マイヤース腹部放射線診断学
発生学的・解剖学的アプローチ

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腹部放射線診断学を体系的に学べる世界的名著の翻訳。発生学的・解剖学的なアプローチから得られた知識が、実際のCT画像にどのように反映されるかが理解しやすいように構成されている。病態生理と合わせて腹部放射線画像の本質的な理解を目指したい後期レジデントから指導医クラスの放射線科医、消化器外科医・内科医、救急医まで、さらにステップアップしたい人たちのための骨太の教科書。
監訳 太田 光泰 / 幡多 政治
発行 2017年01月判型:B5頁:402
ISBN 978-4-260-02521-8
定価 15,400円 (本体14,000円+税)

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監訳の序第6版の序

監訳の序
 われわれ総合診療医はあらゆる健康問題に対するgate keeperである.そのなかでも「腹痛」は多岐にわたり,効率のよい診断推論が求められる.詳細な病歴分析と身体診察により仮説の確率を高め,診断確定のために特異度(陽性尤度比)の高い検査を行う.近年は画像検査に依存するところが大きいが,放射線診断医に24時間365日アクセスすることは,病院の事情によっては大変困難である.非放射線科読影医に最低限の読影能力がなければ,中規模病院での診療,特に夜間休日の二次救急診療に支障をきたす.筆者が勤務する足柄上病院はまさにその渦中にあるのだ.
 敬愛する兄弟子吉江浩一郎先生(足柄上病院総合診療科部長)は,若き頃,国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)の放射線科レジデントとして日々画像診断と格闘した.かくして得られた画像診断能力は卓越しており,常に筆者の羨望の的である.兄弟子は理屈っぽい筆者の性格を見抜き,“Meyers' Dynamic Radiology of the Abdomen: Normal and Pathologic Anatomy”を紹介してくれた.もう15年も前のことである.症候を発生学,解剖学,生理学,生化学にまで落とし込む診断学の道を進み始めた筆者は,ますます理屈っぽくなった.そんな筆者にとって“Meyers”は大変ありがたい成書であり続ける.仮説通りの画像になっているのかを読み込むための方法論を示してくれるからである.昨今,Cookbook的医学書が席巻しているが,それらは「ハマれば」即効性があるものの,「ハマらなければ」空振りである.一方,名著は読者にしっかりと理論をたたき込み,困った時にこそその真価が発揮されるものだ.これを後輩たちに伝えなければとの思いで,弟弟子の岩渕敬介先生をはじめ足柄上病院を支える総合診療科,消化器内科のメンバーに「勉強のつもりで名著を翻訳しないか?」と声をかけた.どんな反応を示すか不安であったが,みな二つ返事でOKしてくれた.翻訳指導は,同級生であり横浜市立大学放射線腫瘍学教授の幡多政治先生,企画当時,当院の読影医であった高瀬浩一郎先生にお願いした.幡多先生とは大阪のおいしいお好み焼きツアー以来23年ぶりのコラボだが,「なんで内科医がMeyers?」と思ったに違いない.
 常々筆者は,「正しく学べば,われわれだってできる」と自らを鼓舞している.この腹部放射線診断の指南書は間違いなく「正しい学び」を提供するものである.放射線科医,消化器内科医のみならず,マンパワー不足に耐え地域医療に従事する医師諸兄に,本書を通じて「われわれだってできる」とメッセージを送ることができれば幸甚である.
 最後に,「これで学べ」と諭してくれた吉江浩一郎先生,本企画遂行に八面六臂の活躍の足柄上病院消化器内科チーフ 國司洋佑先生,地域医療に専心する後輩たち,若手医師の相談にのってくださった玉井拙夫院長,加藤佳央副院長,宮本一行前院長,そして怠惰な私を常に支えてくださった医学書院 西村僚一氏,長友裕輝氏に心より感謝の意を表したい.

 リオデジャネイロオリンピックに沸いた2016年
 監訳者を代表して 太田光泰


第6版の序
 “Meyers' Dynamic Radiology of the Abdomen: Normal and Pathologic Anatomy”の初版の序で述べたことであるが,本書では腹腔内疾患を実践的に理解し,診断するための解剖学的,機能的原理をシステマティックに適用することを紹介する.臨床的洞察と合理的なシステム,すなわち,過去の版で概説した腹腔内の動的なつながりに関して好意的評価によって弾みがついた診断分析が広く受け入れられてきた.文字通り,何千もの科学論文がそれらの教訓を証明してきた.初版で紹介した系統的記述と分析的なアプローチは今や広く臨床医学に適用されており,異常発生過程に関する用語,定義,概念は確実に科学的領域に浸透した.こうした見識は臨床的に誤解を招く疾患の発見,疾患の影響の評価,合併症の予測,適切な診断的および治療的アプローチの決定につながる.
 スペイン版,イタリア版,日本版,ポルトガル版はこの原理をより広範囲に適用することを促した.さらにそのことは同様に腹腔内疾患の広がりおよび限局の特徴を理解するのに貢献してきた.この原理はあらゆる画像診断法に適用された─単純写真やCTの定型的造影研究,すべてのモードの超音波(超音波内視鏡,腹腔鏡下超音波,術中超音波),MRI,PET─CTまで.そして,34年後にこの第6版に至った.
 パターンの理解を追求する際,調査にはあらゆる方法が使われた.すなわち,(a)関係性を維持するために凍結した死体の横断解剖,(b)靱帯,腸間膜,腹腔外筋膜コンパートメントに沿った進展の際,まず最初に通過する膜面を決定するために行われた死体への注入と解剖,(c)画像研究を最大限に生かす臨床例の選択,(d)腹腔鏡検査および腹腔造影,(e)外科手術,外科病理学,病理解剖である.
 本書を執筆する基本的な目的は初版から変わることなく,それは前作と同じ精神で生み出される.科学の追求が常々求めてきたことは,事態をパターン化し同定することである.この認識があれば,事象の本質と変遷への洞察と理解が続き,その結果,それらの予測性,マネジメント,結果が続く.腹部と骨盤を通じての疾患の進展や限局が無秩序で非合理的に起こるものではなく,むしろ構造的要因や動的要因の原則に支配されるということを本書は確証する.
 過去においては,放射線学書は特定の器官または画像診断法に限定した特集を扱うのが伝統であった.しばしば,これらは典型的には,その器官を侵す疾患の範囲を,あるいは,特定の画像技術によって提供される利点および限界を例示する症例のコレクションであった.しかしながら,臨床の場においては,しばしば患者は医師の思考パターンに挑戦するかのように現れるものである.すなわち,「何が?」のみならず「どのように?」「なぜ?」「どこに?」を決めなければならない.
 初版は「腹部の放射線学に革命をもたらした本」として認められた.ある評論家は次のように熱狂した.「その書物には,難しい問題がある.すなわち無人島に1人で暮らすとしたら,必ず選ぶであろう三冊の本に値する.もし腹部放射線の教科書の分野に狭めたとしても,私は絶対にMeyers Dynamic Radiology of the Abdomen を持って行く.本書は必ずや孤独に耐えうる知的な挑戦となるであろう」と.批評的な洞察が明確に述べられた著者のプライドは,もう1人の評論家の賛辞により一層高められた.「Morton Meyersは私たちの多くに対し,全く新しい世界を開いた.腹部の上に立つMeyersは月の上に立つArmstrongのようである」
 根源的なテーマを踏襲しながらも,この第6版は単なる改訂であるのみならず,他者によって報告された観察と経験の要約でもある.むしろ,それは確かに事実上新しいプレゼンテーションである.腹腔内疾患のプロセスを幅広く正確に認識する点において草分け的な物の見方を開拓してきた2人の国際的権威によってその著作は拡大してきた.こうした目的を満たすために,いくつかの全く新しい章が加えられ,他章は広範囲にわたってアップデートされ,増補されている.この版では680を超える新しい写真とイラストが含まれる.
 初版でMorton Meyersによって導入され,続く諸版にわたって発展した見識は,放射線科学者の批判的なポジションを確実なものとした.すなわち,確定診断の際,時には検討の過程を変えた,また予後を示しマネージメントを決定した.腹腔内感染や腫瘍の拡散および限局の過程および経路,3つの腹膜外腔の病理解剖学的描出が明確に確立された.嘆かわしいほどに「ぼんやりとした筋膜の境界を持つまとまりのない間葉織の後背地」として記載されてきたことは今や顕著な特徴を持つ明確に区分されたコンパートメントとして確認されている.
 これらのことが有用であるばかりか,腹腔と骨盤を通じての包括的な解剖学的連続性を含む新しい考え方を拡大することによって多くのことが得られた.すなわち,まさに,メビウスの帯のように1回あるいは数回捻れたリボンの輪が,筋膜面の連続性を有する構造を生み出すようなものである.第5版にもあるが,Michael Oliphantとそのグループによって考案され練り上げられた腹腔および骨盤の腹膜下腔の統一の概念が,臨床に適用するために今ここにエレガントかつ精巧に作り出された.それにより,主としてがんだが,それだけでなく例えば,炎症とか外傷などの良性の病態といった疾患の二方向への広がりの可能性を明らかにすることも,長きにわたり非論理的で不可思議な事象と考えられてきたことを説明することもできる.このため,画像診断の役割が大きく広がっている.
 多くの新しい章が,腹腔および骨盤臓器原発のがんのリンパ行性の広がりのパターンを詳述する.ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターの莫大な臨床材料の分析に基づいて正確に同定したものをChusilp Charnsangavejが精巧に図解する.
 原発がわかれば,もっともらしい進展部位を予測することは重要かもしれない.一方で,患者は遠隔部位での病巣を示すかもしれない.そういう場合には,潜在する原発巣を明らかにするためにさかのぼって考えることは重要になる.Charnsangavejは各々の臓器特異的な血管分布に関する詳細な知識がそのリンパ経路を同定するためのテンプレートとなることを示している.彼は個々の臓器のリンパ流出路を理解することの利点は3つあると強調している.第一に,その腫瘍の原発部位がわかれば,その臓器に付着する間膜,腸間膜,結腸間膜の動脈あるいは静脈を追跡することによってリンパ節転移が予測される部位を正確に同定できる.第二に,その腫瘍の原発部位が臨床的にわからなければ,異常なリンパ節を同定することで,原発巣へのその領域における動脈,静脈をつきとめることができる.第三に,再発疾患,リンパ節転移の予測部位,あるいは,治療部位を超えたリンパ節領域に着目することによる治療後の疾患の進展パターンを同定することもできる.正確なアセスメントはネオアジュバント療法と手術を考慮した治療計画にとって極めて重要であり,治療結果に強い影響を与える可能性がある.
 時折,思わぬ得をすることがある.既知の原発巣から予測される経路以外に偶然に見つかった異常な形容のリンパ節は,転移を表すには割り引いて考えたほうがよい.つまり,今日,原発がんの治療後に長生きする人が増加しているので,第二のそして第三の原発が発生しうるのだ.こうしたなかで,リンパ節転移が遠隔部位で同定される場合には,再発が始まったところから特異的な原発部位を正確に決定するにあたり,進展経路の知識が助けになりうるのである.
 これまでの版と同様,ページを離れて参照することで読者の時間と労力が無駄にならないように,選んだイラストが目立つように,また最も重要なことだが,その記述部位にできうる限り近くに図を配置するように,レイアウトには十分留意してきた.
 臨床的に重要な解剖学的特徴はカラーイメージによって詳しく述べられている.
 参考文献は増補されており,引き続き古典的論文と最近の引用の双方を収めている.参考文献は英語文献に限定せず,適切であれば,その原著を参照している.相互参照を伴う長文の索引により,細かく調べたいことにも迅速にアクセスすることができる.本改訂版に輝きを与えてくれた以下の寄稿者に対して感謝の意を表したい.

ニューヨーク市 ウェイル・コーネル・メディカル大学 ニューヨーク長老教会病院のYong Ho Auh博士,韓国ソウル市 ソンギュングァン大学校医学部 サムスンメディカルセンターのJae Hoon Lim博士,ニューヨーク市 ウェイル・コーネル・メディカル大学 ニューヨーク長老教会病院のSophia T. Kung博士には第7章骨盤部腹膜外腔の区画でお世話になった.
オランダ ユトレヒト市 フェルトベルク大学メディカルセンターのMaarten S. van Leeuwen博士,Michiel A.M.博士には第6章の前傍腎腔のセクションでお世話になった.

 腹腔外の解剖および病理を描写した最高水準ののイメージを数多く提供していただき,惜しみなく協力していただいたJae Hoon Lim博士にも感謝の意を表したい.
 高い技術的な品質を有する別のエディションをプロデュースしてきたことに信頼を置き,本稿をスプリンガーに提出した.

 Morton A. Meyers, M.D., F.A.C.R, F.A.C.G.
ニューヨーク州 ストーニーブルック
 Chusilp Charnsangavej, M.D., F.S.I.R.
テキサス州 ヒューストン
 Michael Oliphant, M.D., F.A.C.R.
ノースカロライナ州 ウインストン サレム

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 謝辞
 第6版の序

第1章 新しいパラダイム

第2章 腹部の臨床発生学
 1.はじめに
 2.胎生初期の発達
 3.胸腹部の連続性
 4.腹膜下腔
 5.分化した臓器の発生学

第3章 腹部の臨床解剖学
 1.はじめに
 2.腹膜下腔の基本的な考えかた
 3.腹膜下腔
 4.胸腹部の連続性
 5.腹腔

第4章 腹部と骨盤部における疾患の進展機序
 1.はじめに
 2.腹膜腔内と腹膜下腔への進展の鑑別
 3.腸間膜に沿った腹膜下進展
 4.リンパ管やリンパ節転移による腹膜下進展
 5.動脈周囲と神経周囲の腹膜下進展
 6.経静脈による腹膜下進展
 7.管腔内から腹膜下への進展
 8.まとめ

第5章 腹腔内における感染症と播種転移の進展様式
 1.腹腔内感染症進展経路と局在
 2.解剖学的重要点
 3.放射線画像の特徴
 4.腹腔内の播種転移進展経路と局在
 5.腹水の進展経路
 6.播種の場所

第6章 腹膜外腔の臨床解剖学
 1.はじめに
 2.解剖学的検討
 3.前腎傍腔
 4.前腎傍腔の構造区分
 5.腎周囲腔
 6.後腎傍腔
 7.びまん性腹膜外ガス
 8.腰筋膿瘍と血腫

第7章 骨盤部腹膜外腔の区画
 1.解剖学
 2.病的画像の特徴

第8章 肝臓疾患の進展様式
 1.はじめに
 2.肝臓の発生学と解剖学
 3.肝臓外への疾患の進展様式

第9章 下部食道・胃疾患の進展様式
 1.はじめに
 2.下部食道・胃の発生学と解剖学
 3.下部食道・胃疾患の進展様式

第10章 膵臓疾患の進展様式
 1.はじめに
 2.膵臓の発生学と解剖学
 3.膵臓からの疾患の進展様式

第11章 小腸疾患の進展様式
 1.はじめに
 2.小腸の発生学と解剖学
 3.小腸間膜のランドマーク
 4.小腸・虫垂疾患の進展様式
 5.まとめ

第12章 大腸疾患の進展様式
 1.結腸・直腸・肛門管の発生学と解剖学
 2.結腸・直腸の疾患
 3.疾患の進展様式

第13章 腎臓・上部尿路・副腎疾患の進展様式
 1.はじめに
 2.脈管解剖学
 3.リンパの解剖学
 4.疾患の進展様式

第14章 骨盤および男性泌尿生殖器疾患の進展様式
 1.発生学
 2.解剖学
 3.膀胱・前立腺・尿道・陰茎・精巣の疾患
 4.疾患の進展様式

第15章 婦人科疾患の進展様式
 1.はじめに
 2.外陰部
 3.腟
 4.子宮
 5.ファロピウス管(卵管)
 6.卵巣
 7.骨盤腹膜炎

第16章 腹腔外および骨盤外への進展様式
 1.はじめに
 2.横隔膜
 3.腹部から胸部への疾患の進展様式
 4.腹壁
 5.腹腔から前腹壁への疾患の進展様式
 6.骨盤
 7.骨盤内から骨盤外への疾患の進展様式

第17章 腹腔内ヘルニア
 1.はじめに
 2.傍十二指腸ヘルニア
 3.ウィンスロー孔を介する内ヘルニア
 4.盲腸周囲ヘルニア
 5.S状結腸間ヘルニア
 6.経腸間膜・経大網・経結腸間膜ヘルニア
 7.鎌状間膜ヘルニア
 8.吻合部後ヘルニア
 9.膀胱上ヘルニアと骨盤ヘルニア
 10.バリアトリック手術後の内ヘルニア

 和文索引
 欧文索引

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間違いなく名著。本書の価値に気づく医師が増えてほしい
書評者: 清田 雅智 (飯塚病院総合診療科)
命題「放射線科の専門書を,内科医や研修医がなぜ読む必要があるのか?」

 内科医でも研修医でも,救急と腫瘍の患者を診察するにあたり腹部CTを読む必要があるためと私なりに回答する。2年間の初期研修医時代に救急外来でCTを読めずに悩んだ経験は誰でもあると思う。私は3年次の後期研修時に放射線科を9か月研修し画像を自力で読めるよう研鑽していた。そのときの指導医から,腹部救急疾患の画像の専門書としてこの本の存在を教えられた。実際には,その後内科医として困った症例を調べるときに多く利用をしていた。例えば,17章の内ヘルニアによる腸閉塞の症例などを診たときは,この本に匹敵する記述を見いだすことはできないという経験もしている。

 当院では,急性膵炎はなぜかcommon diseaseであった。後腹膜臓器である膵臓の炎症の波及をみる上で,後腹膜の解剖の理解は欠かせない。ZuckerkandlやGerotaが19世紀に解剖所見から得た後腹膜のFasciaの概念は,肉眼や顕微鏡では膜と膜の連続性を理解するのに限界があった。その薄い膜の間に実はスペースが存在している。肝臓,脾臓,骨盤腔への連続性があることを,CTガイド下に遺体に造影剤を注入してCT撮影するという手法が出るまで実証が困難だったのである。Cullen徴候(1916年)やGrey Turner徴候(1920年)がなぜ膵臓とは遠隔の部位に出ているのかも,1989年にMeyersらがCTで検証していた。このような解剖学的連続性の理解がなく,例えば十二指腸穿孔の画像は理解できないであろう。

 一方高齢化社会を反映して,がんもまたcommon diseaseになっている。がんを併発することも多くなっている時代で,Double cancerやTriple cancerもまれではないとされている。例えばリンパ節の腫大からがんのoriginを探るのに,がんの進展範囲を画像的に想像することで,これらの存在を知ることもできるだろう。臨床解剖学は,現場で使用されるCT解剖学での学びが重要だと感じている。実はこの本がこだわる,発生学や解剖学に立ち返り病態を理解するという姿勢は,1900年代から医師にとってなんら変わっていないのかもしれない。

 監訳者の一人,太田光泰先生(足柄上病院総合診療科担当部長)と,訳者の一人,吉江浩一郎先生(足柄上病院総合診療科部長)とは,2011年から毎年行っている講演で親交を深め,尊敬している総合診療医である。ある年の懇親会の席で,この本を翻訳されていると聞きわが耳を疑った。ひそかにこの本の価値を知る希少な内科医だと思っていた私であるが,他にもそのように思っている内科医がいたのだ! 序文を読み,その真意を理解し,ますます共感した次第である。この本は間違いなく名著である。私は,この本の価値に気づく医師が増えることを切に望んでいる一人である。
腹腔の3次元構造を理解して迅速で効率的な病態診断に繋げる良書
書評者: 中島 貴子 (聖マリアンナ医大教授・臨床腫瘍学)
 久しぶりに“マイヤース”のページをゆっくりめくった。といっても日本語版である。あの世界的名著を日本語で読めることにまず驚き,さらに監訳を担当したのは,尊敬してやまない総合診療のわが師匠たちであった。感動に包まれてめくる本著は,原著第6版となり,最新でありながら,腹部臓器・疾患における普遍的な原則を放射線学という視点から理解するというスタンスを貫いていた。

 本著の最大の特徴は「腔」の描写であろう。「腔」とその区画を理解すれば,腹部疾患の限局と進展を理解できる。そしてその深い理解は,実際の医療現場では,迅速で効率的な病態の診断に繋がる。実際に私が本著に出合ったのも,研修医が終わったばかり,足柄上病院(神奈川県)で救急診療に追われる中,真夜中に一人で腹痛患者のCT画像を診断しなければいけない場面で,「腔」と「膜」を理解できていない自分に落胆し,探し当てた本であった。当時はそれを英語で読み下さなければならず,私にとっては大変な労力を要したものだが,それはそれで良い思い出だ。しかしこの日本語版を読むと,やはり日本人としてはよりしっくりくるし,研修医や救急医などが効率的に勉強するには最適な書籍になっていると思う。

 もう一つの本著の特徴は,豊富な画像と,シンプルだからこそ読者の理解を深めるイラスト,そして解剖写真(横断面)までもが挿入されていることであろう。普段,腹腔内を実見することのできない内科医や放射線科医にとって,これらの写真やイラストは,腹腔という3次元構造の理解を助けてくれる。そして,水の流れを追うことによってその3次元構造の理解がたやすくなるように,写真やイラストに沿って日本語による流れるような解説がなされている。

 初期研修の時期には基本的知識の修得に,後期研修医が独り立ちする時期には心細い診療のお伴に,専門医をめざす時期には知識や経験の整理に,そして各領域の専門医にとっては,より深い腹部疾患の理解のための振り返りに……全ての医療従事者に自信をもってお薦めする良著です。
発生学,解剖学に基づいて腹部放射線診断学を体系的に学べる名著
書評者: 大平 善之 (国際医療福祉大主任教授・総合診療科)
 総合診療のエキスパートである太田光泰先生(足柄上病院総合診療科・担当部長)と放射線腫瘍学のエキスパートである幡多政治先生(横浜市立大大学院教授)が監訳された,腹部放射線診断学を体系的に学習できる世界的名著“Meyers’ Dynamic Radiology of the Abdomen, Normal and Pathologic Anatomy, sixth edition”の日本語訳版である。第1章に書かれている通り,本書は,「疾患の進展経路を説明すること」を目的に執筆された書籍である(p.18)。腹部のみならず,骨盤腔,胸部との関連について,発生学,解剖学に基づいた解説がなされている。

 本書は第1~17章で構成されており,第1章では,腹膜腔内臓器間での進展,腹膜腔内と腹膜外腔との間での進展など,画像診断の進歩により,従来の区画化に対する画像解析では疾患進展による徴候を十分に説明できないことが明らかになったことによる新たなパラダイムの必要性が論じられている。臨床推論において想起できない疾患は診断できないのと同様に,画像診断においてもプレコンディショニング(予想,事前情報,経験)が視覚情報の多くを決定することが示されている。また,臨床推論では,最初から細部に注目するのではなく,まずは患者の全体像(ビッグピクチャー)を把握することが重要であるが,画像診断においても全体として見ることの重要性が解説されている。

 第2章では腹部の臨床発生学,第3章では腹部の臨床解剖学について記載されている。第4章以降は,腹部と骨盤部,腹腔内における感染症と播種の進展様式など,発生学,解剖学に基づいた疾患の進展様式と画像診断との関連についての重要性が詳述されている。病歴,身体診察からの臨床推論においても発生学,解剖学,生理学,生化学などの基礎医学の知識を基に病態生理に基づく診断アプローチが重要であるが,画像診断においても同様であることを再認識した。

 腹部,骨盤内疾患の発生,解剖に基づいた疾患の進展様式と画像所見との関連について詳述されている書籍を,少なくとも私自身はこれまで読んだことがない。本書のような有用な書籍を日本語で読めることは,専攻医,放射線科医,消化器外科医,消化器内科医,救急医はもちろん,われわれ総合診療に携わる医師にも学びの機会を広げる。ご自身の医学書コレクションにぜひ,加えていただきたい1冊である。
膜と腔の理解:解剖学的診断力を高める名著
書評者: 志水 太郎 (獨協医大病院総合診療科・診療部長)
 「マイヤースの日本語版」。素晴らしい本が翻訳されたと思います。最初,医学書院からこのタイトルの本が出ていたとネットで見掛けたとき,目の付け所が鋭いと思ったものの,実際の本を手に取るとそれがあのMeyersの本だということがわかり,驚きました。

 医学部6年生の時,英国レスター大学への留学で実践的医学教育の日英の差に打ちのめされた自分に課題として課したのが,今まで学んできた基礎医学と臨床医学をできる限り結び付けて振り返って学び直す,ということでした。母校の愛媛大は恵まれた環境で,3年生から6年生まで系統解剖学の現場ティーチングアシスタントをしていたため,発生学を含めた解剖学の復習をする環境はふんだんにありました。そんな中,先の「自己学習カリキュラム」の一環でCTの読影の勉強はどうしようか,これまで解剖で学んできたことを何かうまく結び付けられないかと考えていた矢先,母校卒の外科医の先輩から紹介されたのがこの“Meyers’ Dynamic Radiology of the Abdomen”の原著でした。当時,わからないなりに勉強しましたが,それだけに時間を経てこの翻訳書に出合えたことは自分としては感慨深く,学生当時の懐かしい想いが込み上げてきました。

 本書は第一章の「新しいパラダイム」を読むだけでも,そのエポックメイキングさを感じることができます。特にこの章からつながる,膜と腔を意識した解剖の把握に力点が置かれていることは,別の臨床解剖の名著『イラストレイテッド外科手術-膜の解剖からみた術式のポイント』(第3版,医学書院,2010)に通ずる「レイヤーを意識する重要性」を実感することができます。外科医にとって膜の解剖の把握は重要だと思いますが,それは内科医にとっても同様です。特に,鑑別診断を解剖的なアプローチで絞り込む際の「外側から絞り込むアプローチ」(拙著『診断戦略』参照)という診断の考え方を用いる際にも,レイヤーを意識した鑑別の展開が,網羅的に鑑別を考える上で重要になります。また,炎症が膜・腔に沿って進展する様式ということを3次元的に理解すれば,CT読影上も穿孔の位置など病変部位を液体や空気の貯留パターンから推測することが可能です。この意味で帯に書かれている「多様な腹痛を効率よく診断推論するために」という訳者の先生方のメッセージは,この本の持つ価値を如実に表現していると思いますし,そのような希望を持つ医師たちのニーズによく応えてくれる本だと思います。

 この本は,CT読影を解剖から理解して学ぶ目的の学生にもお薦めできますが,一方,経験則と数で画像を読んで直観を鍛えてこられた上級の医師たちが,CTを分析的思考で読む訓練を行う上でも大いに役立つと思います。

志水太郎.診断戦略 診断力向上のためのアートとサイエンス.医学書院;2014.

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