胃癌診療の今後を見据えた内容に仕上がっていることを実感しました。

 近い将来,除菌後発見胃腺腫の特徴も追記した補訂版が刊行されることをひそかに願っています。
胃拡大内視鏡診断を“病態と組織像”から理解する唯一無二のバイブル
書評者: 間部 克裕 (国立病院機構函館病院消化器科部長)
 評者には,本書の著者である八木一芳先生(新潟県立吉田病院診療部長)との忘れられない思い出がある。今から12年前の2004年,プラハで開催されたUEGW(欧州消化器病週間)において,多くの日本人が英語での発表・質疑応答に苦労する中,八木先生は英語の巧拙ではなく,“私はこれを伝えたい”という圧倒される迫力で発表をされ,英語であることすら意識せずに評者は発表を拝聴した。このときが八木先生の魅力に取り憑かれた原点であったと思う。

 本書は,八木先生と味岡洋一先生(新潟大学大学院教授)の共著で2010年に発刊された『胃の拡大内視鏡診断』(医学書院),2014年に発刊された 『胃の拡大内視鏡診断 第2版』 に続く第三弾である。『胃の拡大内視鏡診断』は,正常胃粘膜とH. pylori 感染粘膜の内視鏡像の理解から始まる内視鏡所見と病理所見の徹底的な対比による“理解する内視鏡診断学”のバイブルである。拡大した結果から分類に当てはめて診断をするのではなく,常に背景を診断し病態を考え,倍率や酢酸など拡大観察の方法を変えながら理解し,診断する方法を学ぶことができる。第2版では従来の拡大内視鏡診断学では診断することが難しいtub2胃癌,胃底腺型胃癌,除菌後発見胃癌の診断方法が加えられ,第三弾である本書は,除菌後発見胃癌にスポットを当てた。

 さて,萎縮性胃炎の原因は加齢,消化性潰瘍の原因はストレスと胃酸,胃癌の原因は高濃度塩分の摂取,これが30年前の常識であった。これらの原因がH. pylori 感染であることが明らかにされ,病態の理解が変わり,除菌治療による治療,潰瘍再発予防,胃癌予防効果が明らかにされた。2013年にH. pylori 感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となり,全てのH. pylori 感染症が治療の対象となったことにより,除菌後症例が増加するとともに,感染率の低下によりH. pylori 未感染者が大幅に増加している。また,胃粘膜の萎縮の程度で胃癌リスクは大きく異なる。これからの内視鏡スクリーニングには,現感染,過去感染,未感染のH. pylori 感染状態を診断し,胃癌リスクを診断することが求められる。除菌治療により胃癌発生が30~40%抑制されるが,成人以降,萎縮が進行してからの除菌では胃癌発生はゼロにはできず,除菌後発見胃癌が課題となる。

 本書は,八木らが提唱した未感染粘膜の特徴であるRAC(regular arrangement of collecting venules),NBI拡大内視鏡によるピンホール・ピット,胃粘膜のA-B分類を用いてH. pylori 感染状態,背景粘膜の診断を行うことから始まる。世界で通用する内視鏡診断として所見とデータから分類された“胃炎の京都分類”を解説しながら限界を示し,色調逆転現象,中間帯の鮮明化など,組織像との対比,病態の理解から診断学を構築している。

 世界中で理解され普及している胃癌の拡大内視鏡診断,VS診断であるが,本書はVS診断では鑑別が難しい除菌後発見胃癌にスポットを当てている。癌上皮と非癌上皮のモザイク現象,非癌腺管の伸長現象,分化型癌の上皮下進展の内視鏡像と組織学的検討からの解説が進み,色調逆転現象が胃癌のハイリスクであることを示している。一見すると難しい印象を受けるかもしれないが,背景粘膜と病態から考える拡大内視鏡診断学の手法により理解が深まることは間違いない。最後に除菌後発見胃癌15例の解説が加わり,理解度をみることができる。

 本書は,拡大内視鏡所見を病態から理解できる世界唯一の成書である。本書で使われる分類や用語を暗記することよりも,所見を理解するための教科書として一読されることをお薦めする。これまで胃炎,胃癌診断に精通してきた先生から,内視鏡を始めたばかりの新人まで広く内視鏡医に読んでいただきたい著書である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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