肝癌診療マニュアル 第3版

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肝癌の基礎知識から、早期発見のためのスクリーニング法、各種検査および治療法の概要と使い分け方、治療効果判定やフォローアップのポイント等々、肝癌診療において必要となる情報のすべてを、最新のガイドラインの推奨に加えて、専門医の間で一般化している新たな試みも踏まえて解説したマニュアルの改訂版。肝癌患者に最善の医療を提供するために、肝臓領域の実地医療に携わるすべての医師に有用な1冊。
編集 日本肝臓学会
発行 2015年07月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-02167-8
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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第3版 刊行にあたって

 わが国の肝癌は肝炎ウイルスが成因の症例が多く,その感染経路は1990年以前の医療行為が大半です.このため肝癌は「国民病」として,その対策が進められてきました.一方,最近の抗ウイルス療法は進歩が目覚ましく,B型,C型肝炎ウイルスはほぼ全例で,その排除ないし増殖抑制が可能になっています.また,肝癌の診断,治療法の進歩にも目を見張るものがあり,患者の予後は格段に向上しました.このため2003年以降は肝癌による死亡者が減少し,2014年には悪性新生物による死亡者数のなかでは第5位まで後退しました.日本肝臓学会が厚生労働省,地方自治体および産業界と連携して実施している「肝癌撲滅運動」の成果です.しかし,現在でも毎年3万人以上が肝癌によって死亡しています.また,脂肪性肝炎などメタボリック症候群に起因する肝癌が増え,患者の高齢化とこれに伴った非肝硬変症例の増加など,その病態にも変化がみられています.このため肝癌は今でも国を挙げて対策を講じるべき重要な疾患であることは変わりありません.

 肝癌の適正診療を定着させるために,日本肝臓学会は厚生労働省診療ガイドライン支援事業によって2005年に作成された『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』の改訂作業を引き継ぎ,2009年に第2版,2013年に第3版を刊行しました.ガイドラインはエビデンスレベルの高い原著論文を基に作成されています.このため専門医ないし臨床研究者が実施している新たな取り組みは,記述されることはあっても,推奨される対象になりません.臨床の現場では,ガイドラインの推奨とは若干異なる診療を,患者の同意のもとに行う場合もあるのが現状です.ガイドラインを若干超える診療内容であっても,肝臓病専門医の間で比較的定着してきている最近の進歩には言及する柔軟性をもって,日本肝臓学会が発刊しているのが『肝癌診療マニュアル』です.2007年に初版を発刊し,2010年にその改訂を行いました.このたび,その後の肝癌診療の進展を鑑みて,第3版を刊行することになりました.

 本書『肝癌診療マニュアル第3版』は基本的に『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版』に準拠して,各領域の研究者が執筆致しました.しかし,上記の理念に従って,研究者間で比較的多く実施されている医療行為で,将来的にガイドラインに組み込まれる可能性が高いものは記述に加えております.この目的を達成するために,重要な項目に関しては事前に複数の共同執筆者を指名し,執筆者間で批判的吟味のうえ,原稿を完成していただきました.また,日本肝臓学会の理事と企画広報委員会の委員が査読を行い,ブラッシュアップを行いました.さらに,ガイドラインでまだ推奨されていない診療に関する記述部分は,「見出し」ないし「文章」にアステリスクを付けることによって,読者に明確に判別できるようにしております.以上のように,本マニュアルは執筆者の先生をはじめ多数の先生方のご尽力によって完成致しました.関与されたすべての先生に感謝致しますが,とりわけ全工程を主導的に監修いただいた工藤正俊理事(近畿大学)と,ガイドラインとの照合をしていただいた長谷川潔評議員(東京大学)には心より御礼申し上げます.

 わが国における「肝癌撲滅運動」は最終章の幕が開きました.日本肝臓学会は2015年度に『肝癌診療ガイドライン』の改訂作業を開始しました.本マニュアルは新たなガイドラインが発表される前に,2013年版ガイドライン刊行以降の動向を探る目的で,お役に立てれば幸いです.『肝癌診療ガイドライン』と両輪を成して,肝癌撲滅に貢献することを期待します.

 2015年6月吉日
 日本肝臓学会 企画広報委員会委員長
 持田 智

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Consensus Statement

第1章 肝癌発癌機序・疫学とハイリスク患者の設定
 A.B型肝炎からの発癌機序
 B.C型肝炎からの発癌機序
 C.NAFLD/NASHからの発癌機序
 D.肝癌の疫学とハイリスク患者の設定

第2章 肝癌診療に必要な病理学

第3章 肝発癌予防
  1.抗ウイルス療法
  2.肝庇護療法

第4章 肝癌早期発見のためのスクリーニング法

第5章 肝癌の診断
 A.腫瘍マーカー
 B.画像診断
  1.総論
  2.CTとMRIの使い分け
  3.どのようなときにGd-EOB-DTPA造影MRIを行うか
  4.どのようなときにCTAP,CTHAを行うか
  5.どのようなときに造影超音波を行うか
  6.早期肝癌の画像的特徴
 C.肝癌診断のアルゴリズム
  1.肝細胞癌の診断アルゴリズム
  2.乏血性肝細胞性結節(境界病変,異型結節,早期肝癌)は
    どのような場合に治療すべきか

第6章 肝癌の治療
 A.総論
 B.肝癌診療のためのステージングシステム
 C.肝癌治療の実際
  1.肝切除
  2.穿刺局所療法
   2-1 PEIT,PMCT
   2-2 ラジオ波焼灼療法(RFA)
  3.肝動脈化学塞栓療法(TACE)
   3-1 conventional TACE
   3-2 バルーン閉塞下TACE(B-TACE)
   3-3 beads TACE/TAE
   3-4 beads TACEとconventional TACEをどう使い分けるか
  4.肝動注化学療法
   4-1 進行肝癌に対する肝動注化学療法(low dose FP)
   4-2 インターフェロン併用5-FU肝動注化学療法
  5.肝移植
   5-1 肝細胞癌に対する肝移植の現状
   5-2 肝細胞癌の肝移植適応
   5-3 肝細胞癌に対する肝移植を考慮するタイミング:患者説明のタイミング
   5-4 肝移植後のウイルス肝炎対策
   5-5 肝移植後の再発に対する治療戦略
  6.放射線療法
  7.全身化学療法と分子標的治療
 D.肝癌治療のアルゴリズム
  1.肝癌に対する根治的治療をどう使い分けるか-切除 vs. 局所療法
  2.肝動脈化学塞栓療法(TACE),肝動脈化学療法(TAI),
    リザーバー肝動注化学療法をどう使い分けるか
  3.TACE不応例に対する治療指針
  4.肝動注化学療法と分子標的治療をどう使い分けるか
  5.肝癌全体の治療アルゴリズム

第7章 肝癌の治療効果判定の仕方
 A.RFA後の治療効果判定
 B.TACE後の治療効果判定
 C.肝動注化学療法の治療効果判定
 D.腫瘍マーカーによる治療効果判定

第8章 肝癌治療後のフォローアップの仕方
 A.肝癌切除後のフォローアップの要点
 B.肝癌根治治療後の再発抑制治療
 C.肝癌根治治療後の再発の早期発見
 D.再発癌に対する治療法の選択
 E.肝癌に対する肝移植後のフォローアップの要点

第9章 肝癌診療における病診・病病連携の仕方

第10章 がん治療の臨床開発デザインのABC

索引

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ガイドラインとともに肝癌診療に携わる臨床医必携の書
書評者: 坪内 博仁 (鹿児島市立病院長)
 このたび,日本肝臓学会編集の『肝癌診療マニュアル』が改訂され,第3版として上梓された。『肝癌診療マニュアル』初版(2007年)は,もともと『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(2005年)に準拠して発刊されたものであり,2009年のガイドラインの改訂に合わせ,本マニュアルも2010年に第2版が出版された。今回の第3版は,2013年のガイドラインの改訂を受けて改訂されたものである。

 『肝癌診療ガイドライン』と同様,本マニュアルも日本肝臓学会の事業として改訂作業が行われ,その方面のエキスパートが執筆し,日本肝臓学会企画広報委員会委員や理事の方々の査読により,マニュアルとしてのレベルが保証されている。

 本書の章立てや項目立てなどは基本的に第2版と同じで,「肝癌診療に必要な病理学」(第2章),「肝癌早期発見のためのスクリーニング法」(第4章)などはその性質上ほぼ改訂されていない。しかし,肝癌の診断や治療アルゴリズムは,ガイドライン2013年版を反映して,“コンセンサスに基づく肝細胞癌サーベイランス・診断アルゴリズム2015”および“コンセンサスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム2015”に改訂された(「第5章 肝癌の診断」および「第6章 肝癌の治療」)。また,乏血性肝細胞性結節の記述は,アルゴリズムの中に組み入れられ,すっきりした記載になっている。診断における血管造影検査の役割がほとんどなくなったことから,血管造影の項目も削除されている。さらに,ソラフェニブに続く多くの分子標的治療薬の開発に期待が込められていたものの,本書では期待通り進まなかった開発結果が記載される形になっている。その他,第2版の経皮的肝灌流化学療法は,本書ではその記述がなくなっている。また,「NAFLD/NASHからの発癌機序」(第1章C)については,最近の進歩が取り入れられ詳しくなっている。第2版に続いて,病診・病病連携や抗がん薬開発についての項目も,とても有用である。

 B型肝炎に対する核酸アナログの完成度が高くなり,C型肝炎はdirect acting antivirals(DAAs)の開発によりほぼ100%ウイルス陰性化が得られるようになり,B型肝炎およびC型肝炎はほぼ制圧できる時代になった。しかし,B型肝炎による肝細胞癌は,まだ減少の気配は見られず,C型肝炎についても患者の高齢化が進んでいることから,ウイルス陰性化後に発癌する患者の増加が見込まれている。さらに,非B非C型の肝癌は確実に増加していることから,今後も肝癌の診断および治療は肝臓病の大きな課題である。本書は『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』とともに,肝癌診療に携わる多くの臨床医にとって必携の書である。
日本肝臓学会の英知を集めた肝癌診療のバイブル
書評者: 沖田 極 (周南記念病院名誉院長/山口大名誉教授)
  B型肝炎は核酸アナログ製剤により,C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の導入により多くの患者で肝炎の鎮静化を図ることが可能となった。したがって,肝炎から肝硬変へ,また肝細胞癌への進展抑制は確実に図られることになるが,現時点で肝線維化の強い(F3,F4)慢性肝疾患患者においては“死に至る病”である肝癌からの解放が残された課題である。日本肝臓学会は2000年から「肝癌撲滅」をスローガンに掲げ,『肝がん白書』の発刊や各地域で「市民公開講座」を開催し国民に対する啓発活動を行うとともに,肝癌診療に当たる医師向けには『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(日本肝臓学会編),さらには『肝癌診療マニュアル』(日本肝臓学会編)を出版してきた。この2冊のテキストに『臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約』(日本肝癌研究会編)を加え,肝癌診療におけるバイブルとして肝癌専門医のみならず一般医家にとっても必携の書物となっている。国立がんセンター「がん登録・統計」によれば,肝癌の年間死亡者は2002年の3万4千人超をピークに減少し2014年には3万人弱(2014年がん統計)と改善している。

 さて,『肝癌診療マニュアル』第3版がこのたび上梓された。本書の特徴は肝癌について予防から診断,治療に至るまで科学的に実証された事実をConsensus Statementとして簡潔に冒頭に掲げていることで,これだけを読んでも肝癌診療におけるわれわれの姿勢がどうあるべきか理解できるようにアレンジされている。それぞれのStatementに対しては第1章から第10章にかけてその根拠が具体的に説明されている。必ずしも肝疾患を主体に診療を行っていない医師にも「第1章 D.肝癌の疫学とハイリスク患者の設定」だけは是非とも読んでいただきたい。肝癌の早期発見が生存率の改善をもたらすことは,取りも直さずハイリスクの患者群をいかに早く早期発見という“まな板”に乗せるかであり,そこから本書の各論に記載された内容が実行されていることをご理解いただきたい。本書の中で,必ずしもエビデンスレベルの高くないものも記載したと断ってあるが(xvページ「本書の記載内容について」より),『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』作成に着手した2002年頃は,日本からのエビデンスレベルの高い発表論文が少ないため欧米の論文を中心にガイドラインを作成したことも一因である。例えば,日本では一般的な肝癌診断におけるAFPの意義や治療におけるTACEの評価は,AASLD(米国肝臓学会)ガイドラインでは必ずしも高くない。

 本書のもう一つの特徴は,わが国の肝臓病理医によって明らかにされた早期肝癌や数cm大の小肝癌をいかに診断するかという極めてハイレベルな診断技術や治療の数々がねちっこく紹介されていることである。「第6章 B.肝癌診療のためのステージングシステム」の項で「大型の肝癌しか発見できないような欧米のシステムにおいてはCLIP scoreやBCLC stageが有効であるが,わが国のように小肝癌が多数検出されるような国においてはJIS scoreが最も威力を発揮する」(76ページ)と記載されているが,欧米に比べ診断や治療のレベルの高いわが国では欧米のガイドラインを過大視することもない。評者としては,日本肝臓学会の英知を集めて上梓された本書を是非とも英文化し,圧倒的に肝癌患者の多いアジアでの肝癌撲滅に役立てていただくことを願っている。
極めて充実した内容かつ実用的な診療マニュアル
書評者: 岡上 武 (大阪府済生会吹田医療福祉センター総長)
 1975年以来わが国では年々肝癌が増加し,その7割以上をC型肝炎ウイルス(HCV)持続感染者が占めてきた。この背景には第2次世界大戦後の社会の混乱や肺結核患者への積極的な肺葉切除の際の輸血など医療行為を含む種々の要因が関係しており,厚生労働省と日本肝臓学会は罹患者の早期発見と適切な治療の普及のために多くの努力をしてきた。

 この間C型肝炎治療法は格段に進歩し,軽減した副作用のもとで高率にウイルスが排除されるようになった。治療の進歩により2005年頃からC型肝炎起因の肝癌が減少に転じ,5年以内にHCV起因の肝癌は50%以下になるのではないかと推定している。一方,過去10年間でいわゆる非B非C肝癌が倍増し,この傾向は今も続いているが,これには生活習慣病に伴う肝疾患である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の増加が原因と考えられている。この間,HBV,HCV,NASH由来の肝発癌機序の研究は確実に進展したが,最近増加しているNASH由来の肝発癌機序に関してはまだまだ不明な点が多い。

 このたび,日本肝臓学会から『肝癌診療マニュアル 第3版』が上梓された。2007年に第1版が,2010年に第2版が上梓され,今回5年ぶりに最新の診療マニュアルに改訂された。第1版作成に責任者として参加したこともあり,この本が手元に届いた際,すぐに大変興味深く拝読した。

 画像診断機器と造影剤開発の進歩は目覚ましく,近年は1cm未満の早期肝癌が確実に診断できるようになった。その結果としてごく早期の肝癌が数多く診断され,必然的に早期肝癌の病理学的特徴もわが国の研究者により明らかにされてきた。

 治療に関してはラジオ波焼灼療法(RFA)を中心とする局所療法は確立された感があり,現在は進行肝癌をいかに治療するか,再発予防をどうするかが,肝癌治療の最重要課題になっている。他の消化器癌に比較すると,肝癌の化学療法に関してはまだまだといえる。とはいえ,肝癌の基礎的・臨床的研究や実臨床において,多くの分野でわが国は世界をリードしてきたことは間違いない事実である。

 今回の第3版では疫学,病理,発癌機序,診断,治療,発癌予防などに関して,その方面に造詣の深い第一線の研究者が最新のエビデンスをベースに個々の研究者の研究成果や工夫を加えて,実臨床に役立つ事項を記載している。また肝癌治療薬の開発状況までも記載されており,極めて充実した内容でかつ実用的な肝癌診療マニュアルとなっている。本書が肝臓専門医のみならずこれから肝臓の臨床や研究に従事しようとする若い医師にも広く利用されることを願う次第である。

 執筆者ならびに企画広報委員会委員に敬意を表し,書評とさせていただく。

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