手順が見える! 次の動きがわかる!
消化器外科の手術看護

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オペ室看護は“覚える”だけでは物足りない。必要なのは、手術の流れを理解し、進行状況を把握し、次を予測する力だった!「胃の摘出範囲は何で決まる?」「肝臓切除が時間との闘いなのはなぜ?」―今さら聞けない“?”に答えながら、よくある10種類の手術のキモとヤマ場を解説。この1冊で、手術がもっと好きになる!
大野 義一朗
発行 2018年03月判型:B5頁:128
ISBN 978-4-260-02200-2
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに

 オペ室は「覚えることが多すぎる」けど「覚えるだけでは物足りない」。この本は,そんなオペ室1年目から3年目の看護師さんが手術を好きになる本を作りたいと,オペ室看護師と外科医で考えてできあがりました。
 本書で取り上げたのは,消化器を中心に,頻度の高い手術として乳房部分切除術を加えた10種類の手術です。どれも外科医がはじめに担当する手術であるように,オペ室の看護師さんがはじめに器械出しを経験する手術です。
 外科手術の種類は気の遠くなるほど数がありますが,この10種類で一般病院の外科手術の約6割,1年目から3年目の看護師が担当する器械出しの手術の約7割を占めています。さらに,だんだん難しい手術やまれな手術に挑戦していくわけですが,ここに取り上げた手術の基本的な考え方や手技が,より高度な応用編への土台になります。ですから,この10種類の手術を,自分の得意な「自信のある手術」にしてください。
 本書で一番重視したのは,手術の流れを理解してもらうことです。医師の指示は,手術の流れの中ででてきます。手術の流れがわかっていれば,次の指示を先読みできます。そうして余裕ができると,器械出しが楽しくなります。
 また「この操作は何のためにするの?」と,よく看護師さんから質問されることも挙げてみました。器械出しには直接必要のない知識に思えるかもしれませんが,わからないことを知ることで好きになり,好きになれば器械出しがもっとうまくなります。
 手術は最初から最後まで淡々と進むものではありません。いくつか難度の高いところや危険な場所があり,執刀医の緊張も高まります。そんな手術のキモとヤマ場を強調しました。その時の執刀医の胸の内を理解した器械出しが苦境を救います。
 手術をコントロールしているのは,ここだけの話,執刀医の力を最大限に引き出してくれる器械出し看護師の力なのです。そんな器械出し看護師をめざす皆さんを心から応援しています。

 2017年12月
 大野義一朗

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1 腹腔鏡下胆囊摘出術
 胆囊摘出術の概要
 腹腔鏡下胆嚢摘出術の基本
 腹腔鏡下胆嚢摘出術の手順
 おさえておきたい解剖の知識

2 幽門側胃切除術
 胃切除術の概要
 幽門側胃切除術の基本
 幽門側胃切除術の手順
 おさえておきたい解剖の知識

3 右半結腸切除術
 右半結腸切除術の概要
 右半結腸切除術の基本
 右半結腸切除術の手順

4 S状結腸切除術
 左半結腸切除術の概要
 S状結腸切除術の基本
 S状結腸切除術の手順

5 腹腔鏡下S状結腸切除術
 腹腔鏡下S状結腸切除術の概要
 腹腔鏡下S状結腸切除術の基本
 腹腔鏡下S状結腸切除術の手順

6 肝臓切除術
 肝臓切除術の概要
 肝臓切除術の基本
 肝臓切除術の手順

7 膵頭十二指腸切除術
 膵頭十二指腸切除術の概要
 膵頭十二指腸切除術の基本
 膵頭十二指腸切除術の手順

8 虫垂切除術(開腹・腹腔鏡下)
 虫垂切除術の概要
 虫垂切除術の基本
 虫垂切除術の手順

9 鼠径ヘルニア根治術
 鼠径ヘルニア根治術の概要
 鼠径ヘルニア根治術の基本
 鼠径ヘルニア根治術の手順
 おさえておきたい解剖の知識

10 乳房部分切除術
 乳房切除術の概要
 乳房部分切除術の基本
 乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検の手順

付録 血管結紮
 結紮の方法・手順
 糸の種類と使い分け

索引

[手術に使用する器械や手術の手順などは,筆者が東葛病院で行っている方法をもとにしています。病院によって器械の名称や手順は異なることがあります。]

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このあうんの呼吸がたまらない
書評者: 篠原 尚 (兵庫医大主任教授・上部消化管外科)
 私は,手術を映画制作によく例える。主演俳優は執刀医である。監督は執刀医が兼ねるかもしれないし,第一助手として指導する上級医かもしれない。しかしいかに伝説のハリウッドスターと大物監督が組んだとしても,彼らだけでは映画はつくれない。アシスタントで入る外科医,麻酔科医,そして何よりも器械出し,外回りの看護師のサポートなくして傑作は誕生しない。言うまでもなく,手術はチームとしての仕事である。

 術者の立場からすれば,次に使いたい器械の名前を口にしながら手を差し出した瞬間,間髪入れずに望み通りの器械が手渡されたときの気持ちよさったらない。その器械出し看護師は,手術の流れを共有していたのである。「この看護師,できる!」と思った途端,餅つきのきねの間隔が短くなるようにテンポはより快調になる。よし,じゃあちょっと試しに,黙って手だけ差し出してみよう。「3-0ですね? はいどうぞ」。外科医を乗せるこのあうんの呼吸,たまらない。

◆迷いのない記述がゴールへの道筋を照らす
 『消化器外科の手術看護』を拝読した。本の帯に書かれているように,本書は“次はどうくる? 何をする?”を共通のテーマに,代表的な消化器外科手術の手順を器械出し看護師の視点で解説している。第一線の外科医が執筆しただけあって,どの術式にも看護師向けの手術解説書にありがちな中途半端さや曖昧さがない。剥離する深さや切離する血管の位置など,かなり踏み込んだ記述にも驚く。それでいて非常に簡潔にまとめられている。イラストも的確で,解剖も正確に表記されている。もちろん同じ術式でも術者によって若干の手順の違いはあるし,器械の呼び方にも施設ごとのローカル性はある。しかし各章の「手術の概要」に書かれているように,どの範囲を切除してどこをつなぐのか,というゴールは同じである。全体の流れさえつかめれば,自施設で行われている手術に当てはめることは容易だろう。

◆手術をコントロールしているのは看護師だ!
 かつて手術は狭くて奥深い術野で行われ,しかも外科医たちの頭で隠されて,今何をやっているかもわかりにくかったが,最近では消化器外科手術の多くが内視鏡を使って行われるようになり,大きなモニターに映し出された鮮明な画像を術者と共有することができる。本書でも右半結腸切除は解剖を理解しやすい開腹手術で,S状結腸切除は開腹手術と腹腔鏡手術で記載されており,器械もそれぞれ解説されていて至れり尽くせりである。

 手術看護にかかわる皆さんに本書を読んでいただきたいと切望するが,あまりに愛読者が増えると,そのうち「先生,そこ違いますよ」「それよりこの鉗子の方がいいんじゃないですか」とか言われて術者があたふたする場面が想像できたりして,書評を書く身としては少し複雑な心境である。著者の前書きにもあるように,「手術をコントロールしているのは,ここだけの話,器械出し看護師」なのだから……。
外科医の熱い思いが添えられた看護師のための手術書
書評者: 安達 洋祐 (久留米大教授・医学教育研究センター長)
 腹腔鏡手術が普及して約20年。開腹手術の時代の緊張感や一体感がなくなったなぁと寂しさを感じていたら,『手順が見える! 次の動きがわかる! 消化器外科の手術看護』という本が出た。手術室看護師のための手術書であり,市中病院で日常的に行っている一般外科の解説書である。

 中身を見ると,虫垂切除や胆嚢摘出から肝臓切除や膵頭十二指腸切除まで10種類の手術が,概要・基本・手順の三本立てで記載されている。ちまたの類書にない魅力は,(1)外科医の思い,(2)看護師の視線,(3)編集者の熱意が詰まっていることであろう。

 著者は日本外科学会指導医のベテラン外科医であり,「手術の流れを理解してもらうこと」を重視している。「手順」の文章とイラストは隅々まで配慮が行き届いており,随所で術者の意図や操作の意味を示し,「テンポを大事に」「執刀医も苦戦」「看護師の役割が大きい」など,外科医の思いを添えている。

 執筆協力者として手術室スタッフ16人の名前が挙がっており,手術室看護師の熱い視線を感じる。使用器械,体位,麻酔,手術時間,手術適応の他,「おさえておきたい解剖の知識」「術後の観察Point」「Q&A」などを通して,手術室や外科病棟の看護師が知りたいことを見事に網羅している。

 イラストはカラーで美しく,全体像の中に局所を拡大して描いており,術野の展開や操作の内容をイメージしやすい。余分なものを削ぎ落とし重要なものを強調し,術者が見ているものを上手に表現している。手術は写真を掲載しただけでは理解しにくく,イラストの作成に編集者の工夫が感じられる。

 至るところに手術中のポイントが示されているのも,本書の特徴である。腹腔鏡手術では今どこを見ているか理解できること,胃切除ではリンパ節郭清と血管の処理,結腸切除では切る血管・残す血管と無影灯の操作,肝臓切除では血流遮断の時間的制約と出血への対応など,「キモとヤマ場」がよくわかる。

 手術を受ける患者は外科医に身を委ねるしかなく,外科医は信頼できる仲間がいるから手術を行える。手術はチームプレーであり,全てのスタッフが同じ目標に向かいながら力を合わせて行う作業である。緊張感があり責任が重いだけに,達成感や満足感も大きい。

 最近の医療は「多職種連携」や「チーム医療」が重視されているが,外科や手術は昔から連携や協力が必須であり,情報の共有や技術の伝承が当然であった。先輩には「ドクターとナースは車の両輪」と教わり,執刀医と器械出し看護師は「あうんの呼吸」を体現していた。

 著者は「執刀医の胸の内を理解した器械出しが苦境を救います」と述べている。私もいろいろな病院で看護師に助けられた外科医であり,同感である。看護師だけでなく,学生や研修医も本書を読んでほしい(個人的には,映画『孤高のメス』の堤真一と夏川結衣も見てほしい)。本書を通じて一人でも多くの看護師に「手術が好き」になってほしいと思う。
満足のいく手術のために,研ぎ澄まされた手技を共有する
書評者: 武井 弥生 (上智大准教授・看護学)
 筆者の大野義一朗先生は30年有余(南極勤務時代を含め)の経験ある外科医である。手術室に新たに配属された看護師が,一つひとつの手技や手術の流れ,執刀医の胸の内を理解してタイミングよく器械出しを行い,手術が安全で成功裏に終了することを願って書かれた本である。手技・手順の丁寧な説明に加え,外科医自身も判断に迷う場面があることが正直に記されている。

 手順がまだのみ込めないまま手渡した器械に執刀医が怒鳴り,そのまま萎縮して部署替えしてしまった駆け出し看護師が,かつて評者の教え子にいた。手術前日には必ず図書館で担当患者の疾患を下調べしていた真面目な彼女がこの本に出合っていたら,今頃は器械出しを楽しめる有能な看護師になっていたのでは,と思う。

 本書の特色を述べる。第一に,表紙から最後のページまで,目に飛び込む多色イラストが秀逸である。シンプルで解剖がわかりやすい。術野の臓器が,濃淡を付けて彩られている。腸管の微妙なベージュ,大腸の色合いは小腸のそれよりやや濃く,盲腸は青みがかっている。緑色の胆嚢の表面には無影灯が光る。また,手術は手の技だけに,電気メスを持つ手ばかりでなく腸管や大網などの臓器を把持する手が随所に書き込まれ,その手や指の曲げ具合から,強すぎも弱すぎもない微妙な力の入れ具合が感じとられる。見やすいイラストは絵本のようでもあり,駆け出しの看護師ばかりか,患者さんへの手術説明にも役立つであろう。著者のこだわりとそれに応えたイラストレーターの合作のアートである。

 次に,イラストと同様,各術式の構成が見やすく簡潔である。虫垂切除術では,開腹と内視鏡下の手技が並行して記載され比較が容易になっている。説明文はほとんどが数行であるが,中には息詰まるような一瞬一瞬が丁寧に記載されている箇所もある。修羅場をくぐり抜けてきた外科医の研ぎ澄まされた手技がつづられる。手術書といってもよいくらいである。しかし筆者はそれを看護師が共有し,その協力によって満足のいく手術へ完成させることを願う。

 手順の項に入る前には,該当臓器の解剖や生理が説明され,他の教科書をひもとく必要はほとんどない。アンダーラインが配されている箇所は肝で,術者たちがそれまでの無駄口をぴたりとやめる時である。Q&Aには,今さら聞けない,術中当たり前に飛び交う用語や器械について丁寧に回答し,看護師の緊張を解いてくれる。

 その他にも,随所にわかりやすい表現がちりばめられている。「“白く光る”筋膜」,「(精索動静脈が)“地下鉄が地上に出てくるように”……」。さらに横行結腸の可動性を,二人の小学生(上行結腸と下行結腸)が立って回している縄に例えるイラストなどはかわいらしい。「むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく」である。

 チームのレベルを同等に引き上げ,そして難問に立ち向かう,彼の学生時代の行動と変わってないのだと懐かしく,そして敬意を感じる(評者は大野先生と大学の同窓である)。

 手術室看護師はいうに及ばず,病棟看護師,外科系研修医,外科患者の内科系主治医もが担当患者の手術を把握し,術後のフォローアップの理解のためにも,十分活用できる力作である。
読者の「知りたい!」に応える,著者の熱意による手術書
書評者: 跡見 裕 (杏林大名誉学長)
 看護師を対象とした手術書は数多くあるが,その中でもこれは極めて興味深い本である。ただの手術書ではない。共に手術に立ち向かう手術場の看護師の方々に,手術に当たり必要な知識,心構え,手術の流れなどを実践に即し述べたいという,著者の熱意による本である。今までの手術書はあれもこれもと網羅的な内容であり,そつなく一般的な記述に終わっているのが少なくなかった。それでは読者が知りたいと思う一歩手前が書かれているに過ぎず,物足りない感じは拭われなかった。

 大野義一朗先生によるこの手術書は,消化器・一般外科で経験する代表的な10の手術に絞り,そのポイントを手術の流れとともにわかりやすい言葉で詳細に述べている。例えば腹腔鏡下胆嚢摘出術では,胆嚢の役割,摘出術の3つの要点,3つの注意点が最初に示され,次いで手技の基本が述べられている。患者さんの体位,使用する器具が図解されているのは,本書の特徴であるわかりやすさを表している。最も重要な手術の手順は,皮膚切開から始まり,胆嚢管の剥離,胆嚢管と胆嚢動脈の切断,胆嚢の摘出,手術部位の洗浄,ドレーンの挿入,閉創について必要なこと,重要なことを漏らさず述べている。加えて,随所に読者が知りたいことをQ&Aの形式で解説しているが,この心遣いは嬉しくなる。

 著者も述べているように,開腹する手術と腹腔鏡での手術は視野が異なり,器具も大きく異なることから器械出しの看護師も戸惑うことが少なくないと思われる。本書はそれらを考慮しているのも大きな特徴であり,腹腔鏡下手術で看護師が次の一手を読んで器械を準備することができるようになるだろう。本書に取り上げられた10の術式は外科手術の代表的なものであり,ほとんどの手術手技はこれらの取り上げられたものの中に含まれている。この本をいつも手元に置いて実際の手術を考えると,格段に手術への理解が高まると思われる。

 評者は以前,手術部長をしていたことがある。緊急手術が多く,看護師不足で師長が「器械出しは出せないから,医師だけで手術をするならどうぞ」と言ったことがあった。確かに人手不足で人的には無理なことはわかったが,器械出しの看護師がいてこそ,手術の客観性,透明性が保たれるのではないかと反論したことがある。患者さんの命に直結する手術とはそれだけ重いものであり,手術に関与する看護師の方々にもぜひ手術をするチームの一員としての自覚を持って活躍していただきたい。そのためにも本書が活用されることを願っている。

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