研究指導方法論
看護基礎・卒後・継続教育への適用

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看護基礎教育、大学院での看護卒後教育、臨床での看護継続教育のそれぞれに求められる看護学研究の水準を示し、著者の豊富な経験をもとに指導の要所や研究指導の方法論の体系化を試みる。研究計画の立案やデータの収集・分析、論文執筆といった研究過程において研究者・指導者がつまずきやすい点に、実践的な指導のコツも伝授。研究助成の獲得や研究者倫理など、研究と研究指導に不可欠な要素もきめ細かくフォロー。
舟島 なをみ
発行 2015年11月判型:B5頁:320
ISBN 978-4-260-02203-3
定価 4,070円 (本体3,700円+税)

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 筆者は,1993年,千葉大学に助教授として就任し,看護教育学に携わるようになった。そこに至る13年の臨床経験,大学院における専攻,大学院修了後の短期大学における5年間の教育経験は,全て小児看護学であり,看護教育学は大学院における副専攻であった。小児看護学から看護教育学へと専門領域を変更した重大性を感じる間もなく,就任直後から大学院生の指導を開始した。就任当初,看護教育学を専攻する大学院生は博士後期課程1年次生1名,博士前期課程1年次生3名,2年次生2名であり,筆者は,当時,教授であった杉森みど里先生の教えを請いながら,学士課程,博士前期・後期課程の授業と研究指導を開始した。その当時,いや,つい最近まで研究指導がいかにあるべきかなどと考える余裕もなく,無我夢中で修士論文,博士論文を指導してきた。
 その後,20年以上が経過し,筆者は,40名の修士論文,21名の博士論文を指導し,それらは,筆者の本箱に堂々と,そして大きく場所を占めるようになっている。また,筆者が研究を指導させていただいた修了生が大学院の教育に携わるようになり,筆者と同様に無我夢中で研究指導を展開するようになっていた。

 一般に,ある程度の期間,同様の仕事を継続すると,その仕事に必要な知識や技術等を修得でき,仕事の目標達成に必要なエネルギー量は減少する。しかし,筆者の研究指導の経験を振り返ったとき,修士論文,博士論文の完成を支援するために使用するエネルギー量は増加することはあっても,減少することはなかった。平易な言葉に換言するならば,「修士論文や博士論文の指導は指導経験年数や指導学生数にかかわらずいつも大変」である。もちろん,現時点における論文の質や複雑さ,広がりは,研究指導を開始した当初とは比べものにならず,これが「いつも大変」の原因となっている。また,20年以上の研究指導経験は,筆者に指導の法則性を確立させており,この法則性の存在が論文の質の向上や複雑さの増加を可能にする。さらに,この法則に則り,指導を展開していくことを通して,学生の多くはライフワークに結びつく研究課題に出会い,論文の完成へと到達している。職業生活最終章にさしかかり,これらの成果に確信を持ち,また,多くの教員が研究指導に携わる現状を知ったとき,研究指導方法論を筆者が生きた証として残したいと思うようになった。

 本書は,筆者が20年以上の歳月をかけて蓄積してきた研究指導に関わる経験知の集積である。この過程に含まれる様々な経験は,全て貴重であり,成功の経験を洗練させる努力とともに,失敗の経験も同じ失敗を繰り返さないためにどうしたらよいかを考え,試行錯誤しながら,その都度,最良の方法を考案,工夫し続けてきた。

 多くの研究指導者はその指導者なりの信念に基づき研究指導を展開しているに違いない。しかし,何らかの問題に直面し,他の教員がどのように指導しているのかを知り,それを参考にしたいと思ったとき,本書を手に取っていただければ幸いである。お読みいただき,忌憚のないご意見,ご批判をいただきたい。また,看護学研究者の養成,看護学研究の発展に向け,それらを活用し,指導方法論の充実と洗練に向かいたいと考えている。
 本書の完成に向けては,多くの方々の協力を得た。千葉大学大学院看護教育学専攻の修了生は,自身の研究の過程や研究の要約の掲載を快く同意してくださったばかりでなく,事例提供者も紹介していただいた。また,望月美知代さんは,本書の執筆に際し,様々な支援を提供してくれた。さらに,本書の出版には医学書院の複数の方々が尽力してくださった。加えて,友人Dr. Ann Mashchakは,渡米中の筆者に執筆の場として自宅を提供し,執筆の円滑化に助力してくださった。これらの方々に心より感謝申し上げる。

 2015年9月
 舟島なをみ

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第I章 看護学研究の歴史
 1 米国における看護学研究の歴史
 2 日本における看護学研究の現状とその歴史的背景

第II章 看護基礎・卒後・継続教育と看護学研究
 1 看護基礎教育と看護学研究
   1 法的基準にみる看護基礎教育と看護学研究
   2 看護基礎教育におけるミニマムエッセンシャルズ
     「研究成果の活用の重要性の理解」
   3 看護基礎教育と研究,その教育の実際
   4 看護基礎教育課程における研究指導の過程
 2 看護卒後教育と看護学研究
   1 法的基準にみる看護卒後教育と看護学研究
   2 看護卒後教育課程(修士課程)における研究指導の過程
   3 看護卒後教育課程に在籍する学生の理解
 3 看護継続教育と看護学研究
   1 看護職者の学習ニードと看護学研究の指導
   2 病院に就業する看護職者が従事する研究「院内研究」
   3 チェックリストを活用した院内研究に携わる看護職者の理解
   4 院内研究に従事する看護職者を対象とした研修

第III章 研究計画の立案とその指導
 1 研究計画立案準備とその指導
   1 文献検索に必要な知識と技術の修得を支援する
   2 看護学研究の概説書を閲読し,研究の基本的知識の修得を支援する
   3 修得した知識の活用と内在化に向け,優れた原著論文を閲読する機会を提供し,
     クリティーク(研究批評)の実施を支援する
   4 研究計画とは何かを学習することを推奨する
   5 優れた研究計画書を蓄積し,閲読する機会を提供する
 2 研究課題の決定とその指導
 3 研究計画立案に向けた文献検討とその指導
   1 先行研究を概観し,探求のレベルを決定しているか
   2 研究方法論や測定用具の決定に向けて十分な文献検討を行っているか
 4 研究計画立案に向けた文献検討と指導の実際
   1 因子探索研究の計画立案とその指導
   2 関係探索研究の計画立案とその指導
 5 研究進行計画の立案とその指導
   1 看護学士課程における標準的研究進行
   2 博士前期課程(修士課程)における標準的研究進行

第IV章 データ収集・分析とその指導
 1 面接法・観察法によるデータ収集と分析の指導
   1 面接法によるデータ収集とその指導
   2 観察法によるデータ収集とその指導
   3 面接法・観察法などにより収集した質的データの分析とその指導
 2 質問紙によるデータ収集と分析の指導
   1 質問紙によるデータ収集とその指導
   2 質問紙法により収集した量的データの分析とその指導

第V章 研究論文執筆とその支援
 1 研究論文執筆に向けた支援
 2 研究論文執筆支援反復の成果
   1 事例1
   2 事例2

第VI章 研究進行過程における研究者と指導者の相互行為
 1 指導を受ける研究者の経験
   1 修士論文作成過程の経験
   2 博士論文作成過程の経験
 2 論文作成過程における大学院生と教員の相互行為
 3 研究指導の質を決定づける基準
   1 学生が良いと感じた指導
   2 学生が良くないと感じた指導
   3 研究指導の質を決定づける基準
 4 論文作成過程を通して学生と教員が直面しやすい問題
   1 指導過程に問題を生じた学生と教員の相互行為
   2 相互行為に問題を生じさせる教員の行動と問題の回避
 5 ハラスメント防止に向けた研究者と指導者の相互行為の健全化

第VII章 研究助成の獲得とその適正使用への支援
 1 研究助成申請への動機づけに向けた支援
 2 研究助成申請書の執筆に向けた支援
 3 研究助成獲得支援の実際
   1 研究助成獲得支援を含むコース開設に向けた試み
   2 「採択申請書・不採択申請書の分析」の紹介
 4 研究助成の適正使用と成果の還元に向けた支援

第VIII章 「研究者倫理」-その教育の模索
 1 研究者の倫理的行動とその定義
 2 研究者倫理に関わる教育とその内容
   1 科学者・研究者の行動規範を精読し,それについて考える機会を提供する
   2 研究者の倫理的行動を導くために必要な知識と技術を修得する機会を提供する
   3 研究の不正行為に対する理解を深める機会を提供する
   4 意図しない研究上の誤りを回避する
 3 研究者倫理に関わる授業の構築

資料1 ICN看護師の倫理綱領(2012年版)
資料2 看護者の倫理綱領(日本看護協会)
資料3 看護研究のための倫理指針(国際看護師協会)
資料4 看護研究における倫理指針(日本看護協会)
資料5 声明 科学者の行動規範-改訂版(日本学術会議)

索引

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研究指導方法論の書として広く通用する,手元に置いておきたい一冊
書評者: 古在 豊樹 (NPO法人植物工場研究会理事長/千葉大名誉教授)
 看護系大学院生・看護職者に適切な研究指導を行うには,教員の研究指導能力の継続的向上が欠かせないが,研究指導方法論に関する専門書は極めて少ない。他方,学術誌への掲載時に要求される研究論文の質の高さや複雑さの水準は年々高くなり,一昔前の研究指導方法論では通用しない。

 舟島なをみ著『研究指導方法論——看護基礎・卒後・継続教育への適用』は上述の状況に対応した,実践的かつ体系的な研究指導方法論の書である。著者が集積した経験知から見いだした研究指導に関する法則性が具体例とともに述べられている。本書の内容は,看護学研究にかかわる,歴史と意義,研究計画立案,データ収集・分析,研究論文執筆,研究助成獲得,研究費の適正使用,研究者倫理の指導方法論と支援法など多岐にわたる。その中で,他に類を見ない特色は第VI章の「研究進行過程における研究者と指導者の相互行為」である。修士・博士論文の作成過程における大学院生と教員の相互行為に関する基準および生じやすい問題とそれへの対応法の具体例が経験知から得られた法則に基づいて述べられ,研究指導に悩んだ時に役立つ示唆が得られる。

 上述の法則性にのっとり研究指導された学生の多くは,その過程で,卒後のライフワークに結び付く研究課題に出合い,研究論文を完成させる遂行能力を身につけ,並行して将来の研究指導者としての能力も高めることができる。研究指導に課題を抱えている教員が研究指導の法則性を学び,それを自身でさらに発展させる能力が得られることの意義は大きい。なお,本書の目次(章節)構成,文章中の語句,語順の論理展開が見事であり,本書の文章そのものが論文執筆のお手本になる。

 本書の著者は,研究論文に加えて,数多くの単著,共著,編著,監修書を著してきた。研究教育者としてのこれらの実績が本書の源泉となっている。その意味で,本書は,著者のライフワークの集大成の書と言える。本書の「序」で,「筆者が生きた証として(本書を)残したい」(p.III)と述べているのは本心であろう。

 本書の著者紹介欄に述べられている経歴から本書の別の特徴がうかがわれる。看護師として10年以上の病院勤務の後,文学部を卒業し,看護系大学院修士課程を修了し,その後に看護系教員となっている。他方,千葉大学大学院看護学研究科教授との兼担で,2006年からは同大学の普遍教育センター副センター長とセンター長を各4年間,計8年間にわたり担当している。

 大学入学後の普遍教育(一般には教養教育と呼ばれる)の改革と刷新に8年間にわたり尽力し,全国の関係者が注目し,多くの他大学へ普及する実績をあげた経験は,本書執筆の視座を高め,本書の研究指導方法論の骨格の一部を構成している。看護学分野だけでなく,他の教育研究分野の研究指導方法論の書としても本書が通用する部分が多いこともうなずける。看護や教育研究の実践で培われた,命に寄り添う目線が本書の基底を成しながらも,著者の哲学的素養が本書の学術的価値を高めている。手元に置いておきたい一冊である。

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